二次会を終え、私たちが向かったのは、夜空へと続くエレベーターでした。ママさんの店を出た時点で時刻は既に深夜を大きく回っていましたが、私たちの宴はまだ終わりません。
「さあ、夕雲。次が今夜のラスボスよ。本物の『伝説』を、一緒にその目に焼き付けましょう」
エレベーターの扉が開いた先は、満点の星空と、眼下に広がる宝石のような夜景が一望できる、屋上のビアガーデン。軽快で、どこか懐かしいディスコミュージックが、夏の夜風に乗って心地よく響いています。
そして、夜空には、真ん丸な月が煌々と輝いていました。まるで、これから始まる長い夜を、静かに見守っているかのようです。
音楽の中心で、ただ一人、踊っている老紳士がいました。
見事なまでのアフロヘア。燕尾服を纏った執事の装い。結構な歳を逝っているとは到底思えない、流麗でキレのあるダンスステップ。その指先から爪先まで、彼の動きの一つ一つが、洗練された芸術のようです。
私たちが近づくと、彼は寸分の狂いもないターンでピタリと動きを止め、完璧な角度でお辞儀をしました。
「ようこそ、
穏やかな笑み。しかし、その瞳の奥には、今まで対峙した誰よりも深く、そして強い
「さあ、今宵最後の宴の始まりと参りましょう。この宴の終わりは、夜明けの午前5時30分。それまで、わたくしの『おもてなし』に付き合っていただきます」
「望むところです!紫、今夜は朝まで飲み明かしますよ!」
私がそう応じると、マスターは楽しそうに目を細めました。
「結構。では、始めましょうか。今宵のクライマックス…朝まで続く、オールナイトフィーバーを!」
彼が指を鳴らした瞬間、それまで流れていたディスコミュージックのBGMが、まるで地鳴りのようなベース音と共に、荘厳かつ高揚感を煽る曲へと変わりました。
空気が震える。酒が、魂が、この瞬間を待っていたとばかりに歓喜している。これこそが、全ての呑んべぇたちのための聖戦曲!
マスターは、燕尾服の裾を翻し、天に掲げた人差し指をくいと引く、まさしくサタデーナイトフィーバーのポーズを決めました。
「まずはご挨拶代わりと参りましょう! 儀式『とりあえずピッチャー二つで』!」
彼の宣言と共に、彼の両脇の空間から巨大なビアピッチャーが二つ、光と共に現れました。それらはゆっくりと傾き、中から黄金色の液体――ビールの弾幕が、滝のように無限に溢れ出します!
屋上全体を薙ぎ払うように放たれる、極太の黄金レーザー。そこから弾け飛んだビールの泡は、大小様々な速度の泡弾となって、夜空を埋め尽くすほどの物量で私に襲い掛かってきました。
まさに、黄金の嵐。これが、伝説…!
しかし、これほどの絶技を放ちながら、天治さん本人は涼しい顔で、ただ優雅にダンスのステップを踏んでいるだけでした。私も負けずと、
「これが弾幕? 先の大戦の方が遙かに酷かったわい」
その言葉は、彼の生きてきた時間の深さと、格の違いを雄弁に物語っていました。眼前に迫る、美しい死の嵐。そして、天には夜明けまでの時を刻む、静かな月。
「夜明けを止める…ふふ、なんだか懐かしいわね」
紫が、楽しそうに呟きます。
あぁ、永琳と輝夜が元凶の永夜異変の事ですか。私はあまり関与していませんが、本物の月を探すための異変でしたっけ。まぁ、なんでもいいです。重要なのは、これは夜を終わらせないための戦いではなく、最高の夜を、朝が来るまで味わい尽くすための――最高の宴!
「全部が黄金色…!望むところです、マスター!その伝説、一滴残らず飲み干してあげます!」
私たちは黄金の奔流の中へと、歓喜と共に飛び込んでいきました。
黄昏酒場を巡る私たちの最後の時間が、今、始まったのです。
⋈◀「うーん、まだ飲み足りないなぁ。久しぶりに屋上いこーっと」▶⋈
黄金の嵐の中、私は踊っていました。降り注ぐビールのレーザーをステップで躱し、泡の弾丸をターンでいなしては、その全てを一口残らず味わっていく。マスターの刻むリズムに、私の魂が呼応していました。やがて、ピッチャーが空になったのでしょう、黄金の輝きが収まった時、私とマスターの間には、満足げな一体感だけが流れていました。
「素晴らしい…!実に素晴らしいダンスでしたぞ、お嬢さん!」
マスターの顔が、少年のように輝きます。
「では、次の曲と参りましょう!次はジルバで!」
おどり食い『ダンシングオニオンフライ』!
