望まぬロボパイロットは死にたくない 作:第616特別情報大隊
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──督戦隊
俺が至近距離で砲撃したIS-3重戦車が火を噴いた。俺の乗ったシェルが揺れて転びそうになるのを、すぐさま姿勢を立て直し、次の重戦車に向かう。
俺たち4機のシェルに懐に飛び込まれた敵の重戦車どもはまともに抵抗できず、次々に撃破されていった。
「いいぞ、いいぞ。このままぶち壊し続けろ……!」
今や恐るべき敵の重戦車も、俺たちにとっては獲物に過ぎない。ぶち壊して、吹っ飛ばして、このまま食らい尽くしてやる。
『メタル・スリーよりメタル・ツー! 敵が撤退を始めたぞ!』
混乱状態に陥ったのか、敵の戦車部隊は撤退を始めた。やったぜ。
『ジャンクヤードより各機。敵を追撃して殲滅せよ。ハスフォード中佐の命令だ』
あのマッチョな海兵隊員もこの機を逃さず、敵を殲滅しようってつもりらしい。よく見ればそのハスフォード中佐を乗せた軍用四輪駆動車がすぐそこまで来ている。マジかよ。砲撃戦が繰り広げられたばっかだぜ?
「中佐! 危険だぞ!」
俺はシェルのハッチを開いてそう警告する。
「気にするな、大尉! それはともかくいい仕事だったぞ! このまま敵を追撃して叩きのめす! ついてこい!」
「了解!」
海兵隊員ってのは命知らずだな。だが、俺たちに危険な任務ばっかり押し付けて、自分は後方にいるリード中将みたいな連中に比べればずっといいな。
『進め! 全部隊、進め! 敵を追撃しろ! 決して逃がすな!』
ハスフォード中佐が無線に向けて叫び、俺たちを含めてハスフォード戦闘団の全部隊が逃げる敵戦車師団に向けて突撃していく。
撤退を阻止するためのやけくそ気味の砲撃が敵に叩き込まれ、海兵たちは雄たけびを上げて敵に突っ込む。敷島国警察予備隊の戦車大隊もエンジンを響かせて進み、辺りに排ガスが立ち込めた。
突撃。突撃。突撃。
敵は重装備を放棄して逃げ始めている。放棄された火砲があちこちに見えた。戦車も乗り捨てられたものが山ほどある。
戦車に乗ったまま逃げようとした連中は俺たちのシェルか、友軍戦車によって撃破された。完全に敵は瓦解したと言えるだろう。
そこで妙なことが起きた。敵が向きを変えて俺たちに迫ってきたのだ。
「クソ。やり合うつもりかよ」
いや。どうも違うぞ。何かがおかしい。
そう思ったとき、敵が撤退しようとしている先が砲撃を受け始めた。友軍の砲撃じゃあない。あれはカチューシャロケットだ。おいおい! 敵は自分たちに味方を砲撃してるってのか!?
そこで俺はスターリングラードって映画を思い出した。あの映画だと後ろから前進するように強制する督戦隊ってやつがいた。機関銃で見方を後ろから撃って、前進させるって連中だ。
どうも今回のこれはその砲撃バージョンらしい。友軍を撤退させないために、退路を砲撃してやがるのだ。どうかしてるぜ!
だが、この試みによって瓦解するだけだったはずの敵が、俺たちを道ずれにしようと迫ってきた。楽な戦いになったと思ったのによ、クソが。
俺たちは向かってくる歩兵は海兵どもに任せ、戦車を狙った。既に師団規模だった戦車師団はその多くの車両が失われ、半壊している。そいつらに殺されないようにすれば、俺たちの勝利だ。
それに敵は足の遅い重戦車を真っ先に乗り捨てた。それは俺たちにとっていい知らせである。敵はよく狙えばこちらの火砲で撃破可能なT-34中戦車ばかりだからな。
「各機! 落ち着いて、敵を殲滅しろ! 殺されるなよ!」
俺はそう命令を叫び、敵に向けて砲口を向けて砲弾を叩き込む。T-34中戦車は次々に爆発炎上するが、敵はこちらに命中弾を出せていない。どうやら敵はろくな訓練を受けていない素人のようだ。
『いいぞ! 全部隊、そのまま敵を叩きのめせ! 連邦に栄光あれ!
