それと、前回の後書きで「咲夜さんは他者の時間を止めれない」と書いたのですが、非想天則の時計「ルナダイアル」の解説文に『時間停止領域を込めた時計を投げ、命中した相手の時間を止める』と書いてありましたので、やっぱり止めれることに。
…茨歌仙では『時間を止めるというのは超高速で動くことにすぎないのよ(無質量でね)、他人の時間の進みを止めるような器用なことはできないわ』って言っていたのは霊夢からの疑いを逸らすためのでっちあげだったのかな。
そして、とうとうついに巫女暗殺計画のXday、巫女による紅魔館の監査日がやってきた。
執務室の窓辺に軽く寄り掛かり、私は紅魔館の門前で佇む紅白の影を見下ろす。幻想郷の調停者である博麗の巫女。私から父を奪った仇が、今まさにこの館の敷居を跨ごうとしている。
「手筈は分かっているわね、咲夜」
背後の咲夜へと視線を向けずに問いかける。咲夜の手には、あの純銀の懐中時計が静かに握られている。
「ええ。お嬢様が博麗の巫女を地下室へ誘導し、妹様と巫女が接触して能力を行使するその瞬間に、この銀時計を用いて彼女の時間を止めます。……ほんの数秒もあれば、十分なのですよね?」
「そうよ。巻き戻しさえ許さなければ、あとはフランが『目』を握り潰して終わり。一切の反撃も一瞬の再生もさせない…チェックメイトよ」
フランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』に、咲夜の『時間を操る程度の能力』…そして、最後に私の『運命を操る程度の能力』があれば……
あの巫女だって殺せる。
「行くわよ。咲夜、あの巫女を殺す前に……せいぜい極上の歓待でもしてあげようじゃない」
「御意に、お嬢様」
執務室をあとにし、螺旋階段をゆっくりと降りていく。一歩踏み出すごとに、胸の奥で渦巻いていた暗い情念が、冷たく澄み渡った殺意へと変わっていくのが分かった。
エントランスホールの中央。
高い天井に掲げられた燭台の仄かな灯りが落とす影の中、私は腕を組み、重厚な大扉を正面から見据えて静かに佇んだ。私の斜め後方には、何気ない仕草で銀時計をその手の中に忍ばせた咲夜が控えている。
ギィ……と重い音を立てて、紅魔館の大扉が開かれた。
「おや、レミリア。わざわざエントランスでお出迎えありがとうございます」
巫女は相変わらずの丁寧な口調で、どこか全てを見透かすような穏やかな笑みを浮かべ、館の敷居を跨いだ。その佇まいには一切の隙が見当たらない。
だが、私の唇は自然と歪んでいた。
この館に来たこと自体が、貴女の命取り。
「ええ、歓迎するわ、監査役さん。……さあ、まずはこの館を案内するわ」
それから私は紅魔館を案内していった。
まずはパチェの棲家でもある大図書館。どこを見渡しても天井までぎっしりと古書が並ぶ暗がりの中、パチェは魔導書に目を落としたまま「……静かにしてくれれば、それでいいわ」とだけ呟き、私たちはそのまま通り抜けた。
次に向かったのは、私の執務室。重厚な調度品と深紅のカーテンに包まれたその部屋で、巫女は机や棚に静かに視線を走らせる。
「相変わらず綺麗に整えられていますね。清掃も行き届いていて……実に気持ちの良い部屋です」
「ふん、当たり前よ。咲夜が館を毎日掃除してくれるからね」
私はすまし顔で応じながら、密かに咲夜へと視線を送った。当の咲夜は「当然でございます」と言わんばかりに澄ました顔で控えている。つい先日まで時を止めてサボりながら掃除していたくせに、本当によく言う顔だ。
そうして案内を一通り終え、私たちは最後に一階の食堂へと足を運んだ。長卓の端に腰掛けた巫女の前には、咲夜によって手際よく一皿の料理が運ばれてくる。
「どうぞ、本日のアフタヌーンティーでございます」
皿の上に載っていたのは、焼き立ての芳しい香りを漂わせるスコーンと、鮮やかな赤色のベリージャム、そして淹れたての紅茶だった。
「あら、ご丁寧にありがとうございます」
