「ありがとうございまーす、またのごらいてんおまちしておりまーす」
驚くほどの棒読みで見送られながら、國弘とエヌラスは充実した昼食にご満悦だった。しかし不思議なことに長居していたにも関わらず客足は皆無。あれほどの料理が出てくるのなら話題になってもおかしくない。店員の態度はともかく腕は本物だ。
トレセンで流行らすか。などとエヌラスが考えていると、見覚えのあるフード姿のトレーナー。
「柊、奇遇だな」
「お疲れさまです、お二人とも」
「柊くんはこれからお昼かい?」
「ええ、まぁ……そんなとこです」
もしや、と思い今しがた出てきた店を指す。
「ここで食ってんの?」
「ええ」
意外にも早朝から店を開けているらしく、朝食もついでに済ませているらしい。店員の態度に問題ないかと尋ねると不思議そうな顔をされた。
「なんかこう、人の神経逆撫でするような話し方しねぇか?」
「されたことないですね」
「あんにゃろう……」
ははぁん、さては人のことなめてんな? エヌラスは今度来た時に突っかかってやろうと固く決心した。
「あー、柊くん。参考までに聞きたいんだが、ここの朝食はどんな感じかね」
「ごく普通ですよ。白米に味噌汁に焼き魚。おひたしか漬物が選べて納豆のオプション付きです」
「……玉子もつけられる?」
「目玉焼きとかも出てくる日があるので、可能かと」
「通おう」
どうやら國弘は食にこだわりがあるらしい。トレーナーとしてウマ娘達に示しがつくようにと食生活に気を配ってはいるものの、なにぶん一人暮らしの身。どうしても楽な物を選びがちになる。主にカップ麺やコンビニ弁当。あるのがいけない。
なお、エヌラスは料理が壊滅的なので常食である。
「お二人は今済ませたばかりですか?」
「そうなんだよ。今日は肉が食べたい気分だったから注文してみたら、いやぁ……あんなに食べたのは久しぶりだ。そうだ、もしよければ柊くん。昼食の方の写真を頼めないだろうか」
「……まぁ、かまいませんが」
「なに頼むつもりなんだ?」
「魚ですかね」
なんでも魚は商店街から仕入れてるらしく、時々自分の足で市場まで行く時もあるのだとか。よほど料理に情熱を注いでいるようだが、それを言うと何故か店主は不機嫌になる。
「魚か。私も夜遅くに立ち寄った際は頂いたが、いやぁ、あれも美味かった」
「ちなみに前はネギトロ丼でしたよ」
「くそ、食いてぇなぁ……!」
國弘が心底悔しそうに呻いている。
ベテランのナイスミドルだと思っていただけに意外な一面だ。
思い出したように柊がスマホのアルバムを開き、その中の一枚を見せる。
「こんな感じの」
「うわ、絶対美味いじゃないかこんなんっ!」
エヌラスも覗くと、どんぶりに盛られた白米を覆うように青ネギが散らされている。山の形に盛られたネギトロのてっぺんはカルデラ湖のように凹みをつけられており、そこにわさびが醤油で溶かされていた。
店主曰く「富士盛りネギトロ丼」だそうだ。
柊はレンゲでネギトロの山を崩すようにして食べた、というと國弘が自分の胃と相談する。今し方昼食を終えたばかりだというのに、もう一度店に振り返っていた。
「國弘さん、昼休憩の時間」
「なら夕飯に──!」
「これこの前出された肉じゃがです」
「あー美味そーッ!」
さてはこの人おもしれぇな? エヌラスは横目で國弘を見つめる。
店主曰く、朝昼晩の時間帯で出す定食を変えているとのこと。ただ、なにを出すかは気分次第。食べたいものがあれば要予約、らしい。
しかし。話のネタに食べ物の写真を撮っておくといいというアドバイスをこうして目の当たりにすると、確かにこれほど身近で盛り上がれる物もそうないことに気づく。
早速今日のトレーニングに活かしてみようとエヌラスは考えた。
「ポッケ、ダンツから聞いたんだけどパフェ好きなのか?」
