「――そうそう、それでね。昨日はこんな夢を見たのよ」
「――って、またメリーの夢の話…これで何度目?流石にもう飽きたわ」
「だって、今日も夢の話をするために、貴女を呼んだのよ」
私の名前はマエリベリー・ハーン。この日本の首都でオカルトサークルをやっている大学生。
まぁ、普通のオカルトサークルとは違って、私達のサークルはまともな霊能活動である除霊や降霊は行っていない。所謂、不良サークルだと思われてるし、なんなら私もそう思ってるわ。
それにサークルって言っても、サークルメンバーは二人だけだしね。
「あのね、メリー。この間も言ったけど、他人の夢の話ほどつまらなくて、迷惑な話はないわ」
そう言って、唇を尖らせる、白いリボンで巻かれた黒い帽子が特徴的な彼女は宇佐見蓮子。二人だけのサークルの片割れ。星から時間を、月から場所を正確に把握するキモチワルイ能力を持つ。私はただの計算能力なのではないかと疑ってたりするが、蓮子は能力だと言い張ってるわ。
まぁ、それはそれとして…実は私にもそう言う特殊な能力があるのよ。うちの家系は昔から霊感はある方だったみたいだけど――。
私は、世界中の結界、つまり境界のスキマが見えてしまうの。サークルは結界の切れ目を探しては、別の世界に飛び込んでみるのよ。神隠しって奴かしら?
――実は禁止されてるんだけどね。内緒よ?
夢の世界でも出来るもんだから、私はこの能力を使って、ある土地に頻繁に訪れたわ。
だけど、訪れた結果…私は現実の私と夢の私が混ざってしまった感じがするの。蓮子にカウンセリングしてもらわければ、どれが現実の私かわからなくなってしまう。
「だからお願い、カウンセリングはこれで最後で良いから。…いや、もう最後の気がするのね」
「なにが『だから』なのよ。…はいはい、わかったわ。前回は確か…赤い屋敷の話に、夜の竹林から帰った話だっけ?」
「ええ、けど、今回はそのどちらでもない…一つのお店の前に私はいたわ」
夕暮れが迫り、紺色の帳がゆっくりと空を覆い始める頃に、私はその店の前に立っていた。目の前にはひっそりと、しかし確かにその存在感を主張する建物。
「確か、名前は……羅万館、だったかしら」
◆
私がその館に入ると、チリンと鈴が鳴った。
目に飛び込んできたのは、まさに生活感そのものを体現したようなカウンター。木製の天板は、長年の使用でところどころ色が剥げて、無数の小さな傷が刻まれている。その上には、まるで小さな宇宙のように様々な物が所狭しと息づいていた。
1番多かったのが、本。本って言っても、私が知っているような本だけじゃなく、江戸時代に作られているような本。確か…写本か版本?って言うんだっけ?それが何冊も積まれていたわ。その隣には新聞が何部か丁寧に折り畳んでいて…どれも日付はばらばら。何かの記録用なのかしらね?
カウンターの端っこには、小さな植木鉢が置かれ、元気のない観葉植物が寂しげに葉を垂らしていたのが記憶に残ってる。その鉢の周りには乾いた土がこぼれ落ち、小さなシミが机を陣取っていたわ。
カウンターの一角には、客が伝票や書類に書き込むために用意されたのだろう、陶器のインク壺と羽根ペンが置かれてた。インク壺の近くには、インクの染みが小さな円を描いており、ここで幾度となく文字が綴られてきたことを物語ってた。
インク壺の隣には、小さな白い陶器の皿が置かれてて、中には予備であろう羽根ペン先が数本、丁寧に並べられていたわね。
私が思い出せるカウンターはこれぐらい。カウンターから目を離すると、左右両方に二つの扉…私はとりあえず右側の扉を開いたわ。扉の奥は下に続く階段。段を降るたびに床板が優しく、しかし確かに軋んだのがとっても印象的だった。
下の階に着くと、真っ暗で何も見えなかったわ。なんとか灯りをつけようと前に出ると、勝手にどこからともなく灯りが出たから、あまり苦労はしなかったけどね。
明かりがついて、目を細めると地下は廊下と四つの扉で構成されてた。とりあえず、扉を開けると、ほのかに暗い、大きな部屋だとわかったわ。反対側の扉も似たような感じ。大きさは学校の教室ぐらいかしらかね。大きな部屋は何個かのふかふかの椅子と映写機があって、普段はまずお目にかかれない、博物館に飾ってあるような映写機だったわね。状態が良く、新品のようにさえ見えたのが印象的だったわ。
そこで私は一息吐く。流石に一人でここまで話すのは久しぶり。口の中が乾くのを感じる。
「蓮子はフィルムを使う映写機ってわかる?」
「あー…少しだけ知ってるわ。かなり昔に廃れた技術だったかしら?」
私は蓮子の言葉に頷き、近くにあったお茶のペットボトルを開き、喉を潤す。
「ええ、あっているわ。その羅万館はフィルムを使って、映像を見せるお店だったみたい」
私はそれから映像を見るか迷った。とりあえず、その映写機を動かそうとしたけど、何をやっても動かなかったわ。悪戦苦闘した後に、私は疲れて二人がけのソファーに座ると、勝手に映像が流れ出した…私のさっきの苦労は何だったんだろうとさえ、思ったわね。
