望まぬロボパイロットは死にたくない 作:第616特別情報大隊
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──赤色陸軍少将
ソヴァーク社会主義国は介入を強めている。
武器供与は拡大され、これまでは渋っていたIS-2、IS-3重戦車やMiG-9ジェット戦闘機まで供与が始まり、さらには軍事顧問と義勇軍も拡大して送り込まれた。
こいつは明らかな国連決議違反だが、国連が役に立ってないのは、元の世界でもこっちも同じってわけだよ。
そして、1年が経った北辰州ではまだ戦争が終わってない。クソ。
「戦線は完全に膠着しちまったな」
俺はうんざりしたようにそう愚痴る。
俺たちは現在、第8軍の後方予備となり、北見ヶ原という場所に設けられた即席の陣地で待機していた。やっと後方かと思ったが、いつでも前線に向かうことのできるように、飲酒などを禁止されている。ビールが飲みたいぜ。
「どちらかが完全に戦争にうんざりするまでは続きそうね」
「勘弁してくれよ」
俺の愚痴にアーデが反応し、俺は首を横に振る。戦争にはうんざりだぜ。ラブ&ピースが一番じゃないのかよ。
「それより聞いた? 取材が来るそうよ」
「取材って何の?」
「私たちの部隊の活躍を軍の広報誌で讃えるとか」
「マジか。そんな話、聞いてなかったけどな」
俺たちの活躍を讃えるねえ。
この手のプロパガンダはどっちの陣営もやっている。共産圏は捕虜にした国連軍の兵士にかつての戦友たちに降伏するようにラジオ放送をやってる。ドイツ将校同盟みたいな代物だな。
もちろん連中が言うことをまともに受ける人間はいない。俺たちは共産圏の連中が何度も国連軍の捕虜を虐殺した痕跡を見ている。こっちもこっちで似たようなことをやってるけどな。
「しかし、ついに俺たちもプロパガンダのネタか。それぐらい戦況は国連軍にとってもヤバい状態ってことなんだろうな」
「そこまで考える? 普通に私たちは活躍してきたでしょ? プロパガンダで作り上げた偽りの勝利ではないと思うけど」
「はん。アーデ、考えてみろよ。俺たちがメディア受けするような部隊だと思うか? 軍の広報誌なんて代物で取り上げるなら、もっと白人様が英雄的に活躍している部隊を選ぶだろうよ」
「あらら。そう考えるの。あなたの白人嫌いも相当ね」
「そりゃあそうさ。このクソッタレな戦争が始まってからまともな白人ってのは片手で数えられるぐらいだったんでね」
トンプソン大佐は俺たちを放置して逃げようとしたし、リード中将については言うまでもなくクソ野郎だ。それからジョン・スミスのクソッタレ。
「ともあれ、取材は行われるからお行儀よくね」
「知ったことかよ。俺たちはアイドルじゃねえんだ」
それから数時間後、軍の広報って連中がきた。星条旗新聞のアルカディア連邦版。
記者はビン底メガネの白人で、・ベンジャミン・ハミルトン大尉と名乗った。この視力の悪さでは前線勤務は務まらないと判断されたんだろう。運のいいやつ! 俺も適当に記事書く仕事がよかったぜ。
「今日は第666装甲戦闘団の勇士の方々を前にできて光栄です」
「そりゃどうも」
俺たちは後方予備として待機中のため、ウィンターズ少佐と俺、そしてアーデが取材に応じることになった。アンディとマットも取材されたがっていたが、あいつらうっかり捕虜収容所を襲撃した件について喋りそうだしな……。
「では、部隊で使用しているシェルについて教えていただけますか?」
「メカニズムについては機密だが、大まかな性能については教えられる」
俺たちに代わってウィンターズ少佐がハミルトン大尉の取材に応じた。
どのような兵装が搭載されているのか。どれぐらいの機動力があるのか。どういう戦闘を得意としているのか。そういうものについてウィンターズ少佐は表情を全く崩さず、機械的に説明して言った。
「第666装甲戦闘団はこのシェルで釧岳の奇跡を起こしたのですよね?」
釧岳の奇跡? そんな大層な名前がついてるのかよ。