「それがどうかしたのかよ」
「今日の昼飯で喫茶店行ったんだけど、そこで出されたパフェが美味かった。写真撮ってきたんだが見る?」
「は〜?」
そのツラでパフェ食ったのか、とでも言いたげな表情に写真を突きつける。するとジャングルポケットの顔がみるみるうちに輝きを増した。スマホをひったくる勢いで画面を食い入るように見つめていた。
「スッッゲーーー!!! なぁなぁこれどこのだよ!」
「『喫茶店よろづ』ってとこだよ。知ってる?」
「聞いたことねぇし見たことねぇ店だ」
どうやら流行りものが好きな年頃の女の子たちの間でも知られていない程度には目立たない店らしい。元が居酒屋な上に外装も内装もその趣きを色濃く残したままだから余計に近寄りがたい。悪く言えば、古臭いのだ。
エヌラスが店の紹介をするとジャングルポケットはなにか考え込む。
「おーーーい、ダンツーー!」
「なーーにーーポッケちゃーーん!」
坂路の走り込みで遠くにいたダンツフレームが呼び戻されて走って戻ってきた。よく友達と色んなお店に出歩くことが多いから知ってるかもしれないと思ってのことだったが、店の名前を出されても耳を揺らすばかりで全然知らないらしい。
「聞いたことないお店ですけど、美味しいんですか?」
「味は保証する。店主クソ性格悪いけど。あの野郎の性格があぁじゃなけりゃ二番目くらいにうめぇ店なんだけどなぁ。悔しいことに」
でも性格悪いので評価下げ。
「喫茶店なんですよね?」
「喫茶店のはずなんだけどな」
何故か定食屋顔負けの飯が次から次に出てくる上にデザートがそこらの高級店より美味い。やや割高な時もあるが味で納得してしまう。
コースを挟んだ反対側。チーム〈オニキス〉の練習風景を見やりつつ、柊の姿を親指で指す。
「なんか柊の奴は常連らしい。他の飯の写真とか多分たくさんあると思う。聞いてみたらどうだ? ついでに一本走ってくるといい」
「じゃあそういうことでしたら。よーしっ」
ダンツフレームがコースをぐるりと半周。柊に声をかけている。それから何か話し始め、スマホを覗き込む。何事かとキタサンブラック達も画面を食い入るように見つめ、それから間もなくして柊がもみくちゃにされていた。すげぇなおまえ、そこまでされて無表情なの。エヌラスは少し感心した。
おしくらまんじゅうが解散すると、ダンツフレームは頭を下げて走って戻ってくる。
「どうだった?」
「お腹空いてきちゃいました……えへへ」
「んじゃあしっかり動いてお腹空かせていこうな」
「!?」
「よーし三本追加、がーんば♪」
大人って汚い! ──ダンツフレームはそう思った。
それを横で見ながらマンハッタンカフェは同情する。かわいそうに。
「あの、エヌラスさん……その喫茶店、どんなコーヒーを出すんですか?」
「……そういや飲み物の注文したことねぇな」
出てくるのは水かお茶か汁物だ。
「もし行く機会があれば頼んでみたらどうだ、カフェ」
「せっかくだし、明日にでも行ってみようぜ」
「そうですね」
談笑する三人の横、ダンツフレームがオーバーワークギリギリ手前の走り込みをさせられている。それを見ていたアグネスタキオンは、やはりパソコンから目を離さなかったが聞き耳を立てていた。
──その日のトレーニングを終えたダンツフレームにアグネスタキオンが声をかける。用件は簡潔に、これから例の喫茶店に行こうという誘いだった。
元々向かう予定だっただけに承諾すると、トレーニングを終えた足で夕焼けの街を歩く。
お店の場所はあらかじめ聞いていた。しかし、普通の飲食店であるならば開店する時間帯には開きがある。
昼食であれば十一時から十四時まで、夜なら十七時からといった具合に。
「混んでるかなぁ」
「聞いた限りでは客足が遠いみたいだからねぇ。心配には及ばないんじゃないかな?」
