東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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一番苦戦しました。あまりにも書けなくて、作品を非公開にしそうか迷ったぐらいです。いや、ほんと、マジで。


第123季/冬 紅魔館with大図書館のひ弱な魔女

 霖之助さんに魔理沙さんを託し、香霖堂を出た私の足は紅魔館へと向かっていました。それにしても、夜の霧の湖畔はしんと静まり返っていて、冷たいです。湖面を渡る風が私の頬を撫で、メイド服のちょっとした隙間から容赦なく体温を奪っていきます。

 

 歩きながら今日の出来事を反芻します。

 香霖堂でも考えましたが、メイド初日にして泥棒との交戦、誘拐、窃盗品の奪取…ふふ、もしも、お給金が出るなら、ボーナスとかですごい額になっている事でしょう。それとも修繕費とかでトントンでしょうか。修繕については私の能力で直せばいいですし…

 

 無論、これは現実逃避。

 

 これから私に降りかかるであろう惨劇(お説教)から心を守る手法です。

 夜の闇に浮かぶ紅魔館の威容は、今の私には、これから始まる尋問のための巨大な裁判所のようにも見えました。私は覚悟を決めて、重厚な玄関の扉をゆっくりと開きます。

 

 案の定、そこに彼女はいました。

 ホールの中央、まるで何時間も前からずっとそこに立っていたかのように、咲夜(裁判官)が、私(被告人)を待ち構えていました。

 

「…遅かったわね、夕雲」

 

 その声は平坦で、何の感情も含まれていません。

 しかし、その瞳だけが、私の頭のてっぺんから泥のついた靴の先までを、じろりとまるで検品でもするかのように、ゆっくりと舐めるように見ていました。

 

「…ただいま、戻りました。咲夜」

 

 私がそう言うと、彼女は、「ふぅ」とわざとらしく深いため息をついてみせます。

 

「さて」

 

 その一言を皮切りに、彼女の長い長いお説教が始まりました。

 

「まず第一に。貴女は、許可なく持ち場である大図書館を離れました。これはメイドとしての職務放棄にあたりますよね?

 

「…魔理沙さんに誘拐されたからであって、決してわざとでは…」

 

「問答無用です。第二に。その侵入者である霧雨魔理沙と、無用な接触を行いました。メイドの心得として、侵入者は発見次第、即座に、且つ完璧に排除するのが基本です」

 

「あれは、魔理沙さんがパチュリーさんの友人と仰っていたので…」

 

「言い訳は不要。第三に。その侵入者にあろうことか、人質として館の外へと連れ出されました。これは紅魔館の警備体制の脆弱性を外部に露呈する重大な失態と言えるでしょう」

 

「……誘拐された被害者ですよ、私」

 

 彼女は、出来の悪い生徒の答案を、一枚一枚読み上げるかのように、淡々と、しかしどこか楽しげに、私の罪状を数え上げていきます。その口調は怒っているというよりは、むしろ私のあまりの不始末ぶりに呆れ、面白がっているかのようでした。

 

「そして、第四に」

 

 彼女は、そこで一度言葉を切ると、私の目の前まですっと歩み寄ってきました。そして、私の耳元で囁きます。

 

「門限を大幅に過ぎています。皆さん、心配してましたよ」

 

 その声には、ほんの僅かに心配の色が含まれていました。

 

「……申し訳ありません」

 

 私が言い訳もなしに、観念してそう言うと、彼女は満足そうに頷きました。

 

「結構です。では、夕雲。貴女には、これからこの度の失態に関する、詳細な報告をパチュリー様にしてきなさいな、ほら、急いで」

 

 

⋈◀「案外怒られませんでしたね。それに、なんだか咲夜の雰囲気が変わったような…?しかも呼び捨てになってるます」▶⋈

 

 

 咲夜に導かれ、私はあの惨劇の舞台となった大図書館へと、再び向かっていました。

 廊下に漂う焦げ付いた紙の匂いが、先ほどの出来事が確かにあったということを、容赦なく私に突きつけます。メイドとしての初仕事は完全に失敗のようですね。トホホって感じです。

 

 扉を開けると、大図書館の中は想像を絶する有様になっていました。

 

 砕けた窓や壁から吹き込む風が、床に散らばった無数のページを、まるで枯れ葉のようにカサカサと弄んでいます。妖精メイドたちが懸命に片付けをしていますが、焼け焦げ、水浸しになった書物の山を前に右往左往しています。

 

 ふむ…

 

 私は『回す程度の能力』を使い、この場一帯をフィルムとして捉えます。そして、フィルムを高速で逆回転させる……そうすると、紅魔館の大図書館はすぐに元の威容を取り戻しました。

 

「やっぱりその能力、便利ね。本当にメイドになるつもりはない?」

 

 そう横から声を掛けるのは、紅魔館の頭脳たる魔女、パチュリー・ノーレッジさんです。

 彼女は、一瞬にして元通りになった書架を一目見た後、まるで便利な家電を見るかのような目で私を見てきます。

 

「ご冗談を、パチュリーさん」

 

 私は軽く肩をすくめます。

 

「私は自分の店でのんびり本を読んでいるのが性に合っていますので。今回の『お手伝い』は、あくまで、レミリアの気まぐれに付き合った一度きりのものです」

 

「そ、残念だわ」

 

 彼女は、本当に心底残念そうにため息をつきました。

 

「貴女がいれば、魔理沙がいくら暴れても、一瞬で元通りになるのに…」

 

 …

 ……

 ………いや、図書館の被害の半分は貴女では?

