朝起きると、横にはこいしちゃんの寝顔が。
昨日の晩は床で寝たはずなのですが、いつの間にか布団に引き込まれたようです。温かくて、二度寝をしたくなりますが、気合いで起きます。
優しい子ですね。
体を起こすと、想像よりも体の痛みがなく、二日酔いもそこまで酷くありません。なかなかのコンディションです。
朝の支度とこいしちゃんのための朝ごはんを用意し、能力でシアターのフィルムを回しておきます。
ふむ、旧友との約束は夕方から、まだまだ時間はありますね。羅万館の店番でもして暇を潰しましょう。
店番をして早1時間。やはりと言うか、だーれも来ません。
昨日、鈴奈庵で借りた本を読んでいると、こいしちゃんが挨拶に来ました。
「おはようございます。こいしちゃん」
「うん、おはよ夕雲。朝ごはん美味しかったよ」
「どういたしまして」と返し、これからの予定を聞きます。どうやら、久しぶりに地霊殿に行き、お姉ちゃんに会いに行くとのこと。
「じゃあ、行ってきます!」
とても元気な声で挨拶をし、彼女は羅万館を出ました。うんうん、元気な事は良いことですね。幼子は元気でいるのが一番ですからね。
しばらく時間が経ち、日中の時間帯になって、ようやく一人目のお客様がやってきたのか、扉を開く音がします。
「おや、またサボりですか。流石はサボマイスタ」
「開始早々、辛辣だねぇ。まぁ、サボりなのは否定できないんだけどさ。あたいにも休む時間が欲しいわけよ」
最近、仕事多くてねーとボヤきながら彼女は私の前に来て、テーブルに体を倒します。
彼女は死神の小野塚小町。一応、この店の常連の一人です。なぜ一応なのかと言うと、彼女は映画を見るために羅万館に来てるのではなく、サボるために来ているからですね。
「お疲れ様です。けど、ちゃんと休暇は映姫さんに伝えなさいね」
「うへー、またウチのボスに叱られるぅー」と身をよじります。
…確かに、サボる事による背徳感などが楽しいってのはわかりますが、それにしてもサボりすぎなのでは?
私はサボるのが主目的ではなく、実は映姫さんに叱られるのが目的なのではないか?と密かに推測してます。
あれですね。幼少期によくある好きな子に悪戯して、構って欲しいみたいな、構って欲しい症候群。少なくとも小町には叱られて堪えてる様子はほとんど見られません。
冗談はさておき、小町は仕事多い映姫さんを自分がサボる事により、散策で運動させるのに加え、ついでにリフレッシュさせる事を狙っているのでしょう。
それに映姫さん、説教好きですし。怒られる要因を作って、彼女の説教欲を抑えようとしてたりしてるのかもしれません。なんとも涙ぐましい努力ですね、その程度で彼女の説教欲は抑えられない…いやほんと私にまで飛び火するのはやめてもらいたいです。
私の勘では大体の比率は、サボりたい欲が5、構って欲しい欲が3、彼女を想う気持ちが2ってとこです。
「それで、今日は何をしに来たんです?」
「サボり」
「いや、そうではなくてですね」
「ほんとに予定は無いんだよ。なんとなくここに寄ろうと思ってね」
私にウインクしながら「ついでに夕雲に会いたかったからね」と口が上手い事を言います。
「そんな事言っても出るのは精々がジュースですよ」
「やりぃ」と嬉しそうな顔の小町に、葡萄ジュースを渡し、最近の話を聞きます。
「最近かぁ、映姫様に変な仙人の監視を頼まれたぐらいかな」
まだ会ってないから、そこまでその仙人のこと知らないけど…とぼんやりとした目で言います。
「そっちは?」
「おかげさまで、いつも通りの日常を過ごしてますよ。特段変わったことはありませんね」
ふーんと適当な相槌を打ちながら、小町が言います。
…この子、ほんとに疲れてるのがわかりますね。いつもならもう少し賑やかなのですが、元気がありません。
「小町」
「ん、なぁーに」とポヤポヤした顔で聞き返してきます。
かなり、深刻かもしれません。
「だいぶ疲れているみたいですね」
「そうね、最近妙に霊の数が多くて、外の世界でなんかあったのかね」
「ご苦労様です。ほら、疲労回復のジュースですよ」
