望まぬロボパイロットは死にたくない 作:第616特別情報大隊
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──ハンマーヘッド作戦
諸君、グッドニュースだ。ついに戦争が停戦した!
この前の大攻勢が失敗に終わり、敷島人民共和国の連中は交渉のテーブルに着いたらしい。俺たちは勝ったわけじゃないが、とりあえず殺し合いは止まったわけだ!
「よっしゃあ! お前ら、これで国に帰れるぞー!」
「やったぜ! 戦争は終わった!」
俺たちは数か月振りに飲酒が許可され、冷えたビールを開けて停戦を祝った。ビールは補給部隊のRJが手に入れたやつを無理やり分けてもらった。
「けどよ、アーサーの兄貴。戦争には勝てなかったんだよな……?」
「どうでもいいだろ、勝ち負けなんて。これは俺たちの戦争じゃない。この戦争に負けたって俺たちの国が滅ぶわけじゃないんだ。所詮は政治家と将軍たちがやりたがっただけの戦争に過ぎないんだぜ」
「そうかもしれないんだけどよ。どうせなら勝利して国に帰りたかったな」
「はん! 生きてれば戦争に勝つよりもっといいことはあるぞ、マット!」
どうせ他人の国の話だしな。俺のご先祖様がこの国に暮らしていたとしても、今の俺には全然関係ない。よそ様の戦争で死ぬなんて馬鹿らしいぜ!
「アーデ! お前も飲めよ! 停戦祝いだ!」
「そう? じゃあ、一杯貰おうかしら」
俺はアーデにもビールを分けた。どうせRJから分捕った代物だしな。
「国に帰ったら俺たちは解散かね?」
「シェルの運用ノウハウは得られたと思うけど、だからと言って解散する理由にはならないでしょう。これだけ実績を上げたんだから」
「実績、ねえ?」
そりゃあ敵を山ほど殺したが、それを誇る気にはなれねえな。所詮戦争ってのは殺し合いで、善悪はなく、そこに正義なんてものはない。そう俺は思っている。
「ま、戦争なんてもう起きないだろう! 次に戦争が起きる時には退役してるぜ」
次に起きるとすればベトナム戦争だが、ベトナム戦争が勃発したのは1960年代中頃だったはずだから、10年以上は猶予がある。それぐらい軍隊で仕事したら、退役して真っ当な商売でもやるさ。
戦争なんて1回経験したら、もう十分だろ?
しかしながら、俺たちが戦争にうんざりしても、戦争の方は俺たちにうんざいしていなかったらしい。
「諸君! 勇気ある諸君らに託したい任務がある!」
そういうのはいつものクソ将軍のリード中将だ。
それだけでも最悪だってのに、おまけに戦略諜報省のジョン・スミスまでにやにや笑いで付いていやがる。状況は恐らく最悪だぞ。
「現在停戦交渉が継続されているが、我々は侵略を行った敷島人民共和国首脳部がのうのうと生き延びることを良しとしていない。国連憲章に反して侵略戦争を始めたものたちは、懲罰されるべきである!」
おいおい。停戦は決まったんじゃないのか? まだ交渉段階なのかよ?
「そこで我々は敷島人民共和国首脳部を抹殺することを決定した。我々は敵の首都である豊ヶ原特別市を強襲し、そこに存在する敷島共産党首脳部を壊滅させる。詳細は戦略諜報省のジョン・スミス君が説明する」
「リード中将閣下に代わって説明する。作戦目標は閣下が仰ったように敷島人民共和国首脳部の暗殺だ。敵の首都である豊ヶ原特別視を我々は空挺降下で強襲し、敷島共産党書記長である片山公三を含む首脳部をあの世に送る」
簡単だろというようにジョン・スミスの野郎はいいやがった。
正気じゃねえぞ。
「空挺降下で敵の首都に乗り込むとして脱出は?」
「前と同じだ。海軍が我々を脱出させる。その手筈は整っている。心配するなよ」
「クソ。頭のおかしい作戦を立てやがって」
第二次世界大戦でもベルリンや東京に空挺降下したりなんてしてないぞ。
「ちゃんとした作戦だぜ。前と同じように空軍が大規模な陽動をやって、夜間に降下する。そして、そのまま敵を奇襲し、目標を消したらさっさと離脱。戦略諜報省の
「2割で失敗するのか。人の命でギャンブルしやがって、クソ野郎が」
「戦争なんて盛大なギャンブルさ」
俺が睨むのにジョン・スミスは平然とそう言いやがった。
「それに今回はそっちの全部隊を降下させる予定だ。あんたは好きだけ部下を連れてきていいってわけだ」
「はあ? 正気かよ。どれだけ輸送のための空中艦が必要になるか分かってんのか?」
「もちろん。空軍はこちらの要求に応じると言っている」
どれだけ巨大な空中艦隊で敵の首都に押し掛けるつもりだよ。そんなの捕捉されないわけないだろ? どうするってんだ? そこら辺、ちゃんと考えてるんだよな?
「作戦開始はいつだね、ジョン・スミス君?」
そこでウィンターズ少佐がそう尋ねた。今回は第666装甲戦闘団そのものを投下するみたいだから、ウィンターズ少佐がそう尋ねるのはもっともだ。俺は今回の作戦の先任指揮官じゃない。
「今すぐだよ、少佐」
* * * *
俺はフェアヘブン級空中巡航艦でもデカいと思っていたが、上には上がいた。
「パシフィカ級空中戦艦か。デカいな」
「すげえ……!」
俺たちは空軍基地に停泊している巨大な空中艦を前に呻いた。
パシフィカ級空中戦艦。口径356ミリ三連装を主砲とする空中艦だ。だが、そのシンボルであるはずの主砲の数が減っている。3基あるはずのそれが2基しかない。
「この空中艦が俺たちを投下し、さらには航空支援を実施する。文字通り大船に乗った気でいてくれよ」
「この空中艦、今回の戦争で泥船だって判明したはずだけどな?」
ジョン・スミスが言うのに俺が突っ込む。
今回の戦争で馬鹿デカいだけで機動力が低い空中艦は、
「だから、主砲を降ろして機動力を上げたってわけだ。最終的には全ての主砲を降ろして、戦略爆撃機と輸送機に改装すると空軍は言っている。空中艦同士の空中砲撃戦は起こりえないと判断したらしい」
「そりゃ結構なことで。支援に当たるのはこの1隻だけか?」
「後方には空中空母が展開する。艦載機がいざってときは援護してくれる」
「はあ。上手くいく気がしねえぞ」
あーあ。こいつはただの盛大な自殺になるんじゃないか? 死にたくねえよ。戦争はもう終わりそうだってのにさ!
それから前のように空軍の
その様子をアーデは見ていた。
「高所恐怖症じゃないよな、アーデ?」
「ええ。空挺降下したことは前にもあるから」
「いやいや。あの空挺降下演習程度で安心するなよ。あの空挺降下が子供のお遊びに見える高さから俺たちは落とされたぞ」
「そうなの? それは楽しみね」
俺が冗談言っていると思ってるな、アーデのやつ。
「諸君。乗り込めよ。パーティに送れちまうぞ」
ジョン・スミスがそう言って俺たちは空中戦艦に乗り込んだ。
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