湯津々間櫛は本当に日本神話に出てきて、効能も合っていますが、無論、迷いの竹林云々は独自設定です。ゆるして
てゐ…君の口調がわからない…ナズーリンみたいになった気がする。ゆるして。君、妹紅にはですます敬語を使うんだ…ほんとわかんない。
守矢神社の方々が引っ越してきて、約一年。
久しぶりに予定がない暇な時間ができた私は、羅万館の片付けを行なっていました。
そんな片付け中、私はある櫛を発見します。
魔を退ける力を持つ櫛で、火を灯せたり、タケノコになったりする、なかなかヘンテコなアイテムです。
遠い昔、それこそ幻想郷が成立するよりずっと前に、私はこの櫛を友人に頼まれて、大量生産する羽目になりました。頼まれる…と言うよりは賭けに負けたと言うのが正しい気がしますが。
まぁ、それはともかく。私は湯津々間櫛を何千個と言った単位で量産する羽目になりました。
私がそれらを作り、友人に渡し終えた後、友人はある場所に湯津々間櫛を埋め、竹を生やした後、その土地の所有者を自称し始めました。そして、その場所はいつしか、竹草という言葉が訛り、高草郡と呼ばれるように。
私が高草郡を永琳や輝夜に教えたのも、その話を風の噂で聞いたからですね。私の友人ならば、なんやかんや言って、便宜を図ってくれるのを見越しての紹介です。今では、永琳と友人は師弟関係とのこと。時間はかかりましたが、良い関係を築けているようで、嬉しいです。
…なんだか、久しぶりにその友人の顔を見たくなりましたね。それに鈴仙さんに会ってから、永遠亭に行こうととも思っていたので、友人と顔を見せた後に永遠亭に出向くとしましょう。どうせ輝夜も暇してるでしょうし、アポは取りません。というか、配達員さんが行けないような場にあるので、基本的にアポ出せないんですよね。
それにしても、高草郡が大津波で幻想郷に流れ着いた時は驚きました。高草郡…幻想郷では迷いの竹林って呼ばれてるんでしたっけ?
あそこ、方向感覚を狂わせる緩やかな傾斜や視界を狭める霧、竹の成長で日々変化する道…行くたびに迷ってしまうので、あまり行きたくないんですよね。私の友人が根城にしているのも納得の地形です。
憶測ですが、地形や気候の問題以外にも、湯津々間櫛が大量に使わされたせいで、悪意や侵入者を退ける力があの土地に満ちてたりしているのではないか?そう思ってたりしてます。
早速、永遠亭に向かおうとし、準備をしようとしますが、目の前には片付けのせいで、散乱された道具や本。
押し付け…もとい、要らないものを売りに香霖堂に行かなければなりませんね。永遠亭に向かうのはそれからです。ですから…明日、香霖堂に向かうとして…明後日です。明後日、永遠亭に行くとしましょう。
◆
昨日、香霖堂で用事を済ませた私は、今度こそ意気揚々と永遠亭に訪れてようとしました。そして、見えてきた迷いの竹林。
私は竹林の入り口で立ち止まり、深く息を吸い込みます。独特の土の匂いと、青々とした竹の香りが混ざり合い、どこか懐かしいような、それでいて奥深い森の気配を感じさせます。しかし、その奥に待ち受ける迷路のような道筋を思うと、どうしても気が重くなってしまうのです。
「さて、どうしたものでしょう……」
辺りを見回しても、野兎の一匹すら見当たりません。迷いの竹林に来るのは相当久しぶりですからね。野兎達が私のことを侵入者だと誤解していてもしょうがありません。…いや、永遠亭は「闇の病院」と里で有名になっていますし、永夜異変の後からは普通の人間にも門扉を開いていると聞きます。…となると、友人の差金でしょう。
仕方なく、私は自力で進むことにしました。頼りになるのは、過去に何度かこの竹林を訪れた際の、曖昧な記憶だけです。緩やかな傾斜の道を進んでいくと、すぐに周囲は高い竹の壁に囲まれ、視界が狭まってきました。足元には、落ち葉や枯れた竹の葉が積もり、歩くたびにカサカサと音を立てます。
ん?曲がった竹とは珍しいですね。前回はこんなのありましたっけ?
しばらく進むと、案の定、目の前にいくつもの分かれ道が現れました。どれも同じように見え、どこへ続いているのか全く見当がつきません。…困りましたね。野兎がいない事から、友人がどこかで見ているのは確かなのでしょうが…さてさてどうやって誘い出しましょうか。友人本人ではなくても、野兎でもどうにかして呼べれば…
あっ、良いこと思いつきました。
私は地面に座り、そこら辺で拾った少し鋭い竹の切れ端を手に持ちます。
描くのは一柱の美男子。野兎たちの憧れであり、彼女たちのリーダーの恩人、大国主の似顔絵です。
ふふ、視線を感じます。兎たちは好奇心旺盛なところがありますからね、今、私が何をしているか興味津々なのでしょう。
ぴょこぴょこぴょこと、野兎たちが次第に近づいてくる音が聞こえます。私はそれに気づかないふりをしながら、ダメ押しとばかりに、大黒様の童謡を歌います。…そう言えば、彼はまだ外の世界の神社に封印されているのでしょうか?
