東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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今回も続いて、魔理沙視点です。

…データ入力とかしんどすぎる。


第126季/夏 紅魔館withカリスマお嬢様!③(魔理沙視点)

 轟音と共に、漆黒の光が、咲夜の体を完全に飲み込んだ。

 やがて、その光が収まった後。

 そこには、壁に背を預け、片膝をつき、荒い息を繰り返す咲夜の姿があった。彼女の完璧だったメイド服は、所々が焼け焦げ、その手から数本のナイフが、からんと力なく滑り落ちる。

 

「…言っただろ、咲夜。私の作戦勝ちだぜ」

 

 私は、少しだけ息を切らしながら、箒から静かに降り立った。

 

 咲夜は、悔しげに唇を噛み締めながら、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、敗北の悔しさが浮かんでいた。

 

「…ええ。ええ、そうね。参ったわ…」

 

 咲夜は、静かに敗北を認めた。

 

「約束通り、教えてもらうぜ。レイボはどこにいる?」

 

「さっきから言ってる通り、私はレイボというメイドは知らないわ。そうね、ただお嬢様なら何か知っているかもよ」

 

「…ちょっと待て、この間紅魔館で雇っていた人間のメイドは誰だよ」

 

人間…ねぇ。あの人を人間って言っていいもんなのかしら。それもお嬢様に聞いてみなさい。私としては、魔理沙を執務室に呼ぶようにしか言われてないから」

 

 思わせぶりな言葉。

 咲夜は、ふらつきながらも、壁を伝って立ち上がると、能力を発動させたのか、次の瞬間には小綺麗な服装に戻っていた。散らばっていたナイフも全て無くなっている。

 

「…お嬢様は、貴女を待っているわ。さっさと行きなさいな」

 

(…最初から、そのつもりだったってのか?)

 

 私の脳裏に、あの全て(運命)を見通したようなレミリアの不敵な笑みが蘇る。

 なるほど。つまり、この弾幕ごっこも、あの吸血鬼のお嬢様の手のひらの上だった、という訳か。

 

 全く、食えない奴らだぜ。

 

 私は、息を整えると、咲夜が指し示した館の最上階へと続く長い長い螺旋階段を、駆け上がった。

 

 

 執務室の扉を、私は、もはや叩くこともせず、乱暴に開け放った。

 部屋の中央、豪奢な椅子に座るレミリアは、優雅に紅茶を飲んでいたが、私の姿を認めると、楽しげにくすりと笑った。まるで、私の到着を待ち構えていたかのように。

 

「咲夜に勝ったんですって?やるじゃない、魔理沙」

 

 その見ていたかのような物言い。やっぱり、私が咲夜に弾幕ごっこを仕掛けるところまで予測していた…いや、レミリア風に言うのならば「見てた」のだろう。あいつの能力は『運命を操る程度の能力』なら、そういうことが出来てもおかしくない。ただ、フランの言っている通り、判るふりをしているだけの可能性もあるが…まぁ、いい。

 

「とぼけるな、レミリア!レイボは、どこにやった!」

 

「レイボ?さあ、そんなメイド、いたかしら?」

 

 レミリアは、どこまでも、白を切るつもりのようだ。だが、その赤い瞳は、全てを知っていると雄弁に語っていた。そもそも、私はレイボの事をメイドと言っていない。だが、レミリアにはレイボ=メイドという図式が成り立っている。つまり、レミリアはレイボについて知っている。

 

 私は、ミニ八卦炉をレミリアに向けた。

 

「お前がそう言うのなら、私に無理にでも教えたくさせてやる」

 

「ふふ、面白いじゃない」

 

 レミリアは、椅子から、ふわりと宙に浮かび上がる。その背中の、大きな悪魔の羽が、嬉しそうに、一度だけ大きく羽ばたき、レミリアは背後にある窓から外へと飛び降りた。

 

「貴女が、私を楽しませてくれるというのなら、少しだけヒントをあげてもいいわよ?」

 

「やっぱり、知ってるじゃないか!」

 

 挑発的な言葉。私は、にやりと口の端を吊り上げる。

 

「望むところだぜ!」

 

 こうして、私のレイボを巡る二度目の戦いの火蓋が、切って落とされた。この面倒な吸血鬼のお嬢様を、さっさと片付けて、必ずあいつの正体を暴き出してやる!