軽快なステップと共に、マスターの燕尾服の袖から、無数のパールオニオンのフライが床へと転がり落ちました。しかし、それらはただ転がるのではありません。マスターのステップに完璧に同期し、まるで生きているかのように跳ね、滑り、回転しながら、予測不能な軌道でフロア全体を駆け巡ります!
「ならば、こちらも!」
スロー スロー
クイック クイック スロー
スロー スロー
クイック クイック スロー
私はそのダンスに、同じステップで応じます。転がり来るオニオンフライの群れを、ワルツを踊るように優雅にかいくぐり、すれ違いざまに一つ、二つと摘まんでは口へと放り込む。それはもはや、弾幕ごっこというより、二人だけのダンスセッションでした。
全てのオニオンフライを
「次は少々、激しいですよ! 光物『ブリリアント〆サバ』!」
マスターが天に指を突き上げると、青、緑、赤、黄、紫、五色の光が夜空に迸りました。極彩色のレーザーが壁や床で乱反射し、視界を幻惑します。〆サバの皮のように輝く無数の針弾が、そのレーザーの隙間を縫って殺到し、更には攻撃の衝撃で、立っているビルそのものが大きく揺れるのです!
「くっ…!」
揺れる視界、乱反射する光、見えにくい先端。これは、今までの「楽しい」弾幕とは訳が違います。私はダンスを止め、その場に集中し、神経を研ぎ澄ませて、光の奔流の僅かな隙間を見つけ出し、潜り抜けました。東の空が、ほんの少しだけ白んできた気がします。
「見事だ!ならば、これで天に参りましょう! 度数96『スピリタスの大銀河』!」
天治さんが両手を広げると、私たちがいる屋上が、まるで宇宙空間へと変わりました。彼の体から、生命の源であるかのように青い星弾が、そして終焉を告げるかのように赤い星弾が、無限に湧き出してきます。夜空を埋め尽くすほどの星屑の弾幕。それはあまりに美しく、そして絶望的な
つまり、ここがこっちのスペルカードの使いどころってわけです!
召神『少名毘古那神』
私の国でも一等お酒を造ることも、飲むことも好きだった神格の力を借ります。開いた私の両掌から、神籬を編むかの如く、無数の銀色の
しかし、これだけではただの防御。少名毘古那神の神髄は、その先にあります。結界の内側、私の周囲に、今度は幾百もの
回転する串の結界をすり抜けてきた星弾や砕けちゃた弾幕の残骸が、その御猪口の中へと、まるで吸い込まれるように次々と飛び込んでいきます。御猪口は、生命の青と終焉の赤を受け止めるたびに輝きを増し、その中で二色の星々が溶け合い、新たな神酒へと醸造されていきます。
やがて、全ての御猪口が神々しい黄金色の光で満たされた時――私は、マスターに向かって、にやりと笑いかけます。
「マスター。あなたのお酒、確かにお預かりしました。――今度は、私の一杯をどうぞ!」
「流石ですね…ですが!」
その言葉を合図に、幾百の御猪口が一斉に傾き、中から凝縮された神気の奔流――黄金色の弾幕となって、マスターへと真正面から打ち返しました!
マスターも負けずと弾幕を激しくしますが、あの勢いでは私の酒に呑まれます。
これで終わり! 私の勝ちです!
