東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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一日のお気に入り数の増減見えるのですが、そこで-1になるとヘコみますよね。来月になるまで、毎日見ることになりますし、そうはならないように頑張りたいところです。
とはいえ、書きたいもの書いてるだけですしなぁ…応援頼みます。





第123季/秋 羅万館with完全永久瀟洒なメイド②

 地底への訪問から、早くも数週間が過ぎました。季節は冬の始まりを告げ、羅万館の空気も日に日にその冷たさを増していくようです。

 

 私はいつものように、羅万館のカウンターに座り、家にあった本のページをめくっていました。インクの匂いが、冬の訪れを知らせる澄んだ空気と混じり合います。そろそろ、食材や薪を用意しなければなりませんね。幸い、今日は客足も途絶えていることですし、人間の里へ向かうとしましょうか。

 

 前回は不覚にも博麗の巫女と鉢合わせそうになり、心臓が跳ねる思いでこの店へ逃げ帰ったもので、用事もそこそこに、鈴奈庵で妖魔本を何冊か置いていってしまいました。今日こそは落ち着いて買い物を済ませたいものです。

 

 店仕舞いをしようと、カウンターから立ちあがろうとした瞬間、扉の鈴がチリンと澄んだ音を立てました。

 

「いらっしゃいませ…おや?」

 

「お久しぶりです、夕雲様」

 

 私が顔を上げると、そこに立っていたのは意外な人物でした。月のように冷たく綺麗な銀髪を三つ編みにし、緑のリボンで留め、羅万館のような雑多な場には似つかわしくないメイド服を着こなす人間、十六夜咲夜が私の前に立っていました。

 

 

「咲夜じゃありませんか。久しぶりですね、私の店に何か用でも?」

 

 私の問いに、咲夜は完璧な一礼で返します。私に向けて、丁寧な対応をするなんて明日はナイフでも降るのでしょうか?咲夜は私に対して、好印象を持っていないはずです。どちらかというと嫌ってると言っても良いほど…私の首筋にナイフを添えるぐらいですし。

 

「ええ、お久しぶりです、夕雲様。紅魔館以外でお会いするのは初めて、でしたね」

 

 咲夜の言葉には、私を探るような響きがありました。残念ながら、腹の中を探られる心当たりがない私は、とりあえず会話を繋げ、こちらも咲夜の思惑を探ります。

 

「そうですね。時折、人間の里で咲夜が買い出ししているのは見かけましたが、話しかけたりしませんでしたし…それにしても、昨夜が羅万館にまで足を運ぶとは、思いませんでしたよ」

 

 私は立ち上がりかけた体を椅子に戻し、あえて悪戯っぽく微笑んでみせます。緊張は、隠すに限りますから。

 

「それで、紅魔館のメイド長が、一体何の御用でしょう。それとも、レミリアの気まぐれですか?」

 

 私は軽口を叩きますが、咲夜の表情は鉄仮面のように変わりません。

 

「ご明察、痛み入ります。本日は、お嬢様の『気まぐれ』の使いで参りました」

 

 彼女はそう前置きし、本題に入ります。いつも私にはしない礼儀正しさに、背筋がムズムズします。

 

「『最近、顔を見せないけれど、息災にしているかしら?たまには、うちの図書館にでも新しい本を探しに来なさい』と。…お嬢様より、直々の言伝です」

 

 なるほど、用件は理解できましたが…。私は内心で深いため息をつきます。あの姉妹の顔を、今更どの面を下げて会うのでしょうか。

 

「まあ、レミリアが私のことまで…。ご心配には及びませんと、そうお伝えください。この通り、元気にしていますよ」

 

 私は芝居がかった仕草で肩を竦めてみせます。

 

「近いうちに…ですか。ええ、そうですね、『機会があれば、よろしくお願いしますね』そうお伝え願えますか」

 

「承知いたしました。確かにお伝えいたします」

 

 咲夜は私の返答に静かに頷くと、それ以上何も探るようなことはせず、踵を返しました。目的は、最初から私の返事だけだったのでしょう。なんだか、少しもったいないですね。折角、咲夜が羅万館に来たんですし、もう少しもてなす事にします。いつも、もてなしてもらってますし。こちら側からも、もてなすのが礼儀って物です。

 

 別に、誰かと喋りたかったって訳じゃないですよ?ほんとですよ?