 

 

「まずは、挨拶代わりよ!暗符『ダークレッド・サン』」

 

 いきなりのスペルカード。レミリアが腕を広げると同時に、夕焼けのような茜色に染まった十字架型の光の弾幕がそこらかしこに設置される。私の逃げ場を減らしたか。

 

 後ろを向き、弾幕をどこに設置したかを把握しておく。紅魔館の上空。分厚い雲が太陽を隠している。まさに、吸血鬼のための舞台。日光によるダメージは期待できそうにない。レミリアは、まるで夜会で舞う貴婦人のように、優雅に宙を舞っている。

 

「ふふ、どうしたのかしら、魔理沙。もう手も足も出ない?」

 

 …紅符『不夜城レッド』と似ているが、あれはレミリアを中心に十字架が回るスペルカードのはず。…レミリアの事だ。私の逃げ場を減らしただけではないだろう。

 

「ふふ、どうしたのかしら、魔理沙。もう手も足も出ない?」

 

「うるさいぜ!こっちは、あんたと違って、頭を使ってるんだ!お返しだぜ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 私は、レミリアの本当の狙いを探るため、牽制のつもりで、星屑のような無数の光弾を雨のように降らせる。

 

「ふふ、そんなもの」

 

 レミリアは、弾幕を鬱陶しい虫でも払うかのように、片手でいつの間にか取り出した槍をぶん回して、防いでみせる。

 

 だが、その一瞬、彼女の瞳が、僅かに私の背後の何もない空間へと向けられたのを、私は見逃さなかった。

 

(…なるほど、そっちか!)

 

 この弾幕の本当の狙いは、誘導。

 私の退路を断ち、私をある一点へと、追い込むための罠だ!

 

「天罰『スターオブダビデ』!」

 

 私の思考を読んだかのように、レミリアが次なるスペルカードが展開させる。彼女の周囲に、巨大な六芒星の魔法陣が出現し、そこから、レーザーのように鋭い、無数の弾幕が、私を容赦なくその鳥籠の奥へと追い詰めてくる。

 

「くそっ!」

 

 私は、箒を巧みに操り、その光の網をギリギリですり抜けていく。だが、もう逃げ場はない。私の背後は、最初に設置された十字架の弾幕の壁。

 

「これで、終わりよ、魔理沙!」

 

 レミリアの勝利を確信した声。

 

 だが、私もただ追い詰められていただけじゃない。

 

「遅いぜ、レミリア!」

 

 私は、にやりと笑うと、背後の十字架の壁に向かって、振り返りもせずにミニ八卦炉を構えた。

 

「なっ…!?」

 

 レミリアのにやけた表情が、驚愕に歪む。

 

「お前が、私をここに追い詰めたかったのは分かってたぜ!だったら、やることは一つだ!」

 

 私の狙いは、最初から、レミリア自身ではない。この面倒な十字架の壁を破壊するのと同時に、レミリアに距離を詰める!それに、アレの方向はこちら側!

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

 私は上向きにミニ八卦炉を薙ぎ払う。

 

 全てを薙ぎ払う極太の光の奔流が、私の背後で炸裂した。十字架の弾幕は、私の渾身の魔砲を受けて、ガラスのように砕け散る。私は、その爆風を利用して、一気にレミリアとの距離を詰めた。

 

「な、生意気な…!」

 

「さあ、どうする、レミリア!お前の自慢の鳥籠は、もうないぜ!」

 

「だが、接近戦なら私の方が強いわよ!」

 

「あぁ…近距離なら私はお前に勝てない。だから他のものを利用させてもらうぜ」

 

「何を言って…」

 

 レミリアが、私の言葉の真意を測りかねて、一瞬戸惑いの表情を浮かべた。紅魔館の上空を覆っていた分厚い曇天。そこにあるはずがない“切れ目”。

 

