東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

34 / 142
好きなように書きました。

全然話変わりますけど、緋想天での異変の範囲ってどれほどなんでしょうね?
魔法の森では、魔理沙が住んでるけど、魔法の森全体が霧雨に覆われているのか。
アリスも魔法の森に住んでるし、どこからが雹になるのか、境界線はどこになるのか…などなど。

博麗神社全体は日照りだったぽいし、大体周囲、50メートルとかになるのかなぁ?勘だけど。


第123季/夏 香霖堂with経営下手な店主②

 魔法の森の入り口。普通の人間なら近寄らないような立地に、私のお得意のお店、香霖堂は建てられています。人間の里から比較的近い道ですが、わざわざ里の人間は里から出ようとはしません。こう言うところにも、霖之助さんの経営下手なところが見えています。

 最近は咲夜などの金払いの良い常連が増えてきたと聞いていますが、とは言え、きっと経営は火の車でしょう。

 私の羅万館はフィルムを回すだけですし、メンテナンス費用も自前でなんとかなります…ふっ、また勝ってしまいました。

 

 それはともかく、私は今、香霖堂にいます。羅万館の掃除中に見つけたいらない物を捨て…売り払うのが目的です。決めた用事は明日、家にいても暇なので、霖之助さんには私の暇つぶし相手になってもらいましょう。

 

「ふむ…」

 世間話でもしようかと思いましたが、霖之助さんは私が持ってきた物、昔作りすぎた木製の櫛を眺めて、ここ一時間ほどずっと唸っています。もし、私が売らなかったら、この一時間を無駄になっちゃいますよ。

 

 さらにしばらく時間が経ち、霖之助さんはようやく私に声をかけます。

「よし、五円札*1でどうだい?」

「あら、少し安すぎやしませんか?霖之助さんもこれがもう作られることのないものだってわかってるでしょう?」

「…やっぱり、この櫛が何か知ってるか…」

 さては、霖之助さん、私相手にぼったくろうとしてました?…いい度胸ですね。

 

「たった五円札では、売ることは出来ませんね。では、今回は無かったことに…」

「いや、待ってくれ。わかった、十円札とでどうだい?」

 十円札ですか…悪くはないのですが、もう一押し欲しいところ。私はチラリと香霖堂のカウンターの奥、フィルムが置かれているであろう場所を見ます。

「…わかった。そこにあるフィルムも無料(ただ)にしよう、どうだ?」

 霖之助さんは眼鏡をキラリと光らせ、そう言いました。

 これ以上は何も出なさそうですね。私は十円札で手を打つ事にし、霖之助さんに櫛を差し出しました。

 

 

 

「やっぱり、いい物だ」

 

 霖之助さんは、先ほどまでの渋い表情から一転、満足げに頷いています。

 五円札から始まり、最終的には十円札とフィルムで決着がついた今回の取引。確かに、私としても悪くない条件です。あの櫛の価値を知る人が見れば、もっと高値が付くでしょうけれど、所詮は一度しか使えない消耗品。それも火を灯したり、タケノコを生やす程度のもの。それが、いくらかのお金と、私の大好きなフィルムに変わったのですから、私にとっては上出来です。

 

 霖之助さんも「いい買い物をした」とばかりにマニア特有のニヤニヤをしています。

 お互い良い取引が出来ました。ですが、そう問屋を卸しません。霖之助さんが私にぼったくろうとした事実は消えないのです。そう、今こそちょっとした仕返しの時。

 

 私は、懐から同じ形をした新しい木製の櫛を髪に挿します。

 古代の男性が使うものなので、少々…というより、本当に髪に置いてるだけの不格好な形ですが、櫛を挿して、霖之助さんに見せびらかすように胸を張ります。

 

「そ…それは⁉」

 霖之助さんは自分の手元にある櫛と私の髪にある櫛を交互に見返し、混乱している様子。

 

「あら?どうかしました?」

「い、いや。なんでもないよ…ちょっとお茶と代金を持ってくる」

 そう言って、霖之助さんはカウンターの向こうに行ってしまうのでした。ふっ、また勝利をしてしまいました。敗北を知りたいです…

 

 

 

 

 

 