 

 内心の誰とも知らない誰かに言い訳をし、咲夜が扉に手をかけるのを待ちます。そして、咲夜が扉のノブに手をかけた、その瞬間に、私はドアノブを反対方向に『回し』続けます。

 

「あら?」

 

 ドアノブを回そうとした咲夜が、訝しげな声を上げます。

 

「どうかしましたか、咲夜?」

 

「いえ、ドアノブが、全く動かなくて」

 

 そう言い、彼女が力を込めますが、年季の入ったドアはまるで一枚岩のようにピクリともしません。その瞳に、一瞬、戸惑いの光が宿ったのを私は見逃しませんでした。

 

「おや、おかしいですね。最近、この扉は気難しい時があるんですよ」

 

 芝居掛かった口調で、私はゆっくりと立ち上がり、カウンターから出て、彼女に向き直ります。

 

「そうだ、咲夜。どうせなら、お茶でも一杯いかがです?いつも貴女にはもてなしてもらってばかり。たまには、この私がおもてなしをし返す…いいでしょう?」

 

「……ええ。構いませんが」

 

 彼女はゆっくりとドアノブから手を離すと、感情の読めない瞳で私を見つめ返しました。

 

 私は、咲夜に馴染みの甘味処で買った好物の団子と、冷えた体を温めるお茶を咲夜に差し出します。

 

 さて、何を話しましょうか、と考えていますと、咲夜が先に切り出してきました。

 

「夕雲様は、紅魔館に一年に一度は訪ねるという先代当主との約束事がありましたよね?今年はいつ訪れる予定ですか?」

 

 吸血鬼姉妹が幸せになるまで見守るという、ヴラドとの契約ですね。私が最も触れたくない話題です。私は思考を巡らせ、最も波風の立たない答えを探します。

 

「あの約束は、レミリアとフランの二人が『幸福』を手に入れるまでの、期限付きのものです。そして、昨年私が館を訪れた際に、彼女たちが温かな日々を享受していることを、この目で見届けました。これ以上、仇である私が姿を見せるのは良くないでしょう」

 

 別れは、私にとっては早いか、遅いかの話です。どうせ、みんな私を置いて、逝ってしまうのですから。

 

 私の言葉を、咲夜は静かに聞いていました。彼女の表情からは、何も読み取れません。ですが、やがて彼女が紡いだ言葉は、私が築いた論理の脆い部分を、正確に貫いてきました。

 

「幸福、ですか。ええ、お嬢様もフランお嬢様も、確かに今は穏やかな日々を送っておいでです。ですが、夕雲様」

 

 彼女の視線が、私を鋭く射抜きます。

 

「長い時を生きる者にとって、幸福とは、ある一点で完成するものでしょうか。それは、絶えず形を変え、紡がれ続けるものではないのですか」

 

「……」

 

「夕雲様が姿を見せないこと。それは、本当にお二人のためを思ってのことですか。それとも……いずれ必ず訪れる『別れ』の痛みから、貴女様自身が、ただ目を逸らしているだけなのでは?」

 

 彼女の言い分は的外れでしたが、予想外の方向からの言葉は私の胸に突き刺さりました。

 

「…お茶、ご馳走様でした」

 

 その声と同時に、先ほどまで固く閉ざされていた扉が、カチリ、と小さく音を立てたのが、聞こえます。いつの間にか、私がかけていた「仕掛け」は解けていたようです。

 

 彼女は扉に手をかけ、最後にこちらを振り返りました。

 

「貴女様が何を恐れているのか、私には分かりません。ですが、お嬢様は、たとえいつか終わりが来るとしても、友人である貴女様との時間を大切に思っておいでです。…その点だけは、お忘れなきよう」

