望まぬロボパイロットは死にたくない 作:第616特別情報大隊
……………………
──敵首都強襲
俺たちを乗せたパシフィカ級空中戦艦は、敵の首都である豊ヶ原特別市に向けて飛行している。夜間の飛行であり、敵の空軍は活動していないのか、今のところ俺たちを迎撃しにきた連中はいない。
敵は夜間飛行できない。それが今のところの国連軍の中での常識というものだったが、俺は以前夜間飛行してきた空中艦と戦っている。全然安心できねえよ。
「キサラギ大尉。降下したあとの作戦を説明する。来てくれ」
「了解」
俺はウィンターズ少佐に呼ばれて空中艦内のブリーフィングルームに向かう。
「集まったな」
ブリーフィングルームには当然ジョン・スミスもいる。
「我々は豊ヶ原特別市中心部にある1945年革命記念公園に降下する。全部隊をここに投下し、ここから豊ヶ原特別市の制圧を開始する。制圧する目標は人民最高評議会議事堂、書記長官邸、陸海軍省。そして国家保安省だ」
地図の上にそれぞれの場所が記されてゆく。どうやって調べたのやら。
「要人の暗殺そのものは俺たち戦略諜報省がやる。シェル部隊には敵の首都警備隊を排除してもらう。首都警備隊は戦車を含む1個大隊規模の戦力だ」
「オーケー。やってやるよ。ここまで来て文句言ってもしょうがないからな」
こうなりゃ自棄だ。
「安心しろよ。首都警備隊には実戦経験がない。所詮は国家保安省っていう秘密警察の軍隊だからな。あんたらならな簡単に蹴散らせるはずだ」
「そう願いたいね」
それでも敵が戦車や銃火器を持ってれば訓練されてようとなかろうと俺たちを殺せるんだぜ? 分かってんのかよ。
「それでは降下は10分後だ。準備しろ」
クソ。死なずに済めば御の字だぜ、このクソ作戦は!
* * * *
空中戦艦の腹から放り出される。
以前のように小型の反重力炉を装備した俺たちのシェルはパラシュートとその反重力炉を使って空挺降下することになっている。
『対空砲火、対空砲火! 敵の対空砲火だ、畜生! 助けてくれ!』
「クソ、クソ、クソ、畜生! また計画と違うじゃねーか!」
俺たちはひっそりと降下するはずだったが、敵の高射砲部隊に捕捉され、猛烈な対空砲火を浴びている。赤い曳光弾を引いた機関砲弾が打ち上げられ、俺のシェルが被弾するたびに嫌な金属音を立てた。
高射砲は地上に無数に存在しているが、空挺降下中の俺たちからじゃあ、何もできない。撃たれ続けるしかねえんだよ、畜生が!
「降りろ、降りろ、降りろ! 早く!」
地上に降りないとこのままじゃハチの巣だ!
俺の願いが通じたのか、無事にシェルは地上に降りた。俺はすぐさま口径76ミリライフル砲を構え、その方向を滅茶苦茶撃って来やがった高射砲に向ける。
「くたばりやがれ、クソ野郎!」
これまでの鬱憤をぶつけるように放たれた砲弾が高射砲を吹っ飛ばす。俺はそのまま敵高射砲の制圧を続けた。
『メタル・スリー、降下完了だ!』
『ニッケル・ワン、降下した』
マットたちもアーデも無事だ。だが、部下の何人かからは応答がない。クソッタレ!
