起承転結で言うと承の終わりぐらい。転結から急激に話が動くのでね…ちょっと待ってねと思いながらも、アンケートを鑑みて現実の時間軸を書き始める。って事で、次は魔理沙の話です。あっちでも話を動かしたい。
サブタイトルの元ネタは冷たい密室と博士たち。
「モモが食べたいわね」
桃。バラ科スモモ属に分類される落葉小高木、およびその果実。
瑞々しく豊かな甘みと芳醇な香りを持ち、初夏から夏にかけて旬を迎える代表的な果実である。球形の果皮は細かな産毛に覆われ、熟すと愛らしい淡いピンクに染まる。柔らかな果肉には甘い果汁がたっぷりと含まれており、地上では古くから親しまれている味覚のひとつ。
「モモが食べたいわ」
再度呟く。
近くで見張っているアイツに聞こえるように。
この黄泉の国において、桃の木は至る所に自生している。薄暗い闇の中でもたわわに実をつけ、霊的な気配を帯びた果実が枝を
「
意富加牟豆美命。
かつて伊弉諾様が八雷神や黄泉軍の追手から逃れる際、黄泉比良坂の麓に実っていた桃を三つ投げつけ、見事に八雷神や黄泉軍を退けたことで、その功績を称えられて神格を授かった果実。
元々、桃には退魔の力があるのだが、伊弉諾様より「我が助けたように、地上で苦しむ人間たちを救ってやってほしい」との神勅と神名を与えられたことで、その霊性は頂点に達している。万物を照らし、一切の闇を悉く焼き祓う『太陽』を除けば、これほどまでの退魔の力を秘めた存在を、私は他に知らない。果実でありながらにして、ひとつの独立した神格を宿す樹木。そんな樹木に実る果実は、一体どれほど力強く、深く、未知なる味わいを秘めているのだろう。
「……って事で、採ってきなさいよ。鳴上」
「さっから独り言にしてはデカい声でブツブツ言ってんなと思ったらさあ……八意、アンタ、本気で言ってんの?」
呆れ果てたような声が、部屋の隅の影から響いた。
腕を組み、壁に背をもたれさせて立っていたのは、本日の監視役として配置されている八雷神の一柱――鳴上だ。サバサバとした口調はこの国では少し珍しく、どこか心地いい。加えて、彼女は直情径行で感情が表に出やすく、こちらの誘導にも実に素直に反応してくれるため、観察対象としても退屈しない。監視という仰々しい役目を帯びていながら、妙な愛嬌と人間味?を感じさせる彼女に対し、私は密かに親しみを覚えていた。
「……って事で、採ってきなさいよ。鳴上」
「私はアンタの事を監視するように頼まれてるんだが」
「……って事で、採ってきなさいよ。鳴上」
「あのねぇ」
「……って事で、採ってきなさいよ。鳴上」
「アンタ、私が『はい』って答えるまで続けるつもりか?」
私がそれから再三言葉を繰り返すと、鳴上は「また難題か~」と、大げさに手足を広げて天井を仰ぎ、深々と溜息を吐き出した。
「知っていると思うけどね、意富加牟豆美命っつたら、あたしたち雷神や黄泉軍の仇敵みたいな存在だよ。私だけじゃ採れないって」
「あら、八雷神の一角ともあろう方が情けない。かつて
私は静かに微笑を向けた。それを見た鳴上はなぜか一歩下がる。
「それにヨモツ様やナミ様から言われてるでしょう『出来る限り、永琳の願いを叶えるように』って。鳴上、私は貴女にできると思ってるからお願いしてるのよ」
口車に乗せられていると頭では理解しつつも、上司であるヨモツ様やナミ様からの言いつけと、私の言葉に含まれた微かな熱量に、持ち前の男気と意地が刺激されているらしい。単純で助かる。
「っ……!アタシをその気にさせてパシリに使う気だろ! 分かってんだよ!」
「パシリだなんて。私はただ、八雷神の中でも殊更頼りになる貴女の武勇に期待しているだけなのに」
「〜〜〜っ!あーもう、分かったよ!行けばいいんだろ、行けば!」
鳴上はヤケクソ気味に叫ぶと、不敵な笑みを浮かべて見せた。
「見てな、とびっきりのやつを目の前に食わせてやるからさ!」
雷光を散らし、豪快な足音とともに部屋を飛び出していく鳴上。
私は湯飲みに茶を淹れ、その背中を静かに見送った。