巫女は上品な手つきでスコーンを割り、ジャムをたっぷりと付け、口に運ぶ。そして、少し驚いたように目を細める。…毒とかを考えないのかしら、この巫女は。
「……とても美味しいですね。生地の風味も焼き加減も完璧です」
「お口に合って何よりでございます」
咲夜が優雅にお辞儀を返す。巫女の満足そうな表情を見つめながら、私は優雅に紅茶のカップを傾けた。
「ごちそうさまでした。本当に素敵なおもてなしをありがとうございます」
しばらくして、スコーンを綺麗に食べ終えた巫女は優雅に口元を拭うと上品にお辞儀をした。皿の上には屑一つ残っていない。
(ふん……綺麗に食べるじゃない)
私は小さく鼻を鳴らすと、机の縁を指先でコンと軽く叩いて立ち上がった。
前菜はもう終わり。ここからが私たちが用意した本当のメインディッシュ。
「さあ、小腹も満たされたことだし……最後の場所に案内するわ」
「最後の場所、ですか?」
「ええ。貴女が今回の監査で一番確かめたいであろう、あの『妹』のところへね」
「日記にあったフランドールさんですね」
巫女の瞳が微かに揺れ、その口元から笑みが消える。
私は反対に薄暗い笑みを隠しながらも、静かに背を向け、館の深奥、光の届かない地下室へと続く階段に向かって歩みを進める。
その背後を、博麗の巫女が静かな足取りでついてくる。
(そうよ、そのままついて来なさい……。貴女の命運が尽きる処刑場へ)
重厚な鉄の扉が立ち並ぶ地下回廊の突き当り。ひんやりと湿り気を帯びた冷気が肌を刺す最深部で、私は足を止めた。
目の前には、太い鎖と幾重もの符で固く閉ざされた重厚な扉。
「ここよ。この地下室が私の妹、フランドール・スカーレットが棲む部屋」
私が合図を送ると、控えていた咲夜が滑らかな動作で前に出で、大きな鍵で錠前を外し、重い扉を静かに押し開けた。
キーッ……と嫌な金属音が暗闇に響き渡る。
部屋の奥、無数の玩具が散らばる薄暗い空間の中心で、一人の少女が膝を抱えて座っていた。七色に妖しく光る水晶の翼を微かに揺らし、フランはゆっくりと顔を上げる。
「あら……お姉様。それにその方は……?」
無垢な狂気を孕んだ無邪気な瞳が、ゆっくりと巫女をとらえた。
「フラン、紹介するわ。紅魔館の監査役となった……博麗の巫女よ」
「博麗の巫女……?」
フランが小さく首をかしげると、その周囲の空間が歪むような禍々しい圧迫感が膨れ上がった。
巫女は表情一つ変えず、静かな歩調で部屋の中へと足を踏み入れる。そして、その穏やかな瞳でフランの姿を見つめ、丁寧にお辞儀をした。
「はじめまして、フランドールさん。博麗の巫女の夕雲と申します。これからよろしくお願いします」
警戒心など微塵も感じさせない、まるで近所の子供に挨拶でもするかのような柔らかい声音。無防備極まりない歩調で、巫女はゆっくりとフランへと近付いていく。
距離は十分。間合いなど、とうの昔に潰れている。
問題は――いつフランが動くか、それだけだった。
咲夜が息を呑み、私が固唾を呑んで見守る中、フランは首を少しだけ傾げた。その紅い瞳の奥で、ドロリとした狂気と破壊の衝動が揺らめく。
「ねぇ、貴女は壊していい人間?」
「はい?」
意味を問い返す巫女の言葉が終わるか終わらないかの、ほんの一瞬。
フランの小さな右手が、空を掴むようにゆるりと握り締められた。
「とりあえず、壊れちゃえ」
何か不吉な気配を感じたのか、巫女は即座に身を構えようとする。だが、それはもう遅かった。
「時符『ルナダイアル』」
カチリ。
硬く静かな金属音が地下室に響き渡る。
咲夜が放った銀時計が空中で光を反射し、巫女の頭上へと滑り込み、時計の針がピタリと停止した瞬間、世界から一切の色と音が奪い去られた。
巫女の周囲だけ、時間が完全に凝固する。
何かを感じ取り、まさに動こうとしていた巫女の身体が、コンマ数秒の猶予すら与えられず、そのまま完全に凝固する。
(勝った……!)
私が心の中で確信の叫びを上げた次の瞬間――フランの手の中で「目」が粉々に握り潰された。
バチンッ!
