東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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今回大苦戦しました。癖(カプ厨)を出していいのか、それとも原作に従うのかで永遠に苦悩してました。

それと、プロジェクトが潰れたので執筆の時間が増える予定です。あくまで予定ですが。喜べばいいのか、今までの時間はなんだったのかと嘆けばいいのか。感情がぐちゃぐちゃです。


第126季/秋 八目鰻の屋台with岩傘暗殺真犯人

 陽気なテーマソングと共にエンドロールが流れ終わり、シアター室の照明がゆっくりと明るくなります。その隣では、早苗さんが「ふあ〜!」と大きな伸びをしていました。

 

「あー、面白かったです!やっぱり名作ですね、ゴーストバスターズ!」

 

「ええ、本当に。早苗さんが楽しんでくれたようで何よりです」

 

「はい!夕雲さん、今日は本当にありがとうございました!おかげで、すっごく素敵な一日になりましたよ!」

 

 満面の笑みで言う早苗さんに、私は空になったお皿を片付けながら、悪戯っぽく切り出します。

 

「それで、お代のことですが」

 

「あ!そ、そうでした!えーっと、おいくらでしょう…」

 

 慌てて懐を探り始める早苗さんに、私はくすりと笑って首を振りました。ここで、水を差すのもなんか悪いですしね。

 

「…もう、今日だけですよ?私のおごりです」

 

「え、でも、そんな!…わかりました!じゃあ、そのお礼に、今度美味しいお酒を持ってきますね!約束です!」

 

「ふふ、楽しみに待っています」

 

 私たちは一階に戻り、店の入口へと向かいました。外はいつの間にか、日が沈み、夜になっていました。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼します。今日は本当に、ありがとうございました!」

 

「ええ。帰り道、お気をつけて」

 

「はい!また遊びに来ますね!」

 

 深々とお辞儀をした早苗さんは元気に手を振りながら、守矢神社へと帰っていきました。その姿が見えなくなるまで静かに見送った後、私は一人、店の中に満ちる月の光と静寂に身を浸します。

 

 忘れてしまった過去への恐怖に苛まれていた今日の始まりが、嘘のようです。彼女の天真爛漫さに触れて、淀んでいた心が少しだけ晴れた気がしました。

 

 …もっとも、この穏やかな気持ちさえ、いつか何かの代償として消えてしまう日が来るのかもしれませんが。まぁ、気にしたら負けです。今はノーテンキに行きましょう。人間は嫌なものに蓋をする生き物ですからね。

 

「さて、と…」

 

 感傷を振り払うように小さく息を吐くと、途端にお腹が「くぅ」と鳴りました。そういえば、今日はおやつだけで、ご飯を食べていないのでした。安心したら、お腹が空くなんて面白いです。そうですね…今日はルーミアも来なさそうですし、どこかで外食をする事にしましょう。

 

 簡単な戸締まりをして羅万館を出ると、私は名前のない平原へと足を向けます。

 

 しばらく歩くと、森の奥から賑やかな歌声と、温かな提灯の明かりが見えてきました。

 

 夜雀の妖怪、ミスティアが営む屋台です。

 

「――今日も一日お疲れ様!さあさあ、飲んでって!食べてって!」

 

 彼女の歌声に誘われて集まった妖怪たちが、楽しげに酒を酌み交わしています。私がそっとカウンターの空いている席に座ると、割烹着姿のミスティアさんがすぐに気づいて声をかけてきました。

 

「あら、夕雲じゃない!いらっしゃい!今日は何を頼む?」

 

「ええ、少しお腹が空きまして。何か温かいものとお酒をいただけますか」

 

「はーい!任せといて!とびっきりの八目鰻、焼いてあげるからね!」

 

 威勢のいい返事を聞きながら、私は屋台の喧騒にそっと身を預けます。

様々な妖怪たちの笑い声を聞きながら、今日という一日を静かに反芻する。そんな夜も、たまには悪くないものですから。

 

「はい、夕雲。注文したものね」

 

 お盆に乗った熱々の八目鰻と、なみなみと注がれた雀酒が私の前に置かれます。その香ばしい匂いに、空腹がさらに刺激されました。駆けつけ一杯とばかりに杯を乾かし、鰻で舌鼓を打ちます。

 

 そうして、妖怪たちの騒ぎを酒の肴にしていると、突然、隣に誰かが座りました。

 

 いけませんね。隣に座られるまで気づかないなんて。相当酔ってる。

 

「そこのお嬢さん、お隣いいかい?」

 

 おや、この少しぶっきらぼうで、けれど芯のある声は…

 

「ふふ、もう隣に座ってるじゃないですか。妹紅さん」

 

 声の主――藤原妹紅は、私の返事を聞かずに、無言で隣の席にどかりと腰を下ろしました。何年経っても変わらぬ、白い髪と赤い瞳。彼女もまた、私と同じく、永い時を生きる者です。

