東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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書きたいことを出力出来ねぇ。
しばらく、霊夢とレイボ(夕雲)の二人の視点で進んでいきます。
にしても、前話で70話なんですねぇ…案外続いたもんです。


第126季/春 博麗神社with楽園の素敵な巫女②

「それで、あんたは誰よ?賽銭泥棒なら懲らしめるけど」

 

 巫女は、お祓い棒を肩に担ぎ、どこか面倒くさそうに、しかし、その瞳は、私という不審者を値踏みするように、じっと見据えます。

 

(ふぅ…落ち着きなさい、私。ここで動揺しては、全てが終わります)

 

 私は内心で絶叫する自分を、永い時の中で培った理性の力で無理やり押さえつけ、ゆっくりと言葉を発します。

 

「いえ、賽銭泥棒ではありませんよ。私は今回の異変でゆか、主の八雲紫に貴女の手助けを命じられた…レイボと申す者です」

 

 結局、咄嗟に口から出たのは紫の名前と、偽りの名と身分。声がほんの少しだけ上ずってしまったかもしれません。とりあえず、紫の名前を出しとくだけで、みんな納得してくれますからね、とりあえず紫です。

 

「レイボ…聞いたことないわね。それにあんた、紫の手下ってことは妖怪?人間のように見えるのだけど」

 

 彼女の視線が、さらに鋭くなります。まずい、探られてます。

 

「ええ、私は人間ですよ。ただ、永遠亭の医者やその姫も自分のことを人間だと自称しているでしょう?案外、人間って種類が多いんです。他にも、守矢の巫女さんをやってる東風谷さんとかもですね」

 

 私は、にこりとできる限り人畜無害な笑みを浮かべてみせました。どうか、この苦し紛れの言い訳が、彼女の興味を逸らしてくれますように。

 

「ふぅん、そんなものか」

 

 巫女は私の答えに納得したのか、していないのか、どちらかわからない曖昧な表情で頷きました。そして、一度視線を空へと向け、何かを考えるように黙り込みます。…この僅かな沈黙が、私の心臓を嫌な音を立てて締め付けます。端的に言えば、胃が痛い…

 

 やがて、彼女は再び私へとその視線を戻しました。その瞳には、もう先ほどまでの不審者を見るような色はありません。ですが、どこか訝しげな表情をしています。

 

「ところで、なんだけど…あんた。私と会ったことある?

 

 ここで、私がほんの僅かでも動揺を見せれば、今までの努力が終わる。

 私は、ゆっくりと一度だけ瞬きをしました。そして、目の前の私が誰よりも大切に思う巫女の瞳を真っ直ぐ見つめ返します。

 

「…いえ、ありませんよ」

 

 私の欺瞞が春の穏やかな神社の境内に、静かにそして、重く響き渡りました。

 

「ふーん」

 

 巫女は、私の答えにまだどこか納得しきれていないようですが、それ以上は追及しても無駄だと判断したようです。彼女は、ふい、と私から視線を外すと、まるで独り言のように今回の異変について語り始めます。

 

「それで、今回の異変って正体不明の霊が湧いたり消えたりしてるやつでしょ?一応、冥界の方に話を聞いてはみたのよ。そしたら『命蓮寺に行け』ですって」

 

 命蓮寺。

 先程の会談でも名前が出ましたが、まさか今回の異変と関係があるとは。

 

「命蓮寺、ですか。なるほど、それで、れい…巫女はこれから、そちらへ?」

 

 私がそう尋ねると、巫女は心底面倒くさそうに大きなため息をつきました。

 

「まぁ、そういうことになるわね。…で、あんたはどうするのよ。紫に、私の手助けをしろって言われたんでしょ?だったら、ちょうどいいじゃない。一緒に来なさいな」

 

「…ええ。そのつもりで参りましたので。ですが、命蓮寺に着いたら別行動を取らせてもらいます。住職に話を聞きたいですから」

 

 私は、にこりと再び人畜無害な笑みを浮かべます。

 

