貴方は英雄になりました。拒否権はありません。   作:産地直送の焼き鳥

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 書いた理由:曇らせがみたい

 以上ッッッ



問題:人類滅亡寸前の世界でチートを持ったらどうなるか答えよ

 ある日、私は死んだ。

 

 そして自身が転生したと気づいた。

 

 死んだ理由はとんと覚えていない。こうして転生したからには死んだのだろうと思ったのだが、もしかしたら私は死んでなくて夢の中なのかもしれない。

 

 まぁ夢なのだとしてもこの人生を楽しもうと思い、今を生きている。

 

 まず最初に自身が転生したのはどのような世界なのだろうか、と幼少期は考えていた。

 

 幸いにも周囲は私の生きていた年代である令和であり、生まれた国も日本。

 前世の社会情勢と比べても覚えている限りでは大した際も見受けられなかった。

 

 もしかしたら現代社会を舞台とした漫画・ゲームの世界に転生しているのかもと思ったが、ある程度インターネットで調べても知らない大企業だとか前世では就任していなかった総理大臣だとかもなかった。

 

 悪の組織とかだったら社会の裏側に潜伏や暗躍しているのがお約束だと途中で思いだし、結局調査は途中で切り上げていた。

 

 でも実は言うと私は、この世界が裏で悪の組織に牛耳られていたのだとしても何とかなるだろうと楽観視していた。

 

 

 「だって私には『チート』があるのだから」

 

 

 そう、私は転生するときにチートを持っていたのだ!

 

 身体能力は細腕でも万力を持っており、顔面偏差値はずば抜けており、さらに学校のテストでも全く勉強せずとも満点をとれていた。

 更に私は『異能』とも呼べるものさえ持っていた。

 

 「■■は本当にすごいな!!」

 「■■さん、私と付き合って下さい!」

 「■■、あなたは今大会において名誉ある記録を残しーーー」

 

 前世では味わえなかった賛美や尊敬のまなざしは、私の鼻をより高くさせた。

 かといって周囲の空気を悪くしないよう、適度に距離感を持ちながら第二の学校生活をおくっていた。

 

 第二の人生で心から分かりあえる親友もできたし、前世も含めて初めてできた兄弟である妹とともに両親と家族として楽しい生活ができた。

 たまに小説とかで『前世と違う家族を家族と思えない』という描写があるが、わたしは彼らを自分の家族として認識できていたし、特に問題はなく満足した中学生の生活を送っていた。

 

 そしての中学二年の生活半ば頃。

 

 世界にファンタジーが舞い降りた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 『速報です。太平洋に今まで未発見の島が発見されました。こちらが人工衛星で撮影された島上空の写真です。大きさとしては東京ドーム10個分という大きさであり、この事実に対しアメリカ合衆国大統領は『人類の一員として我々は未知を探求する使命がある』として声明を出しました。アメリカの声明に応じて■■首相もーーー』

 

 『専門家である■■大学の■■教授です。先生は今回の発見に関してどのような考えをお持ちでしょうか?』

 『はい、今回の発見には私も十分に踊裸課せられました。なにせ未発見の島・大陸が新発見されたのは1820年が最後とされています。つまり!今回の発見は実に200年ぶりなのです!この事実はーーー』

 

 『世間では社会全体が新しく発見された『宝島』について熱狂しています。新宿のパフェ店では新しいメニューとして『宝島パフェ』を発売し、早くも高校生を中心として流行が巻き上がっています。あの方々に聞いてみましょう』

 

 『えー、『宝島』?めっちゃ今熱いよね!』

 『そうそう、でもさ案外ただの岩の塊かもよ?でも隠された財宝とかあれば熱いかも!!』

 

 『今回発見された島、通称『宝島』。この島についてイギリス首相は『太平洋は世界全体の財産であり、我々もまた調査に参加する意向を持っている』と声明を出しました。同様にロシア、中国、ドイツも同様のーーー』

 

 

 

 中学二年生の夏休みが始まるかも、といったところで全世界に驚きのニュースが訪れた。

 

