東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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前話の評判がお気に入り登録数やUAを見る限り…やっぱり、みんな紫のこと好きなんだなぁ。


第123季/夏 妖怪の山への道with閉ざした妖怪少女?

 旧地獄に行くための方法は私が知っている限りでは、二つ。

 

 一つは魂のみの状体になり、中有の道を通り、三途の川を渡って、彼岸に着き、地獄方面に行くこと。この場合は生身ではなく、魂だけの状態なため、危険です。魂だけの状態で三途の川を渡ると、「完全な死」を迎えることになるため、猶更お勧めしません。ナミから託された子が賽の河原にいるので、様子を見に行ってもいいですね。…ですが、やっぱり面倒です、小町(死神)とかに見つかるかもしれませんし。

 

 そしてもう一つが、妖怪の山にある「縦穴」から向かうこと。妖怪の山から直通なため、空を飛ぶことさえできれば、簡単に渡る事が出来ると聞いています。残念ながら私は此方の方法を試したことがなく、どこに縦穴があるかまでの正確な位置は把握していません。こちらの方法は難しいです。

 

 さて、どうしたものでしょう。

 

 考え事をしながら、ある程度の準備を終え、羅万館の裏口の戸締まりをしようとしたところ、視界の端に黄色のリボンが揺れているのに気づきました。

 

 …あぁ、なるほど、こいしちゃんですか。一体いつから羅万館にいたんでしょう?

 

 

 

「準備、できた?」

 

 私が見つけた事に気づいたのでしょうか。私の思考を読んだかのように、こいしちゃんがすっと顔を寄せて問いかけます。その声は、まるで風のように掴みどころがありません。なんだか、今日はいつにもまして存在が希薄です。なにかあったのでしょうか?

 

「ええ、大体は。それにしてもいつからいたんです?」

 

 私は戸口から少し離れ、彼女に向き直ります。こいしちゃんは変わらずふわりと浮いているように、浮世離れした様子でした。

 

「えっと、確か夕雲が『そうだ、地獄に行きましょう』って呟いた時ぐらいかな」

 

 あっ、だいぶ前から一緒にいたんですね、全然気づきませんでした。私と一緒に家に入ったのならば、玄関の鈴が鳴らないのも当然。

 …それにしても独り言まで聞かれていたとは、少し恥ずかしいです。

 

「そうです、私はこれから旧地獄に行くつもりなんですよ。こいしちゃんも一緒にどうです?」

 

 私は腕組みをして、顔が紅潮しているのをごまかすように、敢えて挑発するように言ってみます。

 その言葉を聞いたこいしちゃんは私の言葉に目を瞬かせ、それから口元に小さく笑みを浮かべました。その表情は、まるで新しい玩具を見つけた子供のようです。

 

「うん、もちろん!」

 

 やっぱり、いつもとこいしちゃんの様子がおかしいような気がしますが…どうしたんでしょう?

 私は、帽子のリボンを楽し気に指でくるくる回すこいしちゃんを見つめながら、密かにそう思います。

 何というか、いつにもまして嬉しそうというか…まぁ、聞けばいいだけですね。

 

「なんか今日のこいしちゃんは、楽しそうですね。なにかいいことありました?」

 

「…そうね、『貴女』に会えたのが、とっても嬉しいんだよ」

 

 貴女…私をこいしちゃんがそう呼ぶなんて初めてですね、今までになかったです。何かの真似事でしょうか?この口調、誰かに似ているような…

 誰だったか、思考を巡らせようとした瞬間、こいしちゃんが私をじっと見つめているの気が付きます。指でリボンを回す仕草は、まるで獲物を見定めているかのようにも見えて、少しだけ背筋が冷たくなるのを感じました。

 

 まぁ、なにはどうであれ、子供が笑顔なのは良いことですよね?

 

「それで、準備はできた?」

 

「ええ、大丈夫です。それでは、旧地獄に向かいましょうか」

 

 

 

 

 私はこいしちゃんと共に羅万館を出て、妖怪の山へと向かいます。結局、選んだのは縦穴から旧地獄へ行くルートです。こっちの方が早い、楽、簡単ですからね。縦穴がどこにあるかのを知らないのが、最大の懸念事項でしたが、こいしちゃんがいるならば安心です。彼女は、いつもこのルートから旧地獄と地上を行き来していますからね。私を案内するぐらいお手の物です。

 

「夕雲は旧地獄に何か用事でもあるの?」

 

 隣を歩くこいしちゃんが、楽しそうに尋ねてきました。やはりいつもよりはしゃいでいるように見えますね。家族に会いに行けるのが嬉しいのかとでも思いましたが、前にこいしちゃんが羅万館に泊まった時に「地霊殿に行って、お姉ちゃんに会いに行く」みたいな事を言っていたので、それは無さそうです。

 

