東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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幕間「常」 吸血鬼異変①

 フランと別れた私は紅魔館の玄関に向かいます。

 それにしても、雨が強まりましたね、窓から見る外は一寸の先も見えないほどの豪雨です。

「あら、夕雲さん。今から帰るのですか?」

 紅魔館の玄関で長靴を履いていると、ちょうど仕事を終えたのか美鈴さんと顔を合わせます。

「こんな豪雨ですし、今日は泊まっていきます?」

「いえ、今日はお暇させていただきます。今日はすこしやることがあるので…」

 私は美鈴さんに別れを告げ、紅魔館から離れ、しばらく歩いた後、羅万館に着きます。

 日記を開き、今日の事を書いた私は日記を読み直します。読み直す箇所は十年前の吸血鬼異変。読み直しながら、私は頭を「回して」、その時のことを思い出します。

 

 確か、あれは星が見えないほどの曇り空、満月だけが地上を照らす紅い夜でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼。

 夜の帝王にして、血を吸う鬼。

 その驚異的な身体能力は樹齢千年を超える大木を片手で掴んで持ち上げ、瞬きする間に人間の里を駆け抜けるほどの速度。頭以外が吹き飛ぶ怪我を負っても一晩で元通りになるほどの治癒力も持っている。

 また、魔力にも優れており、一声掛けるだけで大量の悪魔を召喚し、自らを大量の蝙蝠に分解し、更には霧状にまで細かくし何処にでも入り込む。

 

 紫曰く、そんな吸血鬼が博麗大結界の影響で気力が削いでいる妖怪たちを手下に従え、幻想郷中を縦横無尽に暴れ回ってるとのこと。

 

 私は紫に言われ、今回の異変の原因である吸血鬼の王を倒してと言われました。 

 私、“今”は人間のつもりなのですが、まぁこれも人間として生きる上の職務です。人間、働くものは食うべからず、仕事は全うします。

 

「おかーさん、どこにいくの?」

「うーん、妖怪退治ですかね。霊夢は寝てなさい」

「はぁーい」

 

 さて、準備は終えた事ですし、鬼退治に参りましょうか。

 

 

 

 一番の戦場とされる霧の湖に着くと、知り合いを何人か見かけます。久しぶりに見た鬼やどこぞの花妖怪たちが吸血鬼と相対していますね。

 

(さて、吸血鬼の王はどこにいるでしょうか?)

 この戦場にいると踏んでいましたが、特別強い!と言った吸血鬼は見えません。大抵が悪魔やゾンビ、レイス、珍しいところではデュハランやリッチ、後は手下になった妖獣でしょうか。

 

(とりあえず、紅魔館の中に入ってみますか)

 そう考え、私はなるべく気配を消して、紅魔館に潜入します。

 

 紅魔館の中は外の騒がしさとは裏腹に静まり返っていました。ひんやりとした空気とどこか古びたような匂いが鼻をくすぐります。廊下には埃が一つも見当たらず、綺麗に掃除されているのでしょう。窓の外は依然として深い霧に覆われ、不気味な雰囲気を醸し出しています。

 

(思ったより静か…ここにはいそうにありませんね)

 

 ですが、ここになんらかの手がかりはあると考え、私はこの階に霊力を張り巡らせ、微かな気配も逃さないように注意しながら階段を上り始めました。

 軋む音を立てる階段はまるでこの館の歴史を語っているようで、最上階まで上がると、長い廊下が左右に伸びていました。いくつもの扉が並び、それぞれが異なる部屋へと続いているようです。

 

(さて、どこから探しましょう…)

 

 一番奥の部屋から順番に見ていくことにしました。そっと扉を開けると、そこは書斎のようです。壁一面の本棚には、古今東西の書物が所狭しと並んでおり、机の上にはインク壺や羽根ペン、そして机には日記らしき物が置かれています。

 

(日記…これはなんかの手がかりになるかもしれませんね)

 

 興味本位で日記に手を伸ばそうとし、パラパラと最初の内容を読み取ります。

 