「でもちょうど夕飯時だし、きっと混んでるよぉ」
そんなに腕の良い食事処なら尚更だ。……喫茶店なのだがそれはそれとして。
目的の店を見つけた二人が暖簾をくぐる。看板メニューには本日のおすすめが手書きで記載されていた。
カラカラと音を立てて引き戸を開けると、評判通り閑散とした店内には夕飯時だというのに客が一人しかいない。
その客はカウンター席の端っこに腰掛けて鼻歌交じりにテーブルを指先で叩いていた。
頭から爪先まで黒一色の、黒いウマ娘は頭をリズムに合わせて揺らしている。だが、ダンツフレームとアグネスタキオンに気づくと気さくな笑顔を向けた。
「やぁ、こんばんは。キミ達も此処に食事に?」
「は、はい。そうです」
「そうかいそうかい、それはとても良いことだ。このお店はボクのお気に入りでね。まー……少し癖のあるお店だけどゆっくりしていくといい」
「そうさせてもらうよ」
ダンツフレームが店内を見渡すも、店主の姿はない。奥の厨房から物音が聞こえることから何か調理中らしい。なんとも食欲をそそるタレを煮詰める香りと音に喉を鳴らして唾を飲み込む。
黒いウマ娘は勝手知ったる他人の家という様子でダイニングキッチンに乗り込むと二人のお冷を用意して席に置いた。
「い、いいんですか勝手に?」
「いいのいいの、なに。ボクと彼の仲だからね」
どうやら店主と知り合いのようだが、厨房から出てきた蒼髪の青年は勝手にダイニングキッチンに入られたことがえらく不満らしく眉をつりあげている。
「勝手に入んな」
「いいじゃないか少しくらい」
「良いわけねぇだろうが飲食業なめんな。飯食ってさっさと帰れよオメー」
「つれないなぁ。そんな邪険にしないでおくれよぉ」
尚も食い下がり、すり寄ろうとする黒いウマ娘に店主は躊躇なく包丁を手にしていた。それには流石に相手も引き下がる。
「話し声が聞こえるからと見たらこれだ。いやごめんなさいね、見苦しいもの見せて」
「い、いえいえ! お気になさらず〜……」
ちょっとひきつった笑みを浮かべながらダンツフレームは愛想笑い。隣のアグネスタキオンは店内を見回すが、メニュー表らしき物は見当たらなかった。
黒いウマ娘はというと、焼肉定食を食べ始めている。見ているだけで腹の虫が鳴きそうになるのを水を飲んで誤魔化す。
「誰かの紹介で店に来てくれた?」
「どうしてそう思うんだい」
「地元の居酒屋そのままの純喫茶に年頃の女の子が足を運ぶなんてこと、普通はないからな。だから、あるとしたらうちの店の常連なりどっかの口コミで来てくれたと考えるのが自然だ。中央の制服、だからトレーナーの誰か。となると相手が絞られる。そうだなー、常連客で探り入れるなら柊トレーナーってとこか」
ポカンと間の抜けた顔で目を白黒させるダンツフレームに、アグネスタキオンは興味深そうに口角を上げていた。
「素晴らしい観察眼だ。推察は概ね当たっているよ」
「エヌラストレーナーに教えてもらったんです。ここのパフェがすごい美味しいって」
「……エヌラストレーナーって誰?」
「え? あのほら、顔に傷のある……」
「あー。昼間に来たヤーさん。なんだトレーナーだったのか」
絶対わかってて言ってるだろうなこの人。火に油を注ぐのが好きなのが手に取るようにわかる。そしてエヌラスと相性が致命的に悪いことも自ずと察しがついた。だってあの人いじると面白いんだもの。
「ま、そういうことならパフェでいい? それともしっかり食べる?」
「えーと、じゃあ……軽食とパフェで」
「私も何か甘いものがほしいねェ」
「はいよー、少々お待ちを」
伝票に手早く記入すると、そそくさと奥の厨房へと踵を返そうとした店主に空の御椀が差し出された。黒いウマ娘が上機嫌で尻尾を揺らしている。
「おかわり」
「ちっ、しゃーねぇなー」
