東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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第三十八話 地霊殿with太陽沈める元楽園の巫女②で一文だけ文章を変えました。流れは同じですので、あまり気にしなくても良いですが、ねんのため。





番外 原作地霊殿①

 

 チルノが嵐のよう襲来してから、数週間が経ちました。

 何日も続けて開店していたため、今日は久しぶりに休日とすることにします。自営業は好きに休めるのが良いところ。ちなみにこの数日、羅万館を訪れたのは、ルーミアのみ。一緒にホラー作品を鑑賞し、ハンバーグを食べました。

 

 お茶の入った湯呑みを両手で包み込み、さて、今日は何をしようかと物思いに耽ります。窓の外では、綿雪が音もなく舞い落ち、世界が一面銀景色です。

 ですから、鈴奈庵へ向かうという選択肢は、またいずれ、晴れた日に取っておきましょう。では、紅魔館に行くというとは…やはり気が向きません。人間は後伸ばしして後悔する生き物らしいので、私もそれに倣います。

 

 つまり、この灰色の空は、私から出かける気力をすっかり削いでしまいました。家に篭り、本の世界にでも浸るとしましょうか。その後には、ゆっくり日記でも書いて…と、考えたところで、気が重くなります。もう、あの日記は無いのでした。

 

 とりあえずは、映画鑑賞か読書にしましょうか。

 思考の海から一つの答えを釣り上げ、私は残っていたお茶を一息に飲み干しました。そして、シアターへ向かうべく、地下へと続く扉へ向かって、静かに立ち上がった、その時でした。

 

 何の前触れもなく、私の足元の床が、まるで黒い口を開けるかのように、音もなく裂けたのです。

 

「――っ!?」

 

 抗う間もありませんでした。底なしの闇から伸びる見えない手に足を取られるかのように、私の身体は、『スキマ』の中へと吸い込まれていきました。

 視界がぐにゃりと歪み、無数の瞳に見つめられる不快な浮遊感。羅万館の穏やかな空気が、一瞬にして切り裂かれます。

 

(…やり方が、いつも強引すぎますよ、紫…!)

 

 心の中で旧友に悪態をつくのが、私にできる唯一の抵抗でした。

 

 

 

 その奇妙な感覚は、ほんの一瞬。

 次の瞬間、私の身体は、硬い地面の上に、やや乱暴に吐き出されていました。鼻を突くのは、インクの匂いではなく、肌を刺すような冷たい冬の空気と、強い硫黄の香り。

 ゆっくりと顔を上げれば、雪化粧を施された、見慣れた神社の屋根がそこにありました。

 

「紫、今日はなんかいつもより雑じゃありません?」

 

「あら、ごめんなさいね。少し急いでいたものだから」

 

 声のする方を見ると、紫が、まるで何事もなかったかのように、優雅に洋傘を差して立っていました。その傍らでは、地面から間欠泉が、もうもうと湯気を立てています。

 

 私は服についた土埃と雪を払い、ゆっくりと立ち上がると、目の前の旧友をじろりと睨みつけます。

 

「それで、私をここに連れてきて何のようです?そもそも、この神社の敷居を、私に跨ぐことを禁じたのは、他ならぬ貴女でしょうに」

 

 …まぁ、時折こっそり入っていますが…あの時、私は黙っていただけで、了承してませんですし、バレなかったらセーフです。

 

「まぁまぁ、今日は霊夢がいないのよ。それに、貴女だって温泉入りたいでしょう?」

 

 紫は悪びれる様子もなく、湯気の立つ間欠泉を扇子で示します。

 ごぼごぼと音を立てて湧き上がる湯煙が、冷たい頬を優しく撫で、不思議と心を落ち着つく硫黄の匂いが、私を誘惑してきます。…腹立たしいことに、その誘惑は今の私にとって抗いがたい魅力を持っていました。おそらく、この間、チルノが言っていた「おっきい人がお湯を入れた」とはこの事でしょう。

 

「まぁ…そうですけど、なんだか納得がいきません」

 

 唇を尖らせながら、私はそう言います。言葉に棘があるのは当然でしょう。私も納得しているとは言え、私をこの場所から遠ざけた本人が、自らその禁を破っているのですから。

 

「そんなむくれた顔しないの。ほら、外の世界から仕入れた美味しいお酒もあるわよ。後で一緒に飲みましょ」

 

「……しょうがないですね!」

 

 先ほどまで言葉に含ませていた棘は「美味しいお酒」という悪魔的な魅力を放つ響きの前では、まるで砂糖菓子のように脆く、あっさりと溶けてなくなってしまいました。

 

 さっきまでの不満げな表情はどこへやら、私の瞳は、きっとキラキラと輝いていたことでしょう。自分でも、驚くほど現金なものです。

 

「それで、そのお酒に合う肴は何か用意があるのですか?塩辛や、そうですね…から揚げなどもあれば、文句はありませんが」

 

