瞳に焼き付いた映像が流れる。
アーミヤお姉ちゃんと遊んだ映像…共犯者と、テレジアさんについて話したり、アーミヤお姉ちゃんと一緒にテレジアさんに絵本を読んで貰ったりする映像。
そんな光輝く映像の中でも一際、どす黒く濁った映像が最後に再生される。
それは、僕が未熟だった証で…一生消えない傷跡だ。
その日は、僕は何時もより体調が悪く…一人で病室で横になっていた。
だけれど、何時もと違う音とドクターやアーミヤお姉ちゃんが来てくれないという不安に駆られて、僕はテレジアさんに会いに行ったんだ。
脚を引きずりながら頑張って走って行ったそこには見ず知らずの人達が白い部屋を赤く染め、母親のようなテレジアさんの純白のドレスがどす黒い赤に染まり、黒い剣をアーミヤお姉ちゃんに突き刺す瞬間だった。
何が起こったのかその日の僕には分からなかった。ただ、その血の匂いで、テレジアさんが死んでしまうとだけは…分かったのだ。
それが、僕には耐え難い苦痛でそんなこも信じたくなくて二人の元へ歩いた。
その時、僕に気がついたテレジアさんの悲痛な顔が…震える声が未だに脳裏に残っている。
そこからは、何も覚えていない。
ただ、僕はなにも出来なかった…それだけが僕の心に残り続けた。
卓越したアーツがあるのにも関わらず、共犯者にテレジアさんのことをよく見ておいてと言われたにも関わらず。
何一つ、出来なかったんだと。
もしも、僕が、早く気づいていれば…テレジアさんも守れたかもしれない、アーミヤお姉ちゃんに重荷を背負わせる必要もなかったかもしれない─。
僕のせいで…僕のせいで─。
そんな罪悪感と、無力感が僕の心を埋め尽くす。
そして、また今日も目が覚める。
アーミヤお姉ちゃんと仲間の皆が築き上げたこのロドスで…。
だが、起きた瞬間…酷い痛みが体内を駆け回り声にもならない悲鳴が、誰もいない病室で木霊する。
何時ものように襲い来るこの痛みに慣れることはない。
だけれど、この痛みはあの日なにも出来なかった僕への罰なのだと割り切ることが出来た。
そして、たどたどしい息づかいで呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせる。
そろそろ、アーミヤお姉ちゃんが来るからこんな姿は見せたくないのだ。
だって、お姉ちゃんは優しいから。こんな姿を見れば心配してしまうだろう。
そうしたら、お仕事に影響が出てしまう。それは、ドクターにも他のオペレーターの人達も迷惑を掛けてしまうことになる。
それだけは嫌だ。僕のせいで皆に迷惑をかけたくない。
「ふぅ…ふぅ…。大丈夫、大丈夫…。こんなの痛くないもん」
自己暗示のように呟く言葉が僕を少しだけ安心させてくれる。
そして、手鏡で前髪を整え、笑顔を作る。
「よし、これで…大丈夫。アーミヤお姉ちゃん…まだかな」
窓から覗き込む朝日と荒野を眺めながら、お姉ちゃんを待っているとドアが開く音が聞こえた。
振り返るとそこには、少し汗のかいたお姉ちゃんが居た。
「はぁ、はぁ、スージ…ごめんなさい、少し遅れちゃいました」
申し訳なさそうに謝るお姉ちゃんに微笑みながら座るように促す。
どうやら、昨日は激務だったようだ。お姉ちゃんの顔にはメイクで隠したであろう隈があった。
「いいんだよ。アーミヤお姉ちゃんが忙しいのは僕も知ってるから。それに、毎日朝お見舞いに来なくてもいいんだよ?結局、一緒にごはん食べにいくんだから」
「それは嫌です。スージが苦しんでないかお姉ちゃんは不安なんですから」
ムッとした顔で拒否するお姉ちゃんは頑固だ。
実際、この話は何度もしている。それでも、この度に断られてしまうのだ。
心配性なのだろうが、先に自分の身体を気遣ってほしいな。
「分かった…じゃあ、行こっか」
「うん、ほら…掴まって」
お姉ちゃんの手を掴みながら地面へ立つ。だけど、少し体勢を崩してしまってお姉ちゃんの身体に抱きついてしまった。
「スージ、大丈夫…!?」
「…平気。アーミヤお姉ちゃんは大丈夫?」
心配そうな顔で覗き込むお姉ちゃんの表情が、僕の心を締め付ける。
お姉ちゃんには、笑顔でいてほしいのに…いつも、心配させてしまう。
こんな、僕なんていなければ良かったのに。そうすれば毎朝、早く起きる必要も色んな心配をすることもない。
僕なんて─あの時、代わりに死んでいたら良かったのに。
「スージ、自分を責めないで…私は平気だから」
この感情すらお姉ちゃんを傷つける。…僕は、どうすればいいのか分からない。
ただ、ただお姉ちゃんに幸せになってほしいのに…それだけなのに…それすらも出来ない。
だから、常に偽るしかないのだ。この痛みも苦しみも心の奥隅に隠して。
