外伝は息抜きに書きたいこと書いてるので、細かい所は無しです。感想は書いて欲しいです。出来たら、評価も!
学園のチャイムは、いつも気の抜けたような音で、午後の授業の終わりを告げる。
化学担当の八意永琳先生*1が、「今日の補習は、分子構造についてねー」と、にこやかに微笑む。教室のあちこちから、生徒たちの小さな悲鳴が上がった。
(…やれやれ。付き合ってられないわ)
私は、博麗霊夢。この、どこか常識が通用しないこの学園に通う、ごく普通の生徒…のつもり。
私は、永琳先生が黒板で書き込む隙を伺い、誰にも気づかれぬようにそっと教室を抜け出した。風紀委員の布都に見つかると、面倒なことになるから、慎重に進まないとならない。というより、布都は風紀委員のくせして、補修なのか。
私が向かう先は、旧校舎の四階、一番奥にある、埃っぽい部屋。
視聴覚室。
そこは、私が主宰する非公式の同好会(部員、現在募集中)の唯一の活動場所であり、そして、私の、唯一の安息の地。
古びた引き戸を、がらりと開ける。
部屋の中はいつも通り薄暗く、そして、どこか懐かしい匂いがする。古い紙の匂い、埃の匂いにお茶の匂い、そして、映写機が放つ微かな油の匂い。
その部屋の主である夕雲先生は、カウンターの奥で、静かにお茶をすすっていた。彼女は、私の同好会の顧問のような、そうでないようなよく分からない先生。この先生の担当科目は誰も知らないし、なんか学校に住み着いている不思議な人みたいなポジションだ。一応、他の先生とも仲が良いし…ほんとなんなんだろ?この学校の(表向きの)七不思議に認定されてる。
「おや、霊夢。補習はどうしたのですか?」
「サボりました。それより、先生。事件です」
「サボるって…貴女、留年したらどうするんです?」
そう言いながらも、夕雲先生は、面白そうにその黒い瞳を僅かに細める。
「まぁ、いいです。永琳先生には私から報告させてもらいますからね。それで?今回はどんな事件なんです?」
「うぐっ……学園七不思議*2の一つ…『夜中に、誰もいない音楽室からこの世界にないような音が流れる』です。昨夜、私も調査中にその音色を聞きました」
私の報告に、夕雲先生は、驚く様子もなくただ静かに頷きます。
「なるほど。月夜の演奏会ですか、私もぜひ聞いてみたいもんですね。それで、その音の正体は分かりましたか?」
「いえ、まだです。ですが、これから、調べに行こうかと」
「ふむふむ」
先生はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、部屋の隅にある雑多な骨董品から何かを取り出した。
「では、これを持って行ってください」
彼女が、私に手渡してくれたのは古いインスタントカメラ。新聞部の文が持っている奴よりも古い。
「…これは?」
「まぁ、なんとなく使い方もわかるでしょう?幽霊は透明ですからね、正体が見えないと異変も解決できませんよ?」
先生は、悪戯っぽく片目をつぶる。
「今回の異変は難しいですよ。一つ解決したと思っても油断しないでくださいね」
いつも通りの、掴みどころのない言葉。
だが、私の手の中にある、この、ひんやりとしたフィルムの感触は、これから始まる新しい「異変解決」の確かな手応えを、私に与えた。。
「…分かったわ。行ってきます、先生」
「ええ。いってらっしゃい、霊夢」
私は、視聴覚室を後にしようとする。
「…いや、ちょっと待ちなさいな、霊夢。まだ夜まで時間がありますし、私と映画でも見ましょうよ」
私は開けようとしていた扉を後ろ手で閉め、視聴覚室に戻った。
夕雲先生は「ちょうど良いところに。新作のフィルムが入ったんですよ」と悪戯っぽく笑うと、手慣れた様子で映写機を回し始めた。カタカタという心地よい機械音。机の上には、いつの間にか湯気の立つ紅茶と、珍しい焼き菓子が置かれている。結局、私はそのお菓子と紅茶に釣られて、日が暮れるまで、先生の選んだモノクロの探偵映画を見てしまったのだった。
⋈◀「視聴覚室に訪れた人は、お菓子とお茶でもてなして貰えるわよ」▶⋈
放課後の喧騒が嘘のように静まり返った、夜の校舎。月明かりだけが、長い廊下を頼りなく、そしてどこか幻想的に照らし出している。この静寂の中では、私の足音はあまりにも大きく響きすぎてしまう。私は息を殺し、壁の影から影へと、まるで幽霊のようにその身を滑らせていった。
目指すは、音楽室。
近づくにつれて、その「音」は、はっきりと私の耳に届き始めた。
憂いを帯びた、美しいヴァイオリンの旋律。私が昨日聞いた音と同じだ。気持ちを落ち着かせすぎてしまう、今まで聞いたことのないような不思議な音。
言い忘れていたが、私の所属する同好会は、異変解決同好会。この学園に存在する学校の怪談や七不思議を解決するのが、私たちのお仕事。私が夜中に学校に入れるのもそのおかげ。多分、天文部が学校に泊まって良いなと同じ理由なのだろう。
そんなことを考えていたら音楽室に着いた。私は足を止めて、そっと扉に手をかけ、僅かな隙間から中を窺う。
(…誰もいないわね?)