――そして、小一時間後。
ガタガタ、と情けない音を立てて扉が開いた。
「た、ただいま……」
そこに立っていたのは、全身から焦げ臭い煙を立ち上らせ、煤だらけになった鳴上の姿だった。自慢の髪は爆発したように逆立ち、着物の裾は破れ、手には一粒の桃の実どころか一輪の葉すら握られていない。
「……うん、やっぱり無理か」
「やっぱりってなんだよ!最初からアタシじゃ無理だって分かってたんじゃないか!」
「そんなことない。百に一つは在ると思っていましたよ?」
その言葉に鳴上はガクッと膝を折り、その場に崩れ落ちるように倒れた。そんな鳴上をベットに移動させ、治療を始める。幸い、軽傷。これなら数時間もしないうちに治るだろう。鳴上の回避能力には目を見張るようなものがあるが、厄介ごとに対するそれは低い。
「アイツ、私が外の世界に出ようとしてるとでも思ったのか、退魔の力をこれでもか!と出しやがって。うぅ、思い出しただけでも寒気がする」
「ねぇ、鳴上。黄泉の国でなんで桃の木は自生してるの?貴女達は桃の退魔の力を嫌っているというのに」
「永琳、アンタ、私の苦労に全く興味がないね……ま、別に良いけどさ。で、桃の木が自生してる理由だっけ? ん~、そういやなんでだろうな。私たちがここに配属される前から、当たり前のようにあったぞ」
……ふむ、意外な回答だ。八雷神はナミさまから生まれた存在。とすれば、意富加牟豆美命はナミ様より前、つまり伊弉諾様が命じる前からこの地に存在していることになる。
「この国の桃は別に嫌じゃないんだけどな。なんでだろ」
「嫌じゃない? 先ほどは退魔の気配に寒気がすると言っていたでしょう?」
「あ、いや、さっきのアレは境目に鎮座してる『大本』の方だって! この国の中にポツポツ生えてる桃の実なんかはさ、別に近くに寄っても痛くも痒くもないし、むしろ心地いいまである。不思議だよな」
鳴上は首をひねりながら、痛む体をさすっている。
(いったん、整理してみましょう)
第一に、意富加牟豆美命の起源について。
八雷神はイザナミ様から生み出された存在。だが鳴上の証言通り、桃の木が彼女たちの配属以前から存在していたのだとすれば……意富加牟豆美命はイザナギ様によって神名を与えられるより遥か昔から、この黄泉の地に根を張っていたことになる。
第二に、黄泉比良坂の『大本』と、国中に自生する『群生』の性質の違い。
黄泉比良坂の境目に鎮座する意富加牟豆美命の大本は、イザナギ様から与えられた神勅と神名によって穢れを祓う退魔の力を放っている。だからこそ、黄泉の気を帯びた鳴上が近づけば激しい拒絶反応を起こし、実を手に入れることが出来なかった。
しかし、この国の中に自生している桃の実に対しては、鳴上たち雷神すら嫌悪感を抱かず、むしろ心地よさすら感じている。
…………私から見れば、程度の差こそあれ『大本』と『群生』の性質は同じ。どちらも退魔の力を放っているように思えるのだが。
本来ならば、激しく退け合うはずの「退魔の力」と「黄泉の気」。
それらが互いを打ち消し合うことなく、この死の国と静かに調和しているという事実。
明らかに人為的である。とすれば、それを行ったのは――
(……間違いなく、ヨモツ様ね)
思考をある程度まとめた私は手早く霊薬の塗布を仕上げると、身をよじる鳴上をベッドへとしっかりと固定した。
「さ、手当ては終わりよ。薬効を馴染ませるために、少し大人しく寝ていなさい」
「へ?あ、おい!なんでベッドに括り付けて……って、永琳! どこ行く気だよ!」
「少しだけ、ヨモツ様のところに行ってくるわ」
焦げるような煙もすっかり消え、元の綺麗な髪に戻った鳴上の怒号を背に受けながら、私はヨモツ様の私室へと足を運んだ。
扉を軽く叩き、中に声をかけると、奥から控えめな「どうぞ~」と言う声。障子をすっと滑らせて中に入ると、ヨモツ様は読んでいた本から視線を上げて、優しく微笑む。
「あら、永琳。どうかしましたか? 鳴上ちゃんと何やら賑やかにされていたようですが……」