 ◆

 僕は混乱していた。

 僕こと、森近霖之助の能力である「道具の名前と用途が判る程度の能力」は彼女から買い取った櫛が、神話時代の産物、「湯津々間櫛(ゆつつまくし)」であることを伝えてくる。湯津々間櫛、日本神話において伊奘諾(イザナギ)が死んだ妻の伊奘冉(イザナミ)から逃げる際に使った道具。その効能は「魔を退ける程度の能力」…日本原初の退魔の力と言っても過言ではないだろう。

 

 なぜ、彼女の家にそんなものあったのかは気になるところだが、そんな貴重な品をたかだか十円札程度で手に入れることが出来たのだ。万々歳と言ってもよいのだが…

 

 彼女が新しく懐から出した櫛も全く同じ「湯津々間櫛」であると、僕の能力が伝えてくる。そこで、お茶を汲みに行くふりをして、日本神話…特に黄泉の国について書いてある書物で確認しようとしているのだが…

 

「あった、あった」

 適当に積んであった本の埃を払い、僕は本を開く。

 ええっと…イザナミ、黄泉の国、黄泉戸喫(よもつへぐい)黄泉神(よもつかみ)、湯津々間櫛。あった、あった。暗い闇の中、どうにかして文字を読もうとする…書物ではイザナギは湯津々間櫛の太い櫛を折り、火を灯し、イザナミの姿を確認したとされる。

 僕は、夕雲さんから買った櫛を見る。なにも折れていない。

 

 …

 ……

 頭を振って、続きの記述を読む。

 八雷神(はちらいじん)黄泉醜女(よもつしこめ)、湯津々間櫛。僕の微かな記憶ではこれが湯津々間櫛の最後の記述。目を凝らし、慣れてきた闇の中で文を読む。イザナギが湯津々間櫛を投げると、タケノコが生えた。

 僕は、夕雲さんから買った櫛を見る。タケノコになってない。

 

 つまるところ、これはこの書物に書かれている湯津々間櫛の複製品、またはその類似品なのだろう。イザナギ自身が使った物ではない。

 

(まぁ、貴重な品である事には変わらないのだが…)

 そう自分に言い聞かせ、僕はお茶を汲み、夕雲さんの前に戻るのだった。

 

 

「それで、霖之助さん。買取額とフィルムを貰えますか?」

 夕雲さんに急かされた僕は、十円札のみを渡す。

 

「?…フィルムの方は?」

「あぁ、すまない。そこにフィルムはなかったよ。今週はまだフィルムを取りに行ってないからね」

「なっ!」

 立ち上がり、顔を赤くする夕雲さん。僕もただで負けるわけではないのだ。

 憎々しげな顔をする夕雲さんを前に、僕は自慢げに眼鏡を光らせた。

 

 

 

 さて、僕と夕雲さんのお互いのプライドを賭けた小さな戦いから数分後。

 僕たちは世間話に興じていた。ほとんど井戸端会議みたいな物だが、夕雲さんは案外、幻想郷の近況について詳しい。僕も文々。新聞を取っているが、発行が不安定だったり、特定のジャンルに偏ってたり、真実を書いてはいるが、自作自演だったりする。あの新聞は内容はともかく、考察と知識を深めることが出来るのだが、情報収集には向いていない。

 

 その分、夕雲さんとの世間話は情報収集には適しているのだ。それに彼女は博識、普通の人間ならば知ることのないことまで勝手に教えてくれる。この間の六十年に一度の幻想郷再誕の日などがその最たる例だろう。

 しかもやけに人に教えるのが上手い。寺子屋で働いていたりしていたのだろうか?

 

「そういえば、夕雲さん。ずっと思っていたのだが、なぜ君はそんな幻想郷の近況について詳しいんだい?」

 

「それは私が日記を書いていたからですよ。そこまで頻度が高いわけではないですが、自分に合ったことや幻想郷の異変について書いていました」

 

 ほぅ、彼女もか。最近、僕も日記を書いている。最近の幻想郷では紙が安値になったため、以前から書こうと思っていた日記に手を出せるようになった。幻想郷には、歴史が存在していないが、いつか僕の書いた日記が幻想郷唯一の歴史書となるのも夢ではないだろう。

 

 …ん?