部屋の中は、無人だった。
月明かりに照らされたヴァイオリンが、トランペットが、そしてキーボードが、ただ静かに、そこに置かれているだけ。だが、音楽は間違いなく、この部屋の中から、今、この瞬間も鳴り響いている。
(…了解。本当の怪奇ってことね)
大抵は生徒たちの悪戯だが、時折本物の怪奇とも呼べる言えるものがこの学園には現れる。その怪異も一部の生徒が引き起こしたものだったりするのだけどね。
(さて、どうしようかしら)
流石の私でも、幽霊は倒せない…というより、見えない相手の退治はとても面倒。見えさえすれば大抵の怪異は退治できる。以前の同好会会長は霊験あらたかなお札をグローブに貼って殴りつけてたらしい。
私は、グローブに貼り付けたお札が剥がれるのを嫌い、指示棒をお祓い棒に見立てて切り伏せてる。
(とりあえず、先生に渡されたカメラ使ってみるか)
あの先生が渡したアイテム、きっと何かしらの効果はあると思うけど…
私は、夕雲先生から渡された古いフィルムカメラを、静かに構える。
カシャリ。
カメラを使っても、特段、何も起きない…
(何も起きないわねー)
そう思ったその時だった。ひゅん、と、空気を切り裂くような音がして、私の頬を、何かが掠めていった。
「!」
壁に突き刺さっていたのは、八分音符の形をした、淡く光る、魔力の塊。弾幕だ。
(どこから…!?)
私が、警戒を強め、部屋の中を見渡したその瞬間。
今度は四方八方から無数の音符が、まるで意思を持った生き物のように襲い掛かってきた。
「ちっ!」
私は、お祓い棒を兼ねた指示棒で、それらを、次々と切り捨てる。だが、きりがない。相手は、姿が見えないのをいいことに、やりたい放題。このままでは、ただいたずらに体力を消耗するだけ…
見えない敵からの攻撃。けれど、ただ闇雲に撃っているわけじゃない。私は、降り注ぐ弾幕の雨の中、思考を集中させる。軌道は常に高い場所から、嫌らしいカーブを描いてくる。性格が悪そうね、こいつ。
(どうする…!?見えない相手をどうやって…)
その時、私の手の中のカメラの側面から、一枚の写真が、じじじ、と小さな音を立てて吐き出されてきた。
(もしかして!!)
私は、飛来する音符の弾幕をいなしながら、ひとりでに現像された写真を掴み取る。
その写真は、ただの写真ではなかった。フィルムの上で、半透明の少女が、まるで小さな動画のように、
「なるほど、そういうことね、先生…!」
このカメラは、ただの古い骨董品などではない。この世ならざる者を、そのレンズに捉え、暴き出す魔法の道具。そして、今、吐き出されてくる写真は、彼女たち動きをリアルタイムで私に教えてくれている!
「見つけたわよ!」
私は、写真に写し出されたヴァイオリンを弾く少女の正確な位置を、完全に把握した。
「そこね!」
私は、指示棒を何もないはずの空間へと突き出す。手応えはない…だが、確かに声が聞こえた。「きゃっ!?」という、可愛らしい悲鳴と、ヴァイオリンの音色が、ぴたり、と止んだのを。
「ふぅ、これで一件落着ね」
私は、やれやれ、と肩の力を抜いた。思ったよりあっけない幕切れだったわね。
その油断しきった私の背後で。突如、けたたましいトランペットの音色と、気まぐれなキーボードの旋律が爆発したかのように聞こえてきた。
「なっ…!?」
左右から、さっきとは比べ物にならないほど、密度の濃い音符の弾幕が、私に襲い掛かってくる。不意を突かれた私は、咄嗟に指示棒で弾幕をいなすのが精一杯だった。
「まさか…ほかにもいたっていうの!?」
私は、慌てて、手の中のフィルムに視線を落とす。
そこには、先ほどまでいなかった二人の幽霊の少女が、にやにやと悪戯っぽく笑いながら、私を見ている姿が、はっきりと映し出されていた。
なるほどね…まんまと、一杯食わされたって訳か。それといつのまにか、ヴァイオリニストも仲間の方に向かっている。
「面白いじゃない!あんたたちまとめて、退治してあげるわ!」
私は、にやりと口の端を吊り上げ、残る二人の騒霊へと、向き直った。
フィルムに映る三人は、それぞれ違う表情で私を見ていた。物憂げなヴァイオリニスト、好戦的なトランぺッター、そして、どこか楽しげな末妹。三つの個性が、三つの楽器が、今度こそ、私を本気で潰しに来る。
ここからが、本当の演奏会の始まりよ!