 私は、つい前のめりになって、紫に尋ねていました。

 私のその変わりように、紫は扇子で口元を隠して、くすくすと喉を鳴らして笑っています。

 

「ええ、ええ、もちろん用意しているわよ。貴女の好みは、百年や二百年経っても、本当に変わらないのね」

 

「だまらっしゃい。美味しいものは美味しいんですよ。貴女の藍だって、ずっと油揚げ好きじゃないですか」

 

 軽口を叩き返しますが、私の口元は、もうすっかり緩みきっていました。旧友との、このどうでもいいやり取りが、心地良いです。

 

「あと、ほら、これ」

 

 紫が、ふと、真剣な声でそう言いました。彼女が、何もない空間にすっと手を差し入れると、そこが淡く歪み、中から、一冊の古びた手帳を取り出します。

 

 その、見覚えのある、手触りまで思い出せるかのような、革張りの手帳。私が、もう二度と、その頁を捲ることはないと思っていた、あの日記。

 

「私の日記じゃないですか…良いんです?」

 

「ええ、私にはもう必要のないものだもの。やっぱり、この日記帳は貴女が持ってからこそだもの」

 

「紫…ありがとうございます」

 

「ふふ、どういたしまして。ほら早く温泉に行きましょ。風邪ひいちゃうわ」

 

「…はい」

 

 私は、差し出された紫の手に自分の手を重ね、二人で湯気の立つ、白銀の世界に囲まれた天然の湯船へと、歩みを進めるのでした。

 

 

◆ Stage 1 忘恩の地から吹く風 

 

 芯まで温まった体には、雪を纏った冬の空気がむしろ心地よく感じられます。温泉から上がった私たちは、静まり返った博麗神社の縁側に並んで腰を下ろしていました。体を拭う布などという気の利いたものはありませんでしたが、その必要もありません。私の能力を使い、肌を濡らす水分を蒸発に戻しました。水は循環するものですからね。

 

「それで、本題は何なのですか、紫」

 

 私は切り出します。その声は先ほどのような棘はありませんでしたが、不満気でした。温泉で、「お酒は用事が終わった後で」と紫に言われたからです。

 

 それに、湯に浸かっていたのは、ほんの十分程度。出来たら三十分は入りたかったのですが、紫に急かされてすぐに出てしまいました。しかも温泉には怨霊がわらわらと湧いており、いちいち成仏させるのがとても面倒でした。

 

「ほら、今日は霊夢が留守にしている、そう言ったじゃない?」

 

 紫は、まるで遥か遠くの景色でも眺めるように、どこか虚空を見つめています。

 

「…?ええ、そうですね。それが何か?」

 

 私の問いに、彼女はゆっくりとこちらに向き直ると、扇子の向こうで、楽しげに微笑みました。

 

「実は、霊夢は、今頃ちょうど異変解決に向かっているのよ。夕雲も見たでしょう、あの温泉と共に湧き出る怨霊たち」

 

 地底…ついこの間会ったさとりさんや勇儀さんの事を思い出します。彼女たちがわざわざ地上にちょっかいを出すとは思えないのですが…

 

 

「貴女のことだし、霊夢の勇姿も見たいんでしょうし…特別に、私の『目』を貸してあげるわ」

 

 そう言った紫の指先が、私のこめかみに軽く触れた、その瞬間。

 

 私の視界は、空ではなく、まっすぐに、どこまでも深い闇の中へと――落ちていき、私は、見慣れた紅白の巫女服の背中を、すぐ間近に見ていました。

 

 ひんやりとした空気。壁を伝う水の音。霊夢が放つお札の、心細い光だけが、目の前の洞窟を照らしています。ついこの間も私はここを通りました、地底です。

 私の片方の視界は、霊夢の背後、数歩離れた場所の闇に紛れ、彼女の進む先を静かに追う、一羽の鴉のそれと完全に同調していました。

 

 時折、紫が使用する式神、前鬼・後鬼のどちらかですね。今回は鴉に憑依しているようです。

 

 

(何でこんなじめじめした所に来なきゃいけないのよ…)

 

 どこからともなく聞こえてくる博麗の巫女の声。

 

「もしもし、霊夢。聞こえるかしら?」

 

(うわっ!?紫!?どこから話してるのよ!)

 

「……陰陽玉を通じて会話が出来るようにしておいたわ。貴方がサボらない様に、きちんと監視するためよ」

 

(サボるわけないじゃない!だいたいこんな暗くてジメジメしている場所で、どうやってサボるって言うのよ!)