客に向かって平然と舌打ちしつつも、空の御椀を受け取って厨房に行くとすぐに戻ってきた。その手には山盛りご飯。渡すなりまた厨房へと姿を消す。
ダンツフレームは焼肉定食を頬張る黒いウマ娘を盗み見ていた。その視線に気づいたのか、すぐに黒いウマ娘と目が合う。
「ボクがなにか?」
「あ、えっと……このお店にはよく来るんですか?」
「うん、そうだよ。ここは適当に頼んでも美味しい料理が出てくるからね、キミ達も気楽に注文するといいよ。あぁそうだ。材料を持ち込むと割引されるからそっちもオススメだね。まぁ、彼はだいぶ人を選ぶみたいだけど」
ニコニコと笑顔を向けながらご飯を頬張る黒いウマ娘は頬が落ちるのを手で押さえていた。
「私、ダンツフレームです。こっちは友達のアグネスタキオンちゃん」
「よろしく」
「おや、ご丁寧にどうも」
「あのー、お名前うかがっても……?」
「ボクの名前? なぁに、しがない雑貨屋のウマ娘さ。でも、そうだねぇ。たしかにそれじゃちょっと不便か。名前は大事だね、挨拶も自己紹介もそうだ」
うんうん、と一人で何か納得している。
「そうだなぁ……ボクのことは“カヤ”って呼んでくれたまえ。雑貨屋のカヤお姉さんってところかな」
「雑貨屋さんなんですね。へー。どんなお店なんですか?」
「んー? 色々さ。色々と、ね……もぐもぐ……」
「あ、ごめんなさい。お食事中のところ」
「んぅん、いいよぉ」
手を振る黒いウマ娘──カヤはタレの滴る焼肉を白米に乗せると、一緒に頬張った。
美味い。絶対に旨い。焼き肉と言えば白米、ハンバーガーにポテトくらい鉄板の組み合わせ。
「……あれ絶対美味しいよぉ」
「今からでも頼むかい?」
「え、でも軽食頼んじゃったし……」
ダンツフレームが悩んでいると、店主が厨房から戻ってきた。
「はいよ、ホットサンドお待ちー」
表面はきつね色にこんがりサクサクと焼けたバンズに挟まれた具材からはベーコンとレタスとトマト、マスカルポーネチーズも挟まれていた。
アグネスタキオンの前に置かれたのはチーズケーキとショートケーキ。
いそいそとスマホを用意して写真を撮ると、店主は不思議そうに首を傾げている。
「なーんでみんな飯の写真撮るんだか」
「え? 駄目でしたか」
「いや別に。うちで出してる料理なんてふっつーの奴なのに不思議なもんだなーって。ホットドッグも出せるけど食う?」
「あ、いただきまーす」
アグネスタキオンはフォークで切り分けたチーズケーキを一口。
「……ふぅん、悪くないね。この舌触り、味わい。これは手作りかい?」
「そりゃそうだよ、なに言ってんだ」
「ダンツ君、一口食べてみるといい」
「え、いいの。じゃあ一口だけ──」
ホットサンドを紙ナプキンで掴んだまま、ダンツフレームは差し出されるチーズケーキを食べる。
甘すぎず、それでいて舌触りのなめらかさ。ほのかに香るレモンの風味の中に確かな酸味が味に深みを出している。文句なしに美味い。ダンツフレームの耳がピコピコ跳ねて尻尾を振っていた。
「ん〜〜〜……!!!」
「そんな美味そうに食うなら持ってく? どうせ余らせてるし」
「え、いいんですか!?」
「いいよいいよ、暇だから趣味で作ってるだけだから」
その後、店主が持ってきたホットドッグは薄焼きチーズでコーティングされたカロリー計算ガン無視の一品だった。表面のパリパリとした食感から中のパンの柔らかさと歯応えにダンツフレームが唸る。それでいて中に閉じられていたマスタードとケチャップが溢れ出し、ウインナーもシャキッとしたボイル焼きで溢れ出す肉汁と脂の合わせ技に背徳感と高揚感が押し寄せてくる。
それを横で見ていたアグネスタキオンはショートケーキに舌鼓を打っていた。
「ごちそうさま、お代は置いとくよ」
「二度とくんなー、あざまっしたー」
「なんだよ、贔屓の客だぞボクはぁ」