◆
…
………
…………
「――降参!降参よ!」
数分後。
音楽室の床に、半透明のまま、大の字になって転がっている三人の騒霊を前に、私は、仁王立ちしていた。三人がかりの演奏は確かにやかましかったけど、カメラで動きが丸見えな以上、私の敵ではなかった。
「な、何なのよ、あんた!急に見えるようになったと思ったら、強すぎるじゃない!」
ウェーブがかった水色の髪の
「ええ、ええ。これくらい、当然よ」
私は、フィルムをひらひらさせながら、勝ち誇った。
「それで、あんたたちは、一体、何者なの?悪霊なら、退治するけど」
「違うわよ!」
ふわっとした髪のショートヘアの
「私たちは、ただの音楽好きな騒霊!悪さなんてしてないわ!」
「じゃあ、なんで、こんな時間に、学校で騒いでるのよ」
私の問いに、三姉妹は、顔を見合わせた。そして、一番お姉さんらしい金髪のショートボブの
「…実は、私たちが住んでる、古い洋館の屋根に、穴が開いちゃって…」
「雨漏りがひどくて、楽器が濡れちゃうのよ!この間の春一番で、とうとう天井が抜けちゃって!」
「それで、大家さんに、修理をお願いしに来たんだけど…」
「大家さん?」
「ええ」と、リリカは頷く。
「確か、この学園にいるって聞いたから探しに来たのよね」
「この学園は広すぎて、どこにいらっしゃるのか、さっぱり分からなくて…」
メルランが、しょんぼりと肩を落とす。
「それで、探し疲れて、うろうろしていたら、この音楽室を見つけちゃって!」
リリカが、ころりと表情を変え、楽しそうに続けた。
「ここの楽器、すごく良い音がするの!つい、夢中になって、演奏会を始めちゃったのよ!」
なるほど、まとめると、この三姉妹の住居に問題が生じた。それを解決するためには、大家さんが必要。だが、三姉妹は大家さんがどこにいるかわからない。
「…なるほどね、その大家さんの見た目はわかるかしら?というより、他の生徒に聞いたりしなかったの?」
「私たち、一応幽霊だから他の人たちと話すつもりはそんななかったの。それでも、何人かの人に聞いてみたんだけど、誰も知らなくて…」
「はいはい、私は結構詳しい方よ。特徴…いや、名前から教えてれる」
「夕雲…って人なんだけど」
(あの女…!)
私の脳裏に、あの全てを見通したような、何も考えていないような先生のあの胡散臭い笑顔が、鮮明に蘇る。
『今回の異変は難しいですよ。一つ解決したと思っても油断しないでくださいね』
ええ、ええ、難しいに決まっているでしょう。だって、この異変の、全ての元凶は、あんたじゃないの!あんたが、ただの、大家としての管理義務を怠ったせいで、この子たちは、わざわざ学校まで、陳情に来る羽目になった。そして、あんたが見つからないから、つい、音楽室で演奏会を始めてしまった。それを、あんたは、全部知っていて、私に、このカメラを渡した。つまり、あんたは、自分が原因で起こった騒動の後始末を、私にやらせた、という訳ね…!
「…はぁ……」
私の口から、今日一番、深くて、重い、ため息が漏れた。
「やっぱ、知らない?」
三姉妹の顔がどこか緊張している。
「いや、私のお世話になっている先生よ」
「「「ほんと!!!」」」
三人の声が、綺麗にハモった。
「ええ、本当よ。先生には、私から話しておくから。あんたたちは、もう夜中に騒がないこと。いいわね?」
「「「はい!」」」
今度は、まるで訓練された兵士のように、ぴしっと背筋を伸ばして返事をした。
こうして、学園七不思議の一つは、大家さんへのただの雨漏りの陳情というあまりにも気の抜けた結末を迎えたの。
やれやれ。
私の平穏な学園生活は、一体、どこにあるのかしらね。
私は、手の中のカメラと指示棒を握りしめながら、あの胡散臭い先生にどうやって一発お見舞いしてやろうかと、静かに思考を巡らせた。
ちゃんちゃん。
うちの小学校は七不思議が多すぎて、数えきれませんでした。中高はそういうのなかったですね。
学パロってなんなんでしょうね(哲学)、もし次を書くなら、魔理沙や早苗、咲夜たち自機組を出したいです。