東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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いつになったら、星蓮船行けるんだよ…全然、冬が終わらない。もう、これ、春雪異変なのでは…


第123季/冬 香霖堂with経営下手な店主③

 危なかったです。魔理沙さんの最後に放った、あのスペルカード。朦朧とする意識の中、残った気力も魔力も全てを渾然一体にして放たれた、純粋な破壊の奔流。あの、全てを賭したであろう一撃。…もし、私の対応が、ほんの一瞬でも遅れていたら、今頃、気を失っていたのは、私の方だったかもしれません。

 

 私は、地面に倒れ伏したまま、完全に意識を失っている魔理沙さんの、あどけない寝顔を見下ろしました。…全く、なんとも憎めない方です。ですが、あの時、本気で私を害するつもりなら、最初から、躊躇なく、私自身を狙ったはず。それをしなかったのは、彼女の中に、まだ、どこか甘さがあったからなのでしょう。

 

 このまま放置して、妖怪や獣にでも喰われました、では、どうにも、寝覚めが悪いですからね。

 

 さて、倒れた魔理沙さんをどうするか…これはもう決まっています。私は彼女の家を知らないので、私のなじみの店であり、魔理沙さんも知っている店。

 

 そう、香霖堂です。

 

 私は、気を失った魔法使いを背中に、そっと抱え上げました。見た目よりもずっと軽く、回収した魔導書の鞄を肩に掛け直し、私とこの魔法使いの共有の友人が営む、森の入り口の古道具屋へと、静かに歩き始めました。

 

 

⋈◀「あそこ、神社と同じ雰囲気で居心地が良いんですよね」▶⋈

 

 

「ごめんくださーい」

 

 日は、既に西の空を赤く染め始めていました。冬ですから、日が沈むのも早いものです。私は、気を失った魔法使いを背負いながら、香霖堂の扉を足でガシガシと蹴り、声を掛けます。

 

「今、行くから蹴らないでおくれ。…って、夕雲か…これは一体、どういうことだい?」

 

 店の奥から顔を出した霖之助さんは、私の奇妙なメイド服と、その背中でぐったりしている魔理沙さんの姿を交互に見て、大きなため息をつきました。

 

「私が背負っている魔理沙さんの事でしょうか?それとも、私の服装について?」

 

「両方だよ。…まあ、魔理沙の方は…そうだな、とりあえず、そこのソファーに寝させてやってくれ」

 

 私はおとなしく、魔理沙さんをソファーに降ろします。その際、彼女の手首が不自然な角度にあり、僅かに腫れているのに気がつきました。…私の能力で、無理に捻ってしまいましたからね。少し、やりすぎましたか。

 

「霖之助さん、何か、湿布はありますか?」

 

「湿布?もちろんあるが…少し待っておくれ」

 

 彼は店の棚を少し探ると、一枚の湿布薬を持ってきてくれました。私はそれを受け取り、気を失っている魔法使いの手首に、そっと、優しく貼り付けます。あとは…心の臓よりも高い場所に手首を置いて

 

 …これで、よしと。魔理沙さんのある程度の処置を終えた私は、彼女の鞄を物色し、目当ての本を抜き出します。

 

「おや、君も魔理沙みたいに人の物を盗むのかい?」

 

 …彼は魔理沙さんをなんだと思っているのでしょう。いや、確かに、彼女にそういう一面があるのは、否定できませんですけど。

 

「失礼ですね。これは『回収』です。魔理沙さんが、紅魔館の図書館から窃盗したんですよ」

 

「なるほど、そのメイド服は紅魔館のものという訳か。時折、紅魔館のメイド長が骨董品を買いに来るよ。頻度は少ないが、一度の買い付け量が多い。いいお客様だ」

 

「へぇ、咲夜さんもここに通っているんですね」

 

「それで、君は何故、紅魔館のメイド服などを着ているんだい?羅万館だけじゃ、食べていけなくなったかい?」

 

 霖之助さんが、珍しく、揶揄うような笑みを浮かべます。

 

「ほう、言うじゃないですか、貧乏店主殿…まあ、それはさておき、お手伝いのようなものですよ」

 

「お手伝いかい?」

 

 彼の、もっともな疑問に、私は本日何度目か分からない、深くて、長いため息をつきました。私は、彼が差し出してくれた椅子に、どさりと腰を下ろします。

 

「そもそもは、レミリアのお父さんとの、古い約束を果たしに、監査に出向いただけだったのですが…」

 