「ええ、少しばかり実験を行っておりまして、鳴上にも協力してもらいました」
「相変わらず楽しそうで何より。さあ、そう突っ立っていないで座りなさいな。ちょうど今、温かいお茶を淹れたところなのですよ」
お言葉に甘えて文机の向かいへと腰を下ろすと、ヨモツ様は湯気が立ち上る茶碗をそっと私の前に差し出してくださった。甘く香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、先ほどまでの鳴上とのやり取りでわずかに上がっていた気が穏やかに鎮まっていく。
一口含み、その味わいを軽く堪能してから、私は静かに本題へと切り出した。
「ヨモツ様、お心遣い感謝いたします。……実は、少々お尋ねしたいことがございまして」
「私にお尋ねごとだなんて。どうかしましたか?」
「この地に芽吹く桃の木と黄泉比良坂に咲く意富加牟豆美命の違いについて、あれは両者とも本質は同じでしょう?」
私の問いかけに、ヨモツ様は手にしていた茶碗をそっと膝元へ下ろし、くすりと優しく微笑まれた。
「さすがは永琳ですね。ええ、その通りですわ。あのふたつの本質は全く同じ。どちらも等しく穢れや病を祓い退ける、強い退魔の力を宿しています」
「本質は同じ……。ですがヨモツ様、それではなぜ八雷神たちは、この国に根を張る桃たちには嫌悪感すら抱かず、穏やかに共存できているのでしょう?」
「永琳はなんでだと思います?」
「それは…………」
ヨモツ様は悪戯っぽく瞳を和ませると、静かに首を傾げた。問いを投げ返されたわたしは、胸中で先ほど鳴上と交わしたやり取り、そしてこの国を包む特異なルールを思い浮かべる。
桃の実の退魔の性質は一切変わっていない。程度の差こそあれ、この地に芽吹く群生も等しく清烈な気を放っている。ならば、作用する相手の状態が変化していると考えるべき。
とすれば、答えは……
「変化しているのは八雷神の方だからでしょうか?」
「ふふ、正解です」
ヨモツ様は嬉しそうに目を細め、手元のお茶にそっと口を付けられた。その一連の所作には揺らめく闇のように優しく、そして謎めている。
「さすがは高天原随一の智者。ええ、変わっているのは桃の側ではなく、こちら側なのですよ。八雷神は地上では死と雷災を撒き散らす『荒神』としての側面が強く表に出てしまいます」
「ですが、この黄泉の国の中に留まっている限り……」
「ええ。この国において彼女たちが担っている役割は、漂う穢れや厄を討ち祓う『清め』の存在。だからこそ、桃が放つ退魔の気も彼女たちを害することなく、むしろ心地よいと受け入れられているのですよ」
「…なぜ八雷神たちにそのような役割を?」
私が静かに問いかけると、ヨモツ様は手にしていた茶碗をそっと膝元へ下ろし、どこか難しそうな表情をしなさった。
「うーむ、何と言えばいいんでしょうか。この国は死したモノたちの国であると同時に、それだけにとどまらない『別の側面』も併せ持っているのです」
「別の側面ですか」
「ええ。例えば、失われた若さを取り戻す変若水。あるいは、季節の巡りに左右されず永遠の生命力を保ち続ける非時香菓。さらには、あらゆる
「つまりは…楽園の要素も併せ持つと?」
「楽園…ですか。言いえて妙ですね。これからはそう言いましょう」
これで一つ合点が言った。私は一つ大きな間違いをしていたのだろう。
黄泉の国は死と穢れの根源地であり、終着点でもある。これは間違っていない。だが、同時に生命が傷を癒やし、穢れを落とし、再び巡るべき刻を待つ楽園でもあった。
「なるほど……よく分かりました。道理で鳴上は撃退されたのですね」
「ん、鳴上ちゃんが?撃退された?ちょっと待って、どういうことです!?」
戸惑っているヨモツ様を無視して、どうすれば意富加牟豆美命を手に入れることが出来るかを考える。
(黄泉比良坂に鎮座する意富加牟豆美命は、外へ出ようとする荒ぶる気――すなわち『荒神』としての属性に反応するのでしょう。鳴上が弾き飛ばされたのもそれが原因)
ならば、答えは至極単純。
