東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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自分の部屋に小石とかあったら、絶対気づくよね…えっ、そう言う理屈ではない?

…ど、独自設定!


第119季/夏 羅万館with閉ざした妖怪少女

「ただいまー」

 我が家に帰り、ドアの前に立つと誰かが私の部屋にいるのを感じます。

 この近さだと気配で大体誰か特定出来るのですが、今回は誰が家にいるかわかりませんね。

 ですが、特定出来ないが故に判断できる事もあるもんです。

 部屋に入り、部屋の状態に目を配ります。

 本棚から出しっぱなしになっている何冊かの本に、誰か寝たのでしょうか?朝に畳んだはずの布団が敷かれています、ここまでは他の方も行いますが、どこか些細な違和感を何処か覚えます。

 この違和感の発信源に目を向けると、

 

「なんで、毎回見つかるのかな?」

「こんばんは、こいしちゃん」

 

 自分が気づかれた事に気づいたのでしょう。

 瞳を閉じたサトリ妖怪、古明地こいしが顔をムスーと不満気に顔を歪ませながら姿を現しました。

 

「無意識を操る程度の能力」他人に認識されず、行動することが出来る力です。

 例えば、路傍にある小石のように誰にも気づかれず、視界から出れば記憶にも留めることができない、それを実行するのが彼女の能力。

 しかし、視界の端に虫がいるような、部屋の隅に小銭が落ちているような些細な違和感、あるはずでは無いものがそこにある違和感に、私は気づいただけなのです。

 

「毎回言ってるでしょ、私がこいしちゃんを見つけられる理由は秘密だって」

 皮肉なものですね。

 彼女が知りたいことは私を読心すれば分かるのだろうに、それを実行する彼女の目はもう閉じている。

 

「で、今日は何しに来たんです?こいしちゃん」

「無意識に誘われてきたから、わかんない」と何処となく寂しげな顔をして彼女は呟くように言います。

 この能力を持つ彼女を見つける事が出来る者は少数、こいしちゃんは「誰かに見つけて欲しかったのではないか?」と心の奥底、つまりは無意識に思ったのでは無いかと考えましたが、誰にも彼女の内心はわかりません。

 それこそ、彼女自身や彼女の実姉であるさとりさんでも…

 

 真意は誰にもわからず、考えても仕方のない事なので、その考えを頭から切り離します。

 

「それでは、シアターで映画でも見ましょうか?今日は新作を何作か仕入れてきたので、きっと楽しめますよ」

「いいね、今日はどんな物を買ってきたの?」と寂しそうな顔から一変、顔を輝かせます。 

 

 その様子に嬉しくなった私は思わず、

「ついでにお菓子や軽食を取りながら、映画を見ましょう。何か食べたい物はありますか?」

 

 …先程の「もしかしたら寂寥感で、誰かに会いたかったのかも?」と言う考えはきっと的外れですね。

 ただ単に私が新作の映画を仕入れたのをどこかで察知し、私の気分が良く、今ならサービスを受けながら無料で新作映画を観れると判断したからだとようやくと気づきました。

 その証拠に、ほら、少し悪い顔をしてる。

「計画通り」

 声にも出ちゃってる。

 

 けどまぁ、真実がどうであれ。負の感情で顔を歪ませるよりはにこやかな顔でいて貰いたいものです。

 こいしちゃんが笑顔になるならば、この程度の出費は大した事はありません。

 

「天狗のお酒を飲みたいな!」

 …大した出費じゃありませんったら!

 

 

 残念ながら、天狗のお酒は家にありませんでした。

 代わりに、蔵に仕舞っていたお酒を何本か取り出し、酒飲みしながら映画を見ます。

 私が飲んでいるのは吟醸酒。返しにきた友人曰く、そこそこのお酒でしたっけ。普通に美味しいです。他にも電気ブラン?やヴァンアレン?なるお酒もついでに渡してくれました。

 うーん、優しい子!