そのはずでした。
「わぁ!美味しそうですね。私が飲んじゃって良いですか?答えは聞いてません!飲んじゃいます!」
どこからか、場違いなほどに陽気な声が聞こえました。その瞬間、マスターに激突する寸前だった私の黄金のスペルカードが、まるで巨大なストローで吸い上げられるかのように、ズズズッ!と音を立てて一点に収束し――完全に消滅してしまったのです。
「は…?」
あまりに不可解な現象に、私も、マスターも、そして紫さえも、動きを止めていました。静まり返った屋上。二つの巨大な弾幕がぶつかり合うはずだったその中心点に、いつの間にか、一人の女性が立っていました。
「…ぷはーっ!ごちそうさまでした!」
少し着崩れたオフィスレディ向けのスーツ。手には、どこにでもあるような普通の居酒屋のお猪口。彼女は満足げにポン、と自分のお腹を叩くと、幸せそうな顔でふぅ、と息をつきました。その吐息からは、先ほど私が放った神酒の、極上に芳醇な香りがします。
私の渾身の一撃が、跡形もなく消え去っている。つまり、この人が、今、あの弾幕を全て「飲み干した」ということ…。
「誰ですか!」
呆然としながらも、私は叫びました。目の前の女性は、私の剣幕などどこ吹く風、という様子で、へにゃりとした笑顔をこちらに向けます。
いや、嘘…そんなまさか……
「私?私は
彼女はぺこり、とどこか気の抜けたお辞儀をしました。その口調は穏やかで、およそ今、私の弾幕を消し去った強者としての空気はありません。
それよりも、それよりも、そんなことよりも、
「どうして、貴女が…」
「ふふ、今日、夕雲には彼女と会ってほしかったのよ」
紫は、まるで面白い芝居でも見るかのように、楽しそうにそう言いました。しかし、私の心は、彼女の言葉がもたらした衝撃で、凍り付いています。
浅間伊佐美。
その顔。その声。その魂の放つ、微かで、しかし決して忘れることのない優しい光彩。何億年。いいえ、時の概念すらまだ曖昧だった頃から、ずっと共に在った。私が守れなかった大切な妹。
「――伊弉冉」
喉から絞り出した声は、自分でも驚くほどに震えていました。
あり得ない。そんなはずはないのです。他人の空似…?それとも、魂の欠片を持つ生まれ変わりだと…? 私の妹によく似ている顔。そんなはずはない。私は、
思考が、行き場をなくして霧散します。考えても、考えても結論は出ない。
「紫…!これは、どういうことですか…!説明しなさい!」
私が思わず問い詰めると、紫は困ったように、けれどその瞳の奥は笑って、こう言いました。
「説明、と言われてもねぇ。
その時でした。深刻な私たちの空気を全く意に介さず、伊佐美さんが「あ」と声を上げました。
「すみませーん、マスターさん? なにか、おつまみとかあります? さすがにあれだけ飲むと、何か食べたくなっちゃいまして」
彼女は、私が先ほどまで死闘を繰り広げていたマスターに向かって、にこにこと屈託なく話しかけています。マスターさんも深くお辞儀をすると「かしこまりました、
私の妹、伊弉冉。
今はその欠片を持つ、浅間伊佐美と名乗る、しがないOL。
彼女は、神代の記憶も、壮絶な死の記憶も、そして私との記憶さえも持たず、ただ「美味しそうなお酒」と「おつまみ」のことだけを考えて、ここに立っている。
あまりに無防備で、あまりに普通のその姿。永い間、私が探し、取り戻そうとし、諦め、ようやく見つかった存在の、あまりにも穏やかな今の形。
であれば、であるのならば、私がやることはただ一つ、とてもシンプルです。
「
「?…………!!!奇遇ですね、私もなんでか、貴女と一緒に呑みたいと思ってたんですよ!ぜひ!ぜひ!一緒に呑みましょう!!!」
彼女の満面の笑みと心からの喜びの言葉。それを見て、私の心にあった数億年分の迷いや、張り詰めていた緊張の糸が、ふっと緩むのを感じました。
そうです。なぜ、私はこんな簡単なことを見失っていたのでしょうか。
目の前にいるのが誰かなんて、魂がどうなっているかなんて、紫の真意がどこにあるかなんて、今はどうでもいい。どうでもいいんです。
