東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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一つの山場(六月七日分)を描き終え、燃え尽き症候群。
ここすきや感想、評価くれると嬉しいです。頑張ります。




第122季/秋 羅万館with白黒ハッキリ閻魔様

 私が守矢神社を訪れて数日後の話です。

 心地よい日差しが差し込む羅万館に、チリン、と控えめなベルの音が響きます。カウンターで店番をしていた私は、日記を書くのをひとまず止め、顔を上げます。

 

「夕雲様、こんにちは。今日もお店番ご苦労様です」

「この間ぶりですね、映姫さん。何か御用でしょうか?」

 

 

 映姫さん。本名は四季映姫・ヤマザナドゥ、幻想郷の閻魔の一人で、私の友人の小町の上司です。

 

「ええ、幾つか用がありまして、まずは一つ、小町は見ませんでした?」

 少し長い話になるとわかった私は、書いてた日記に寒白菊の栞を挟み、カウンターに置きます。

「小町ですか、今日はまだ見ていませんね。またサボりですか?」

「いえ、サボりではなさそうなのですが。最近、現世に出かける事が多くて気になってるんですよね。いつもなら、あんなに頻繁に姿を消すことはありませんから」

 小さく首を振って、爽答える映姫さん。

「何か現世で任務でも?」

「…」

 映姫さんが私の問いに言葉が詰まります。言葉に淀みがない彼女にしては珍しいですね。

 沈黙が数秒続いた後、私はふと小町が言っていたことを思い出します。

「そう言えば、前来た時に『映姫様に変な仙人の監視を頼まれた…』みたいな事をぼやいていたしたね」

 

 途端に額に手を当てて、大きくため息を吐く映姫さん。苦労してますね。

「小町は…全く、いえ、知っているなら話は早いです。その仙人は仙人と言えるか疑わしい存在で、要観察処分なんです。私たちも判断に迷っているのですが、小町にとって仙人をお迎えするのは、初めてで少し気が昂ってると言いますか…小町は幽霊の誘導担当なので、本来はそう言う仕事は就かないはずなのですが」

 

 ふむふむ、仙人だけど、仙人じゃないと…それはまた興味深い話ですね、、、それにしてもどこかで聞いたことあるような…

「仙人だけど、仙人ではない…と言いますと?」

 映姫さんは、少し思案するような表情で言葉を選びながら説明を始めました。

「大抵の仙人は、より高みを目指し、天人に憧れて、厳しい修行の末に仙人になりますよね…つまりは「種族」としての仙人なのですが、彼女は仙人自体を「職業」として使っていると言いますか…」

 ほとんど職業…なにか引っ掛かりますね。

「別に寿命を超えて、生きている訳でもないので、およそ百年に一度の死神のお迎えはするべきか、しないべきかで地獄は迷っているのですよ」

 寿命がまだ来ていない…と言う事は長年生きる種族なのでしょう。人間ではないのは確か…とすれば天狗や鬼でしょうね。

 

 

「その仙人の名は?」

 私がそう尋ねると、映姫さんはハッとしたように顔を上げます。

 

 

「あぁ、言い忘れていましたね。その仙人は茨木華扇と名乗っているようです」

 

 

 うっすらとそうではないかと思っていましたが、まさか本当に華扇だったとは、世間って狭いですね。

 

 

 

 

「華扇ですか…」

 

 私はカウンターに肘をつき、少し遠い目をしてしまいます。脳裏には片腕を隠し、いつもどこか他人のために眉を寄せている彼女の顔です。まさか、彼女が地獄の監視対象になっているとは…

 

「お知り合いですか?夕雲様」

「ええ、古くからの友人です。彼女、幻想郷の賢者の一人なので死神は勘弁して欲しいですね」

 映姫さんは私の言葉に目を丸くして、驚いている様子。

「なるほど、了解しました。他の方にも伝えておきますね」

「ええ、お願いします」

 

 私はカウンター越しに冷たいお茶を、映姫さんの前にそっと差し出します。最近暑くなりましたからね。水分補給は大事です。

「それにしても、華扇は仙人になって長い時が経ちますが、死神との遭遇は経験が無さそうでした。なにか、地獄で事情が変わったのですか?」

 

 映姫さんは、差し出された湯呑を両手で丁寧に受け取ると、コクリと喉を鳴らし、気持ち良さそうに飲み始めます。やはり、喉が渇いていたのでしょうか。いつも厳格な表情をしている顔が柔らかくなります。

 

「ええ、それが二つ目の要件です」

 湯呑みを持った映姫さんが静かに言葉を続けます。

 

「私たちが務める是非曲直庁に、新たなる同胞が生まれました。その者は亡霊で、本来ならば冥界に行くところ、なぜか地獄に行きました。地獄はご存知の通り、弱肉強食の世界。彼女は実力者だったため、その身一つで頭角を表し、私たち是非曲直庁にスカウトされました」

