東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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サブタイトルを思いついたから、これを書きました。
八坂、そのまんまの意味です。
評価、感想、ここ好き云々よろしくです。





第122季/秋 守矢神社with Unlimited Slope Works

 早苗さんに手を引かれ、流れるままに守矢神社までやって来てしまいました。人間の里から妖怪の山の頂上まで、流石に足がクタクタです。

 それにしても、守矢神社ですか。紫から最近幻想入りした神社だと聞いています。幻想郷のバランスが崩れるかもしれないから要注意でしたっけ。

 

「神奈子様〜!友達を連れて来ましたよー!」

 

 ドタバタと走る音が聞こえ、本殿の奥から、神奈子さんだと思われる神様が出て来ました。この神社には早苗さん合わせて、三つの気配を感じるのですが、この方が神奈子さんですか。

 

「早苗、もう友達が出来たのか!やはり、此処に来て正解だったな」

 そう言いながら、神奈子さんは早苗さんの頭を優しく撫でました。早苗さんも誇らしげに胸を張っています。

 

 

 神奈子さん、本名は八坂神奈子。

 早苗さん曰く、豊穣や軍事を司る神でしたね。昔、神風を起こしたのも神奈子さんだと聞いています。

 紫がかった青髪に、茶色寄りの赤眼。頭にはしめ縄と…楓と銀杏の葉を付けています。最も特徴的なのは、背中の複数の紙垂を取り付けた輪っか状のしめ縄でしょう。

 それにしても、遠い昔に見た事があるような、どこかで会った事あるかもしれませんね。頭を回して、記憶を探ります。…あぁ、おそらくは知人の子供なのでしょう、あまりにも昔な事と神奈子さんの姿があまりにも記憶と違うため断言できませんが、仲良くなったら聞いてみたいです。

 

「それで、その子は?」

 神奈子さんは早苗さんから私に視線を移し、穏やかな目線を私に向けます。

「神奈子様、この子は人間の里で仲良くなった、夕雲さんです!彼女も私みたいな力を持ってるんです!」

 早苗が嬉しそうに説明し、私も頭を軽く下げ、自己紹介をします。

「はじめまして、神奈子さん。私は夕雲、しがない人間をやっています」

 

 

「そうか、夕雲と言うのだな。これからは夕雲殿と呼ばせてもらおう。知っているかもしれないが、私は八坂神奈子だ。この神社の祭神をしている。早苗とは仲良くしてやってくれ」

 

「それにしても夕雲殿よ。こんな辺鄙な地までよく来たものだ。人間がこの神社を訪れるのはもっと後だと思っていたが…」

「ええ、私も来るつもりはなかったのですが、早苗さんに連れて来られまして」

 …それにしても、神奈子さんの口調は思っていたよりも固いですね。早苗さんからはフランクと聞いていたのですが…

「あぁ、なるほど。早苗は悪い子ではないのだが、思い立ったら一直線なところがあるんだ。すまない、迷惑をかけたね」

「あわわ、すいません、夕雲さん。早く神奈子様たちに伝えたくて、焦っちゃいました」

「大丈夫ですよ、早苗さん、そこまで困っていません」

 食料品を家に置きたかったですが、ええ、別段困っていませんとも。冷たい目線を早苗さんに送りますが、まるで気付きません。

 

 「早苗、客人にお茶を出してやれ」

 神奈子さんの言葉に、早苗さんはハッとしたように顔を上げました。

 

「は、はい!すぐに用意します!」

 早苗さんは慌てて返事をすると、私と神奈子さんに軽く頭を下げ、本殿の奥へと走っていきました。

 

「すまないな、夕雲殿。早苗は本来はもう少しちゃんとしているのだが、友人ができて浮かれているらしい」

「いえいえ、可愛らしいものじゃないですか。こちらこそいきなり押しかけてしまい申し訳ないです」

「それも早苗に無理矢理、だろう?こうしてわざわざ訪れてくれたのだ、無論、歓迎するぞ。それに早苗が初めて連れてきた人間だ。私も興味がある」

 神奈子さんはそう言って、にこりと微笑みました。

 

 

「それで、夕雲殿。そなた、何者だ…?」

 

 あら、やっぱり気づいてたんですね。せっかく此処まで来たんですし、紫の仕事を少しやってあげましょう。

 

 

 

 

 

 

◼︎

「神奈子様〜!友達を連れて来ましたよー!」

 

 未だ残暑が名残惜しむ、日差しの眩しい秋の日だった。

 外の世界での人間の信仰の減少を危惧した私たちは、神社と湖ごと幻想郷へと居を移し、信仰の獲得に努めた。引越しして数日、未だこの世界の常識には慣れないながらも、なんとか少しの妖怪から存在を保てる程度の信仰は得られるようになった。そんな私たちが、更なる信仰を得ようとしていた日のこと。

 

 私たちの巫女である早苗が一人の女性を連れて来た。

 新月の如き黒い髪に、橙色の服と黒色の前掛けを着た早苗より少し年齢が上に見える女性。

 

 名は夕雲。

 一見、普通の人間に見えるが、その身に秘める霊力はそこらの人間が持つものではなく、早苗と似た性質を持っている。

 そして何より、早苗を見つめた時のあの冷たい目線*1…もしかするならば、早苗を操っているのかもしれない。たとえ、早苗でも初対面の人を神社まで連れてこないだろうし…

 

 幻想郷は山が少なく、私達はこの山にしか転移する選択しかなかった。この山…通称、妖怪の山は里の人間からしてみれば、危険が多い。妖怪に襲われたり、事故死する可能性が高く、普通の人間ならば、私たちの神社を訪れようとはしない。

 だが、彼女は妖怪の山を登りきった。何度か妖怪の山に来た事があるのか?それとも天狗たちと関わりがあるのか?