 

「ミスティア、こいつが飲んでいるのと同じやつもらえる?」

 

「はーい!」

 

 ミスティアさんに短く注文を告げると、妹紅さんはこちらにちらりと視線を向けました。

 

「あんたがこんな場所に来るなんて、珍しいな。店の引きこもりが板についてたと思ったが」

 

「ふふ、人聞きの悪いことを言いますね。たまには外の空気を吸いたくなる時もあるのですよ。あなたこそ、竹林の見回りはもう終わったのですか?」

 

「ああ。今日は特に面倒ごともなく、な。…それにしても、相変わらずだ、あんたは。息災なようでなによりだよ」

 

 その言葉には、呆れと、そしてほんの少しの安堵が滲んでいるように聞こえました。変わらないものがここにある、という安堵。それは、永すぎる生を送る者にとって、一種の救いなのでしょうね。

 

「妹紅さんもつつがなく過ごしているようで…そういえば、今日は珍しい客人が来ましてね。守矢のところの風祝が、私の店に迷い込んできたのです」

 

「ああ、たまに竹林にも来てるな。外の世界から来た割には、妙に肝が据わってる」

 

「ええ、本当に。見ていて飽きない子ですよ」

 

 新しい顔も、古い顔も、ただの人間ならば、いずれはいなくなる。私や目の前にいる彼女のような存在を置いて。熱いお酒を一口含み、そんな感傷が胸をよぎった時、妹紅さんがぽつりと呟きました。

 

「…忘れちまうか、忘れられるか。どっちがマシかね」

 

「…どうしたのです、藪から棒に」

 

 ちょうど、私が今日考えていた事と似ていたため、一瞬言葉が詰まりました。

 

「いやな。最近、妙に昔を思い出すことが多かったんだが…大切だった人の顔がボンヤリとしてきてな…」

 

 妹紅さんは、ミスティアさんから受け取ったお猪口をぐいっと呷り、乱暴に置きました。その横顔には、普段のやさぐれたな雰囲気とはまた違う、どこかやりきれないような色が浮かんでいます。

 

「記憶の盃には、どうしたって底に穴が空いているものです。満たしても、満たしても、そこから零れ落ちていく…私も、よく知っている感覚ですよ」

 

 私の言葉に、妹紅さんは少し意外そうな顔でこちらを見ました。

 

「あんたも、か。てっきり、神様だし、何もかも覚えてるもんだとばかり」

 

「とんでもない。私の場合、あなたよりもっと厄介かもしれません。知らないうちに、誰かが私の盃から中身を掬い取っていくようなものですから」

 

 私はカウンターに置かれた日記帳のことを、心の隅で思い浮かべます。

 自分の意思とは関係なく、代償として奪われていく記憶。その喪失にさえ気づけない恐怖。

 

「…そりゃ、気味が悪いな」

 

 妹紅さんは心底嫌そうに顔を顰めました。

 

「私の場合は、ただ古くなった記憶の引き出しが、埃を被って開かなくなるだけだ。だが、あんたのは…引き出しごと盗まれていくようなもんか」

 

「ええ、的確な表現ですね。だから、時々怖くなるのですよ。忘れてしまった引き出しの中に、本当は一番大切なものが入っていたのではないか、と」

 

 私たちの間に、再び沈黙が落ちました。熱い八目鰻から立ち上る湯気だけが、ゆらゆらと揺れています。永い時を生きる者同士、言葉を尽くさずとも、互いの孤独の輪郭が手に取るようにわかる。そんな不思議な感覚でした。

 

 やがて、妹紅さんはふっと息を吐いて、空になったお猪口を掲げました。

 

「…まあ、いい。忘れちまっても、忘れられても、腹は減るし、酒も美味い。今はそれで十分だろ」

 

 その言葉は、まるで自分に言い聞かせているようでもありました。

 

「ええ。そうですね」

 

 私も、彼女に倣ってお猪口を掲げます。

 カチン、と二つの盃が心地よい音を立ててぶつかりました。

 

「今日のこの夜に」

 

 どちらからともなく、そう呟いて。

 私と妹紅さんは、騒がしい妖怪たちの喧騒の中、ただ静かに、それぞれの長すぎる夜のための酒を酌み交わすのでした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 それから、どれくらいの時間が経ったでしょう。

 屋台のカウンターには、空になったお猪口や徳利が、まるで戦の後のように乱雑に転がっていました。周りの妖怪たちはいつの間にかまばらになり、潰れている妖怪もちらほら。

 

 そんな中、私と妹紅だけが、顔を真っ赤にしながらもまだ杯を重ねていました。

 

 思考は、アルコールでふわふわと、ちょうどいい感じで、心地よく蕩けています。先ほどまで話していた、記憶の喪失に関する、重い話など、もう、どこか遠い世界の出来事のようでした。