 

 そんな二人のやり取りを、私は鴉の目を通して、博麗の巫女のすぐ後ろから固唾を飲んで見守っていました。紫と博麗の巫女が会話している中、しんと静まり返った闇の奥から不意に、少女のような声が響きました。

 

(あら、また人間かい?地底に遊びに来たのかい?あそこは今はお祭り騒ぎ、強けりゃ人間でも歓迎してるよ)

 

「また…?おかしいわね。人間が地底に赴くことなんてあったかしら?」

 

「地底は太陽が届きませんし、きっと時間感覚が狂ってるんですよ」

 

 紫の言葉に背筋から冷や汗が流れます。別に悪いことをした記憶はありませんが…なんとなく嫌な予感がします。

 私は紫の声を真似て、博麗の巫女に話しかけます。もう長いこと一緒にいますので、このぐらいは簡単です。以前、酒宴で真似した際に誰も違和感を覚えなかったほどですから。

 

「……博麗の巫女。敵よ、倒しなさい」

 

(敵かどうかというとそんなでもない気がするけど……倒す事には変わりはないわね)

(最近の人間は独り言が癖になってるのかしら?まぁ、いい。地下に落とされた妖怪達の力を見せてあげるわ)

 

「夕雲、貴女。また私の声真似上手くなってない?どうしてそんなに上手いのよ…」

 

 べ、別に…紫の声真似したら、大抵の面倒事は、相手が勝手に解決してくれるから、便利で多用してるわけじゃないんですからね!

 

 

 

◆ Stage 2 地上と過去を結ぶ深道

 

 わたしと色彩が似ている妖怪を難なく退けた博麗の巫女は、さらに縦穴の奥深くへと進んでいきます。

 

(この穴、一体何処まで続いているのよ!)

 

 巫女の不満げな声が、再び私の頭に響きました。

 

「……もうすぐよ。もうすぐ、旧都に辿り着く筈だわ」

 

 隣で、紫がこともなげに答えます。

 やがて、道が開け、地上と旧地獄を繋ぐ唯一の橋が見えてきました。その橋の欄干に、異国の服を纏った一人の人影が、俯いて佇んでいます。その影から放たれる、陰鬱で、じめりとした気配。橋姫のパルシィさんです。

 

(……また、人間?この間来た奴もそうだったけど、一体何なのよ。あの時はやたらと褒めてくると思ったら、気付いたら意識が無くて……。あんなやり方、妬ましい! 妬ましいわ!)

 

 パルシィさんが、怨嗟の声を上げています。

 

(私の前に人間?魔理沙かしら?)

 

 巫女が、一人ごちるのが聞こえました。そういえば、魔理沙さんも異変解決のために行動すると聞いています。そのまま勘違いしてくれたら良いのですが…

 

(まさか私達の、この呪われた力を目当てに?)

(……こほん、巫女よ。地底の妖怪達は、地上で忌み嫌われた能力を持つ者ばかり……。出会い頭に、問答無用で倒しなさい)

 

 再度、紫の声を真似て、巫女に指示を出します。

 

(むむむ、話が読めないわ。私はただ、温泉が楽しめれば良いのに、何か紫に騙された気がする)

(ふふふ、私は騙してなどいないわ)

 

 私の左目に見える紫は、実に楽しげに微笑んでいます。そんな様子を左目で収めながら、右目に意識を集中させます。

 

 右目の先では、パルシィさんがその嫉妬の炎を、霊夢へと向けていました。

 

(地上の光が妬ましい。巡る風が妬ましい。貴方には恨みはないけど、この間の奴への恨みも込めて、私が貴方を討つ理由など、幾らでも作れるわ!)

(とんでもない八つ当たりね)

 

 再びの戦闘。しかし、それもまた、博麗の巫女にとっては、ほんの座興に過ぎなかったようです。

 

(何だったのよ、今の奴)

 

 橋を渡り終えた巫女が、忌々しげに呟き、紫がその呟きに答えます。

 

(彼奴はこの世とあの世を、未練で繋ぎ止める『嫉妬』の妖怪よ)

(この世とあの世?なんか、あの世にいける奴が多すぎない?死神とか亡霊とか)

(それだけ、人間の『死』は、妖怪にとって魅力的ということ)

 

 紫と巫女の会話を聞きながら、私は異変の状況について整理していました。

 異変の内容は地底から地上に怨霊たちが流れ込むこと。怨霊たちは妖怪に取憑き、妖怪を殺すため。怨霊を操れるのは極一部。地底でいうと、さとりさんやお燐さんがそれに該当します。

 

(ただ、地上に怨霊を流し込む理由がわからないんですよね。私を呼ぼうとしているとかでしょうか?それならば、こいしちゃんに伝えれば良さそうですし、うーん…)

 

 私はお茶を飲みながら、考え続けました。早く、お酒飲みたい。














前回言ってた実験的な奴です。原作沿いに書けるかどうか、おそらくは地霊殿しかやりません。タイトルも思いつきませんでしたし(ここ重要)
面白かったら、感想と評価お願いします。

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この作品用に作ったXのアカウントです。なんか話すかもしれないし、何も話さないかもしれない。嘘、思ってたより呟いてる…
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