弾けるような嫌な音が地下室に轟く。
時間が止まった世界の中で、巫女の肉体はフランの圧倒的な破壊の力に耐えかね、四散した。
時が止まりながらも弾け飛んだ肉片と鮮血は、まるで絵の具のように壁や床に散らばる寸前、ぬいぐるみや玩具の数々を容赦なく汚さんとするばかり。
そして、銀時計の停止効果が切れ、再びカチカチと針が時を刻み始めと、静寂が戻った地下室には、鉄の匂いとまるで最初からそうだったかのように血を浴びたぬいぐるみだけが残されていた。
「……簡単に壊れちゃった。脆いのね、巫女って」
無邪気に笑うフランの声が、冷たい地下室に虚しく響き渡る。
私から父を奪い、幻想郷の平穏の象徴として君臨していたあの博麗の巫女が、今、消滅したのだ。
「はは……あはははは!なんだ簡単じゃない!あの巫女を殺すなんて」
湧き上がる歓喜を抑えきれず、私は高らかに声を張り上げた。
無敵のように思えた巫女のあっけない終わり。
「で、満足しました?」
声が聞こえた。今、死んだばかりの巫女の声が。
思わず呼吸が止まる。
咲夜が即座にナイフを構えた。フランが笑い、警戒するように周囲を鋭く見回す。
巫女の姿はどこにもない。肉体はバラバラに爆散し、完全に消滅させたはずだ。
しかし、壁や床にべったりとこびりついていたはずの大量の血液と肉片が、まるで生き物のように不気味に蠢き始める。
「バカな…肉体を破壊したというのに、なぜ……!?」
取り乱す私を嘲笑うかのように、散らばった血液が蒸発するように消えていき、肉体が集まっていく。
「…この体は仮初のモノなんです。私の愛し娘から譲り受けた、とても大切な肉体。私は彼女の亡骸に憑りついているだけ」
集まった肉片がまばゆい光を放ち、何事もなかったかのように輪郭を成していく。そこに現れたのは、血の一滴すらついていない、寸分の狂いもない博麗の巫女の姿だった。
「あは、貴女、吸血鬼なんかよりもずっと
フランが歪んだ瞳でニヤリと笑い、巫女にそう漏らす。
モノの核を潰し、肉体を原形をとどめぬほど破砕したのだ。たとえ精神で生きる妖怪であったとしても、それだけで死に絶えてもかしくない。であれば、肉体に依拠して生きる人間ならば猶更。だというのに、なぜ目の前の巫女は何事もなかったかのように立っているのか
「…少なくとも私は自分を人間だと思っていますよ。それが彼女の願いですし、私もそれを享受しています。案外気に入ってますしね、人間としての暮らし」
巫女はフランにそう返すと、愛おしそうに自身の両手をそっと見つめた。
「だから…今回の件は少しばかり怒っています。大切な娘の肉体を壊され、私自身も酷く痛い目に遭いましたし」
静かな地下室に、氷のように澄んだ声が落ちた。
巫女の佇まいに変化はない。声のトーンも、先ほどまでと変わらず丁寧で穏やかなままだ。
だが、その背後に漂う空気が一変する。
「――ッ!」
圧迫感。
無数の死者が蠢く地獄の底から直接引きずり出されたかのような、濃厚で冷徹な神気が、地下室の壁や天井をじわじわと侵食していく。
「さあ……お説教の時間です。後は頼みますよ、ヴラドIII世」
刹那、床一面に禍々しい漆黒の陣が浮かび上がり、深淵の底から引きずり出されるような不気味な咆哮が地下室に響き渡った。
影が蠢き、渦を巻き、やがて凝縮して一人の男の輪郭を形作っていく。
威厳に満ちた佇まい、深紅の外套、そして重厚な威圧感。
「な……ッ!?」
私の喉から、声にならない悲鳴が漏れた。
そこに立っていたのは――私たちが失った義父の霊体だった。
「お、御義父様……!?」
フランも思わず目を丸くして立ち尽くす。咲夜もナイフを構えたまま、あまりの光景に身を硬直させていた。
だが、呼び寄せられた当の御義父様は、私たちを優しく見やることもなく、どこか苦々しく呆れを含んだ溜め息をひとつ吐いた。
「……無茶をしたのか、レミリア。フランドールもだ」
厳格な父の声が、地下室に低く響く。
「父上……なぜ、どうしてあの巫女が貴方を……!?」
「それは今、必要な事なのか?」
「ひ、必要でしょう!なぜ、私たちをこんな巫女に託したというのです!貴方の仇だというのに!!!」
「……仇、か」
父は静かに目を閉じ、どこか遠い目をするように呟いた。
「すまない…お前たちには苦労をかけることになる」
父は重厚な深紅の外套をそっと揺らし、愛おしさと申し訳なさに満ちた眼差しで私を見下ろした。
「父上……?」