(私が行くだけで解決しそうね)
私には、そもそも荒神としての側面など存在しない
高天原の賢者であり、この国においては探求者たる客分。荒神としての気質など端から持ち合わせていない私であれば、意富加牟豆美命が牙を剥く理由はない。
「永琳……?聞いていますよね?流石にお説教しないといけないのですが」
「失礼、ヨモツ様。思考の整理に集中しておりました」
「もう、知らん顔して……! 鳴上ちゃんに一体なにか……」
「お言葉ですがヨモツ様、お説教は後ほどたっぷりとお受けいたしますわ。ただいま至急確かめねばならない仮説ができましたので」
「えっ、ちょっと永琳――!?」
眉をひそめて立ち上がろうとするヨモツ様を前に、私はすばやく深々と一礼。戸惑いの声を上げる彼女を残し、着物の裾を軽やかにはためかせて私室から滑り出た。
「ちょっ、待ちなさい永琳! 逃げましたね!? 戻ってきたらお説教の時間を十倍にしますからねーーーっ!!」
背後から響く珍しく少しお冠なヨモツ様の声を小耳に挟みつつ、私はくすりと笑みを漏らして黄泉比良坂へと足を速めた。
境目に近づくにつれ、空間を圧迫するほどの清廉かつ激烈な退魔の神威が吹き荒れてくる。黄泉の気を帯びた荒神であれば、足を踏み入れることすら叶わずに弾き飛ばされるだろう絶大な領域。
だが、荒ぶる気配など一切持ち合わせていない私に対し、その神威は何の反応も示さない。激しい拒絶の波動はただの清涼な風のように私の肌を撫で、通り過ぎていくだけだった。
私は悠然と歩みを進め、神威の根源たる大本の枝先へと手を伸ばす。
手の中には、芳醇な香りを放つ見事な『意富加牟豆美命』の実が、あっけなく収まっていた。
「ただいま戻りました、鳴上」
「ゲッ……お前、本当に無傷で採ってきやがったのか!?」
部屋に戻ると、まだ煤を払っていた鳴上が目を丸くして跳ね起きた。
私は手にした桃をナイフで手際よく切り分け、ひとくち口に含む。……芳醇な甘みと、全身の血肉が清められていくような力強い神威の味わい。知の探求者として、これ以上の至福はない。
「……うん、素晴らしい味だわ。期待以上ね」
「くっそー……アタシがあんな目に遭ったってのに、一人で美味そうに食いやがって……」
恨めしそうに指をくわえて見てくる鳴上に対し、私は切り分けた大ぶりの桃のひとひらを、小皿に乗せて差し出した。
「ほら、貴女の分よ。八雷神の荒ぶる気を鎮め、労をねぎらうには最高の逸品でしょう?」
「えっ……ア、アタシにもくれんの!?」
「?そりゃ、当たり前でしょう。何を当然のことを」
「……っ! べ、別にあんたに感謝なんかしないからね!」
鳴上はそう悪態をつきつつも、待ちきれない様子で桃にかぶりついた。
一口食べた瞬間、彼女の目が輝き、爆発していた髪の毛が一瞬で元通りに収まっていく。
「んんっ~!? なんだこれ、すっげぇ美味い……! 身体の底から力が湧いてくるっていうか、なんかスッキリする!」
「ふふ、気に入ってくれて何よりだわ」
美味しそうに桃を頬張る鳴上の姿を眺めながら、私は残りの桃も綺麗に小皿へ分けていく。
手強い監視役たちも、こうして胃袋と神性を掴んでしまえば扱いやすいものだ。
(……さて、他の八雷神たちにも配ってあげましょうか)
忠実で愛らしい監視者たちを『餌付け』する術を手に入れた満足感に浸りながら、わたしは穏やかな心地で、二口目の桃を味わい――「ふふふ……桃を食べて一息なんて、ずいぶんと余裕ですね、永琳?」
ひえ。
静かだが重圧に満ちた声に振り返ると、そこには腕を組んで佇むナミ様と、ふんわりと笑みを浮かべつつも瞳の奥が全く笑っていないヨモツ様が立っていた。
「よ、ヨモツ様!? ナミ様!? な、なんでここに……!?」
口の周りに桃の果汁をつけたまま固まる鳴上。ナミ様はそんな鳴上をちらりと一瞥すると、大幣を肩に担ぎ直して、私へと一歩踏み出した。
「鳴上、とりあえずアンタはそこで正座しときなさい。……で、永琳。お説教は後で受けるって、威勢よく部屋を飛び出していったわね?」