ハスフォード中佐もハイになって叫んでいる。戦場には一種の狂乱状態が訪れていた。事前に高度に定められていた戦術も何もかも無意味なる熱狂が、狂気が、この戦場には訪れていた。
俺は戦場のそんな狂気に身を任せ、敵を殺し続けた。
戦車が爆発し、燃え上がる車両から火だるまになった戦車兵が転がり落ちてくる。
その戦車の炎上する熱を俺は感じていたし、またシェルが踏みつぶした死体の感触も感じていた。俺は今や鋼鉄の巨人であり、不死身で無敵の化け物だ。俺を殺せるやつなんて存在しない。
そう思っちまうぐらいにこの戦いは上手くいった。
敵戦車はついに全滅し、ほとんどの装備を喪失した敵歩兵たちはがむしゃらに突っ込んできては重装備を有する海兵隊になぎ倒されて行く。
『司令部より全部隊! このまま前進を続け──』
ハスフォード中佐が次の命令を発しようとしたときに無線が不意に途絶えた。
「こちらメタル・ツーより司令部。命令を聞き取れなかった。再送願う!」
『……ちら司令部! 繰り返す、こちら司令部! ハスフォード中佐は戦死! 繰り返す、ハスフォード中佐は戦死! 指揮はウィンターズ少佐が引き継ぐ! 以上!』
マジかよ。だから前線に出るのは危ないって言ったのにな、クソ!
『こちらウィンターズ。指揮を引き継いだ。全部隊、可能な限り敵を追撃し、打撃を与えよ。既に友軍部隊が包囲を脱出し始めている』
ウィンターズ少佐はそう俺たちに命じ、言われた通り可能な限り、逃げる敵を追撃した。
「あの飛行機は友軍か」
空軍も反撃に出たのか、F-86ジェット戦闘機が上空を飛んでいき、撤退中の敵に向けてロケット弾を浴びせて離脱していった。
それからは地獄のような光景が広がっているのが見えた。
焼け落ちた戦車などの車両。大量の焼死体。人間だったものの残骸。それがずうっとずうっと道路に沿って散乱している。まるでこの道路の先は地獄に出も続いていますって言うかのように。
俺たちはその道を進み続けた。
「メタル・ツーよりジャンクヤード。白旗を上げているやつがいる。敷島人民共和国の将校じゃない。あれはソヴァーク赤軍の将校だ」
俺は空軍の爆撃で焼けた村で、負傷し、白旗を上げている敵の将校2名を見つけた。
『ジャンクヤードよりメタル・ツー。海兵隊が対処する。援護しろ』
「了解」
それから海兵隊の歩兵分隊が前進してきて、降伏した将校たちを拘束した。しかし、そこで将校のひとりが俺たちの方を見て何かを叫んでいるのが分かった。
「どうした?」
俺はハッチを開けて将校を拘束しようとしてる海兵に尋ねる。
「こいつが暴れているんですよ!」
「お前たちは第666装甲戦闘団だな! それがシェルか!?」
海兵が叫ぶのに捕虜になった将校が鈍りのあるアルカディア語で叫んできた。
「ああ? だったらなんだよ。お偉いさんのくせに懸賞金狙いだったのか?」
「そうか。それがシェルという兵器なのか……!」
ソヴァーク赤軍の将校はそう言うと無理やり海兵隊員たちによって連行されて行った。あの階級章、確か赤軍少将だよな? 随分なお偉いさんを捕まえちまったぜ。
俺たちが拘束した将校こそ、ソヴァーク赤色陸軍少将であるヴァシーリー・スミルノフ少将であることを知ったのは後日のことだった。そいつは捕虜になっている国連軍将兵と交換でソヴァークに帰ったらしいと。
ま、どうでもいい話だ。
この大攻勢は結局のところ失敗に終わったが国連軍の反撃も上手くいかず、また戦線は膠着しちまった。戦争は続くよ、どこまでもってわけだ。畜生め!
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