 そして、そこから現れたのは――

 

「なっ…!たい、よう…!?」

 

 雲の切れ間から容赦ない日光が、一条の槍となって、レミリアの体を寸分違わず貫く。

 

 吸血鬼の弱点。絶対的な太陽の光。

 

「っち!」

 

 レミリアは急いでその場から逃げようとする。私に攻撃をする暇はなく、私が魔力を溜めている事にも気づかない。

 

「悪いな、レミリア。あんたが、曇り空を味方につけるのなら、私は太陽を味方につけるまでだぜ。これでお終いだ!天儀『オーレリーズサン』!」

 

 天儀『オーレリーズサン』、魔力の消費が激しく、なかなか使う機会がないスペルカード。私の周りを、紫色の八つのビットがそれぞれ違う距離で周囲を時計回りに周回すると言うもの。ビットはそれぞれ、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星を表している。

 

 では、その中心にいる私は何か?

 

 答えは誰もが知っている星。そう、太陽だ。熱量は何千、いや何万分の一もなく、本物には到底及ばない。だが、魔術的にはれっきとした太陽だ。吸血鬼を焼く程度十分な火力!

 

 私がそのスペルカードを発動させると同時、私の周囲を公転する八つの惑星(ビット)から、凝縮された魔力の光線が、一斉に放たれた。八つの光線は、単なる直線的な攻撃ではない。互いに連携し、時に軌道を湾曲させ、レミリアの逃げ道を的確に、そして執拗に塞いでいく。へへ、先ほどまでレミリアが私に対して行っていたことの意趣返しだ。

 

「…!こんな、子供騙しの太陽で…この私が…!」

 

 レミリアは悪態をつきながら、槍を回転させて光線を弾こうと試みる。だが、一本を弾けば、別の角度から二本、三本と光の槍が突き刺さってくる。

 

「きゃあっ!」

 

 ついに一筋の光が彼女の大きな悪魔の羽を掠め、ジュッと肉の焼ける耳障りな音を立てた。バランスを崩したレミリアの動きが、ほんの一瞬、鈍る。その致命的な隙を、私が見逃すはずがない!

 

「終わりだぜ、レミリア!」

 

 残りの光線が、一点に収束する。もはや回避は不可能。光の奔流が、レミリアの体を真正面から飲み込んだ。

 

やがて、眩い光が収まった時、そこに立っている者は誰もいなかった。力なく落下していく、小さな紅い影。私はすぐさま箒を飛ばし、地面に激突する寸前のレミリアの体を、やんわりと受け止めた。

 

 

 紅魔館のバルコニーに、静かに降り立つ。

 腕の中でぐったりとしていたレミリアは、ゆっくりと目を開けた。その体は所々が焼け焦げ、カリスマの欠片もない。

 

「……私の、負けね」

 

 悔しさを滲ませながらも、レミリアは潔く敗北を認めた。

 

「ああ。私の勝ち、だな」

 

 私は、にっと笑いかける。そして、一番聞きたかったことを、もう一度、彼女の赤い瞳を真っ直ぐに見つめて、問いかけた。

 

「約束通り、教えてもらうぜ。レイボはどこにいる?」

 

 レミリアは、ふっと息を吐くと、諦めたように小さく笑った。

 

「…分かったわよ。…全く、貴女は本当に諦めの悪い人間ね」

 

 その言葉は、もはや白を切るためのものではない。全てを知った上での、呆れと、そしてどこか楽しげな響きを含んでいた。

 

「さあ、中に入りなさい。約束通り、あの子の…レイボの事を、話してあげるわ」

 

 こうして、私の二度目の戦いは、ようやく幕を閉じた。

 あとは、この吸血鬼のお嬢様から、全ての答えを聞き出すだけだ。私は、逸る気持ちを抑えながら、レミリアに続いて、再び館の内部へと足を踏み入れた。




次回も魔理沙でしょうなぁ

もう少しでリアルの多忙が消える予定です。ほんとかなぁ?

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