東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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彼女が何者なのか?と考えながら読んだくださるととても嬉しい。


本編
第119季/夏 香霖堂with経営下手な店主


 幻想郷。それは日本のどこか山奥にある秘境。

 

 消え失せ、忘れ去られ、存在を否定され、幻想となったモノが入り込む外とは隔てられた世界。

 

 人間だけではなく、妖怪や妖精は言わずもがな。神様さえも闊歩する摩訶不思議な土地。

 

 これはそんな幻想郷で暮らす映画館を趣味で営む女の子の話。

 

 

 

 

 まだ太陽が上りきっていない冬の明け方、人間の里から離れた一軒家から下手くそな鼻歌が聞こえるてくる。

 

「ふ~んふんふん、映画、映画、新作の映画〜」

 私は夕雲。趣味で映画館こと、羅万屋を経営している者です。

 

 今日は週はじめ。新作の映画が香霖堂に届く日で、私が最も楽しみにしている日です。私が住む幻想郷ですが、娯楽の少ないこと少ないこと。精々が賭け事や酒宴程度で、私が満足する物は他に読書ぐらいしかありません。

 そこで、読書や読み聞かせよりも機材さえあれば、簡単で手っ取り早くみんなに見せることが出来る映画を娯楽として布教しようと大それた野望を抱えています。

 …とは言っても、人間のお客さんはあまり私の店に来ないんですけどね。

 

「新作映画〜、映画は最高の娯楽〜」

 

 と適当に考えた即興の歌を口ずさみながら、香霖堂に向かう準備をします。

 そういえば、今日は鈴奈庵で本を返す日でしたね。忘れず、用意しなければいけませんね。新しく入荷した映画と借りた本を入れるための荷物入れを用意し、その中に本棚にあった妖魔本と先週鈴奈庵で借りた本を押し込みます。

 後は布団を片付けたり、着替えたりなどすれば準備万全。

 こうして、私の1日が始まるのでした。

 

 あっ、勝手に入ってくる子たちのために映画のフィルムを回しておきましょう。

 

 私の能力は「回す程度の能力」。

 

 主にこれを使って、フィルムを回したりしてます。かなり使い勝手が良く、館内に誰かが入ってくると同時に、自動で能力を発動させたりするなど応用が効きます。幻想郷で映画館を運営するにはこれ以上に無い便利な能力でしょう。さてさて、私の能力の説明は程々にして、香霖堂に向かいましょうか。

 

 

 

 

 夜が明け、太陽が燦々と地上を照らす頃に、ようやく香霖堂に着きました。

 

「やぁ、おはよう。夕雲さん」と店主の森近霖之助さんが挨拶してくださったので、こちらも挨拶を返し、早速要件を伝えます。

 

「霖之助さん。いつものやつをお願いしますね」

 

「あぁ、いつものやつだね、すぐに持ってくるよ」 

 

 そう言い、私たちはお互いニヤリと顔を歪ませます。

 この「いつもの」って響きが堪りません。霖之助さんは香霖堂の常連がいて嬉しい、私は常連だけが使える「いつもの」が使えて、なんか嬉しい.Win-Winですね。

 

そんなどうしようもない事を考えていると、霖之助さんはカウンターの奥の方に向かっていました。

 

 それにしても、この店よく潰れませんね。私以外まともな常連客がいないと霖之助さんはよく愚痴をこぼしています。

 

 私以外の常連客と言うと、魔法使いの魔理沙さんがいますね。彼女はよくツケで香霖堂の物を買うと聞きます。時にはツケもせずに勝手に物を物を持って行くとか…

 まぁ、霖之助さんと魔理沙さんは歳の離れた幼馴染のような関係と聞きます。ついつい甘やかしてしまうのでしょう。気持ちはわかります。

 

 後、毎度ツケの話を聞くたびに思うのですが、ツケの回収できているのでしょうか。同じ経営者として不安になります。

 もしや、私の羅万屋で無銭鑑賞している方は香霖堂でツケ払いしてる方々の話を聞いて、お金を払わずに鑑賞しているのかもしれませんね。

 いいや、きっとそうに決まってます。今度、フィルムを買うときに値切ってやりましょう。

 

 それに、霖之助さんは非常に困ったお方で、古道具屋さんの店主の癖に店にはコレクション目的で置いている非売品が多く、何を売っているのか、値段は如何程な物か全然わかりません。

 

 正直、彼の性分は商売には向いてないのです。

 

 

 店内を回って目ぼしい物が無いことを確認した後は香霖堂に置いてある私専用の湯呑みにお茶を入れて、待つこと数分。 彼がフィルムを何個か持ってきてくれました。

 

「はい、約束の品。併せて50銭*1ね」

 

「ぴったしでお願いしますね」とお代を小銭が出ないように払います。

 

 いつもなら、少しばかりの世間話をしますが、もうお昼がまわるごろになります。鈴奈庵に向かうためにも、私は香霖堂を出ました。

 

 

 

 

 

 

 夕雲。

 

 苗字が無い彼女のことを霖之助は考える。

 夜闇のような艶のある黒髪を月の形をしたヘアピンで留め、秋の紅葉のような赤、黄色、橙色の服の上に黒色の前がけを掛けている彼女。

 彼女は僕と同じ経営者で、羅万屋なる店を運営している。

 彼女の経営はほぼ趣味なような物で、お金は偶にしか取っていないほど商売気が無いと専ら噂だ。そんな経営状態で大丈夫なのだろうか、同じ経営者として不安に思う。

 もしや、その噂を聞いて魔理沙達は僕の店で物を買うときにツケ払いにしているのではないだろうか…きっとそうに違いない。今度、少し割高でフィルムを売ってやろう。

 それはさておき、彼女が買ったフィルムは無縁塚で拾ってくるのだが、毎度同じ場所で見つかる。こんな事は夕雲の買うフィルムだけで他にはなく、誰かの作為を感じる程だ、しかし一体誰がわざわざそんな手間暇をかけてフィルムを無縁塚に置くのか、彼女に渡したいならばわざわざ香霖堂に仲介させる必要はなく、手渡しすれば良い。

 そして、何より1番の疑問が…

 

 思考を張り巡らそうとするその瞬間、「邪魔するぜー」と白黒の魔法使いの声が聞こえた。

 

「もうツケで買い物は許さないよ」

 

「おいおい、香霖。勘弁してくれよ」

 

 と魔理沙と会話しながら最後に考えた疑問に思いを馳せる。

 

「半妖である僕が幼い頃からずっと同じ姿の彼女は一体何者だろう」

と。

 

 

*1
現代で言うところの5000円




次回は14日の朝6時です。

2025/11/17追伸
タイトルの第〇〇季は作者の気まぐれで付け始めたものです。そんなに気にしないでください。
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