 

 それだけ言うと、彼女は今度こそ、静かに店を去っていきました。

 

「…とは言え、別れというものは本当に辛いものなんですよ。人間である貴女にはわからないかもしれませんが」

 

 一人残された店内で、私はすっかり冷めてしまった自分のお茶を、ただ黙って見つめます。咲夜の言葉が、まるで呪いのように、思考の中で何度も何度も繰り返されていました。

 

 最後に残されるのは私だけ。同僚たちは姿を消し、古い友人たちは記憶と力を失い、ナミたちは殺された。そして、人間たちは私が瞬きをする間に死んでいく。共にいる時間が長ければ、長いほど別れの痛みは鋭く、痛い。

 

 ある程度の割り切りはしましたが、それでも苦しいものは苦しいのです。

 

「お土産…渡し損ねちゃいましたね」

 

 

 

 あの店――羅万館を出て、私は人間の里へと向かっていた。

 

 …『幻想郷で誰よりも長生き』、ね。あの女が自称しているものだけど、随分と、大きく出たもの。けど、あの瞳の奥にあった深い孤独と、私に向けられた敵意なき諦観は、ただの戯言ではないと告げていた。お嬢様は、また随分と厄介なものに目をつけ、つけられたらしい。

 

「言い過ぎちゃったかしら」

 

 そんな思考を巡らせながら、里の大通りに差し掛かったところで、見慣れた紅白の姿が目に入った。 

 

 博麗の巫女、霊夢。

 

 相変わらず、退屈そうな顔で甘味処の縁側に腰掛け、お茶をすすっている。神社の仕事はどうしたのかしら。…それと、今日はよく団子を見るわね。

 

「あら、咲夜じゃない。こんなところで油でも売ってるの?」

 

 目が合うなり、霊夢は気の抜けた声でそう言う。

 

「こんにちわ、霊夢。貴女と違って、油を売るほど私は暇ではないわ」

 

 私が軽く話すと、彼女は「ふーん」と興味なさそうに湯呑みを傾ける。

 

「じゃあ、何の用?貴女が里に来るなんて、買い物…にしては、荷物は持ってないわね。何か厄介事じゃないでしょうね?」

 

「心外ね。面倒事を起こしているのは、大抵そちらでしょう」

 

 軽口を叩きつつ、私は当たり障りのない答えを用意する。

 

「少し野暮用で、この先の…ええ、少々知り合いの様子を、お嬢様の代理として見てきたところよ。最近、館に顔を見せないから、心配なさっていたの」

 

 私の言葉に、霊夢は少しだけ眉を動かした。

 

「あんたたちの知り合い?あんたたちの知り合いってだけで、碌なもんじゃなさそうね。まあ、面倒事を起こしてないなら、それでいいけど」

 

「ええ、もちろん。彼女は、ただ静かに過ごしたいだけ。貴女の出番はないわ」

 

「そ。ならいいわ」

 

 興味を失ったように、巫女は再びお茶をすすり始める。私も、これ以上彼女と話すことはない。

 

「では、私はこれから買い物を済ませてまいりますので、これで」

 

 一礼してその場を離れる。背後で「お代わりー」という呑気な声が聞こえた気がしたが、私は振り返らなかった。

 

 さて、お嬢様に頼まれた和菓子と、妹様の人形、パチュリー様から頼まれた新しい本を仕入れて、後は食材も…それに、早く館に戻らないと。あの厄介な「知り合い」の報告を、お嬢様は首を長くして待っているでしょうから。











夕雲は沢山の別れを経験して、ある程度の割り切りはしています。ですが、他者に別れを経験させる(別れの原因になる)のには慣れていません。恨まれるのに慣れてないといいますか…
一番別れの原因になってるくせにちゃんちゃらおかしいね。

むしろ、吸血鬼姉妹が親を殺した相手を憎んでいないのが少しおかしい…心が強え姉妹なのか?
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