(…助かりました。まさか霊夢の方から誘ってくれるとは思ってもいませんでしたね」

 

「決まりね。じゃあ、さっさと行きましょう。面倒事は早く終わらせるに限るわ」

 

 巫女はそう言うと、くるりと背を向け、地面から足を離し、空へ飛びあがります。私は、そのどこか無防備で、そして誰よりも頼もしい紅白の背中を見つめながら、静かにその後ろに続きました。

 

 

⋈◀「なんとかなりましたね…それと、紫たちは何をしているのでしょう?>」▶⋈

 

 

 全く、最近の幻想郷はどうなってるのかしら。

 正体不明の霊が、そこら中に湧いては消えて、里の人間を怖がらせている。解決するために冥界に行けば、幽々子は「私たちの管轄外だから、お寺の裏の墓地に行ってみなさい」とのこと。

 

 幽々子を倒して、この異変を解決だと思っていたため、それほどの準備は終えていない。私はこの異変が長丁場になると思い、一度神社に戻って、装備を整えることにした。

 

(はぁ…今日の賽銭はゼロだし、こんなことなら、昼寝でもしておけば良かったわ)

 

 私が、休憩がてら縁側でそんなことを考えていると、神社に置いてある狛犬辺りから、誰かの気配を感じた。

 

(…ん?参拝客?…いや、気配が急に現れたわね?もしかして、妖怪?)

 

 私は、お祓い棒を肩に担ぎ、やれやれ、と重い腰を上げる。神社に来る妖怪は少なくない。が、今のタイミングなら別。もしかすると、今回の神霊騒ぎに関係のある奴かもしれない。

 

 私は、気配が感じる場に行き、声をかける。

 

「誰かいるの?」

 

 私がそう声をかけると、狛犬の影から一人の女が姿を現した。

 橙色の服に、黒い前掛け。そして、その髪には、月を模した見慣れない髪飾り。人間でも、ただの妖怪でもない、その不思議な気配を感じる。強いて言うなら、早苗が近いかしら。

 

 そして、その女と目が合った瞬間。

 

 時が止まった気がした。

 

 うららかな春の日差しも、鳥のさえずりも、風に揺れる木々の音も、全てが遠い世界の出来事のように、色褪せていく。私の耳に聞こえるのは、自分のやけに大きく響く心臓の音だけ。

 

 なぜだろう。

 

 初めて見る顔のはずなのに。初めて見る黒い瞳のはずなのに。会ったことなんてないはずなのに…私の魂の、どこか深い場所が、この女を知っていると叫んでいる。忘れてしまった、大切な何かを思い出しそうになる、この胸が締め付けられるような感覚は、一体、何…?

 

(お姉さま)

 

 …

 ……

 ………あれ?何を考えてたんだっけ?

 

 

「それで、あんたは誰よ?賽銭泥棒なら懲らしめるけど」

 

「いえ、賽銭泥棒ではありませんよ。私は今回の異変でゆか、主の八雲紫に貴女の手助けを命じられた…レイボと申す者です」

 

 レイボ、と名乗ったその女は、にこりと人好きのする笑みを浮かべた。けれど、その声は、ほんの少しだけ上ずって聞こえる。緊張している?

 

「レイボ…聞いたことないけど、それにあんた、紫の手下ってことは妖怪?人間のように見えるのだけど」

 

「ええ、私は人間ですよ。ただ、永遠亭の医者やその姫も自分のことを人間だと自称しているでしょう?案外、人間って種類が多いんです。他にも、守矢の巫女さんをやってる東風谷さんとかもですね」

 

 まあ、確かに言っていることは、分からなくもない。

 

 けれど、そういうことじゃない。

 私の勘が、警鐘を鳴らしている。この女は、何かを隠している、と。

 

「ふぅん、そんなものか」

 

 私は、一度、視線を空へと向け、考えるふりをした。

 分からない。分からないけれど、何かひっかかる。この女の匂い、声、佇まい。その全てが、私の記憶のどこか深い場所を、ちりちりと焦がすような感覚。

 

 私は、再び彼女へとその視線を戻した。

 すると、私の口から、無意識に思ってもみなかった言葉が、こぼれ落ちていた。

 

「ところで、なんだけど…あんた。私と会ったことある?

