望まぬロボパイロットは死にたくない   作:第616特別情報大隊

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ドードー作戦

……………………

 

 ──ドードー作戦

 

 

「よくやった、諸君! 貴官らの勝利への貢献に感謝する!」

 

 クソ将軍──リード中将は上機嫌にそう言っていた。

 

 第8軍は瓦解を免れて、北辰州で敷島人民共和国とソヴァーク社会主義国相手に一進一退の攻防戦を続けている。

 

 くだらない戦争よ、さっさと終わってくれ! 俺が死んじまう前に! という俺の願いとは正反対に戦争は長期化する方向を向いていた。戦線はうんざりするほど膠着し、どっちも勝つことを諦めていない。最悪の状態だ。

 

「貴官らの有能さを見込んで新しい任務を与える。重要な任務だ」

 

 あーあ。またこれだよ。

 

「今度は国連軍の任務ではない。極めて特殊な任務となる。任務の内容は彼から聞きたまえ。戦略諜報省(DSS)から来た人間だ」

 

 そう言ってリード中将が紹介したのは、アルカディア陸軍の野戦服姿だが、階級章や部隊章の類を付けていない若い男。黒髪の白人で、その顔にはどうにも胡散臭い笑みを浮かべている。

 

「ジョン・スミスだ。紹介の通り戦略諜報省から来た。よろしく頼む」

 

 ジョン・スミス、ねえ?

 

 ああ。戦略諜報省ってのは俺の前世でいう中央情報局(CIA)みたいなもので、諜報機関として相当怪しい連中だと思ってくれていい。暗殺とかプロパガンダの流布とかやっている連中な。

 

「戦略諜報省のスパイ様がただの装甲部隊に何の用事で?」

 

「ただの装甲部隊じゃないだろう。優秀な装甲部隊だ」

 

 俺が皮肉を込めて尋ねるのにジョン・スミスはそう言う。

 

「釧岳、天塩崎、雪見。それぞれで多大な戦果を挙げたのが、君たち第666装甲戦闘団だ。リード中将閣下が評価しているように、我々も君たちを高く評価している」

 

 ジョン・スミスはそう言って任務ついて語り始めた。

 

「我々は現在賢明な制空戦闘を展開中であり、一部航空優勢を奪還している。しかし、残念なことに空軍の損害は大きく、大勢のパイロットが敵地での脱出を余儀なくされてた。彼らは拘束され、捕虜収容所に送られている」

 

「まさか捕虜収容所から救出してこいとでも?」

 

「そのまさかだ、大尉。我々は北辰州北部の白楡にある捕虜収容所から、ある将校を救出したい。その任務に諸君らの手を貸してもらおう」

 

 冗談じゃねえ。俺たちは特殊作戦部隊でも何でもないんだぞ。捕虜の救出のために敵地の奥深くに入り込んで、作戦を展開しろってのは完全にお門違いだ。

 

「残念だが、そんな訓練は受けてない。他所を当たってもらえないか?」

 

「そうはいかないな。これは大統領も承認した作戦だ。付き合ってもらう」

 

「クソ!」

 

 俺は絶対に次の選挙で今の大統領とその仲間には票は入れないからな! 民意を受けて落選しろ、バーカ!

 

「作戦はシンプルだ。空中艦を使って空中機動し、敵地深部に降下。そのまま捕虜収容所を襲撃して捕虜を奪還し、帰りは海路で脱出する」

 

「俺たちを動員するなら相当デカい空中艦と輸送艦がいるぞ」

 

「全員は動員しない。3機だけ出してくれ。君を含めてな」

 

「分かった」

 

 そこまで大規模な作戦ではないようだが、それはより危険だってことだ。

 

「白楡は地図のこの地点だ。海岸に近く、機雷は密かに掃海されており、制海権は友軍が握っている。脱出の際は艦砲射撃による支援も期待できるだろう」

 