 …

 ……

 ………

 

 なるほど、そういうですか。

 吸血鬼の王は娘たちのために戦っていると。

 幻想郷は全てを受け入れます。たとえ外の世界でどんな過去を持っていようと、ここで生きる限りは幻想郷のルールが適用されます。外の世界で暴虐の限りを尽くした怪物もその限りではありません。

 吸血鬼の王はそれを知らなかったのですね。

 娘たちが差別や迫害を受けることなく、幸せに暮らせる場所を求めて幻想入りした。しかし、その守るべきものを守るために、幻想郷を攻め入り、支配するという間違った手段を選んでしまった。

 外の世界では幻想が科学により解体され、幻想を構成するのが難しくなっています。これからの未来、外の世界では吸血鬼でさえ存在するのは難しくなります。そんな状況だからこそ、彼は焦ってしまったのかもしれません。娘たちの未来のために、必死だったのでしょう。

 

 やり方は間違っていますが、娘を思う気持ちは私にもわかります。

 

 せめて、慈悲を持って彼を殺しましょう。

 

 

 

 

 

 私が紅魔館を出ると同時に鬼の大将の「四天王奥義!三歩壊廃!!!」と声が聞こえます。

 その次の瞬間、轟音が夜の幻想郷で鳴り響きました。途端に崩れる紅魔館、片付けも大変だろうし、後で直しときましょう。

 

「おっ、夕雲。お前もいたのか!」

 鬼の総大将がそう私に言います。

「もう少しで巻き込まれるところでしたよ。それで状況はどうです?」

「んー、互角かな。相手側もやけに気合が入ってて骨のある連中だ。こっちも喧嘩しがいがある」

「それはよかったです。私は吸血鬼の王の方に行きますので、失礼しますね」

「わかった!じゃあな!…って、待て!お前だけ吸血鬼の王と戦えるなんて、ずるいぞ!」

 彼女の言う事を無視して、瓦礫となった紅魔館の頂きに飛び移ります。あとは私を見つけた紫が目的地に連れて行ってくれるでしょう。

 

 

「夕雲、吸血鬼の王は見つけた?」

 いつものように、どこか遠くを見ているような、掴みどころのない紫の声が耳に届きます。

「いえ、ここにはいませんでした。紫、恐らくは魔法の森かと…」

 

「わかったわ」

 

 簡潔な返事と共に、有無を言わさず開かれたスキマに体が吸い込まれていきます。背後ではまだ戦闘音が聞こえますが、スキマを抜けた瞬間、それはまるで別世界の出来事のように静寂に包まれました。

 足元に感じるのは湿った土と落ち葉の感触。周囲は木々のざわめきさえ聞こえず、異様な静けさに満ちた魔法の森、こんなのは初めてですね。

 

 私は、より深く、より瘴気が濃いと感じる方角へと歩を進めます。

 じめじめとした地面を踏みしめ、絡み合う木の根を避けながら、注意深く周囲を観察しながら歩いていると、不気味なほど鮮やかな色のキノコや奇妙な形をした植物が目に飛び込んできます。空気は重く、微かに甘いような、それでいてどこか腐敗臭のようなものが混じり合っている不快な匂いです。

 

 どれくらいの時間が経ったのでしょうか?

 鬱蒼とした森を抜け、ようやく視界が開けました。そこは周囲の木々が不自然に円を描くように途切れた、小さな空き地。

 そして、その空き地の中心にはまるで夜そのものを切り取ってきたかのような黒い外套を身に纏った人影が立っています。

 月明かりを全く反射しないその外套は、闇よりも深く、その存在だけが周囲の静寂をさらに際立たせ、その者の顔を深い影に覆わせて、表情を窺い知ることはできません。

 しかし、その全身から発せられる凍てつくような冷気と重くのしかかるような威圧感は、彼がただ者ではないことを雄弁に物語っています。

 

 彼こそが吸血鬼異変の元凶、私はそう確信しました。

 

 

 