「夕雲さん、日記はいつから書いているんだい?」

 これは一つの願望だった。今なら、霊夢の神社にいる訳のわからない神様に祈ってもいい、そう思えるぐらいの願い…どうか、頼む。

 

 夕雲さんが口を開く。

「そうですね。いつから…と言うと難しいですが、霖之助さんが生まれるずっと前から書いていますよ」

 

 終わった…僕の野望の一つがここで潰えた。僕は自分の本の冒頭に「幻想郷の歴史が誕生した」と書いたのだが、とんだお笑い草になってしまう。

 僕が燃え尽きたのを不思議に思ったのだろう。夕雲さんが「どうしたのか?」と聞いてくる。

 

「あぁ、僕も実は日記を書いているんだがね。ほら、幻想郷には歴史がないだろう?だから、いつかは僕の日記が幻想郷唯一の歴史書になると夢想してたのさ」

 

 幻想郷には歴史がない。

 

 これは単純な理由で、事件の当事者…つまるところ、妖怪の寿命が長いことが起因とされる。事件があったとしても、当事者である妖怪が生きているため、真相が歪み、事実が消え去る。妖怪たちが都合の良いように情報を捻じ曲げるのだ。

 そのため、僕の日記が幻想郷の事件を客観的に繋ぎ止め、いつかは幻想郷の歴史書として売る。そうする事で、香霖堂は安泰、道具屋としての格も上がると思っていたのだが…

 

 僕が意気消沈していると、夕雲さんはくすくすと笑っていた。なぜ笑っているのか、彼女に問いただすと、彼女は目尻に涙を溜めて、こう言った。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。私は書いて()()って言ったのですよ。つい最近、書き終えて、ある人に渡したんです」

 

「ですから、人間の里や他の妖怪が私の日記を読むことはないでしょう。正真正銘、貴方の日記だけが幻想郷の歴史書ですよ」

 

 何故、彼女が何百年も書いている日記を手放したのかはわからない。

 

 だが、これだけは確かだ…僕の野望はまだ終わっていない!

 

 

 

 ◆

 障子を滑らせる音で、店内の喧騒が一瞬途切れた。

 見慣れた…けれど、どこか凛とした後ろ姿が夕暮れ時の柔らかな光を背に受けて立っている。

 

「おや、帰るのかい?夕雲さん」

 声をかけると、彼女は静かに振り返り、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「ええ、そろそろお暇しようかと。今日は良い取引が出来ましたよ」

 

「いえいえ、こちらこそ。また何か気になるものがありましたら、遠慮なくお越しください」

 

 僕は、彼女が帰る時にだけは敬語を使うと決めている。何故だかわからないが、彼女の後ろ姿を見るたびに、無性に敬語を使いたくなるのだ。

 まぁ、きっと彼女が霊夢や魔理沙と違って、金払いの良い常連だからだろう。また来て欲しいから、きっと僕は敬語を使うのだ。

 

「はい、その時はまた」

 毎度のやりとりを終えると、夕雲さんは再び店の戸口へと向き直った。外はもう、茜色と紫が混ざり始めた空が広がっている。彼女の適当に挿された櫛が、その中でほのかに輝いて見えた。

 

 一歩、外へ踏み出した。

 

 夕雲さんの姿はゆっくりと夕闇の中に溶け込んでいくようだった。彼女の歩く先には、羅万館の灯りが見えているのだろうか。

 いつも思うのだが、夕雲さんという人は、どこか掴みどころがない。

 穏やかで礼儀正しいけれど、失礼な時は本当に失礼だし、大人のふりをしているが、案外子供っぽく振る舞う事もある。

 だが、彼女は仮面を被らない。人間は多くの仮面を被ると言うが、彼女はありのままにやりたいように生きているのだろう。

 

 店に残されたのは夕暮れの静けさと、彼女がほんの少しだけ置いていった香の匂いだけだった。

 

 僕はそんな中、日記を開く。

 

 さて、今日は何を書こうかな。

 

*1
現代で言うところの五万円




書いてて楽しいぞ、霖之助。
原作香霖堂みたいには上手く行きませんが、書いててすごく楽しかった。

五円札=五万円ですが、幻想郷ではそう言う事にしておいてください。ついでに一話のも直しておきます。


いつもは会話文の応酬をせずに、逐一動作や風景描写を入れてたのですが、絶対会話文書きまくった方が楽だし、読みやすい。

へへ、面白かったら評価や感想お願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。