ただ、目の前にいるこの人が、「貴女と一緒に呑みたい」と言ってくれている。ならば、私がやるべきことは、ただ一つ。
「ええ、じゃあ、私と酒りましょうか」
私の言葉に、伊佐美さんは満面の笑みで何度も頷きました。張り詰めていた戦場の空気が、彼女の嬉しそうな笑顔ひとつで、一瞬にして祝祭のそれへと変わっていきます。
その様子を見ていたマスターが、かしわ手を一つ、パン!と高らかに打ち鳴らしました。
「素晴らしい!それこそが今宵のフィナーレに相応しい!お嬢様方、そしてそこにいるお嬢さん!最後の宴の準備は、既に整っておりますぞ!」
天治さんがそう言うと、隣に控えていた紫が、にやりと笑って扇子を開きます。
「ええ、もちろんよ。最高の宴には、全てのゲストが揃わないと始まらないものね」
紫が空間に扇子を差し入れると、そこがぐにゃりと歪み、二つの人影が屋上へと転がり出てきました。
「な、なんだぁてめぇ!?」
「きゃっ、なんなのよいきなり!」
一次会「八岐大蛇」の板前さんと、二次会「C2H5OH」のママさんです。
二人は状況が呑み込めずにいましたが、私と伊佐美さんの姿を認めると、瞬時に全てを理解したのでしょう。その顔に、最高の挑戦者を前にしたような獰猛な笑みが浮かびます。
「へっ、面白ぇ!最後の最後まで、飲み比べようって魂胆か!」
「上等じゃない!今度こそ、あんたたちを潰してやるよ!」
全員が、屋上ビアガーデンの中央で向かい合います。私、伊佐美さん、そして三人のウワバミブレイカー。私たちの気迫がぶつかり合い、夜明け前の空気を震わせました。
そうして、最後の弾幕ごっこが始まりました。
八岐大蛇のマスターからは、熱く直線的な串と枝豆の弾幕。ママさんからは、鋭くトリッキーに反射するカクテルグラスと、華麗な蹴り技の衝撃波。マスターからは、優雅に舞い踊る黄金のレーザーと、泡の弾丸。
そして――。
「わー!すごいすごい!お祭りですねー!」
伊佐美さんは、その弾幕のど真ん中を、楽しそうにふらふらと飛び回っては、目についたお酒を飲み干し、時々げっぷと一緒に虹色の光の粒を撒き散らしています!
熱く、冷たく、雄大で、そして予測不能!全ての個性がごちゃ混ぜになった、最高に楽しくて、最高にカオスな宴
「あははははは!」
私は、もう笑うしかありませんでした。訳が分からない。でも、最高に楽しい。これこそが、私が求めていた宴の形。
「さあ、皆さん!夜明けまで、まだもう少しだけ時間があります!――この世の全てのお酒を、飲み干しましょう!」
私は、ただのお酒好きの夕雲として。人生で最高の、馬鹿騒ぎの中へと飛び込んでいきました。
…
……
………
私たちが杯を交わし終えると、そこにはもう神代の姉妹も、黄泉の別れもありませんでした。ただ、偶然出会ったお酒好きの女が二人、夜明けを肴に、他愛もない話に興じている。それだけの、どこにでもあるありふれた光景でした。
伊佐美さんは、好きな日本酒の銘柄や、会社の愚痴、最近ハマっているおつまみの話などを、本当に楽しそうに話してくれました。私は、その一つ一つを、宝物のように聞きながら、相槌を打ち、笑い、そして時々、泣きそうになるのを必死で堪えました。
遠くの席で、紫とマスターが静かに杯を傾けているのが見えます。紫は、満足そうにただ静かにこちらを見つめていました。
やがて、水平線の向こうが、燃えるようなオレンジ色に染まり始めます。夜の終わりを告げる、美しい夜明け。
「あー!もうこんな時間!やば、会社に遅刻しちゃう!」
伊佐美さんは昇る朝日を見て、慌てて立ち上がりました。
「ごめんなさい、お姉さん!すっごく楽しかったです!また、絶対一緒に飲みましょうね!」
彼女はそう言って、名残惜しそうに何度も振り返りながら、エレベーターの方へと走っていきました。そして最後に振り返り…
「そういえば、お姉さんの名前はなんなんです?」
大きな声で問いかけてきました。
「…」
朝日を浴びる屋上で私は、彼女が飲み残した大吟醸の酒瓶をそっと手に取ります。中には、朝日を反射して、きらきらと輝くお酒が残っていました。