「ごめんなさい…アーミヤお姉ちゃん。もう平気だから、ごはん食べに行こう?…そうだ!今日はオムライスが食べたいな!」
「ふふっ。昨日もそう言ってオムライスでしたよ?好物だからってそれ以外も食べてくださいね」
「えー?じゃあ、今日はハンバーグにする。アーミヤお姉ちゃんは?」
「そうですね、じゃあ私もハンバーグにします」
まただ、アーミヤお姉ちゃんは何時も僕と同じものを食べる。
それが何か意味があるのかは分からない。だけど、僕にとってはそれがお姉ちゃんの選択を狭めているようでいい気はしないのだ。
「アーミヤお姉ちゃんがそれでいいならいいけど、僕と一緒にする必要本当にあるの?」
「ええ、ありますよ。一緒のものを共有するのは嬉しいじゃないですか」
「そんなものかな…?まぁ、アーミヤお姉ちゃんが嬉しいなら、僕も嬉しいよ!」
そんな些細な会話をしながら食堂へ向かう。
だが、太陽に照らされた部屋は、必ず何処かに暗闇を残すのだ。
「ケルシー先生、スージの容態はどうですか…?」
「聴覚、視覚等の五感は変化ないようだが良いとは言えない。だが、オリパシーの進行は少なくても停滞している。あと数年は持つだろう」
「そう…ですか。分かりました」
月1回の健康診断のあと、私は何時ものようにスージの容態を聞きに行きました。
結局、改善の余地なしと。
分かりきってはいました。オリパシーは現在治療不可能の難病なのですから。
ですが、何か奇跡が起こってくれないかと…何時もそう願ってしまうのです。
「アーミヤ、事を焦ってはいけないと教えた筈だ。そう焦っていると大切なものを見落とすことになる。確かにスージに残された時間は短いだろう。だが、今のロドスには最先端の医療技術とドクターがいる。今すぐとは行かないかもしれないが治療法を見つけることは出来る筈だ─」
スージのオリパシーを治すことが出来るかもしれない。その言葉は確かに私のことを安心させてくれます。
ですが、それだけではスージのことを治すことが出来ないんです。だって、スージを苦しめているのはあの日の記憶なんですから…。
そして、私は胸に秘めた不安をケルシー先生に漏らしてしまいました。
「…ケルシー先生、私はスージのあんな苦しそうな笑顔はもう見たくないんです…。私を元気着ける為に本心を必死に隠すあの子の感情が、揺らぎが私には見えてしまうんですよ…。でも、私からスージにしてあげられることなんて、何一つ…ないじゃないですか…」
「そんなことはない。彼は毎日アーミヤとの時間を楽しみにしているとそう言っていた。それに、彼はアーミヤの笑顔が好きだとも」
「そう…ですか。それは、良かったです…。私も少しは…スージの役に─」
「…ミヤ!アーミヤ!…っ、ここ最近、睡眠を疎かにしているとは聞いていたが、ここまで無茶していたとは…。何故、君たち姉弟は自分のことを考えない!」
焦り駆け寄るケルシー先生の手が私の身体を受け止めてくれた。
そして、寝かしつけようとベッドに私を横たわらせようとする。
だけれど、私は立ち上がらないといけない。今の私に立ち止まる時間などないのだから。
「すみません、ケルシー先生。もう、大丈夫ですから─」
「…アーミヤ、君のことはテレジアに頼まれたんだ。だから、私は無茶をする君を見逃すことは出来ない。今は、ゆっくりと休んで体力を回復することに専念してくれ」
「それに、君の今の姿をスージが見たらどう思うか…アーミヤ、君が考え付かないとは思えないが…それでもいいのか」
「…っ、分かりました。少し休みます…。でも、スージにはこの事が伝わらないようにお願いします」
「ああ…分かった。私は少し席を外すが、しっかりと休むんだ、君がスージの身体を心配するように、スージも君の心配をしているのだからな」
少し横になっただけで襲い来る眠気に負け、重い瞼を閉じる。
その心に不安と焦りを抱えながら…。
次にスージが関わっていく人
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W
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ケルシー
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ドクター
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チェン
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シルバーアッシュ
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その他