東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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今回から初めて物語が進みます。うひょおおお、書くぞ書くぞ書くぞー!



第126季/夏 紅魔館with完全永久瀟洒なメイド③(魔理沙視点)

 私が、紅魔館の図書館に盗み…こほん、魔導書を借りに行ってから、数週間が経った。

 

 あれから、季節はすっかり移ろい、春の柔らかな日差しは、全てを焼き尽くすかのような、真夏の太陽へと姿を変えていた。いかにもな夏真っただ中。暑くてとてもじゃないが、構わない。

 

「…よし、こんなもんか」

 

 そんな私は一人、家で満足げに頷いていた。

 

 目の前の机の上には、私がこの数週間、文字通り寝る間も惜しんで研究を重ねた、新しい魔法の数々。それが書き殴られた羊皮紙となって、散らばっている。

 

 きっかけは、霖之助が預かっていた、あの「レイボ」とかいうメイドからの、奇妙な置き土産だった。

 

『あっ、そうそう。彼女、今度君に渡したい本があるらしい。僕に渡しておくらしいから、今度受け取りに来なさい』

 

 その伝言通り、香霖から手渡されたのは、何もかもが墨で塗り潰されたかのような真っ黒な魔導書だった。膨大な魔力を感じたので、解析を進めていると、不意に頭の中から声が聞こえ、思わず飛び上がったのは内緒だ。

 

 声の主は、その魔導書に封じられた悪霊なのだという。

 かつては全人類への復讐を企んでいたそうだが、あまりに長い年月を悪霊として過ごすうち、その憎しみもすっかり消え失せてしまったらしい。それから、退屈しのぎに博麗神社へちょっかい(陰陽玉がなんとかとか言っていたが、よくわからなかった)をしてたところ、当時の巫女に怒られて、この魔導書へ封印されたそうだ。

 

 今ではすっかり毒気も抜かれ、魔導書の中から私にあれこれと助言をくれる頼もしい存在だ。

その深い知識と導きに敬意を払い、私はいつしか彼女のことを「師匠」と呼ぶようになっていた。

 

 そして、手首の捻挫もすっかり治った。

 その間の異変解決の主役を、霊夢に取られてしまったのは、正直、かなりの痛手だったが、まあ、いい。今の私の頭の中は、あいつのことだけで、いっぱいだからな!

 

 レイボ。

 

 あの訳の分からない力。そして、私の全力のマスタースパークを涼しい顔でいなしてみせたあのメイド服の姿。思い出すと、思わず唇を悔しさで噛みしめてしまう。だが、それ以上に私の心に火をつけていたのは、純粋な好奇心。あいつは、一体何者なんだろう。少なくとも、人間の里で見かけたことはないのだが…紅魔館に雇われる前は、私みたいに僻地に住んでいたのだろうか。

 

 まぁ、それは良い。勝ってから聞けばいい話だ。

 

 今日は、あの新入りメイドにリベンジを果たす時!

 

 私は、新しく改良したミニ八卦炉をぐっと握りしめ、師匠を懐に忍ばせる。じりじりと肌を焼く太陽の下、私は家を飛び出し、一直線にあの紅い館へと、箒を飛ばした。

 

 首を洗って、待ってろよ!レイボ!!!

 

◆◆◆

 

「…という訳で、だ。この間、ここで新しく雇ったレイボっていう新人のメイドに用があるんだが」

 

 門番の美鈴は、私の言葉に、こてんと首を傾げた。うだるような暑さのせいか、その動きはいつもよりさらに緩慢に見える。

 

「レイボさん…ですか?さあ、そのような名前の者は、紅魔館にはいませんよ」

 

「はあ?いるはずだろ!背は私よりも少し大きい程度で…メイド服を着た人間の!」

 

「ん…?メイドは、全員同じ制服を着ておりますし、そのような特徴の者も、私の記憶には…人間のメイドは咲夜さんだけです」

 