「レミリア、確かにお前たちの言う通りだ。私の命を奪い、私を黄泉へと送ったのは……間違いなくそこに立つ博麗の巫女、夕雲殿だ。その意味において、彼女がお前たちにとっての『仇』であるという見解は否定せん」
「だったら……!だったらなぜ……!」
「だがな。それ以上に……私は彼女に深甚なる感謝を抱いているのも事実」
「感謝……ですか……?」
「そうだ。私はあの夜、家族を守る『竜』として己の全てを懸けて戦い、敗れた。吸血鬼として穢れ、幾多の呪いを背負った私の最期を、彼女は『小竜公』としての尊厳と共に看取ってくれた。そして……去り行く私の最後の我が儘を、聞き届けてくれたのだ」
父の赤い瞳が、静かに巫女の方へと向けられる。
「己を殺さんとする男の願いを受け入れ、お前たち娘の未来を、幸福を、自らの真名にかけて約束してくれた。……彼女は私の命を絶った仇でありながら、お前たちの未来を永久に保障してくれた、かけがえのない恩人でもあるということだ」
頭を殴られたような衝撃に、思考が止まる。
「身勝手な不信と怨嗟に囚われ、咲夜の時間も、フランドールの力も……家族の絆を私怨の道具として消費しようとしたその幼さ。レミリア、紅魔館の主として、そしてフランドールの姉として、あまりに軽率で恥ずべき行いだぞ」
「っ…………!」
雷のように響く父の言葉に、私の全身から力が抜け落ちていく。
父は私から視線を外すと、申し訳なさそうに夕雲へと向き直り、深く深く頭を垂れた。
「夕雲殿。我が娘たちが大変な無礼…死してなお恥じ入るばかりです。……どうか、愚かな娘たちをお許しいただきたい」
「ああ、もう……頭をお上げください、ヴラド公。私の方こそ下手な立ち回りすぎてしまいました」
先ほどまでの冷徹な力は綺麗さっぱり霧散しており、巫女は困り果てたように頬を掻きながら、バツの悪そうな苦笑いを浮かべていた。
「正直、恨まれていても構わないと思っていたのです。その恨みを生きるための動力源にして、貴女たちが強く生きていけるのならば、それでも構わないと。ですが……」
巫女はそう言うと、自身の着物の袖口をちらりと見やり、弱々しく息を吐いた。
「格好をつけて平然を装ってはおりましたが、普通にものすごく痛かったのです。散らばった血液や肉片をかき集めて元通りに固定し直すのも一苦労でして…正直に申し上げますとめちゃくちゃ疲れましたし、ものすごく焦りました」
巫女は親指と人差し指でほんの少しだけ隙間を作ると、「本当に恥ずかしいばかり」と小声で付け加えた。先ほど地下室を押し潰した圧倒的な威圧感は、彼女なりに必死で張っていたハッタリでもあったのだろう。
「という事で、ひとつだけお願いをしてもよろしいでしょうか」
巫女はお腹のあたりをそっと押さえながら、照れくさそうに苦笑した。
「レミリア。あたたかいお茶と、先ほどのスコーンのおかわりをいただけますか? 恥ずかしながら……気力を使い果たしてしまって、休憩を取りたいのです」
「……まったく、相変わらず無茶な真似をするお方だ」
咲夜にスコーンを用意させ、フランと共に巫女は第二のアフタヌーンティーを取り始めたなか、私は地下室をでて、御義父様と向かい会っていた。
静まり返った薄暗い回廊。そこに佇む父の霊体は、先ほどまでの荒々しい威圧感を収め、どこか穏やかな光を纏っていた。
「夕雲殿は無理矢理な手段で私を呼び出させたのだろう。後で、閻魔たちに相当な注意をされるだろうに…申し訳ない事をした」
どうやら地獄には特別説教が上手な閻魔がいるようでな…と御義父様が続ける。だが、その軽口に私は応えられず、口を閉ざしたままだった。
「すまなかったな、レミリア。何度も言うが、お前たちには余計な誤解と苦労をさせてしまった」
「いいえ……お父様。私の方こそ、自分勝手な思い込みで咲夜やフランを巻き込んで、あんな浅はかな真似を……」
「よいのだ。私を想うがゆえの迷いだったのだろう。……だがな、レミリア。私がお前たちとこうして直接言葉を交わせるのも、これが最初で最後だ。死後の理は絶対であり、夕雲殿が用意してくれたこの奇跡は二度とない」
「お父様……っ」
「泣くな、我が愛しき娘よ。私はいつだってお前たちのことを見守っている。……私への執着も夕雲殿への恨みも、すべて今日ここで置いていきなさい。お前は今日から、真の意味でこの紅魔館の主人となり、フランドールの良き姉として誇り高く立つのだ」
静かに、だが確実に、御義父様の佇まいが光の粒子となって解け始めていく。