「いえ、特にこれと言って用事はありませんが、友人に『しばらくは人のいない場所にいて』と言われたので、折角なら羅万館に引きこもらずに旧地獄にでも行こうかと」

 

「へぇ…それで、友人って…八雲紫?」

 

「ええ、そうですよ。あら、こいしちゃんは紫と知り合いなんです?」

 

「…うん、彼女のことはずっと前から知ってるよ」

 

 紫とこいしちゃんが顔見知りだなんて、初めて知りました。一体、どこで知り合ったんでしょうね?私の知る限り、紫はあまり旧地獄には干渉していないはずですが…こいしちゃんの声の調子や顔の表情からして、本当のようです。

 

 そんな会話を続け、こいしちゃんに導かれるがままに歩いていると、眼下から巨大な縦穴が見えてきました。その口はまるで深淵へと続く巨大な傷口のよう。穴からは轟々と風が吹き上がってきて、その音はまるで地底の咆哮のようでした。視線を落とせば、どこまでも続く暗闇が、得体の知れない畏怖を掻き立てます。

 

 一体どこの誰が地底から地殻を貫き、このような途方もない縦穴を作ったのでしょうか。

 

 …脳裏にどこぞの鬼の大将がい浮かび上がりましたが、頭をブンブンと振り、頭から追い払います。全く、面倒なやつを思い出してしまいました。お酒を盗んだりしなかったら、悪い奴ではないのですけどね。

 

 

「それで夕雲」

 

 こいしちゃんの声が、縦穴から吹き上がってくる風の音にかき消されそうになりながらも、はっきりと聞こえました。彼女は私の隣で、風に煽られたリボンを揺らしながら、底の見えない大穴を覗き込んでいます。

 

「どうしたんですか、こいしちゃん?」

 

 私は彼女の顔を覗き込みました。

 今日に限って、掴みどころのない表情をしている彼女が、今は何かを企んでいるかのような少しだけ悪戯っぽい笑み…ワクワクした表情を浮かべています。

 

「うん、どうやって降りるのかなって。私なら飛んでいくんだけど、夕雲は違うんでしょ?」

 

 こいしちゃんはにこやかに言いますが、どこか意地悪な顔をしながら、私に問いかけます。

 

「降りれないなら、私が手伝ってあげてもいいよ」」

 

 私は腕組みをして、どうやって説明しようか少し考えます。旧地獄へ降りる方法として最も現実的なのは、妖怪の山に住む天狗の力を借りて大穴を滑空していくことです。しかし、天狗は基本的に地底に干渉することを嫌うので、滅多に協力してくれません。

 

「そうですね…本来ならば天狗に頼んで、この大穴を滑空させてもらうのが一番安全で早いのですが…」

 

 私はそこまで言って言葉を区切りました。こいしちゃんが首を傾げて、続きを促します。

 

「今回は、紫に迷惑をかけないように、こっそりと旧地獄に滞在するつもりなので、天狗に目撃されるのは避けたいんですよね」

 

 天狗…というよりどこぞのブン屋は好奇心旺盛で、一度関わるとしつこく付きまとわれる可能性があります。ましてや紫の命令で地上を離れていることがバレてしまっては、厄介なことになりかねません。

 

「だから今回は…」

 

 私は大きく息を吸い込みました。

 

「私が自力で降りるつもりです」

 

 まぁ、人目がないので、普通の人間の振りをする必要がないだけですけどね。

 

「と言うと、夕雲って飛べるの?」

 

「ええ、魔力や霊力などの特別な力を持つ人間は大体飛べますよ。博麗の巫女や紅魔館のメイド、白黒の魔法使いだって、飛んでいるでしょう?」

 

 私の言葉に、頭を傾げるこいしちゃん。どうやら、ピンと来ていない様子ですね。

 

「ふーん。今代の博麗の巫女も私と同じように飛べるんだ…」

 

「?ええ、博麗の巫女が空を飛ぶのは珍しくないですからね、先々代に、先代も空を飛んでいましたよ」

 

 それ以前の巫女は残念ながら、空を飛ぶ事が出来ませんでしたが、その代わりに対空手段が豊富でした。

 

「ほら、行きますよ」

 私はこいしちゃんに手を差し出します。

 

「これって?」

 

「何って?危ないでしょう…主に私が。久しぶりに空を飛ぶので、もし私にミスがあったら助けてくださいね」

 

 本当は昔からの癖で、ついだれかと空を飛ぶときは手を差し出してしまうだけですが、適当にごまかします。

 

「!!!えへへ、わかったよ。『貴女』が危なかったら、すぐ助けるからね」

 

 また、「貴女」って呼んでいます。こいしちゃんもそういうお年頃なのでしょうか?

 




夕雲さんストレスポイント!

①なんか自分の核が揺れている。
②人前に出ちゃいけないって言われた。
③上記のことを気分が良いときに言われる。
④こいしちゃんに対して、強烈な違和感とそれが何かわからないモヤモヤ
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