絵を描き終えた私は、一つ罠をしかけ、その場を立ち去るふりをしたところ。
「やっ、久しぶりだね。夕雲様」
「…ようやく出てきましたか、てゐ。お久しぶりです」
悪戯好きな兎妖怪、因幡てゐがようやく姿を現しました。
「と言っても、私たちにとってはついこの間なんだけどね。まぁ、それはいいや。とりあえず、罠を消し…いや、やっぱ消さなくていいや。兎たちー!遠くから見るのはいいけど、近づいちゃダメだぞー」
てゐがそう言い、野兎たちを離れさせます。ちなみに、てゐが指差した罠は誰かが触れた瞬間、周辺の風を回転させ、竜巻を起こし、対象を拘束するもの。私がシアターに人が入ったら、自動的にフィルムを回すのを応用した技術です。
「それにしてもよく気づきましたね」
「そりゃ、幻想郷で最も賢くて可愛い兎だからね。なんか危ない気配ぐらいには気づくさ。後、どうせなら罠の威力を上げておくれ」
私が幻想郷で最も長生きな女の子と自称するように、てゐも自身のことを幻想郷で最も賢くて可愛い兎と自称しています。賢い兎のくせに詰めが甘いんですよね。和邇
「別に威力を上げる分にはいいですけど、人間が入ったら危ないですよ?」
「大丈夫、大丈夫。一回きりのやつでしょ?すぐ使うことになりそうだし…まっ、それはともかく、夕雲様がここに来るなんて珍しいね。何かあったのかい?」
「いえ、羅万館を掃除してる際に湯津々間櫛を見つけましてね。それを見て、久しぶりにてゐに会いに行こうと思っただけですよ。鈴仙さんにもこの間あったので、近々永遠亭に行こうと思ってたのもありますが…」
「鈴仙と顔見知りなんだ…なんか意外だよ」
そう言い、てゐは丸い目をより丸くして、訝しげな表情を浮かべます。
「ええ、彼女、時々人間の里に来ているでしょう?人間の里でも話題になっていたので、少し話を聞きに行ったんですよ。おかげで、お酒をたくさん奢ることになりました」
あっ、鈴仙さんについて、永遠亭関係者に聞いてみたいことがあったんですよね。良い機会ですし、てゐに聞いてみることにしましょう。
「そう言えば、私が前回、永遠亭に来た際には鈴仙さんを見なかったのですが…隠してたんでしょうか?」
以前、鈴仙さんと話した時、彼女は永遠亭に来てからというもの、何十年という単位で竹林から出ることが叶わなかったと聞いています。その言葉が、少し引っかかっていました。前回、私が永遠亭に訪れた際は鈴仙さんの気配を微塵も感じ取れなかったですよね。
「あー、そう言えば、お師匠様が鈴仙の事を隠してたよ。ほら、夕雲様って幻想郷の運営側だろ?お師匠様は鈴仙を処理したり、月に帰されるとでも考えたんじゃない?」
「むむ、そんな事しませんよ」
私はほんの少し語気を強めて、反論します。
「けど、夕雲様。月の兎を自称する奴が幻想郷にいたら、どうする?」
「そうですね〜、とりあえず紫に丸投げですかね。そこまでは私の仕事じゃないですし、管轄外です」
私の言葉にてゐは納得するように頷きました。
「じゃあ、お師匠様はそれを懸念したんでしょ。夕雲様は良くても他の賢者はどうかわからないし」
そんな感じで、私とてゐが話していると、誰かが走っている音が聞こえます。
「やっと見つけた!てゐ!今日は兎角同盟の会議なんだから!早く行くよ」
噂をすればなんとやら。遠くから大声を出しているのは鈴仙さんです。物凄いスピードでこちらに走ってきます。
あっ、そのルートだと…
私が鈴仙さんに注意する暇もなく、鈴仙さんは私が先程仕掛けた罠に引っかかります。
「うわぁぁぁーーー!!!」
罠の起動と共に、現れる竜巻、天高く上る鈴仙さん。…ありゃ、想定よりも威力が高いです。このまま落ちると、鈴仙さんが怪我してしまうと考え、受け止める姿勢を取りますが、「夕雲様、大丈夫、大丈夫」とてゐに止められます。
「ぐへぇ」
あっ、竹の先端に鈴仙さんの服が引っかかりました。おぉ、なんたる幸運。
どうにかして、鈴仙さんを地上に降ろした私は、彼女を背負いました。鈴仙さんは、首に大きな衝撃を受けたせいでしょうか、白目をむいて気絶しています。能力を使って、起こしてもいいですが、鈴仙さんが起きると、何故私がいるのかとか、私がなぜ永琳の真名を発音できるかとかで騒ぎだそうだったので、あえて起こしません。…めんどくさいですし。