 しかもわざわざ重そうな荷物を持っている。普通ならば、いらない荷物を置いて、山に登るはず…となると、あれはこの場に必要なものだろう。

 おそらくはただの人間ではない。

 

 だが、考えても、彼女の正体はわからない。

 

 故に、私は直接、本人に聞くことにした。 

 

 早苗にお茶汲みを命じ、この場から離れさせ、夕雲殿に尋ねる。

 

「それで、夕雲殿。そなた、何者だ…?」

 彼女は私の言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに口元を隠すように手を添え、くすくすと笑い出した。その仕草はどこか挑発的で、私の警戒心をさらに煽る。

 

「あらあら、神奈子さんにはお見通しでしたか」

 夕雲殿は楽しげな声音でそう言うと、口元を隠していた手をゆっくりと下ろした。その表情には先ほどの冷たい影はなく、代わりにどこか達観したような、それでいて遊び心のある笑みが浮かんでいる。

 

「わたくしは、今はただの人間ですよ。ええ、これは本当です」

 そう言いながらも、彼女の瞳はまるで全てを見透かしているかのように、じっと私を見つめている。その奥には確かな自信と、微かな挑戦の色が宿っているように感じられた。

 

「…ほう、“今”はとな」

 やはり、その言葉が引っかかる。元は妖怪だったのだろうが、人間に化ける妖怪は多いが、ここまで完璧に人間の振りをする者は聞いた事がない。九尾の狐でさえも、此処まで上手くはないだろう。

 

 

「まぁ、私の正体なんて今はどうでもいいです」

 夕雲殿はそう言って、軽く手をひらひらと振った。その仕草はまるで些細なことを気にするなと言わんばかり。だが、その言葉とは裏腹に、彼女の瞳の奥には確かな自信のようなものが宿っている。

 

 

「本来は私の仕事ではないのですが」

 彼女は、小さくため息をつき、どこか他人事のような口ぶりで続けた。その視線は外の風景に向けられている。太陽が地平線に沈み、山肌を茜色に染めている様子を眺めているようだ*2

 

「せっかく、此処まで来たんです。友人の代わりに一つ忠告…いえ、それだけでは面白くありませんね」

 夕雲殿は再び私の方を向き直ると、先ほどまでの飄々とした態度から一変、口元に妖しい笑みを浮かべた。その変化に、私の警戒心は再び高まる。

 

「一つ賭けをしませんか?」

 夕雲殿はそう言って、その涼やかな眼差しを一層深くした。その瞳の奥には、底知れない知略が渦巻いているように見える。

 

「賭けとは?」

 私は警戒を解かずに問い返した。彼女の提案がどのような意図を持っているのかを探る必要がある。

 

「貴女方は人妖問わず、より多くの信仰を得ようとしている。違いますか?」

「そうだが…」

 夕雲殿はその指先をわずかに宙へと向けながら言った。その言葉は私たちの現状を正確に捉えている。

 

「貴女も気づいているでしょう?この山では妖怪はいいが、人間からの参拝が難しく、信仰を得るのは難しい。ならば、人間側の信仰を得る最も手っ取り早い()方法は?そう、神社の乗っ取り。しかもちょうどいいところに里の近くで、神のいない、寂れた神社がありますよね」

 

「…」

 こちらの思惑は全てバレている。夕雲殿の言葉に私は息を呑んだ。まさか、私たちの計画の核心まで見抜かれているとは。動揺を悟られないように努めて冷静を装うが、その様まで見抜かれている気がする。

 夕雲殿は私の様子をちらりと見て、言葉を続ける。

 

「賭け…と言うよりは契約かもしれませんね。私たち()()は貴女達の騒動に手出しはしません」

 

「成功すれば、貴女達はこの幻想郷の信仰は思いのままです」

 夕雲殿はさらに言葉を重ね、甘い誘いを囁く。成功の報酬は確かに魅力的だ。だが、リスクが恐ろしい。甘いだけの罠があるはずがないと冷静になろうとする。

 

「失敗すれば…?」

 私が問い返すと、夕雲は肩をすくめて言う。

 

「そうですね、大体三つほど私たちの言う事を聞いて貰いましょう。無論、危ない事はさせません。少しばかり手伝って欲しいだけです」

 

 私はメリットとデメリットを天秤に掛け、熟考する。

 しばらく時間が経った後、私は夕雲の契約を受け入れる事にした。

 

「契約成立、ですね。友好の証…と言うわけではないですが、一杯どうです?」*3

 夕雲殿は持参した荷物から一升瓶を取り出し、恭しく私に差し出した。

 

 一味神水。それは、かつて人々が契約を結ぶ際に、神前で酒を酌み交わした儀式。まさか、彼女はそこまで見越していたというのか……

 やはり、幻想郷。古くから生きている妖怪が住まう都、そう簡単には上手くはいかないな。

 

 そんな思いを抱きながら、私は夕雲殿と盃を交わした。

*1
食料品と言う重い荷物を持って、守矢神社に行かされたから

*2
もう帰る頃には夜遅くになるなぁって思ってます

*3
重い荷物持って帰りたくないし、ここで消化しちゃえ!とか思ってる。




またもやとても難産。
夕雲が幻想郷で何をしているのか、神奈子が夕雲を警戒している様を書けているならば幸いです。

えっ、夕雲が賢者だと知らなかった?
特徴的な前がけに、紫や華扇などの賢者たちと古い友人、紫ですら対処不可能と断じた西行妖の処理、スペルカード制定の相談にも乗っていた云々…ちょっとした伏線(とすら言えないなにか)は貼っていました。
一応、唐突ではないぐらいの伏線は貼っていましたが…これでいいのか?
伏線回収初めてすぎてわからん。
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