東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

49 / 142
霊暮を出すってのは決めていましたが、終わり方を決めていませんでした。
すいません、【幕間「天」◻︎代目◻︎麗巫◻︎の話】の話が、今後投稿されるエピソードと入れ替わっていました。すでに対応しましたが、ご迷惑おかけしまい申し訳ありません。

…なんか異様にUA 伸びてると思ったんですよね…うぐぐぐぐ(めちゃ気合い入れて書いたのが先に出されて悔しくてハンカチ噛んでる作者)


第123季/夏 地霊殿with太陽沈める元楽園の巫女

 

 

 紫の手を借りた儀式は、まるで幻を見ているかのように、驚くほど早く終わりを告げました。私の掌には、この計画の核となる、小さな太陽と見紛うほどの熱を帯びた神格――八咫烏の分霊が静かに収まっています。

 ささやかな礼として、お手製の油揚げを数個、スキマに投げ込むと、紫は扇の奥で満足げに笑いながら、その傍らの藍は、台所に残る油揚げの気配に、心なしか名残惜しそうな視線を送りながら、静かに去っていきました。藍は儀式中も食べていたのに、まだ食べ足りないのでしょうか。

 

「それで、夕雲殿はどこへ向かうつもりだい?」

 

 早苗さんたちへ別れの挨拶を済ませ、守矢神社から離れて、しばらく。木々のざわめきに紛れて、不意に背後から声を掛けられました。

 

「……なぜ、ついてくるんです?」

 

 私の問いに、神奈子さんは悪戯っぽく笑います。

 

「なぜって?八雲の賢者まで動かして、夕雲殿が何を始めるつもりか気になったからさ。私を差し置いて、この山で何か面白いことをする気なら、見届けさせてもらうのが筋だろう?

 

 こうなることを見越していたのなら、紫の力を借りて一足飛びにスキマで地底に向かうべきでしたね。今更ながら、後悔します。

 

 いっそ、このまま彼女を撒いてしまいましょうか、という考えが脳裏に横切りますが、おそらくそれは悪手。ここは妖怪の山であり、神奈子さんは妖怪の山の支配者の一人です。

 目的地である地霊殿は、地底にあるため、神奈子さんの言い分は間違っていますが、入り口である縦穴は妖怪の山にあります。これからの事も兼ねて、縦穴や地底については私から説明した方が良いでしょう。縦穴を埋められたりしたら困りますし…

 

 そう思考を巡らせつつも、私は抑えきれない感情を込めて、ジトリと彼女を睨みつけます。ですが、神奈子さんはどこ吹く風。全くもって、食えない神ですね。

 

「それで?今からどこへ行くんだい?」

 

 私が諦めと共に歩き出すと、神奈子さんは楽しげに問いを繰り返しました。幾度となく通い、妖怪…おそらく白狼天狗によって、踏み固められたであろう獣道を下りながら、私はぽつりと、短く明確に伝えます。

 

「地底へ。この先に、そこへと続く入り口があります」

 

「ほう。噂の地底か。天狗たちの話で聞いた事がある。最も、幻想郷の下に地獄があることだけだけどな」

 

 そう呟く彼女は、淀みを増していく周囲の空気を、まるで年代物の酒を味わうかのように楽しんでいます。やがて、ぽっかりと口を開けた巨大な縦穴――奈落への入り口にたどり着くと、私はその深淵を覗き込みながら言いました。

 

「ここから先は『旧地獄』。忘れられた者たちの都です」

 

「地獄か……流石の私も初めて行くな。根の国辺りなら行ったことはあるが」

 

 根の国に行ったことあるのは、大国主関係でしょうか?まぁ、いいです。なんだか、感慨深げな神奈子さんに構わず、私は淡々と説明を続けます。

 

「地獄ではなく、旧地獄。かつては地獄の繁華街として栄えた場所ですが、地獄のスリム化政策によって切り捨てられ、今は地上を追われた鬼や封じられた妖怪たちが根城にしているのです」

 

「ほう、地獄ではなく、旧地獄。それに、鬼とな。して、そのような場所に一体何の用向きだ」

 

 私は手の中にある八咫烏の分霊を、祈るように握りしめます。意思はすでになく、残るは純粋な力のみです。

 

「ささやかながら、太陽が必要になりまして。昔はともかく、今の地獄は陽光が弱いのですよ。光と闇は表裏一体。どこぞの愚か者が天の太陽を撃ち落とした影響で、地獄を照らす光が弱まり、結果として闇の力もまた薄れてしまったのです」