唇を尖らせながらカヤが会計を済ませて足早に退店する。その姿が見えなくなってから空の食器を下げて手早く洗い始めていた。
ホットサンドとホットドッグを食べて満足げなダンツフレームの前に遅れてやってくる真打。そう、注文していたパフェだ。
エヌラスに見せてもらった画像とはまた異なり、今回はチョコレートパフェ。ストロベリーソースのかかった黒と赤のコントラストが綺麗でシックな装いに盛りつけも申し分ない。
生クリームの甘さがビターチョコの苦味と混ざり合い、ストロベリーソースがアクセントとなって風味が際立つ。
「美味しいしか言ってないけれど、美味しい〜〜!」
素直な称賛の言葉に店主も悪い気はしないのかふんぞり返っていた。
アグネスタキオンは出された紅茶を飲み、眉を寄せる。飲み慣れた味、もとい親しい味わい。
「失礼。この紅茶はもしやとは思うけど、市販の物じゃないかい?」
「そうだけど?」
あっさり暴露した。伝票に飲み物の料金が含まれていない理由はそこにあった。
確かに食事の質は高い。だがそれと飲み物の落差に肩透かしを食らう。
「相応の物用意したっていいけど、そういうのは高級店でどうぞ」
それはそれ、これはこれ。うちはこう。そういう明確な線引きをしている。なるほどわかりやすい。それでいて店主も不必要に客に絡んでこない。さらに静かな店内に音楽を流しているわけでもないため、余計に静けさが染み入る。
「なるほどね。これは少し、間が悪かったかな」
「タキオンちゃん?」
「いやぁ。私としてはただの偵察のつもりだったんだけどねぇ、思いのほか居心地がいいじゃないか。それでいて食事の質も申し分ない。糖分の補給に困ることもなさそうだ。だからもし此処を他のウマ娘達に知られてしまったら、私としてはもったいないと思っただけさ」
「うちに来るウマ娘なんてさっきの胡散臭い雑貨屋だけだよ。心配すんなよ他に客来ねーから」
店主としてそれでいいのか? と思いたくなるほど何故か自信満々な物言いに、しかし静寂を破る新たな来店者。
賑わいを感じさせながら店の扉が開かれた──。
「ごめんくださーい!」
「あげませーん」
「えぇ!? そんなこと言わずに!」
誰かと思い顔を見れば、キタサンブラック。その隣にはサトノダイヤモンド。後ろに続くのはチーム〈オニキス〉の面々。となれば当然そこにいるのはトレーナーである柊だった。
「誰かと思えば常連の柊トレーナーじゃん。今日は随分賑やかだけど、どうしたん?」
「ここの食事の写真を見せたら、行ってみたいとみんなに言われて」
「そういうことなら座敷席にどうぞ。どうせ夕飯食ってくでしょ」
「お願いします」
「そーだせっかくだし鍋やろーぜ鍋!」
注文も聞かずに勝手に決めているが、柊は念の為多数決。満場一致の可決に店主がガッツポーズ。本当に作りたい物作ってるだけなのがわかる。
「お鍋。お鍋かぁ……」
ダンツフレームが呟く。美味しいに決まってる。すでにチョコパフェは見る影も無くなってしまったけれど、でも食べたい。絶対美味しいって確信がある。その様子に気づいたのか、店主が柊に尋ねる。
「ところで柊トレーナー、こちらのお二人は知り合い?」
「……まぁ、一応」
「んじゃ一緒に食ってけばいいじゃん、座敷席なんて滅多に使わねーし」
「え。い、いいんですかぁ。でもお金……」
「そっちの料金払ってくれたら鍋は鍋で柊トレーナーが出してくれるでしょ」
「君の良心価格を信じるからな」
なにが怖いか。それは注文して伝票に料金が書き込まれるまで値段がわからないということだ。割と適当に値段を決めているに違いない。それでも決して違法な金額ではないし、払えない額でもないのがタチが悪かった。しかし一口食べれば味で納得させられてしまう。
ダンツフレームとアグネスタキオンは顔を見合わせて、それから座敷席に移動した。