先生)資料作れ、アンケート出せ、データやれ
作者)はい…
夏。幻想郷を包む空気は、生命の熱気そのもの。木々は、これ以上ないほどに葉を茂らせ、空からは、まるで音が降り注ぐかのような蝉時雨。私は、そんな季節の移ろいを、自らの左腕に感じる妖力の流れで、静かに感じていた。
(…やれやれ。少々、暑すぎます)
私は茨木華扇。仙人です。
今日、私は博麗神社へと出向いていました。友人に頼まれて以前から時折、博麗神社を訪れていましたが、河童の腕の件と霊夢のぐうたらさ…もっと言うのならば堕落具合が目につき、博麗神社の常連参拝客となっていました。
神社の境内は、夏の気怠い空気に満ちていました。私が石段を上りきると、案の定、縁側で二人の人影が、だらけきった様子で涼んでいます。一人は、この神社の主である博麗霊夢。そして、もう一人は、白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。
「……そいつをちょっと拉致してだなぁ」
聞き捨てならない言葉が、私の耳に届きました。拉致とは、少しばかり内容が物騒ですね。私は言葉を発した魔理沙の後ろに立ち、にこやかな笑顔で圧力を掛けます。
「…なんとかお招きしてだなぁ。ともかく、神社にいてもらえば商売繁盛できると思うぜ!」
言葉を言い直した魔理沙。うむ、それでよし。それにしてもお招きするとは…何の話をしているのでしょう?
「お二人とも、随分と物騒な相談をしているようですね」
私がその言葉と共に、圧力を抑えると、魔理沙の額から流れた脂汗を拭いました。いい薬です。
「あら、いつの間に来てたのよ」
霊夢の方と言うと、全く悪びれる様子もなく、気だるげにこちらを一瞥しただけでした。
「今、来たばかりですわ。何の話をしていたの?」
「神社に誰も参拝に来ないもんだから、商売上がったりって話よ。何か大きい敵が現れない限りやることがないんだもの」
霊夢は、すっかりぬるくなったお茶を気だるげにすすると、まるで骨が無いかのように、縁側の柱に寄りかかりました。あまりにも巫女らしからぬ本音。私は思わずこめかみを抑え、口からはやれやれ、と深いため息が漏れます。
「新しい敵を見つけて我が物顔で退治して、いちゃもん付けて、シャバ代を勝ち取ってくる。貴女のやる事って、ヤクザと変わりないわよね」
「結局、人間が参拝に来ないのがいけないのよ。あんたみたいな仙人でも神社に来るだけましね。いや、最近、人間の常連参拝客が増えたのよね」
その言葉に、魔理沙の目が、きらりと興味の色を宿しました。あっ、いけませんね、話の流れが…。
「へぇ、こんな貧乏神社に来るなんて珍しい、誰「それよりも!!!それで貴女たちは何をしようとしているのかしら」うおっ、急に大きな声出すなよ、びっくりするだろ」
「?まあ、いっか。そこで、福の神を呼ぼうって話を、今していたの」
ふぅ、耐えました。
それにしても…
「福の神、ですか?」
「私もよく判らないけど」と、霊夢がちらりと魔理沙を見ると、それを受けた魔理沙が話し始めます。
「ああ。最近、福の神が里を徘徊しているらしいんだ。そいつが訪れた店は、確実に商売繁盛するらしいぜ」
「ふぅん…」
福の神。にわかには信じがたい話ですが、この幻想郷では、ありえない話ではありません。ですが、そんな都合の良い存在を、この二人が、ただ、丁重に「お招き」するとは、到底思えませんでした。
これは、私が一枚、噛んでおいた方が、後々の面倒事が、少なくて済みそうですね。
◆
そして、次の日。
私は、一つの奇妙な噂を確かめるため、あの、食えない友人の元を訪れていました。
羅万館の古びた扉を開けると、ひんやりとした心地よい空気が、火照った肌を撫でます。外の喧騒が嘘のように、店内は静まり返っていました。店の主である夕雲は、いつものように、カウンターの奥で、静かにお茶をすすっています。
「おや、華扇。貴女がここに予告もなしに来るなんて珍しいですね。どうかしましたか?」
「ええ、貴女に、面白い話がありまして」
私が、福の神の話を切り出すと、彼女の黒い瞳が、ほんの少しだけきらりと輝きました。長年の付き合いで分かります。どうやら、興味を持ったみたいですね。