 

 ですから、霊暮の意識もまた希薄になっているはずです。地上ではあれほど強く表に出ていた彼女の意識が、地底ではこいしちゃんの影に潜んでいたことからも、それは明確でしょう。

 地上では霊暮の意識が強いため、私たちがやろうとしている事が勘づかれれば、逃げられる可能性があります。そのため、地底で彼女の意識が薄いうちに、太陽を上げ、彼女の薄暮(はくぼ)を剥がし、こいしちゃんと霊暮の憑依を剥がさなければなりません。

 

 また、地底で行うため、紫の「境界を操る程度の能力」で霊暮とこいしちゃんを分離させる事はできません。地上と地底の妖怪たちの不可侵条約に抵触する可能性がありますからね。私は人間なので、セーフですが。

 

「小難しい理屈はよせ。つまりは、夕雲殿はその手の中にある八咫烏を使って、地底に新しい太陽を打ち上げる。そういうことでいいんだな?」

 

「ええ、ご明察の通りです。とは言え、用事を終えたらすぐに返しますよ」

 

 今は、地獄は私の管轄外。勝手な都合で邪魔するようなものですからね。

 

「…ふむ、面白い。私もこの幻想郷の見聞を広めようと思っていたからな、ちょうどよい」

 

「はいはい。では、参りましょうか」

 

「……毎度思うのだが、夕雲殿。早苗や諏訪子に対するのと、私への態度に天と地ほどの差がないか?」

 

 

 

 気のせいです。

 

 

 

 

奈落のような縦穴を降り立ち、私たちは旧都の中心を目指します。

 

「ほう……。これほどの都市が、地の底に眠っていたとはな。鬼の建築技術も侮れんものだ」

 

 いつもならば、歩いて向かうでしょうが、今回は急いでいるので、空を飛んでいきます。さとりさんが、あらかじめペットたちや旧都の住民に触れを出してくれているのでしょう。おかげで、余計な騒動もなく地霊殿へとたどり着けそうです。ただ、隣を飛ぶこの好奇心旺盛な神様に、どう説明したものでしょうか。

 

 地霊殿の玄関に、まるで私たちの到着を予見していたかのように、さとりさんが佇んでいました。

 

「お待ちしておりました、夕雲さん」

 

 深々と一礼したさとりさんは、私の隣に立つ神奈子さんへと、両目をちらりと視線を向けました。サードアイは私の方を向いているので、心の中で弁解します。

 

 ある程度の情報は読み取れたのでしょう。さとりさんは私の方を向き、頷いてくれました。神奈子さんは何が何だかわからないでしょうし、紹介だけでもしてくれると助かります。

 

「さとりさん、こちらは八坂神奈子さん。少々、事情が込み入りまして。ご迷惑をおかけしますね」

 

「いえ……問題ありません。私は古明地さとり。地底の管理を行っております」

 

 当たり障りのない紹介を済ませると、さとりさんはすぐさま私に向き直りました。その瞳の奥に、確固たる決意の色が揺らめいています。

 

「それで、すぐに始められるのですね?」

 

「ええ。こいしちゃんは?」

 

「今は中庭に。さあ、こちらへ」

 

 さとりさんに導かれ、私たちは屋敷の奥深くにある中庭へと向かいます。

 

 中庭の中央で、こいしちゃんはいました。閉ざされた第三の目を弄びながら、虚空を見つめ、楽しそうにくるくると一人で踊っています。まるで、そこにしか見えない誰かさんと、戯れているかのように。

 

 

「こんにちは、こいしちゃん」

 

「あっ、夕雲!わたしを置いて地上に帰るなんて、ひどいよ!」

 

「ふふ、ごめんなさいね。私には少し用事があったので…今日はその解決の目処が立ったので、戻ってきたんですよ」

 

 こいしちゃんは、小首を傾げ、その無邪気な瞳で私を見つめる。しかし、その唇から紡がれた言葉は、彼女のものではなかった。

 

「もしかして、わたしを剥がしにきたの?」

 

 そのあまりに直接的な問いに、場の空気が玻璃のように凍りつきます。隣に立つ神奈子さんが、訝しげな視線を私とこいしちゃんの間で行き来させているのが、肌で感じられました。

 

 私は動揺を微笑みの仮面の下に隠し、こいしちゃんの――いいえ、彼女を通して語り掛けてくる霊暮に答えます。

 