 

 

「それより、こちらを」

 

 私は頭を振って、浮かんできた思考を吹き飛ばした後、回収してきた魔導書を彼女に差し出しました。

 

「その魔理沙さんから回収した魔導書ですよ」

 

 パチュリーさんは本の表紙を一瞥すると、静かに首を振りました。

その表情は怒りではなく、ただどうしようもない厄介事に対する深い疲労の色を浮かべています。

 

「…ありがとう、夕雲。けど、これは違う本ね。盗んだ本とは別のものだわ」

 

 ???いや、まさかとは思いますが……

 

「………というと」

 

 パチュリーさんのその言葉の意味を薄々気づいていながらも、私は確認の意を込めて、彼女に続きを促します。

 

「つまり、貴女は魔理沙に一杯食わされたってこと」

 

 パチュリーさんのどこか同情するような一切の救いがない言葉が、私の心に突き刺さりました。

 

(…やるじゃないですか、魔理沙さん。この私を騙し通すなんて。えぇ、認めましょう。今回は貴女の方が一枚上手だった)

 

 そう虚勢を張るのもなんだか空しいですね。

 今日の私は、良いところが何一つとしてありません。流石の私も落ち込みそうです。

 

「まぁ立ち話もなんだわ。…少し付き合いなさいな」

 

 彼女はぜいぜいと息を整えながら、近くのテーブルセットを指差しました。

 

「小悪魔。紅茶を二人分。…ええ、いつものやつよ」

 

 近くで片付けをしていた小悪魔さんが、「はーい」と頷き、部屋の奥へと消えていきます。

 

 私とパチュリーさんは、無言でテーブルに向かい合って座りました。先ほど私が元に戻したとはいえ、図書館にはまだ魔力の焦げ付いた匂いが残っています。

 

「……それで、近頃はどうです?」

 

 先に沈黙を破ったのは私の方でした。

 

「レミィは、相変わらずよ。…ただ、貴女が顔を見せない間、いつもより退屈そうにしていたかしら。その退屈が私たちにどういう形で降りかかってくるか、貴女なら分かるでしょう?」

 

 パチュリーさんが悪戯っぽく片目をつぶってみせます。

 

 ……私は、パチュリーさんの近況を聞いたつもりなのですが、紅魔館の面々はなぜ他の方の事を話したがるのでしょう。それほど仲が良いということでしょうか。

 

 そんな疑問を内心に抱え、とりあえず相槌を打ちます。

 

「ええ、まあ。目に浮かぶようです」

 

「でしょう?だから、あの子のためにももう少し頻繁に顔を見せてあげて」

 

 その言葉は、レミリアの姉か母親のようでした。本心から、レミリアを案じているのが分かります。

 

「妹様の方はね……ええ、近頃は随分と落ち着いているわ」

 

 パチュリーさんは、紅茶を一口すすると、少しだけ、優しい声で続けました。

 

「ちょっと前から、外にも興味が出てきたおかげかどうかわからないけど、以前のようにただ全てを破壊するような危うい衝動は鳴りを潜めてるわ」

 

「…そうですか。それは何よりです」

 

「…ええ。…時折だけど貴女の話をしていたわよ」

 

「私の、ですか?」

 

「そう。『ゲームの続きは、まだか』とね。あの子は、貴女が来るのをずっと楽しみに待っているのよ」

 

 その言葉に、私は胸の奥が温かくなるような、それでいて、ちくりと痛むような奇妙な感覚に襲われました。確か、前回来た時に遊んだゲームは『Two Truths and a Lie』。私の方は、まだ嘘をついていませんでしたね。

 

「…そう、でしたか」

 

 私に言えるのは、ただそれだけでした。

 仕事に失敗し、魔理沙さんにしてやられた、などという私の個人的な屈辱など、あの子の純粋な期待の前では些細なことのように思えます。

 

 私は静かに立ち上がりました。

 

「パチュリーさん、お話感謝します」

 

「…構わないわ。…行くのね?」

 

「ええ」

 

 私がどこへ向かうのか。彼女には、もうわかっているようでした。

 

「少し、様子を見に行きたくなったので」

 

 私は大図書館の魔女に深々と一礼をすると、今度こそ迷いなく地下へと続くあの冷たい階段の方へ足を向けました。

 






咲夜はレミリアとの問答で「こいつも人間なんだな」って認識になりました。今まで超人じみた振る舞いを(咲夜の前では)していたせいで、苦手意識を持たれていたんですね。

次回、何を書いてもフランち(・)ゃ(・)ん(・)になる。
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