 

 その瞬間、レイボの胡散臭い微笑みが、ほんの僅かに、本当に僅かに揺らいだのを、私は見逃さなかった。

 

「…いえ、ありませんよ」

 

 嘘ね。

 

 私は確信した。けれど、それ以上、問い詰めるのもやめた方がいいと気がする。何か取り返しのつかないことが起こるような… 。まぁどうせ、紫が絡んでいるのなら、碌なことではないに決まっている。

 

「ふーん」

 

 だから、私はそれ以上は追及せずに本題に入ることにした。

 

「それで、今回の異変って、正体不明の霊が湧いたり消えたりしてるやつでしょ?一応、冥界の方に話を聞いてはみたのよ。そしたら、命蓮寺に行けって言われたわ」

 

「命蓮寺、ですか。なるほど、それで、れい…巫女はこれから、そちらへ?」

 

「まあ、そういうことになるわね。…で、あんたはどうするのよ。紫に、私の手助けをしろって言われたんでしょ?だったら、ちょうどいいじゃない。一緒に行きなさいな」

 

 紫の差し金なら、多少は役に立つのだろう。それに、この得体のしれないレイボを一人で野放しにしておくよりは、目の届くところに置いておいた方が良い気がする。勘だが、私の勘は外れないのだ。

 

「…ええ。そのつもりで、参りましたので。ですが、命蓮寺に着いたら別行動を取らせてもらいます。住職に話を聞きたいもので」

 

 住職…となると、白蓮の事だろう。後で、白蓮にはこの人と何を話したかを聞いてみようかしら。

 

「決まりね。じゃあ、さっさと行きましょう。面倒事は、早く終わらせるに限るわ」

 

 私は、そう言うと、くるりと背を向け、地面から足を離し、空へ飛びあがった。

 

 今回の異変がいつもと違うのは明白。だが、何がと問われると、上手く言葉にできない。

異変が起こるのも、解決のために右往左往するのも、いつものこと。けれど、今回はやけに安心する。

 

 そして、その言いようのない違和感の正体は、今、私の隣を涼しい顔で飛んでいる。

 

 レイボ、と名乗ったこの女。

 

(…一体、何者なのよ、あんたは)

 

 私がちらりと横目で窺うと、レイボはそれに気づいたのか、全てを見透かすようでいて何も考えていないような、あの奇妙な笑みをにこりと返してきた。その笑顔が、私の苛立ちをさらに加速させる。

 

(…まあ、いいわ)

 

 今は、目の前の異変を解決するのが先。この胡散臭い支援者の正体は、全てが終わった後でゆっくりと、暴かせてもらうとしましょう。私は、思考を切り替えるように、ぐっとお祓い棒を握りしめた。

 

 眼下に広がる人間の里の灯りが、夕闇の中に温かな川のように流れていく。その、守るべき日常の光景を越えると、木々の切れ間から覗く荘厳な寺の屋根が夕日を浴びて、黄金に輝いているのが見える。私の神社もあれほど綺麗になればいいのに。

 

(…結局、こうなるのよね)

 

 異変が起きて、私がその元凶の元へと向かう。いつものこと。幻想郷の平和を守る約束事。隣を飛ぶ、あの胡散臭い支援者の正体も気になるけれど、今は目の前の仕事が先。

 

 やれやれ。私の平穏な時間は、いつになったら返ってくるのかしらね。

 

 




レイボが霊墓とも読めるのはたまたまです。なんか神霊廟と関係してて少し面白いですね。
また、この話と併せて、魔理沙編に出てきた名前をレイボに変更します。
カタカナレイボは夕雲だと判断してくれれば幸いですね。
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