「ええ、そうよ。どこぞの馬鹿な子が長居しすぎたみたいですからね。そろそろ、本来いるべき場所へ戻ってもらいましょう。」

 

「おい、夕雲殿」

 

 たまらずといった様子で、神奈子さんが口を挟みました。

 

「どういうことだ。太陽を使って、その子を害するつもりか?そのような必要が――」

 

 神奈子さんの当然の疑問に、しかしさとりさんが静かに、だが有無を言わせぬ響きで制しました。

 

「神奈子様。これより先は、彼女たちの領域。今はただ、静観していただくのが最善かと存じます」

 

 その言葉に、彼女はぐっと押し黙ります。

 

 私はその一瞬の静寂を逃さず、懐から八咫烏の分霊を取り出しました。手のひらに収まるほどの小さな核。だがそれは、凝縮された太陽を司る神格そのもの。じわり、と熱を放ち、脈動するかのように光を増していきます。

 

 その眩い光に、こいしちゃんの顔から無邪気な笑みがすっと消えました。楽しげだった雰囲気は霧散し、代わりに、私の愛しい子の――霊暮の気配が、彼女の全身から夕霧のように溢れ出し、やがて陽炎のように揺らめきながら、こいしちゃんの身体から飛び出しました。

 

「なるほどね。私の『薄暮』を、太陽の光で無理やりこじ開けたわけ。さすがお母さん」

 

 そこに立っていたのは、巫女服を着た、瓜二つの少女の姿をした幽霊。その身体は夕焼けの空のように頼りなく透けています。彼女が分離したのと同時に、糸の切れた人形のようにこいしちゃんがその場に崩れ落ちるのを、さとりさんが慌てて駆け寄り、抱きとめました。

 

 あまりに衝撃的な光景と、先ほどの「お母さん」という言葉に、隣の神奈子さんが絶句しています。

 

「……母さん……だと?それに、その姿……確かによく似ているが……。一体どういうことなのだ、夕雲殿」

 

 神奈子さんの戸惑いをよそに、霊暮は満足気に、私に笑いかけます。

 

「へぇ、今は『夕雲』って名乗ってるんだ。私の名前、使ってくれてるんだね」

 

「勿論。娘のささやかな我儘くらい、叶えてあげるのが親ってもんです」

 

 私の名前である『夕雲』の『夕』は、霊暮の『暮』を少し変えたもの、彼女がその力で日が暮れる際に現れる、美しい夕暮れの空から取った、あの子と私を繋ぐ名前なのです。まぁ、後はとある地名も絡めて。

 

「てっきり、こいしちゃんに憑いていたのですから、その事ぐらい知っているもんだと思っていましたよ」

 

「あー、あの子に取り憑いていたけど、私の記憶は、私の意識が表に出ている時のものしかないの。さすがは目を閉じたとは言え、覚妖怪。逆に私が呑み込まれるところだったわ」

 

 その言葉に、さとりさんが案じるようにこいしちゃんの額を撫でます。私は、目の前の我が子に静かに問いかけました。

 

「それで、霊暮。これからどうするつもりなんです?」

 

「そうねえ」

 

 霊暮はそう言うと、ふわりとその場に浮き上がました。透き通るような夕暮れ色の身体が中庭の夜気に溶け、幻のように揺らめ、その瞳は、これから始まる遊びに胸を躍らせる子供のように、爛々と輝いています。

 

「せっかくお母さんとこうして会えたんだもの。少し、遊びに付き合ってよ」

 

 どこか吹っ切れたような、長らく秘めていた渇望から解き放たれたかのような、清々しい響き。

 

「ええ、構いません。スペルカードルールは知っているでしょう?」

 

「うん。今代の巫女が導入した幻想郷の新しい遊戯の作法でしょ? まさかお母さんと、弾幕ごっこで遊ぶ日が来るなんて思わなかったけど」

 

「ふふ、私もです。――さあ、始めましょうか」

 




長くなったので、上下でカットです。最初は話し合いだけだったので、一話に収まったのですが…地霊殿編の最後だし、弾幕ごっこで。

YouTubeをぼっーと見ていたら、『八雲紫は守矢神社で隙間を開く事が出来ない』って言ってたのですが…どこの記述なのかわからず、真偽を判別出来ないです。もし、本当だったとしたら、藍を起点に隙間を開けたってことで。

夕雲さんはポンコツですから、神奈子さんが広義上は妖怪であることを忘れています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。