伸ばしかけた私の手は、そのあたたかな境界をすり抜け、虚しく空を斬った。
「レミリア。我が愛しき家族たちよ……誇り高く生きなさい」
最後のお別れの言葉を残し、御義父様の姿は地下回廊の静寂へと静かに溶けて消えた。
私は深く息を吸い込み、涙を指先でぬぐうと、紅魔館の主としてしっかりと背筋を伸ばした。
回廊を歩き、明るい光が漏れる一階の食堂へと戻る。
重厚な扉を開けると、そこにはスコーンを口いっぱいに頬張りながら「ここの淹れる紅茶は格別ですね……」と嬉しそうに目を細めている夕雲と、その様子を物珍しそうに眺めながら笑うフラン、そして呆れ顔でポットを差し出す咲夜の姿があった。
「……咲夜、私にもスコーンをお願い」
「かしこまりました、お嬢様。ただいま焼きたてをお持ちいたしました」
能力を使ったのか、咲夜は手際よく私の前へ一皿のスコーンと温かな紅茶を差し出した。香ばしい生地の香りと甘いベリージャムの匂いが、鼻腔を優しくくすぐる。
「ふん……我が館のお茶会を勝手に満喫しないでちょうだい、監査役さん」
私が長卓の端に腰掛け、気取り直してカップを手に取ると、対面に座る巫女はは悪戯っぽい笑みを浮かべ、そっと自身のカップを傾けてみせた。
「おや、厳しいですね。けど、まぁいいじゃないですか。ちょっとしたお願いですし、それにこうして美味しいスコーンと紅茶をいただけるのなら、いくらでも監査に来たくなっちゃいますね」
「……調子のいいこと言っちゃって」
呆れ混じりに溜め息をつきながらスコーンを一口運ぶ。口の中に広がる優しい甘さが、先ほどまで胸に渦巻いていた重く冷たい暗雲を、すうっと溶かしていくのが分かった。
「ねぇねぇお姉様、巫女って壊してもすぐ直るだね。壊しても壊せない存在があるなんて、私、人間の事を誤解してたわ」
皿の上のスコーンをはむはむと齧りながら、フランが妖しく目を輝かせて私に話しかけてくる。だが、その瞳には、もう先ほどのような棘のある殺意はなかった。
「……もう壊そうとしちゃダメよ、フラン。この人は……お父様が私たちに遺してくれた、特別なお客様なのだから。それと、この巫女さんは人間じゃないわ。もっとおかしいナニカよ」
「ふ〜ん、まぁいいや。夕雲はまた遊んでくれる?」
「ええ、もちろんですよ、フランドールさん。ただし……次はもう少し加減していただけると助かります。私、あのようにバラバラにされるのは、流石に骨が折れますので」
巫女は苦笑いを浮かべながら、困ったように眉を下げて見せた。その様子があまりにも人間臭くて、私は思わず口元を緩めてしまいそうになる。
「……たく、巫女のくせに格好がつかないわね」
「これでも必死だったのですよ? レミリア」
そっとティーカップをソーサーに戻した夕雲の瞳は、どこか遠い昔を思い描くように、そして私とフランを愛おしむように、あたたかく澄んでいた。
「約束しましたからね。ヴラド公に。貴女たちが、この綺麗な月夜の下でずっと幸せに生きていけるように……私はいつでも見守っていますよ」
誇り高く、気高く、そして愛に満ちた父の面影。
私から父を奪った仇であり、父が私たちに遺してくれた最大の恩人。
私は静かに目を閉じ、胸の中で父へ、そして目の前の巫女へと、小さな誓いを立てた。
「……再度、自己紹介するわ。私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。妹も、この館も、私が私の力で幸せになってみせるわ」
「頼もしいですね。……ええ、それでこそヴラド公の娘さんです」
とりあえず、これでNew Classic記念は終わりです。寄り道にしては長かった。
さて、こうして改めて見ると、夕雲さんは本当に破格のスペックをしていますね。リザレクション封じてようやくスタートラインって本当に…本当に…スペルカードルール制定されてよかった。
とは言え、ここまで強い理由にも一応理由があります。それはキャラクター造形として「ヘカーティア・ラピスラズリとタイマンで渡り合える存在」を目指したからです。
以前どこかで「もしヘカーティアが本気で攻め込んできたら、幻想郷は壊滅する」という考察を目にし、「では、なぜ幻想郷は今も滅びずに保たれているのか?」と考えを巡らせた結果、外敵の脅威から幻想郷を守る者として夕雲という存在が生まれました。
それと調整平均が9.00になりました!感想評価毎度励みになってます!ありがとうございます!