そう言い、私は睡眠薬を入れたジュースを彼女に振舞います。
ええ、嘘は言っていません。疲労回復には寝るのが一番ですからね。
それに、こう言う輩に限って疲れている癖にそれを自覚せず、集中力の欠けた状態でミスをするもんです。
どうせすぐ眠りそうなので、問答を省き、さっさと眠らせます。
私は眠らせるための努力をしなくて済む、小町は時間を目一杯使って眠る事ができる。うん、両者が得する平和な世界。
それから、5分も経たない内に小町が完全に寝ました。彼女をカウンターからこいしちゃんが使っていた布団に移動させ、寝かせます。
あとは、回収しにくるであろう彼女の上司に一筆したためておきましょうか。
それからしばらく店番をしましたが、お客さんは来ませんでした。
そろそろ時間なので、準備をして、妖怪の山に行きますか。
うーん。とりあえずお酒は必要ですね。
ついでに屋台で八目鰻でも買いましょう。他にも自分で作ったおつまみを少々持っていけば十分です。
さ、我が旧友の茨木華扇の家に向かうとしますか。
…気づくと、あたいは布団の中にいた。きっと、夕雲が寝てしまったあたいをここまで連れてきたのだろう。
夕雲、あたいの大切な友人について考える。
何年も前、それこそ3桁を超える年からの知り合いである彼女だが、仙人のように寿命を伸ばしてるわけでもなく、天人のように不老長寿と言うわけでもなさそう。
上司である映姫様が敬語で話していることから、実はかなり偉い人なのではないか?と疑っているが、真相は不明。
まぁ、さほどそこまで興味はない。夕雲が何者であろうとあたいのサボりの聖域である事には変わらないからだ。
なぜそんな事を言えるのかと言うと、なんというか、彼女は温かいのだ。もっと言うならばお母さんのような雰囲気を醸し出してる。
少々、強引なところもあるが、それもあたいのことを気遣ってのことだし、あたいもそれを甘んじて享受する。それがどうにも心地が良くて、月に2回は必ずここに来てしまう。
しかも、羅万館はそれほど人が来ないのがとても良い。彼女を独り占めできるからね。
そんな他愛の無い事をつらつらと考え、一度大きな背伸びをした後、ふと窓に目を向ける。
…今更、気付いたのだが、やけにこの部屋が暗い。
夕雲は部屋の窓から見える景色が好きなため、景色を遮るものはなく、精々が障子がある程度。いつの日か夕焼けがこの部屋を紅に染めて、美しかったのを覚えている。
嫌な予感がし、外の様子を伺う。
完全に夜になってるね、こりゃ。
「おはようございます、小野塚小町さん」
あたいを「小野塚小町」と呼ぶ者は基本いない。精々が初対面の人と、ちょい怒りの夕雲、最後にかなりキレてる私の上司。
「まさかまさか、またもや仕事をサボって、夕雲様のお部屋にいらっしゃるとは…」
あたい、後ろ向くのが怖い。
「ちょっと、聞いているのですか。小町」
「は、はい、映姫様」
「とは言え、夕雲様から《小町は仕事多くて、疲れて眠っちゃったみたい。少し休ませてあげて》と手紙に書いてあったので、この事については情状酌量の余地があるとし、今回に限りお咎めなしです」
ありがとう夕雲!と心の中で思ってると、
「そして、小町。夕雲様から教えてもらったのですが、どうやら寝言で私の名前を呼んでたらしいですよ」
いったいどんな夢を見てたんでしょうね?と聞く映姫様の声が聞こえてくる。
ほへ?
思考に空白ができ、しばらくしてようやく映姫様の言っている事を理解した私は顔が真っ赤になる。
夕雲!!!何言ってるの!!!!
「ちょっと、映姫様。冗談ですよね!」
「ふふ、早く帰りますよ」
あたいは恥ずかしさのあまり映姫様の顔が見れず、いそいそと帰るための準備をするのだった。
「もう、ほんとしょうがない小町ですね」
と呟く閻魔の耳がほのかに赤かったのは月だけが知っている。
魔理沙だって、ちょっと毒があるキノコを友人に振る舞ったりするからのだから、善意からの行動で疲れてる友人を一服盛って寝させるのもセーフなのでは?
…いや、それでも独善的だな、この主人公。けど、こういうキャラ好きなんですよ。有無を言わさず、相手のことを気遣うキャラ?