「夕雲...私の名前は………私の名前は夕雲です」
永い間、私が探し、取り戻そうとしてきた存在の、あまりにも穏やかで、幸せな今の形。
「夕雲さん!また一緒に呑みましょうね!!!」
「…ええ。また、一緒に」
私に残ったお酒を、自分の杯へと移しました。これでようやく、何億年越しかの、本当の「乾杯」ができる。
最高の夜は、最高の朝を迎えて、静かに幕を下ろしました。
⋈◀「あぁ、楽しかった(です)」▶⋈
「ごめんなさい、お姉さん!すっごく楽しかったです!また、絶対一緒に飲みましょうね!」
何度も振り返りながら、私はエレベーターへと駆け込んだ。最後に見た彼女――夕雲さんの、朝日を浴びて少しだけ寂しそうに、でも優しく微笑む顔が、瞼の裏に焼き付いている。
「夕雲さん!また一緒に呑みましょうね!!!」
「…ええ。また、一緒に」
扉が閉まる寸前に聞こえた、小さくて、でも確かな約束の言葉。それを胸に、私は地上へと降りる。
エレベーターを降りると、そこはもう夢の世界ではなく、朝の光に満ちた現実の東京だった。ひんやりとしたアスファルトの匂いと、動き始めた街の喧騒が照った身体に心地いい。
(うわー、飲みすぎちゃったかなー?でも、すっごく楽しかったなぁ…)
どうやってあの屋上にたどり着いたのか、正直よく覚えていない。美味しいお酒の匂いに誘われて、ふらふらと歩いていたら、いつの間にかそこにいたとしか言いようがないのだ。でも、結果オーライ。八岐大蛇のマスターも、ルミママも、マスターも、みんな個性的で、何よりお酒を心から愛している、最高の人たち。
そして、夕雲さん。
不思議な人だった。初めて会ったはずなのに、なんだかすごく懐かしい感じがした。私を見るあの瞳は、まるで永い時間、ずっと私を探してくれていたみたいに、深くて、優しくて、そしてとても切なかった。
駅のホームで電車を待ちながら、昨夜の最初の「一杯」を思い出す。
彼女が放った、黄金色の光の奔流。神様を呼んで造ったとか言っていたけど、難しくてよく分からなかった。でも、ただ一つ分かるのは、人生で飲んだどんなお酒よりも、美味しくて、そして――悲しい味がしたこと。まるで、ずっと昔の、忘れてしまった涙の味がするような、不思議なお酒。
満員電車に揺られながら、窓に映る自分の顔を見る。
寝不足でちょっとむくんだ、どこにでもいるOLの顔。
でも、昨日の夜、夕雲さんは、この顔を見て「伊弉冉」と、誰かの名前を呼んで泣きそうになっていた。人違いなんだろうけど、なんだか胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
会社のビルに着き、IDカードをかざしてゲートを抜ける。自分のデスクにたどり着くと、隣の席の同期が呆れた顔で言った。
「浅間さん、おはよー。また朝まで飲んでたでしょ。お酒の匂い、ぷんぷんするよ」
「えへへ、バレた? いやー、昨日はね、すっごく素敵な人たちと、人生で一番美味しいお酒を飲んできたんだ!」
私は椅子に座り、パソコンの電源を入れる。
夕雲さんの言ってたことは正直よくわからない。彼女の正体も私は知らない。
でも、胸に残ったこの温かい感覚と、「また一緒に」という約束だけは、絶対に忘れたくない大切な宝物だ。
(夕雲さん…)
モニターの光を浴びながら、私はそっと呟いた。
「今度は、一緒にどんなお酒を飲もうかなぁ」
しがないOL、浅間伊佐美の一日は、最高の二日酔いと共に、こうして始まるのでした。
まぁ、そういう事です。察しのいい人ならば、何故作者が伊弉諾を少女にしようと画策してたか察したでしょう。…………流石に無理?
ちなみに、純狐=伊奘冉説を知りまして、今頭抱えてます。伊奘冉じゃなくて、ギリシャ方面のガイアだったりしないかなー。地母神だし、ゼウス(親族)に恨み持ってるし、ほぼ同じ…なわけないよな。まぁ、この説はこの作品には取り入れないことでしょう。
次から神霊廟ラストステージです。なんか長くなりました。