東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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本日2話目です。

正邪がコンテニューを多くしすぎた場合。
おそらく、霊夢の勘が働かず、紫が「血に飢えた陰陽玉」に気づかなかった場合に出てくる√です。


Bad End① 紺碧満ちる静寂の月

 眠り、眠り、眠り続ける。

 自分が何を為そうとしたのか、何を成したのか。

 過去も未来も、現在も、名前を全てを忘れて、眠り続ける。

 

 夢を、夢を、夢を見る。

 誰かが、顔も知らない誰かが私を見つける夢。

 

 …これは夢か?それとも現実か?

 

 私にはわからない。何もわからない。何も知らない。

 

 夢の誰かが私に触れる。そして、甘美な声で私に囁く。

 

「今こそ復讐の時よ。名もなき私の友人」

 

 夢の誰かは赤色の髪をしていた。

 

 

 

 夢の誰かに触れられて、目が覚める。

 そして、そのまま手を引かれ、私はどこかへと歩いていた。

 

「アナタにやって欲しいことは簡単。二人の足止めよ」

 

 そして、そのまま黄色の髪の誰かは消えていった。

 

 

(変なところ。静かすぎる。こんなに静かだと眠れやしない)

 

 

 そう思い、私は寝転がった。眠たかった。永遠と眠り続けたかった。

 

 仰向けになると、目の前に爛々と光り輝く青い宝石が見えら。この世界にこれ以上美しいものはないと、そう確信するぐらい綺麗だった。

 

 涙が溢れた。ちゃんと継がれているのだ。

 

 

 

 

 私はいつの間にか漂っていた。

 耳元を泡が通り過ぎる音だけが、世界の静寂を辛うじて否定する。

 だが、足りない。足りなすぎる。あまりにも世界が静か。

 

 私は海に潜った。

 何もいなかった。

 血漿がないのだ。

 

 だから、私は血漿を造った。

 無機質だった水が熱を帯び、粘り気を持ち、震え、分裂する。

 血漿は分裂を繰り返し、寄り集まり、やがて呼吸を始めた。

 

 

 

 いつの間にか、私の周りには透明な海月が漂っていた。

 それを啄む小さな魚が群れをなし、さらにその背後には、鋭い牙を持つ捕食者の影がゆらりと揺れている。

 

(賑やかになった)

 

 私は目を瞑り、水母と同じように浮かび、漂い、眠り続ける。

 だが、それも長くは続かなかった。

 一陣の風と共に、水母は消えた。浄化された。

 

 仕方なしに瞼を開く。

 

「結界は張った。地上の民たちにはバレていないはずだ。それにしても今回の敵はここまでするのか」

「今回ばかしは本気ということね…それとも、敵も想定外だったりして。それにしてもまさか…表の静かの海に本当に海を作るなんて…」

 

 赤と白の二人の少女。その対照的な色彩が、私の空っぽな胸の奥で、小さな、けれど確かな波紋を広げる。

 

 思い出せない。

 思い出せないのならばしょうがない。

 

 私はまた瞼を閉じ、海で微睡む。

 波の音。泡の弾ける音。そして、先ほどまでなかった「心音」の数々。

 それらが混ざり合い、私の意識を深い淵へと誘う。

 

「……無視するつもりか?表の月にこれほどの『穢れ』を持ち込んでおいて」

 

 凛とした声が、水面を叩くように響く。

 赤い衣を纏った少女の、抜き放たれた剣の気圧が、私の頬を冷たく撫でる。

 

 穢れ。

 ああ、皆は生命の循環そのものをそう呼んで忌み嫌う。

 私にとっては、これほど愛おしく、騒がしく、そして「甘美な」ものはないというのに。

 

 私は閉じた瞼の裏で、ゆっくりと指先を動かした。

 

 くるり。

 

 私を中心として、潮の流れが逆巻く。

 一度は風に散らされ、消えたはずの海月たちが、巻き戻されるフィルムのように再び姿を現した。

 

 私の指が描く円環に引きずられるように、月面の砂が、時間が、因果が、歪な渦を巻き始める。

 

「……何をした?浄化したはずの生命が、戻った……?」

「いいえ、戻したのでしょう。あるいは、まだ消えていない瞬間に『回帰』させた、と言うべきでしょうか」

 

 私はゆっくりと水面に立ち上がり、静かに目を開けた。

 視線の先には、驚愕に目を見開く二人の少女。

 

 私の頭上に浮かぶ青い宝石は、相変わらず眩いほどに輝いている。

 あれを護りたかったのか、あれに帰りたかったのか。

 

 涙の理由は思い出せないが、この胸に宿る「熱」だけは、何物にも代えがたい真実だと、私の魂が囁く。

 

「なぜ貴女がここにいる。八意様との契約により、貴女は月面に来れないはず」

「…名前が違う?いや、存在が……依姫注意してください。彼女は永琳様の契約に縛られていない」

 

 私はわざとらしく丁寧に一礼し、両手を広げた。

 

 私の周りで、数多の生命が螺旋を描いて踊り始める。

 単細胞から、魚へ、捕食者へ。

 生と死、破壊と創造。

 

「はじめまして、ですね。アナタ方に恨みはありませんが、足止めをしろ…と希われましたので、存分に足止めさせてもらいます」

 

 私は優雅に、そして残酷なほどに完璧な「円」を空中に描く。

 静かの海が、熱を帯びた私自身の血漿へと、塗り替えられていった。

 

 

 …

 ……

 ………

 

「……次のニュースです。今夜、世界中の天文ファンや専門家たちが、言葉を失うような光景を目の当たりにしています」

 

 夜の茶の間に、キャスターの困惑した声が響く。

 画面には、高性能望遠鏡が捉えた「月の姿」が映し出されていた。

 

「現在、月面の『静かの海』と呼ばれるエリアにおいて、前代未聞の異常現象が発生しています。本来、大気も水も存在しないはずのその場所が、突如として鮮やかな蒼色に変色。さらには、液体の波紋のような流動的な動きが観測されているとのことです」

 

 スタジオに招かれた天文学者が、震える声で補足する。

 

「あり得ません……。まるで、死んでいた月が、突然呼吸を始めたようだ。あそこには今、確かに『海』が存在しています。生命のスープに満ちた、原始の海のようなものが……」

 

 地上の人々が、空を見上げる。

 そこには、かつてないほどに妖しく、そして生気に満ちた「青ざめた月」が浮かんでいた。

 

 




通称、月海母(ツキクラゲ)
ヘカーティアも頭を抱えている事でしょう。

秘封倶楽部みたいに書きたいところだけど、やっぱ難しいなぁ
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