「ええ、仮説の証明が最優先でしたので。……あ、おふたりもいかがですか? 境目から採ってきた意富加牟豆美命です。非常に芳醇で……」
「『芳醇で』じゃありませんっ!!」
ヨモツ様がバンと文机を両手で叩いた。普段の穏やかな姿からは想像もつかないほど見事な一閃である。
「話を逸らさないでください! 私が言いたいのは桃の味のことではなく、鳴上ちゃんに怪我させた事と、私のお話を途中で突っぱねて逃げ出したことです!永琳、貴女、賢者だの智者だのと持ち上げられて調子に乗っていませんか!?」
「まあまあお姉様、興奮しすぎよ。……永琳、アンタもアンタよ。私たちが日頃どれだけ目を光らせてるか分かってんの? 宇気比で潔白を証明したからって、調子に乗って好き勝手動かれてちゃ、監視の目がいくらあっても足りないのよ」
「鳴上ちゃんは単純で口車に乗りやすい子ですが、だからと言ってパシリのように使って、しかも怪我させるだなんて!」
「おい、ヨモツ様! 単純で口車に乗りやすいは余計だろ!?」
「鳴上は黙っていなさい!」
「ひえっ!?」
ナミ様の一喝に、鳴上は小さくなって正座の姿勢を正した。巻き込まれるのを恐れたのか、桃の小皿を抱えたまま必死に気配を消そうとしている。
「だいたい貴女という人は、研究のことになると周りが見えなくなる悪癖があります! 栄養剤だけで済ませて気絶した時もそうでしたけれど、自分の体のことすら満足に管理できないくせに、境界の神威に一人で飛び込んでいくなんて……万が一があったらどうするつもりだったのですか!?」
「ええ、そうよ! アンタに何かあったらタカミムスビ様にどんな顔をすればいいのよ!『賢者様が桃食べたさに自爆しました』なん言えるわけないでしょうが!」
「……ですがナミ様、私は荒神としての気質を持たないため、弾かれるリスクは皆無であると……」
「「口答えをしない!!」」
ふたり揃っての雷鳴のような怒声が、部屋いっぱいに響き渡る。
「仮説が正しかろうが何だろうが、筋を通さずに逃げたことが問題なのです! 今日という今日は、その歪んだ探求心と逃げ癖をじっくり叩き直して差し上げますからね!」
「ええ、逃がさないわよ。ちょうどいい機会ね。今夜は朝まで、みっちりとお説教のフルコースよ」
「……はあ」
がみがみと途切れなく浴びせられる黄泉の二大神格からの説教を前に、わたしは諦めて静かに正座した。膝の上で、一口残った桃の果汁が寂しく光っている。
(……どうやら今回の『献上品』だけでは、この二柱の怒りを鎮めるには少し足りなかったようね)
耳を突き刺す説教の嵐を右から左へ受け流しながら、わたしは静かに、次の研究計画へと意識を飛ばすのだった。
①そういう展開だと納得していても、イザナギが黄泉の国から逃げ延びる土壇場で、都合よく魔除けの力を持つ桃の木があるのは『ちょっと出来すぎでは……?』と思っていました。
そこから生まれたのがこのエピソード、元から誰かが植えていた説。
②雷神といえば災害を引き起こす荒ぶる神というイメージが強いですが、恵みの雨をもたらす農耕神としての側面も併せ持っています。さらに、賀茂別雷大神の伝承に見られるように、その強大な力で災難や悪霊を祓う「避雷・厄除けの神」という一面まで。今回はそんな和御魂的な一面にスポットを当てました。
ちなみに賀茂別雷大神は、火雷神と玉依姫の間に生まれた神とされています。儚月抄で依姫が火雷神の力を借りたのも、もしかするとこの文脈を汲んでいるのかもしれません。もっとも、日本神話には「玉依姫」が複数存在するため、どこまでが意図された繋がりなのかは謎のままですが。
③で、話が変わりますが、かつては自分の思うがままに無邪気に振る舞っていた『クソガキ』だった賢人が、大人になるにつれて立場や責任、才能に縛られ、いつの間にか澄ました顔をするようになるのが好き。
幕間「世」よりも現実の時間軸の方を読みたい
-
はい
-
部分的にはい(あと数話程度ならok)
-
部分的にいいえ(現代軸を少し読みたい)
-
いいえ