 埒が明かない。

 私は、美鈴との問答を早々に切り上げ、館の中へと進んだ。

 ひんやりとした館内の空気が、外との寒暖差でどうにも気持ち悪い。私は、廊下ですれ違う妖精メイドたちを捕まえては、レイボについて片っ端から聞いて回った。

 

「おい、お前!レイボってメイド、知らないか!?」

「れ、れいぼ様、ですか…?いえ、存じ上げません…」

「あんたは!?」

「ひぃ!わ、分かりません!」

 

 おかしい。

 まるで、口裏を合わせたかのように、誰もが「知らない」と首を横に振る。

 そんな馬鹿なことがあるか。あの日、あれだけの騒ぎを起こしたんだ。誰も覚えていないなんてありえない。まぁ、良い。その場にいたパチェリーやメイド長の咲夜なら絶対に知っているだろう。

 

「…何かお探し?魔理沙。あまり妖精メイドを虐めないでほしいんだけど」

 

 背後から、突然声がした。振り返ると、ちょうど探そうと思っていた咲夜が立っていた。

 

「咲夜!ちょうどいいところにきたな!お前のところのレイボっていうメイドはどこにいる!?」

 

「…あぁ、夕、、、レイボね……残念だけど、そのような名の者は、この紅魔館には過去、現在いついかなるときも雇ったことはないわ」

 

「いや、嘘つけ!今の空白は絶対に何か言いかけただろ!」

 

「何?勝手なら決めつけると言うの?何度でも言うけど、私は“レイボ”と言うメイドなんて知らないわ」

 

「ぐぬぬぬ」

 

 とりつく島もないとはこの事だろう。咲夜は、無表情のまま、ただ静かに私を見つめているだけ。その瞳には、何の感情も浮かんでいない。…いや、違う。その氷のように冷たい瞳の奥で、ほんの僅かに、楽しんでいるような光が揺らめいているのを、私は見逃さなかった。

 

(…こいつ、知ってるな。知っていて、わざと、とぼけてやがる!)

 

 こうなったら、言葉での問答は、無意味だ。

 

 幻想郷には、幻想郷の、やり方がある。

 

「…いいぜ、咲夜」

 

 私は、にやりと口の端を吊り上げた。

 

「お前が、そう言うのなら、こっちにも考えがある」

 

 私は、懐から、一枚の色鮮やかなカードを取り出した。

 

 スペルカード。

 

 この幻想郷における、全ての闘争のルール。

 

「スペルカードルールに則り、あんたに、弾幕ごっこを申し込む!もし、私が勝ったら、レイボの居場所を洗いざらいに吐いてもらうぜ!」

 

 私の宣戦布告に、咲夜は、初めてその表情を僅かに動かした。彼女は、ふぅ、と深いため息をつくと、やれやれ、とでも言うように、肩をすくめてみせる。

 

「…仕方のないわね、私は本当に知らないというのに、けど」

 

 咲夜の声には、呆れとほんの少しの闘志の色がにじんでいる。

 

「良いわよ。ちょうど、体を動かし勝ったところなの。紅魔館のメイド長として、その挑戦を受けてあげる。…ただし」

 

 咲夜がいつの間にか持っていた銀のナイフが煌めく。

 

「手加減はしないわよ?」

 

「望むところだぜ!」

 

◆◆◆

 

「じゃあ、こちらから。メイド秘技『殺人ドール』」

 

 咲夜の周囲に、瞬く間に数百、いや、数千はあろうかという、無数の銀のナイフが出現する。そして、その全てが寸分の狂いもなく、私という一点を目指して、殺到してきた。

 

「うおっと!」

 

 私は、咄嗟に箒で急上昇し、その銀の雨を回避する。ナイフの切っ先が、私のローブの裾を僅かに掠めていった。ひやり、と、背筋に冷たい汗が流れる。

 

 このままだと、押し切られるのは私の方。打破するためには、マスタースパークや新しく開発したスペルカードが必須。だが、それらは大きな溜めが必要となる、、、つまり…!

 

「次はこっちの番だぜ!魔符『イリュージョンスター』!」

 

(まずは無理矢理、隙を作る!)