「予定通り、敵首都警備隊を制圧する。続け!」
後は戦車まで装備している首都警備隊を叩きのめすだけだ。
俺たちは事前に判明していた敵の配置図に従って敵の積極的な撃破を目指す。まず片付けるべきは敵の戦車だ。それがもっとも俺たちを殺し得る代物であるが故に。自分を殺せるやつから片付けるのは戦いの基本だ。
俺たちが公園に立てられていた
「メタル・ツーより各機! 敵戦車を撃破しろ! 最優先だ!」
『了解!』
俺たちは戦車に向けて砲撃を開始。T-34中戦車はあっけなく吹き飛び、爆発炎上する。しかし、相変わらずIS-3重戦車は頑丈で、俺たちの放った砲弾を弾きやがった。
「履帯だ! 履帯を狙って走行不能にしろ!」
俺はまずは敵の弱点となる履帯を砲撃して重戦車を走行不能に追い込む。しかし、それだけでは敵戦車を無力化できたとは言えない。敵は砲塔をぐるりと回して、口径122ミリの砲弾を俺たちに向けて放ってくる。
「ニッケル小隊! アーデ! 援護してくれ!」
『ニッケル・ワン、了解』
その砲撃をアーデたちにM1001の指向性障壁で受け、俺たちは背後に隠れる。だが、指向性障壁の無敵じゃない。何発も食らえば飽和して、障壁はなくなっちまう。
「クソが! 畜生、畜生! どうすりゃ……!?」
そこで俺は気づいた。IS-3重戦車が後部に補助燃料タンクを詰んだままだということに。当然ながらタンクの中には燃えやすい燃料がたっぷり詰まっているわけで。
「ははっ! くらいな!」
俺は
「メタル・ツーより各機! このまま叩きのめせ!」
『ニッケル・ワン、了解』
俺たちの猛砲撃の結果、敵戦車は壊滅し、歩兵も逃げ散っている。炎上するトラックや
『ハウンド指揮官よりメタル・ツー。首都警備隊は片付いたか?』
「メタル・ツーよりハウンド指揮官。敵は撤退中だ」
『オーケー。じゃあ、こっちに援護しに来てくれ』
「要人の暗殺は任せていいんじゃなかったのか?」
『予定は未定さ』
「ふざけやがって」
ジョン・スミスの野郎、俺たちを便利屋扱いしやがって。
『メタル・スリー、メタル・フォー、それからニッケル小隊。俺に続け』
俺は苛立ちながらもアンディとマット、そしてアーデたちを連れてジョン・スミスが指定した場所に向かった。
ジョン・スミスたちがいたのは人民最高評議会議事堂で、ジョン・スミスたち戦略諜報省部隊は、敵が議事堂の窓に据えた機関銃陣地からの猛烈な射撃で前進できていない様子だった。
「来たな、メタル・ツー! 見ての通りだ! 機関銃陣地を吹っ飛ばしてくれ!」
「あいよ、ハウンド指揮官。吹っ飛ばしてやるさ。各機、前方の建物に向けて砲撃開始だ。
俺は人民最高評議会議事堂なんて大層な名前のついている建物に向けて砲口を向けた。そして、
爆発。爆発。爆発。爆発!
立派な建物が瞬く間に瓦礫に代わっていく。ざまあみろ、
「それぐらいで十分だ。あとは任せろ」
ジョン・スミスがそう言い、戦略諜報省部隊が議事堂に突入していく。
それから15分程度でジョン・スミスは建物から出てきた。
「目標は殺害できたのか?」
「ああ。敷島共産党書記長の片山公三は死んだ。これで敵の指導部は皆殺しだ」
「結構なことだ」
「さあ、撤退するぞ。急げ!」
それから撤退が始まった。
前回のように俺たちは脱出を開始する。
今回は空中艦に追撃されたりしないことを祈りながら、必死に海軍の待っている海岸線を目指した。俺たちは走り、走り、そして夜の海岸線が見えた。
「いいぞ。今回は送り狼はなしだ。イエイ!」
俺は歓声を上げ、先に部下たちを輸送艦に乗り込ませてから、自分も輸送艦に乗り込む。さっさとこの忌まわしい場所から逃げたくてしょうがなかった。
輸送艦が無事に海岸を離れると安堵の息が漏れる。
まだ俺は生きている。生きて呼吸をしている。クソ、嬉しいぜ!
「よう。上出来だったぜ、
ジョン・スミスがそう言って俺の方にやってきた。
「うるせえ、クソ野郎。これで停戦も何もかも台無しで戦争が続くんだぞ?」
そう、敵の首脳部を吹っ飛ばしちまったから、これで戦争継続は決定だ。
「そうはならないのさ」
「はあ?」
「今回殺した連中の後釜にはこっちの息のかかった軍人が座る。そいつはソヴァークの軍事顧問と義勇軍を追い出し、段階的に敷島国に併合されることを了解している。これで敷島は統一される。正しい側にな」
はあん。なるほど。俺たちがやってのはクーデターのお手伝いだったってわけか。どこぞの軍人が権力の座に座るための。
「今後、そういう悪事はお前たちだけでやれよ」
「そうはいかないさ。
「くたばりやがれ」
俺はジョン・スミスにそう吐き捨てた。
……………………