 私は、ことの顛末を、かいつまんで彼に話しました。レミリアの子供のような我儘と抗いようのない、巧みな言いくるめ。気がつけば、私がメイドとして、図書館の手伝いをすることになっていた…という風に説明します。我ながら、今日は色んなことがありましたね。

 

 一通り話し終えると、霖之助さんは、呆れたような、それでいて、どこか楽しげな、複雑な笑みを浮かべていました。

 

「なるほど。紅魔館の主の気まぐれに、君が付き合わされた、と。…君も、中々に苦労性だな」

 

「ええ。その記念すべきメイドとしての初仕事の現場に、ちょうど、この魔法使い殿と鉢合わせになった、という訳です」

 

 私は、すやすやと寝息を立て始めた魔理沙さんを、じとりと睨みます。

 

「それで、何がどうなったら、魔理沙が眠るような事態に陥るんだい?」

 

「端的に言いますと、魔理沙さんが本を盗んで、逃げる際に私を誘拐、油断しているところを『えいやー』って感じです」

 

 霖之助さんは、呆れ顔をしながら、やれやれとばかりに肩をすくめると、今度は、私が回収した魔導書に目をやりました。

 

「…やれやれ。全く、大変な初日だったようだね、君も」

 

 私の心境を察したのか、霖之助さんが、呆れたような、それでいて、どこか同情するような声で言いました。

 

「まあ、立ち話もなんだ。もう少し、休んでいきたまえ。お茶でも淹れ直してこよう」

 

「…ええ。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 彼が店の奥へと消えていくのを、私はぼんやりと眺めていました。外はもう、すっかり夜の帳が下りています。店の窓ガラスに映るのは、メイド服を着た、ひどく疲れた顔の自分。そして、その後ろで、ソファーにぐったりと横たわる、一人の魔法使い。

 

 何とも異質な光景でしょう。しがない人間と半分人間、それでいて、最後に普通の人間…少し面白いです。

 

 

 やがて、霖之助さんが、私専用の湯飲みを盆に乗せて戻ってきました。芳しい珈琲の香りが、私の鼻腔をくすぐります。

 

「珈琲よりも、お茶の方が良いのですが…」

 

「こら、文句は無しだ。それで…」

 

 そう言い、彼は私の向かいに腰を下ろしながら、尋ねました。

 

「紅魔館の主も、なかなか面白いことを考える。君をメイドにするとは…何か、君にさせたいことでもあるのかね?」

 

「さあ…ただの、気まぐれでしょう。…そう、思いたいものです」

 

 私は、曖昧に微笑んで、言葉を濁しました。あの吸血鬼の、複雑で、子供のような独占欲に満ちた思考を、この旧友に、どこまで話すべきか、測りかねていたからです。

 

「そうかい。まあ、君のことだ。何か、考えがあるのだろう」

 

 霖之助さんは、それ以上は追及せず、ただ、静かに珈琲をすすりました。こういう、深入りしない彼の距離感が、私にとっては、心地良いものです。

 

「さて、と」

 

 温かい液体が、疲れた体に染み渡るのを感じながら、私は立ち上がりました。

 

「そろそろ、私も戻らなければ。この本を届けませんと、私の『監査』も、そして『メイドの仕事』も、終わりませんので」

 

「そうか。気をつけて」

 

 霖之助さんは、眠る魔理沙さんに、そっと毛布をかけながら、言いました。

 

 私は、店の扉に手をかけ、そして、最後に一つ、言い忘れていたことを思い出して、彼を振り返りました。

 

「ああ、それと、霖之助さん。この子が目を覚ましたら、伝言を」

 

「伝言?」

 

「ええ。『今度、貴女に渡したい本があるから、私に預けておく』と。…そうですね。『霊暮より』とでも、付け加えておいてください」

 

 私の言葉に、霖之助さんは、何かを察したように、呆れたような、それでいて、どこか楽しげな笑みを浮かべました。

 

「分かったよ。確かに、伝えておこう」

 

「この子は、目が覚めたら、私が叱っておくよ。…まあ、聞くかどうかは、分からないがね」

 

「ええ、期待しないでおきます。今日は助かりました、それでは、また」

 

 私は、彼に深々と一礼をすると、今度こそ、本当に、香霖堂を後にしました。

 

 外の空気は、凍えるように冷たいです。私は、回収した魔導書を抱え直し、一応の主と、魔導書の持ち主が待つ、あの紅い館への帰路を、ゆっくりと、歩き始めるのでした。

 

 叱られるんでしょうなぁ、憂鬱です。
















私は二人で一組な関係が好きなんですよね。だから、地霊殿とか永夜抄かなり好き。
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