映像は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
名前だけは聞いたことがある作品だったわ。確か、SF映画の金字塔だったかしら。その映画を見終わった後は少し涙が出たぐらい、私は感動してたわ。映像が見終わって…照明がつく…
それからは…
◆
映像を見終わると、静かに照明が付いた。私は映像を見終わった余韻に浸りながら、感動で零れ落ちる涙をハンカチでそっと拭う。
「どうです?感動しました?」
すぐ隣から、唐突に声をかけられた。夢の中でここまでハッキリと声を掛けられたのが初めてだった。
「どうやら余程面白かったようですね。そこまで感動してくれたのなら、今回の無銭鑑賞には目を瞑ってあげます」
私に声を掛けたのは、黒色の髪を月の形をした髪飾りで留め、橙色の服に黒色の前掛けをした女の子。
彼女は私のソファーの隣にいつのまにか座っていたみたい。私は何とか声を出そうとしたけど、何も声が出なかった。夢だから当たり前なのにね。なんとなく身振り手振りで伝えようとすると、彼女はニコリと笑って…
「お駄賃の代わりです。着いてきてくださいね、マエリベリーさん」
確かに彼女は私の名前を呼んだのだ。
私は彼女に着いていき、階段を登って、先ほどのカウンターがある部屋まで戻る。
その最中、彼女が私に声をかける。
「私は貴女にずっと会いたかったですよ、マエリベリーさん」
なぜ私のことを知っているのか、貴女は何者なのか、彼女に聞いてみたい事はたくさんあっだが、やはり声が出ない。
それはそれとして、私も彼女に一つの既視感を覚えていた。私も彼女にどこかで会っているような、少なくとも視線をぶつけ合った事はあるような気がするのだ。
どうにかして、思い出そうとするけど、頭の中がふわふわと宙に舞うようで、思考が上手く纏まらない。
彼女は私が着いてきているのを確認し、さっきとは違う扉…カウンターの正面から左側の扉を開けた。
左側にもいろんな扉があった。多分、人が暮らす為のものじゃないかしら?なんだか、そんな間取りの気がしたわ。
彼女は廊下の一番奥の扉を開き、私を中に入るように促した。
私は恐る恐ると言った様子で、部屋に入る。中に入ると、そこは書斎のようだった。何百、何千といった本がその部屋にはあった。
私が周囲を見渡している中、彼女は机の上に置いてあった一冊の本と箱に入っていた幾つかの石片を手に取り、私に渡した。
「少し待ってくださいね」
そう言い、彼女は本に何かしらを書き記す。
そうして渡されたのは、古びた日記帳みたいだった。厚さは普通のハードカバーぐらいだけど、捲っても捲っても終わりのページまで辿り着けない。
次に石片。桃や筍、葡萄があしらわれた石のかけら。所々欠けており、特にこれと言った用途はないように思える。
私が訝しげにしていると、彼女は椅子に座り、私の様子をニコニコと眺めていた。私が説明を求めようと、声を上げるが、やはり声が出ない。そうしている内に、書斎の置かれていた大きな古時計が音を奏でる。時計を見ると、どうやら、朝六時になったようだ。
「あら、もう時間ですか。また会いましょうね、マエリベリーさん」
彼女がそう告げた瞬間、私は夢から覚めた。
◆
「それで、その本はあるの?」
蓮子の声を聞いて、私は意識を戻す。話をしていたつもりはなかったが、どうやら蓮子には伝わってたようだ。無意識に話していたのだろうか?
私が戸惑っている中、蓮子は言葉を続ける。
「この前の夢の時にも、紅い館で貰ったクッキーや竹林で拾ったタケノコを持って帰ったでしょう?その本もあるんじゃないの?」
「…ええ、その本も朝起きたら、胸に抱いてたわ。これよ」
私はベッド脇に置いていた、日記帳を蓮子に渡す。触れると、指先にざらりとした紙の質感と、長年の使用で擦り切れた布張りの表紙が伝わってくる。
「ふーん、これがね…何が書いてあるか全然わからないわね」
蓮子は受け取った本を、興味深げにじっと見つめた後、眉間に少し皺を寄せ、何度もぱらぱらとページを捲った。
「えっと、タイトルは…これもわからないわ」
「そう?私は読めたんだけど…」
「あら、そう?なんて書いてあるの?」
「この本のタイトルは…
二次創作は雑にタイトル回収できるから好きだぜ。けど、伏線(霖之助②)回収には早かったかな。
あと、最初の方はちゃんと変えていますが、夢違科学世紀を参考にしています。ここまで文章を似せるのは初めての経験で、少し怖いですね。大丈夫だよね?
羅万館まともにイメージしてなかったので、以前の話と齟齬があるかも?
あったら、西行妖の下に埋めてもらって構いません。
ようやく、この物語も一つの区切りです。評価、感想よろしくお願いします。
秘封倶楽部はまた書きます。多分、今月中には…