 

 亡霊が地獄で頭角を現すとは、珍しいこともあるもんですねと私は耳を傾けます。

 

「その者は輪廻転生は絶対だと考えており、それに反する仙人や天人を全員、地獄送りにしようとしていたのです」

 なるほど、華扇が狙われたのはそう言う理由ですかーと私はお茶を啜りながら、そう思ってると。

 

 映姫さんは湯呑をカウンターに置き、まっすぐ私を見つめます。その瞳には先ほどの温和な光はもうなく、いつもの厳格な色が宿っています。

 

「他人事じゃありませんよ、夕雲様。その亡霊は…博麗神社の先先代巫女なのですから」

 

 

「ぶっっっっっっっっっ!!?」

 私は思わず、お茶を吹き出し、盛大に弧を描いたそれは目の前にいた映姫さんの顔に降りかかりました。

 

 

 

 

 

 突然のことに気管に入ってしまったのか、激しい咳が込み上げてきます。私は涙目になりながら、慌ててカウンターの下に手を伸ばし、清潔な布を映姫さんに渡します。

 

「大丈夫ですか?夕雲様」

「ええ、落ち着きました。すいませんね、映姫さん、お茶を吹いちゃって…」

「いえ、驚かせたこちらも悪いのですから、これはお互い様ってことでどうでしょう?」

「ええ、わかりました」

 

 深呼吸をして、映姫さんに尋ねます。

 

「霊暮…なんですね」

「ええ、彼女。転生したくないらしく、冥界には行かなかったようです」

「一応、理由を聞きますが、なんでですか?」

「彼女曰く、『転生しても良いけど、この名前と肉体、記憶失うのはやだー』との事」

 

 それは困りましたね。確かに記憶の保全はまだしも、名前と肉体は難しいです。

 霊暮は博麗の巫女でもかなり特殊なケース。

 本来ならば、先代の巫女に妖怪退治の方法や結界の管理方法を学ぶのですが、彼女の先代巫女が急死してしまったため、妖怪に育てられた巫女です。

 そのため、妖怪と距離が近く、みんなから愛されていました。博麗神社が妖怪神社と言われ始めたのはあの頃からでしたね。それでも、妖怪が住みつく今ほどでは無かったですが…

 

「まぁ、霊暮さんの件はこれだけです。また何かあれば報告しますよ」

「わ、わかりました」

 まだ動転してるのが自分でもわかります。

 

「霊暮の件はこれで終わりです。それで最後の要件なのですが…」

「はい、なんでしょう」

 霊暮の件が出たのです、次にどんな大きい要件が来るか心構えだけはしておきます。

 

「おすすめの映画を何本か見繕って欲しいのですが…」

 あっ、そんな事ですか。久方ぶりのお仕事です、よりにかけて選びましょう。

 

「はい、よりにかけて選びま「夕雲サボりに来たよー」…すね」

 

 私の言葉が終わる前に、ドアが豪快に開けられ、どーんと獲物(小町)がやってきます。

 

 獲物(小町)ハンター(映姫さん)の姿を捉えたのか、入ってきた時の手を上げたポーズのまま固まっています。

 

 数秒の沈黙の中、風に揺らされた鈴の音だけがチリンチリンと鼓膜を揺らします。

 

「へぇー、小町。貴女、今なんと…?」

 ハンターが動きました。対する獲物は冷や汗を流し、固まるだけです。

 

「い、いえ。これは…あれですよ。か、帰る前にお世話になっている夕雲に挨拶のついでに、少し休憩しようかなーみたいな?」

 獲物がなんとか映姫さんの視界から抜け出そうと、足掻きますが…

 

「私には『夕雲、サボりに来たよー』と聞こえましたが?」

「そ、それは…」

「だいたい、貴女には『距離を操る程度の能力』があるでしょう。休憩する必要もなく、すぐに帰れるではありませんか?」

「う…」

「そう、小町は少し自分本位がすぎる。貴女の能力があれば、一度地獄に帰り、報告をしてから羅万館に来ればよいでしょう」

「ゆ、夕雲〜」

「私は映画を見繕ってきますね。あぁ、腕がなるなー」

「棒読みすぎる!」

「あら、小町。私の話を聞かないとは良いご身分ですね」

 

 小町が涙目でこちらを見てきますが、私はフィルムを取りにカウンターの奥に向かいます。

 

 私、案外この風景が好きなんですよね。

 お茶とお菓子をカウンターに運び、書きかけの日記を開き、私は映姫さんのお説教を背景に、緩やかな時間を過ごしました。




次は誰を描こう…大人しく、宴行くか?

映姫様、この作品では出番は少ないかもですが、かなり重大な役目を負ってもらいます。

能力を使えば、映姫様が水がかかる前に戻せると思いますが、焦っていたって事で。
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