『トゥインクルスタークライマックス』と並行する形で開催となった『アオハル杯』に中央トレセン学園は大盛り上がり。
樫本理事代理もまた、ビターグラッセとリトルココンの二人を筆頭にチーム〈ファースト〉を結成。號のチームを迎え撃つべく練習を重ねていた。
アオハル杯の開催時期は夏と冬の年二回。もちろん號のチームが目指すは打倒チーム〈ファースト〉である。
そのはずなのだが……。
「おい兄貴どういうことだ!? アオハル杯に参加する気が無いってのは!」
「なんで俺が参加する必要がある。お前が始めた話だろう」
「だがアンタがやりたいようにやれと背中を押したじゃないか」
「俺が言わなくてもやる気だっただろうお前」
「もちろん!」
ため息を吐く柊に対して、號は相変わらずの猛進ぶり。
中央トレセン学園のトレーナー室から響いてくる声に顔を出したのは不審者……もとい、エヌラスだった。
「廊下まで聞こえてっぞ、もうちょい声のボリューム落とせ」
「はい! すいません!」
「落とせ」
「っすー……」
「で? 何の話だ。俺も混ぜろ」
何故ならトレーニング始まるまで暇だから。
「──なるほどね。アオハル杯に柊が参加しないから號が駄々こねてんのか」
「だって兄貴がー」
「このバカが勝手に人を巻き込むんです」
「お前ら兄弟さぁ……」
本当に仲良いなこいつら、等と思いながらエヌラスは頭を掻いていた。とりあえず話を一度お互いにまとめてから結論を出すべきだと考え、現状を整理する。
「とりあえず、號。お前んとこのチームはメンツ集まったのか?」
「はい。タイキシャトル、ハルウララ、マチカネフクキタル、ライスシャワー。それとナリタブライアンの五名です。チーム申請するために必要な最低限のメンバーは集まりました」
「アオハル杯ってのは俺もよく知らないんだが、基本的にやることはレースと一緒なんだろ?」
「一部門につき三名を選出、五部門に分かれているので最大十五名までの出走となります。あとは勝てばよし!」
「最低三勝すれば良いわけか」
號はすでにチームを結成しているようだが、ふと疑問が浮かぶ。
「で、チーム名は?」
「……なんです?」
「いや、だから。チーム名」
「考えてません!」
「「このバカ」」
柊とハモった。
たづながわざわざチーム登録するための申請書を発行してくれたというのに號はまだ提出していなかった。
今年のアオハル杯は急遽開催決定となったことから冬の開催のみだが、登録申請をしなければ打倒〈ファースト〉以前の問題だ。
「そこはお前んとこで何とか解決しとけよ。で、柊はなんでアオハル杯に消極的なんだ」
「コイツが勝手に始めたことです。俺には関係が──」
「ジー……」
「……無い、とは、ちょっと言いにくいんですけれども」
後押ししたことには間違いないので柊も珍しく弱気になっている。號の視線に耐えきれず顔を背けていた。
「白状すると、俺は団体競技が苦手なんです」
「そこはまぁなんとなくわかる」
「なんです、今俺ディスられましたか?」
「お前ディスられるとか言うんだ……」
まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったエヌラスが驚いていると、柊も自分の口から咄嗟に出てきた言葉を思い返してフードで顔を隠す。
「……すいません。つい気が緩んで」
「いやいいんだけどよ。そういうことなら號のチームに参加すれば──」
「「それは嫌です」」
「お前ら兄弟さぁ、本当面倒くせぇな!? なんなん!?」
「俺は兄貴が選んだ最強のチームと戦いたい。樫本理事代理なんかどうでもいい」
仮にも学園最高責任者(代理)をどうでもいいとまで言い切る號の胆力には恐れいるが、お前それ絶対他で言うなよ、とも念を押しておく。
「つまりー、まー、なんだ。號は兄貴と勝負したいから手を組みたくないわけか」
「はいっ!」
「声量」
「ッス……」
「俺もコイツと組むのだけは嫌ですね」
「柊の言い分は」
「先ほども言いましたが、俺は団体競技が苦手です。ましてや自分がその指導者の器であるとは思えません」
新人トレーナーである自分がチームをまとめられる自信がない、という言い分にエヌラスは納得しかねた。
「なんで苦手なんだ、団体競技。理由聞かせてくれ、嫌なら言わなくてもいいが」
「……別に組みたくないわけじゃないです。足を引っ張られるのがどうにも」
「なんだ、そんなことか。柊、お前あれだろ。勝ち抜き戦自分一人で全タテやるタイプだろ」
「……なんでわかるんですか」
「わかるわそりゃ。他人の実力が信用ならないってなら、お前が信用できるメンバーを集めればいい話だろ。そんで號と勝負して勝つ」
簡単に言ってくれる。柊は難色を示したが、考えてもみればそうだ。
過去の苦手意識はエヌラスの指摘通り、他人を当てにしない。信用しない。誰かの集めたメンバーではなく、自分が勝つためにメンバーを自分自身で選ぶ。
しかし、決めかねている柊にエヌラスは続けた。
「柊はアオハル杯が嫌でも、ドゥラメンテはどうなんだ? クラスメイトなり友達なり誘って、チームレースに出走するっていうのは彼女自身にとってもプラスだと思うが。思い出作りにもなると思うしな」
「……それは」
「学生のうちに作れる楽しい思い出は多いほうがいいだろ?」
「……検討します」