「ほう、福の神ですか。それは…都合の良い*1。ええ、いいですよ。丁度、少し退屈していたところです。お付き合いしましょう」
にこやかな笑みを浮かべていますが…これは。
「また、変なこと考えてるんですか?夕雲は肝心なところで失敗をしますし、諦めた方がよいのでは?」
「うるさいです」
どうして、私は夕雲を連れて、人間の里に繰り出しました。
⋈◀「」▶⋈
人間の里に着きました。
「それで華扇。とりあえず、何処を出向きますか?」
「そうですね…蕎麦屋はもう福の神が訪れた後ですし、地道に探すしかないでしょうね」
「良いですね。ついでに甘味巡りでもしましょうよ。華扇も好きでしょう?」
そう言って、夕雲が指さす先にあるのは件の蕎麦屋の向かいにある団子屋です。夕雲がよくお勧めすみたらし団子が美味しい甘味処ではないようですね。蕎麦屋が繁盛しているのに比べ、この店はなんだか、ガラリとしています。
「私、この店。なんとなく気にはなっていましたが、毎度、いつもの店に行ってしまうんですよね。ですが、たまには新しい味を開拓したいってことで、良いですよね?華扇」
「ええ、恐らく、私一人でもこのお店に入っていたと思います。蕎麦屋の観察もできそうですしね」
私たちがその古びた団子屋の暖簾をくぐると、気だるげな様子の店主が、ちらりとこちらを一瞥しただけで、「いらっしゃい」と、ぶっきらぼうに声をかけてきました。店内には、私たち以外に客の姿はありません。
私たちは、窓際の席に腰を下ろし、三食団子を二皿、注文しました。
「あら、美味しい」
「ええ、美味しいですね。柔らかな生地にほのかな甘み。絶品と言っても違いないでしょう。」
運ばれてきた団子を一口食べた夕雲が、何かを納得したように、ぽつりと呟きました。
「この団子、味は間違いなく絶品ですね。ですが…」
「ええ。加えて、店も小綺麗で不潔な感じはしませんね。ただ、あの蕎麦屋のような繁盛の気配は、微塵も感じられませんね」
私も、彼女の言葉に続きます。
この団子の味は、間違いなく一級品。それなのに、なぜこの店は繁盛していないのか。答えは、おそらく店員たちの態度にあるのでしょう。
現に、向かいの蕎麦屋の愚痴を言っていますし…
「福の神というものは、ただ、幸運を振りまくだけの存在ではないのでしょうね」
夕雲は、窓の外、行列のできている蕎麦屋を眺めながら、静かに考えを張り巡らせました。
「福の神と言えば、大国…大黒天やウカ…稲荷神などの神様や大陸方面の財神、印度の方のガネーシャ神やラクシュミー神などがいますよね。ですが、あの巨大な神格がやってくれば、
「ええ、そうですね。という事は、つまり、余程小さい神格か、妖怪の事なんでしょう」
「もちろん、その可能性もありますが…」
夕雲は、そこで一度、言葉を切ると、悪戯っぽく、にやりと笑いました。
「もう一つ、別の可能性もあるのではないか、と。私は、そう考えているのですよ。…外の世界にも、似たような伝承があります。仙台四郎という、実在した人物の…。彼が立ち寄る店は、必ず繁盛した、と」
「ほう、その話、詳しく聞かせてもらえますか」
「ええ。彼は、ただそこにいるだけで、周りの人々を笑顔にしたそうです。子供のように純粋で、誰からも愛された。…つまり、彼自身が福を運んだというよりは、彼がいることで生まれる、人々の『笑顔』や『幸福な空気』そのものが、本当の福の神だったのではないか、と。私は、そう考えているのですよ」
「あぁ、なるほど、現にあの蕎麦屋は客も店員も皆、笑顔ですもんね。それに比べて、この店は…」
私はここで言葉を区切りますが、夕雲も頷いています。他店の繁盛を妬み、店の雰囲気を害する店には『笑顔』や『幸福な空気』がない…つまり、福の神は来ないと。
「ほら、人を導く仙人さん。ここの団子屋が潰れて、甘味が失われるのは、幻想郷の損害ですよ」
「はいはい、そう言うと思いましたよ」
私は、やれやれ、と肩をすくめました。全く、この友人は、いつだって面倒事を私に押し付けてくるのですから。ですが、彼女の言うことも一理…いや、十理あります。この絶品の団子が、この里から失われてしまうのは、確かに
「…分かりました。少し、店主と、話をしてきましょう」
私がそう言うと、夕雲は、満足そうに、そして揶揄うように私に言いました。
「ええ、お願いしますよ、仙人様」