 

 そして、今夜私たちが鑑賞するのはこの作品、「忘れられた貴女へ」です。

 内容は、ある日の午後、主人公である青年は少しずつ周囲の人の記憶から消えていく少女に出会います。

 何故か少女の事を忘れない主人公と自らを覚えてくれる存在である青年に惹かれていく少女。

 序盤での彼らの日常のやり取りや中盤にかけての明らかになる青年の異常性と少女の正体。終盤で見事に回収されていく伏線と彼らの行く末がどうなるかがこの映画の面白いとこでしたね。

 ラストシーンで写真立てに少女が写っていることから、青年は少女の事を忘れられなかったのでしょうか。こんな感じに結末が鑑賞者に委ねられる結末は結構好きです。

 

 作品を鑑賞し終え、こいしちゃんの様子をふと確認すると、見事なまでに熟睡をしていました。

 私はフィルムとお酒を片付け、彼女を敷かれている布団に運びましょう。

 さては片付けたはずの布団が帰宅後に敷かれていたのはこれを見越してのことでしょうか。

「悪い子ですね」

 と布団に寝かせたこいしちゃんの頭を撫でながら、笑みがこぼれます。

 

 布団を取られた私は床に寝転がる事にします。来客用の布団もあるのですが、出すのも面倒くさいですし…

 目を瞑って眠りに落ちる前に、私はカレンダーを見て、明日の予定を確認します。すると、カレンダー上には旧友とお酒を飲む約束がありました。

 しかも、カレンダーには「忘れないように、絶対来なさい」と旧友の文字が…

 その文字に対し、思わず「忘れませんよ」と声が出ます。

 だいぶ酔っているのでしょうか、頭で考えたことがそのまんま口に出力されます。

 明日はきっと頭と体が痛むでしょうが、明日の事は明日の私に任せることにして、さっさと寝ましょう。

 

 こうして、私は1日を終えるのでした。

 

 

 

 

 

 

 夕雲。

 私が今まで出会った人妖で最も不思議な人。

 私がどんな場所に居ようとも私を見つけ、私を見てくれる存在。

 悟りの目を潰し、無意識を操る能力を手に入れた私だけど、その代償として私は誰にも見つからず、誰の記憶にも残らなくなり、次第に存在が消えていく筈だった。

 まるで、今日鑑賞した映画みたい。誰にも見つけられない私を唯一見つけてくれる存在。

 映画では少女は青年の幻覚であり、亡霊で死人だった少女は青年と決別し、消えていった。

 夕雲にとっての私はどうなんだろ、映画の様に夕雲はいつかは私のことが見えなくなって、忘れちゃうのかな。

 そんな事をエンドロールを眺めながら考えてると、思わず涙が出てきちゃった。涙を見られないために目を瞑って、夕雲から目を背ける。

 すると、夕雲は私を抱き上げ、私が夕雲が帰ってくるまで寝転んでいた布団まで運んでくれた。

「悪い子ですね」と彼女の声が聞こえる。

 やっぱり、私が狸寝入りしてる事に気づいてるんだ。気づいているなら、私を甘やかさずに歩かせればいいのに…夕雲は本当に甘い。

 私を温かい布団に寝かせ、夕雲自身は冷たい床に寝そべる、それも私の近くで。

「忘れませんよ」

 この言葉を最後に彼女の寝息が聞こえ始めた。

 ふふ、夕雲はサトリでもないのに、なんでもお見通しだね。

 そう考えたのを最後に私は安心して目を閉じた。

 今夜はぐっすりと眠れる気がする。

 

 

 




「忘れられた貴女へ」→幻想郷に落ちてきた誰も知らない忘れられた作品。1990年ごろに作られた作品だと推測される。無気力な青年であるジョンはある日、神秘的な少女であるマリアに出会う。ジョンとマリアは交流を続けていく中、ジョンは一つ違和感を覚える。マリアは街の人たちと話したりする事が出来るが、誰もマリアの事を覚えていないのだ。
そしてマリアはジョンに一つ告白する。「私、誰にも覚えてもらえないの」と。マリアの症状を治そうと奔走するジョン。そして、ジョンのお母さんが一つの決定的な言葉を放つ。「いい加減にして、あなたの恋人のマリアはもう死んだのよ」と。
ジョンはマリアが目の前で居眠り運転に轢かれた事に絶望し、自ら記憶を失ってしまった。自分が見えているマリアは幻覚なのだろうか。
パッと適当に考えたけど、本筋にさほど関係ないので、考えるのをやめた。
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