説得してもやはり柊は乗り気ではないのか、控えめな返事に留める。エヌラスもそれ以上は無理強いはしなかった。
「ところでエヌラストレーナーはアオハル杯、どうなんですか」
「俺はちっと厳しいなぁ。ただでさえ他の仕事が立て込んでるから」
主に幽霊とお化けとポルターガイストと悪霊と超自然的現象とオカルトが相手の仕事が。なんなら最近は宿直勤務も一任されつつある。だって夜中に起きるんだもんその手の事件が。どれもこれも外ればかりではあるが、何もしないよりマシだ。
「無理を承知でお願いがあります。うちのチームのサポートトレーナーになってくれませんか」
「えぇ、俺がぁ? なんでまた」
「安心してください。基本的には俺がチームの面倒を見ます。なのでエヌラストレーナーはメンバーのスカウトをお願いします」
「人選逆じゃねぇか? なんで俺がスカウトする側なんだよ」
「人を見る目だけは間違いなさそうなので」
「根拠は」
「それとウマ娘に手を出すのも早そうなので!」
「言い方ァ!!!」
その言い方は色々とマズイ。誤解を招く。即時訂正を求めるエヌラスに胸ぐらを掴まれて號が撤回した。
「俺が挨拶回りをしている間に担当ウマ娘に目をつけていた、というような話を小耳に挟んだので「ははぁ、これはあの人やってんな?」と思った次第です!」
「その「やってんな」はどれだ? どれに該当するんだ、號? 事と返答次第じゃ今からお前を殺っちまうわけなんだが?」
「ぶっちゃけ一番女慣れしてそうですし」
「おめー先輩トレーナーだろうが」
「年季の違いっていうんですか? こう……、女心を弄んでそうな」
「言い方ァ!!!!」
「ぐえーッ!」
それはそれは綺麗な一本背負い投げであったという。柊は感心した。
だがなんだかんだ言いながらもエヌラスは一応サポートトレーナーの件を引き受けることにしたらしく、ぶつくさ文句を言いながら柊のトレーナー室を後にした。
──中央トレセン学園、名前の通り学園である以上ウマ娘達は授業を受ける。学業成就もまた学生の本分、テスト期間もあるために補習を受けると当然練習時間から割かれてしまう。何が言いたいかと言うと授業は真面目に受けるべきだ。
チームのサポートに入ることとなったエヌラスがまず號のチームでやったこと。それは至極単純真っ当な一言だった。
「真面目に勉強しろ」
特にタイキシャトル。次点、マチカネフクキタル。
マンハッタンカフェとダンツフレームの成績は悪くない。むしろ優秀な方だ。真面目で素晴らしい。ついでに言うと見学のアグネスタキオンも成績上位層に入る。ジャングルポケットはギリギリのラインを攻めている。ハルウララは論外。
ナリタブライアンに関しては副会長という立場もあってか面倒くさがりながらも悪くない成績らしい。
「ウェルぅ~……でもでも、授業中はしっかり眠って練習に力入れてマース!」
「それで練習時間減ってたら逆効果なんだ、タイキシャトル。一応君等学生なんだからキチンと勉強しなさい。いいか、わかったか? オーケー? アンダスタン?」
「アゥ~……ヘルプミ~……」
「そんな雨に濡れた子犬みたいな顔してもダメなものはダメです。最低限補習を受けない程度の成績を保ちなさい。わかった?」
詰め寄るエヌラスにタイキシャトルが頷く。しょんぼりと耳もへこたれていた。
「そんでもってマチカネフクキタル」
「ほぎょえぇぇっ!? わ、私ですか!?」
「できるだけ運任せにしないで自力で解答するように。どーしても迷った時にだけシラオキ様に頼め。いーかぁ、運ってのは消費されるもんなんだ。だからどうでもいいことに使うとどっかでそのしっぺ返しを食らうもんなんだ。そのツケがでかいほど痛い目見るんだ」
「なんだか実体験のような言い方ですが……わ、わかりました! では早速学業成就のための占いをシラオキ様に聞いてみましょう!」
「俺の話聞いてた?」
準備体操をしているチームの横で説教を食らうタイキシャトルとマチカネフクキタルは肩を落としている。しかしド正論で言われては反論しようがない。
エヌラスも言いたくて言っているわけではないし、こんなことわざわざ言うためにサポートに来たわけではなかった。
「カフェとダンツは成績下がらないようにがんばれよ……。無理に上げろとは言わないから」
「は~い」
「ポッケさんも……だいぶ怪しいみたいですけれど」
「……っていうかなんでいるんだジャングルポッケ」
「オメーはその呼び方気に入ったのかよ! いーじゃねぇかこまけぇことは」
まぁいいけども。アグネスタキオンはベンチに座って物見遊山。何その機材? 何やらノートパソコンを広げたりスピードカメラを持ち出したりしている。
「あぁ、私のことは気にしないでくれたまえ。チームでの練習がウマ娘の精神面にどれほどの効果をもたらすのか観察させてもらうだけだからね」
「んじゃあせめて応援くらいしてくれ」
「そうさせてもらうよ。がんばりたまえーみんなー」
やる気のあまり感じられないアグネスタキオンの声援。せめてパソコンの画面から目を離せ。
絶妙にまとまりのないチームのサポートに入ったことに対してエヌラスは空を仰ぐ。本日も快晴。雲一つ無い青空は日光を遮ることなく大地を照らしていた。滅びろ太陽くそったれ。
すでにもう初日からちょっぴり後悔していた。……本当に大丈夫かこのチーム?