私は、席を立つと一人、店の勘定場へと向かいました。気だるげに頬杖をついている店主の前に、そっと勘定書きを置きます。
「…ごちそうさまでした。とても美味しかったですよ」
私の心からの言葉に、店主は初めて少しだけ驚いたような顔で、こちらを見ました。
「…団子も、このお店も素晴らしい。ですが、一つだけ足りないものがあるように見受けられましたね」
「…足りないもの、ですか?」
「ええ」と、私は頷きます。
「それは、貴方の笑顔ですよ」
私の突拍子のない言葉に、店主は、呆気に取られています。
「…貴方が、心からの笑顔で、客人を迎えれば、この店には、必ずや福の神が訪れるでしょう。私はそう信じております」
それだけ言うと、私は、勘定を済ませ、夕雲が待つ席へと戻りました。店主は、まだ何かを呆然と考えているようです。
「さて、行きましょうか、夕雲」
「ええ。…後は、彼次第、ですね」
私たちが、店を出るその時でした。
「…あ、ありがとうございました!」
背後から、聞こえてきたのは、先ほどまでとは比べ物にならないほど、大きく、そして、どこか、吹っ切れたような店主の声でした。
私と夕雲は、顔を見合わせ、どちらからともなく、くすりと笑い合うのでした。
きっと、あの店にも近いうちに福の神が訪れることでしょう。
⋈◀「」▶⋈
後日談というか、その後どうなったのか。
無事にあのお店は繁盛しました。ええ、繁盛しました。いえ、繁盛しすぎたと言えるでしょう。
「あっ、福の神だ!」
「福の神様!私のお店にも是非!!!サービスしますよ!」
「はぁ?先に見つけたのは俺だぞ!」
「福の神様!これを召し上がってください」
「てめぇ、抜け駆けか!」
あの日、私が彼に声をかけたことで、どういう訳か、里の人間たちの一部は、私のことを、あの団子屋を繁盛させた、もう一人の「福の神」だと、勘違いしてしまったのです。
「仙人様!いつもありがとうございます!ささ、これはサービスです!」
その日も、私は、すっかり様変わりした団子屋で、夕雲さんとお茶をしていました。以前の、あの気だるげな様子が嘘のように、満面の笑みを浮かべた店主が、私の皿にだけ、そっと、みたらし団子を三本も追加してくれます。肝心の団子屋は、もはや繁盛しすぎて、なかなかお店に入ることさえできなくなってしまいましたが、こうして、時折、優先的に席へ通され、おまけまで頂けるのですから、まあ、悪い気はしません。
「…いいですね、華扇は」
その光景を、向かいの席で、夕雲が、じーっとそれはもう羨ましそうな目で、見ていました。
「ええ、まあ。これも人徳というものでしょう」
私が、少しだけ得意げにそう言うと、彼女は、ふぅ、と深いため息をつきました。
「長年、幻想郷…ないしは人間の里を守ってきた私に人徳はないと?まぁ、忘れられちゃってますし、しょうがないと言えば、しょうがないですが」
「まぁ、それはそれとして…」
そして、次の瞬間、夕雲の瞳に、きらりと見覚えのある実にたちの悪い光が宿りました。
(…あの目は、いけませんね)
あれは、彼女が、何かろくでもないことを企んでいる時の目です。
十中八九、『華扇を羅万館でアルバイトさせれば、うちも繁盛するのでは?』などと、考えているに違いありません。
私が、そんな内心の警戒を悟られぬようにそっとお茶をすすっていると、彼女は、にっこりと実に実に胡散臭い、もとい、愛想の良い笑みを私に向けてきました。
「そういえば、華扇…いや、華扇さん。近頃、羅万館の方が少し人手不足でして…」
「まず、お客様が来ないと言うのに何寝ぼけた事を言ってるんです?」
「ぐぬぬぬ、えぇ!そうですとも!ですが、華扇の力を借りれば…!」
私は、追加で頂いた三本目の団子を頬張りながら、ぎゃーぎゃーと主張する親愛なる友人の、面倒な勧誘をどうやって断ったものかと、静かに考えるのでした。
今回のエピソード、個人的に満足感高いです。つまるところ、書いてて楽しかった!
話変わりますけど、我らがゆかりんってとても便利。何かしらのトラックを考える時、とりあえず紫の仕業に出来ます。例えば、「覚えている状態」と「忘れている状態」を操作し、対象の人物の特定の記憶に対して、その記憶へと至る思考の道筋との間に「境界」を創り出し、アクセスできなくするとか…