「こんばんは、吸血鬼の王様」

「よもや、こんな場所、こんな時間に来客とは…歓迎しよう。それで、何用かね?」

「わかっているでしょう?貴方を殺しに来ました」

 

 私はその言葉が終わると共に、石片を放り投げます。

 

 さぁ、仕事を始めましょう。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある吸血鬼の手記より抜粋

 

 一枚目

 紅魔館に新たな吸血鬼が誕生した。私との血の繋がりはない。おそらくは紅魔館には「吸血鬼が住む」と言った伝承により、誕生したのだろう。

 蒼白色の薄い銀髪に真紅の瞳。年齢は3歳ごろだろうか?

 唐突に妻の元に現れたから驚いたものだ。

 さて、私たちに危害を加えるならば、処理するがどうするか?

 処理しようとしても、妻が反対する。

 吸血鬼である私と人間である妻では子供はできない。

 妻は天からの授かり物だとでも思っているのかもしれない。が、私は天に神なぞいないことは知っている。

 いざとなれば、妻を抑えて処理しなければ…

 

 四枚目

 私の子、とても可愛い。天使のようだ…なんて表現はしたくないが、まさにそこの言葉が正しい。うちの子、とってもベリーキュート。

「おとうさま?」と舌足らずな言葉で、私の胸は貫かれた。もう、串刺し公が串刺しだ。

 この子は妻がレミリアと名付け、私は苗字をスカーレットと決めた。妻がなぜレミリアと名付けたかわからない、教えてくれなかった。ちなみにスカーレットと言う名はレミリアが血を飲もうとすると、飲むのが下手くそでいつも服にこぼしてしまい、真っ赤に染まってるからだ。

 ふふふ、大きくなったらこの事を教えてやろう。

 

 十枚目

 レミリアが誕生してから五年経ったぐらいだろうか?

 またまた、新しい吸血鬼が紅魔館に誕生した。今度は柔らかな金髪に、レミリアと似た血のような真紅の瞳。

 この子もまた、レミリアと似て悪魔的に可愛らしい。天使みたいと褒めるのはなんだか、癪だからな。悪魔的…うん、なかなか良い表現だ。これから使っていこう。

 

 うちの子たちは悪魔的に可愛すぎる。

 

 十一枚目

 フランは少々気が触れている。

 これは恐らくは、吸血鬼は理解不能という人間の考えが影響している。

 レミリアには吸血鬼の「高貴」だとか、「カリスマ」だとか言った要素が大きく影響し、フランは吸血鬼の「理解不能」や「強大な力」と言った要素が反映されているのだろう。

 まぁ、フランの力で壊される私ではない。私を殺すならば、浄化された銀の武器とかでも用意しなければな、ふははははは!!!

 

 三十枚目

 妻が死んだ。

 寿命だった。

 私は最後まで彼女を吸血鬼にすることができなかった。

 彼女を血を吸う鬼ではなく、人として死んで欲しかった。

 私の我儘だ。

 最後の最後まで…

 彼女は…私たちを案じていた

     私たちに微笑んでくれた

            私たちを愛していた

       私たちに感謝していた

 

 感謝するのは私たちの方だと言うのに…

 彼女の最後の願い、「レミリアとフランを幸せに…」

 

 この願いだけは私の命に懸けても叶えてみせる。

 彼女の遺品である銀の懐中時計は私が肌身離さず身につけておこう。

 

 九十九枚目

 算段はついた。

 この世界では既に幻想は薄く、未だ子供であるレミリアとフランでは、この先生きてられないだろう。

 そのためにも私たちは幻想郷に行かなければならない。

 彼女たちが幸せに暮らせる世界を目指して。

 契約のため、

 まずはこの地を私の粒子で覆い尽くす、そのために適した場所は… 魔法の森だ。

 

 手記はここで途絶えている。




智霊奇伝最新話を読んだんですが、どうしよう。
いつも通りぼかされると思うじゃん…二次創作ゆえの独自設定って手段もあるけど、なるべく沿わせたいし…うおおおお、なんとかなれーー!!!!
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