「帰りの心配も大事だが、行きも大事だぜ。こっちに航空優勢はないが、友軍が飛行できるのか?」

 

「ああ。攻撃は夜間に行われる。敵の夜間戦闘能力は低い。どの戦闘機も全天候型のそれではないからな」

 

「それはこっちも同じだろ」

 

「いや。こっちの空中艦は夜間飛行可能だ」

 

 へえ。空中艦や戦闘機の性能では共産主義者(コミー)に負けてるってずっと思ってたけど、そうでもないのか。

 

「作戦に当たって陽動も実施される。ペイルホース作戦と違って、今回は奇襲になるだろう。敵と真正面から撃ち合うのは捕虜収容所を襲撃するときだけだ」

 

「捕虜の情報をくれ。何人脱出させるんだ?」

 

「2名。連邦の空中艦とレーダーシステムについての技術を知っている将校だ。名前はアイリーン・パワーズ中佐とリック・カーニー少佐。偵察飛行中に撃墜されて、捕虜になっているのが確認された」

 

 ジョン・スミスは機密情報であることを示す『Classified』という赤い判の押された書類を俺たちに提示して、捕虜についての情報を共有した。

 

「オーケー。作戦開始はいつ?」

 

「いますぐだ。ドードー作戦はすぐに開始される」

 

 

 * * * *

 

 

 俺はドードー作戦──ふざけた名前だ──に動員する人間を選んだ。アンディとマットだ。ふたりは俺が頼むと嫌がらずに同意してくれた。

 

 俺たちはアルカディア空軍の展開している基地に向かい、そこでシェルごと空中艦に乗り込むことになった。

 

 俺たちが乗り込むのは──。

 

「フェアヘブン級空中巡航艦、か」

 

 巨大な空中艦が俺たちの前にあった。

 

 前世で知っているどんな巨大な航空機よりデカいのが空中艦だ。このデカさは巨人だと思っていたシェルが小人に見えるぐらいである。

 

「俺、空中艦に乗るのは初めてだよ、アーサーの兄貴」

 

「俺もだ」

 

 マットが言うのに俺もちょっとワクワクしてきた。作戦はクソだが、空中艦ってのは酷く頼もしく見える。これが名前負けしてないといいんだがな。

 

「シェルはこちらへ!」

 

 空軍の空中輸送員(ロードマスター)の指示に従って、俺たちは空中艦の中にシェルを進めた。そして、そのまま空軍の連中がてきぱきとシェルを空中艦に固定していくのを眺めた。

 

「準備はできてるか、大尉?」

 

「ジョン・スミス。あんたはどうなんだよ? 戦略諜報省の特殊作戦部隊とかいるんだろう? そいつらは?」

 

「ああ。存在するがあんたにその存在は教えられない。高度な機密事項だ」

 

「はん。そうですかい」

 

 気に入らねえクソッタレだな、こいつも。

 

「それより空挺降下したことは?」

 

「一度だけ。空中艦じゃなくて輸送機から」

 

「なら大丈夫だ。今回の作戦は空挺作戦になる。空中艦は敵の高射砲による攻撃を避けるため高度を落とさず離脱するから、俺たちは空中艦から飛び降りることになっている。説明してたよな?」

 

「してない。初めて聞いたぞ。空挺降下による降下地点のずれはどうなる?」

 

「上手くやるさ。こっちには空挺降下のプロがいる」

 

 ジョン・スミスはそう言って不敵に笑っていたが、俺は不安でいっぱいだ。

 

 敵地の奥深くで、いざってときの援軍は期待できず、俺たちは少人数で行動することになる。こんなの死んじまうか、捕虜にされちまうかしかオチはないんじゃないか? 本当に上手くいくのかよ、こんなクソみたいな作戦がよ?

 

『乗員全員に告ぐ。こちらは艦長だ。間もなく本艦は離陸する。離陸準備を開始せよ』

 

 俺の不安に答えてくれる神はおらず、ドードー作戦は開始された。

 

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