 

「…ひっく。それでですね、妹紅さん」

 

 私は、呂律の回らない口で、上機嫌に語りかけます。

 

「うちの霊夢はですね、普段は、あんな風に、ぐうたらで、面倒くさがりで、賽銭のことしか考えていない、どうしようもない巫女なのですが…」

 

「…ああ、知ってる」

 

「ですが!いざという時は、やるのですよ、あの子は!あの、神霊廟での戦い!貴女にも、見せてあげたかった!神となった聖徳太子を前にして、一歩も引かず、自らの全てを賭して、立ち向かっていった、あの、凛とした姿!ああ、思い出しただけで、涙が…」

 

「その話、今日だけで三回目よ」とミスティアが言っているような気がしますが、そんなのはどうでもいいです。いいじゃないですか!好きなものなんて何度話したって!私は、霊夢について、話したいんだぁ!!!!!

 

 …今度、しばらくぶりに友人の神たちと語り合いたいですね。最近、妙に忙しくて、行けてないですから。まぁ、今は霊夢がいるので、だいぶ楽できてますけど。予後策でやる真似事はもう御免です。なんで、自分で自分を奉らなきゃいけないのだが、あほくさい。

 

「あぁ、霊夢。あんなに大きくなっちゃって。くぅぅぅううう、悔しい!悔しい!!!なんで、私はあの子の成長を間近で見えなったんですか!!!あんなに身長も伸びちゃって。もっと一緒にいたいですう!!!!」

 

 私が、カウンターに突っ伏して、子供のようにわんわんと泣きじゃくっていると、隣で黙って酒を飲んでいた妹紅が、ぽつり、と呟きました。

 

「かぐやも、そうだ」

 

「へぇ」

 

 妹紅さんが輝夜の事を褒めるとは珍しい。今度、この話を輝夜にしてあげましょう。…それと、輝夜もべろんべろんに酔わせて、妹紅の事をどう思ってるか聞き出しのも面白そうです。へへ、今度、永遠亭にお酒を持って、突貫しますか。

 

「あいつは、引きこもりで、我儘で、すぐに人に暇つぶしと称して、無理難題を吹っかけてくる、どうしようもない姫だが…」

 

 妹紅さんは、どこか、遠い目をして、言葉を続けます。

 

「…ああ、そうだ。あいつは、いつだってそうだ。私が死ねば、勝ち誇ったように笑いやがる。…だがな、あいつがそうやって笑ってくれるから、私は、また次の朝日を拝む気になれるんだ。あの澄ました顔を歪ませてやろうって。皮肉なもんだろ。あいつを外に出すのは私が良かったなぁ

 

「…ほう。貴女、中々に、重症ですね」

 

「…夕雲だって、人のことは言えんだろうが」

 

「はぁ?妹紅よりはマシですよ。それに、私の場合は、師として、親として、当然のことでして」

 

「…なんだと?人間下手なくせに。もう少し愛情を見せてやれは良いのに」

 

「なんですって?それはあんたもでしょう。やーい、似非不良!根がいい人なのが、透けて見えますよー!」

 

「…やんのか、こら」

 

「ええ、望むところですよ」

 

 私と妹紅さんは、互いに、ふらふらと立ち上がると、ぎろり、と睨み合います。屋台の喧騒が、ぴたり、と止まりました。周りの妖怪たちが、固唾を飲んで、私たち二人を見守っています。

 

「…ミスティアさん」

「はいはい」

「この勝負、私が勝ったら、勘定は、この女のツケに、回しておいてください」

「へぇ、言うじゃないか。ミスティア、私が勝ったら、こいつのツケでこの屋台で一番のお酒を出してくれ」

「はいはい」

 

 ミスティアは、心底、面倒くさそうに、そう答えました。

 

「「…いざ、尋常に!」」

 

 その言葉と同時に、私と妹紅さんは、互いに杯を持ちます。私たちが殺し合いなんてしたら、泥仕合になるのは確定。勝負はいつもの飲み比べ。

 

 さぁ、私の飲みっぷりについてこれるか――!

 

 ばたり。

 

 と、ほとんど同時に、その場に倒れ込みました。

 ええ、そうです。二人して飲みすぎで、意識を失ってしまったのですね。

 

 後に残されたのは、静まり返った屋台と、「…勘定、どうすんのよ、これ」と、頭を抱える哀れな夜雀の姿だけだったのでした。

 

 

 




夕雲と妹紅はお互いに「こいつ、全然姿変わらないな」と思ってました。
ちなみに、出会いは、夕雲が仕事からサボる際に、紫の目から逃げるために結界が貼られている、迷いの竹林にある永遠亭で時間を潰しており、そこからの帰り際で妹紅と出会ったみたいな…のを想定してます。

後半、酔っぱらってることを出すために読点多めにしたのですが、読みづらいなこれ。
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