 

 私は一枚目のスペルカードを使い、私そっくりの幻影を生み出す。

 

 幻影の私が、本物の私と寸分違わぬ動きで、箒にまたがり宙を舞う。咲夜の放った銀の雨は、二人に分裂した私を捉えきれず、その大半が床や壁に突き刺さった。

 

「小賢しい真似を」

 

 咲夜は、僅かに眉をひそめただけで、全く動じていない。それどころか、その瞳は、どちらが本物か、冷静に見極めようとしている。

 

 猶予は出来た…その間に魔力を…「そこね」なにっ!!!

 

 私が魔力を溜めようとした瞬間に、咲夜が幻影に惑わされずにナイフを投げてきた。

 

(魔理沙、魔力を溜めようとした瞬間にバレるぞ)

(わかってる!けど、どうしたら…)

(幻影を作る際に、魔力を多めに込めろ。後は、私がなんとかする)

(…くそ!…いや、そうだ!」

 

 師匠の力は借りずに、私の力のみで勝ちたかったところだが、負けてはレイボの手がかりを掴めない。

 

「魔符『イリュージョンスター』!」

 

「眩し!って、また同じ手?すぐにナイフだらけにしてあげるわ」

 

 咲夜は、私が閃光魔法と共に使用した二度目の幻影魔法を、心底つまらなそうに一蹴した。

愚かね、とでも言うように、彼女は、再び、その鋭い感覚を研ぎ澄ませ、魔力を溜め始めた()()()()を見極めようとする。

 

 だが。

 

「なっ…!?」

 

 初めて、咲夜の表情が驚愕に歪んだ。

 無理もない。彼女の、時さえも見通すかのような瞳には、今、ありえない光景が映っているはずだから。

 

(馬鹿な…!両方から…魔力が…!?)

 

 へへ、どうだ!

 師匠が、私が幻影を作り出す際に込めた魔力を、最初は完全に隠蔽し、そして今、私が魔力を溜めるのと、全く同じペースで、幻影の魔力を解放している。

 

 つまり、今の咲夜にはどちらも魔力を溜め始めたように見えている。実際、正解だしな!

 

「さあ、どっちが本物か、当ててみな!」

 

 私が、ミニ八卦炉を構える。

 幻の私も、私と全く同じように、その先端に、星屑の光を収束させ始めた。

 

「…くっ!」

 

 咲夜の顔に、焦りの色が浮かぶ。つまり、咲夜はスペルカードを切るしかない!

 

「幻象『ルナクロック』!」

 

 次の瞬間、夥しい数のナイフが二人の私に襲いかかった。

 

「残念、魔理沙。私の勝ち……って、なっ!!!」

 

 二枚目のスペルカードで出した幻影は二つとも本体ではない。私は二枚目のスペルカードと同時に使った閃光魔法で、一瞬の隙を作り、咲夜の後方に待機。

 

 咲夜が幻影の私と戦っている間に、私は魔力を溜める。そして、その溜められた魔力は師匠が隠蔽。咲夜がスペルカードを使った後に、私の一撃をお見舞いするって寸法だ。

 

「悪いな、咲夜!私の勝ちだぜ!」

 

 師匠の魔法の猿真似だが、それでも威力は十分。私のミニ八卦炉の先端に星々の光とは違う、もっと禍々しく、どこまでも純粋な漆黒の魔力が収束していく。

 

「『Incomplete Darkness』!」

 

 全てを飲み込む漆黒の彗星が、驚愕に立ち尽くす咲夜へと吸い込まれるように、放たれた。

 




最初の悪霊云々はフレーバーで、魔理沙の強化パーツだけのつもりでした。余程の事がなければ、出ることはなかったはずで、出たとしても外伝だったんです。こんの悪霊、勝手に動きやがる。

魔理沙の理詰めで戦う様を伝えれたら嬉しいです。霊夢は感覚なので、どうしても描写が難しい。




最近、少し余裕が出来たので執筆してるんですが、普通にネタ切れ。ちょっとモチベのために感想や評価ください。頼みます。
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