「それはキサラギ大尉の発案で行われた戦闘だ。キサラギ大尉、説明を」
「あー。まず戦車ってのは主砲の仰角が限定されている。対する俺たちのシェルは砲は歩兵が構えるように好きな方向に向けられる。上だろうと下だろうと。俺たちはそこに注目したわけだ」
俺はシェルに乗ったことのないハミルトン大尉にも分かるように説明した。
「俺たちはシェルの高度な不整地踏破性能も生かし、急斜面から攻撃を仕掛けた。敵の戦車はこっちを撃てず、逆に俺たちの方は敵の脆弱な上部装甲を撃ち放題。それが勝利の要因だ」
「とっさにそれを思いつかれたのですか?」
「そうしなきゃ、川港にはとっくに赤旗が翻ってたぜ」
ハミルトン大尉の質問に俺は肩をすくめてそう答えた。
「第666装甲戦闘団はペイルホース作戦にも参加されていますね。それから南雪見峠の戦いにも。そこでもあなた方は大勝利を収められた。流石です」
「どうも」
「国連軍とそれに参加しているアルカディア連邦軍の将兵にアドバイスは?」
「泥を啜ってでも死ぬな、ってことぐらいか。死んで英雄になろうとか思って、安易に死を選ぶなってことだ。死ななきゃどうにかなる。死んだら終わりだ」
「ありがとうございます。ところで、敵側があなた方に懸賞金をかけたことはご存じですか? 敷島人民共和国はあなた方を捕虜にした兵士に大金を支払うそうです」
「えらいことだな、それは」
「ええ。ソヴァーク社会主義国の軍事顧問であるヴァシーリー・スミルノフ少将が、あなた方の部隊は赤色陸軍にとっての最大の脅威であるとしたそうです。敵のこの動きをどう思われますか?」
「せいぜい頑張れよって言いたいね」
「では、次に部隊の写真を取らせて──」
そこで警報が響いた。
「申し訳ないが取材はそこまでだ、ハミルトン大尉。第8軍から緊急連絡が入った。先ほど敵が大攻勢に出た、と。我々は後方予備として突破の恐れがある地帯に向かう」
ウィンターズ少佐は通信手から無線の報告を受けて、そう言った。
クソ。またお仕事だぜ。死にたくねえな。
* * * *
ソヴァーク社会主義国の軍事顧問団は今回実施された『赤い夜明け作戦』において、敷島人民共和国の陸海空軍を支援していた。
ソヴァーク社会主義国赤色陸軍の戦車将校であるヴァシーリー・スミルノフ少将も、敷島人民共和国の戦車部隊に同伴していた。
「同志スミルノフ少将! 作戦が始まりました」
「いよいよか」
スミルノフ少将は連絡将校として寄越された敷島人民共和国陸軍大尉の報告を受けた。彼は現在、第666装甲戦闘団が布陣している北見ヶ原に向けて機動している敷島人民共和国陸軍第1戦車師団に同行していた。
第1戦車師団は友軍の猛烈な砲撃と航空支援を受けて突破口を形成し、現在敵の後方連絡線遮断と包囲の遂行のために行動している。
そして、スミルノフ少将はこの作戦に失敗すれば、敷島人民共和国は終わりだということを、ソヴァーク社会主義国の秘密警察にして諜報組織である国家保衛委員会の将校から聞かされていた。
敷島人民共和国は小国であり、経済規模は小さく、人口はさほど多くない。それがこの戦争でみるみるうちに経済と人口がすり潰されている。
このまま戦争を続ければ敷島人民共和国は倒れる。国家が崩壊する。
だから、スミルノフ少将の祖国であるソヴァーク社会主義国は大規模な軍事支援を行ったのだ。社会主義、共産主義の同志がこの世界からひとつ消えるというのは、彼の祖国にとって認められないことであった。
「作戦は上手くいくはずだ。これまでも我々は勝利を手にする機会はあった」
だが、それを阻んだものがいる。
「第666装甲戦闘団。ただの実験部隊とは思わない方がいいな……」
彼が注目したのは共産圏の戦車部隊にとって死神に等しい部隊。第666装甲戦闘団だ。
「前線の様子を見たい。車を準備してくれ」
「了解」
スミルノフ少将は連絡将校の大尉にそう命じ、彼は前線に向かった。
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