竹林の中を、てゐの軽快な足取りに導かれながら進みます。背中の鈴仙さんは、依然として意識のない様子で、時折小さくうめき声を上げるだけです。永遠亭までの道のりは、普段であれば私も迷ってしまうほど複雑に入り組んでいますが、先ほどと違い、案内役のてゐが一緒なので心強い事この上なし、ですね。
しばらく歩くと、鬱蒼とした竹林の中にひっそりと佇むように建つ永遠亭が見えてきました。
満月の光を浴びて、白壁がぼんやりと浮かび上がっていおり、静寂の中に時折聞こえる虫の声が、一層その神秘的な雰囲気を際立たせています。
「ほら、入るよ。夕雲様」
「はいはい、すぐ行きますよ」
建物の美しさに目を奪われ、立ちすくんできた私にてゐが声を掛けます。満月の中、永遠亭を見たのは初めてですからね、思わず見とれてしまいました。確か、輝夜の能力でこの館の永遠が保たれているのでしたっけ?私の場合は、いちいち能力を使わなければならないので、不便です。代わりに、巻き戻しが出来ますけどね。
「あら、おかえりなさい、てゐと鈴仙…って、夕雲様!?」
「久しぶりですね、永琳。元気にしてましたか?」
月の賢者にして、私の最も古い友人、八意永琳が思わず、私と私に背負われている鈴仙を見て、声を上げました。
◆
「ちょっと、てゐと夕雲様…これはどういうことですか?」
気絶してる鈴仙さんを布団にしかせ、永琳が私たちに問い詰めます。
「えっと、永琳。これはですね…」
「正座」
「えっ?」
「叱責されるときはまずは正座でしょう?」
すっと、思わず背筋を正して正座をする私たち。これはかなり怒っていますね。ですが…
「ふふっ…」
「夕雲様?何がおかしいんですか…」
永琳が私に詰め寄りますが、私はさらに笑みを深めます。
「いえいえ、永琳も変わったなと。私と初めて会った時の永琳は冷静沈着、合理主義の塊、人間らしいところなんて、開発と自分の提唱した定理や法則を証明出来た時や新しい実験材料を見つけた時ぐらいでしたし…」
「……昔の私のことを、よく覚えていますね」
永琳は、静かにそう言います。その声には、昔のような鋭さはなく、どこか穏やかな響きを私は感じ取ります。
「……若かった、ということでしょう」
永琳は、遠い目をしながら呟きました。
「あるいは、必要がなかったのかもしれません」
彼女の言葉には、深い意味が込められています。
月での生活、そして幻想郷での生活。その中で、彼女を取り巻く環境が変わり、守るべきものができたことで、彼女の中に人間的な感情が芽生えたのしょうか。
「それが今では、こんなにも人間臭くなってる。それがおかしくて、嬉しくて、思わず笑っちゃいました」
私は布団に寝かせられている鈴仙さんに目を向けます。「うぅ…うぅ…」とうめき声を上げ、苦しげな顔をしていますが、起きる様子はありません。私は彼女に能力を使い、状態を元に戻します。すると、鈴仙さんは眉間のしわが消え、安らかな表情になりました。
「それも鈴仙さんと輝夜のおかげなのでしょうね」
永琳の顔を見つめ、しみじみとしながらそう言います。
「それはそれとして、鈴仙さんの件はてゐが全部悪いです」
「え?ちょっと!夕雲様!?」
「ええ、何が何だが知らないけど、多分、てゐが悪いわ。さぁ、行くわよ、夕雲!」
「え?ちょっと!姫様!?」
てゐと永琳が何か抗議していますが、私は現れた輝夜に手を引かれ、この場から逃げ出します。
へへ、お説教なんて受けてたまりますか!私は輝夜の部屋に行かせてもらいます!
最後、少し夕雲さんがキャラ崩壊してますが、永琳の変化を見れて嬉しかったってことで許してくだせぇ。
輝夜は永夜抄EDでも、突然神社に現れましたからね。そんな感じです。
それにしても、今回の話…あんまり納得いってないので、ちょいちょい修正するかも?大筋は変えずに、描写を変えていくことになりそうです…
最近、書いてて納得いかないのが多いからこれから増えるかも(小声)