 太平洋のど真ん中に島が新発見された、というのだ。

 地球の衛星軌道上を日夜回っているNASAの人工衛星が撮った写真であるらしい。さらに言えばNASAの専門家たちが写真について精査したらしいが、それがレンズのゴミや傷、データの損傷による不具合でもなくこの写真は本物である、と証明されたそうだ。

 

 実際新発見された島の周囲に島を置いて撮られた、島を収めた写真がインターネット上に出回っていたりもした。

 …その写真の真偽はさておき世界中の政府が大真面目に声明を出しているところをみれば、私たち一般人でもその事実は理解できた。

 

 そして政府が我先に、でも他国に先を越されぬよう牽制し合っている理由もよく分かる。

 

 なにせ今回発見された島、通称『宝島』。

 いつのまにか名前が決まっていたが、案外的を得ている気がする。

 

 なぜならば今は、地球上のほぼすべてが調べつくされたと言えるほど探査された時代だ。

 そこで出てきた『宝島』。

 

 可能性は限りなく低いとしても、そこに何か貴重な資源があるかも、と期待してしまうのは理解できる。

 しかし、わたしは転生者として知っている。

 

 おかしい。

 

 おかしいのだ。

 

 そう、おかしいのだ。

 

 「わたしが死んだ…と思うのは2024年、その時高校三年生。そして今は2020年の夏。その頃に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 なんだこれは?

 

 一瞬何かの現代ファンタジーの冒頭なのかと思ったが、こんな冒頭は覚えちゃいない。

 まぁわたしの知らない物など幾千もあるし、そんなこともあるのかもしれないと一瞬安堵した。

 

 しかし、安心はできない。

 この世界がどうなるかなんて誰にも分からないのだから。

 

 そして事態は急変する。

 

 

 『今朝日本はアメリカ合衆国、イギリス、中華人民共和国、ロシア連邦、ドイツ、フランスと共同で通称『宝島』への共同探索隊を結成することを発表しました。来週にも地質学者、植物学者、海洋学者などを連れ向かうとのことです。これに対し社会の反応はーーー』

 

 『今朝、調査隊が無人島へと向かっていったことが関係各所への取材で分かりました。首相官邸によるとーーー』

 

 

 

 『速報です。北海道■■町の森林地帯で害獣が出たとのことです。該当地域にお住いの方々は緊急以外の用では外に出ないようにお気を付けください。情報によるとーーー』

 

 『速報です。イタリア、エトナ山で噴火活動が確認されたとの情報がーーー』

 

 『続いて速報が入りました。大西洋飛行中の旅客機がフランス西部の沿岸に墜落したとの情報が入りました。現在の状況は今のところ不明です。続いてーーー』

 

 『オーストラリア支部局から速報です!南極大陸側に巨大な影を確認したと地元沿岸警備隊からの情報が入りました!オーストラリア政府は非常事態宣言を発令しーーー』

 

 

 それは調査隊が島に向かった、という報道があってから数時間後のことだった。

 世界各地で異常現象が起こり始めた。

 

 害獣が現れた。山が噴火した。何もなかった平原にいきなり古城が現れた。町のど真ん中に大穴が開いた。

 

 休日なのでソファーに座りながらテレビを見ていた妹と母は最初の方は『怖いわねぇ』だとか『どうせ偽情報でしょ』など楽観視していた。

 しかしその表情は緊急ニュースが出るたび、次第に表情が変わっていく。

 

 そしてわたしはこの肉体が生まれ持った超感覚から感じ取った

 否、感じ取ってしまった。

 

 

 この騒動がタダでは終わらぬことを。

 

 

 そして時代は変革を遂げる。

 

 

 平和な時代は終わりを告げた。

 代わりに時代は地獄と見間違うほどの、ファンタジーと現実の境界線が崩れ去った戦乱の時代へと突入した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 2021年7月

 

 

 

 

 「あれから一年たったけど…、まさかこんなことになるとは」

 

  

 一年たって、私は英雄になっていた。

 

 …いや当初は目立とうとする気はなかったんだ。

 なにせ私がチートを持っていたといっても、それが英雄として活躍できるかわからない。

 

 もしかしたら敵がさらに強くて、かつ仲間とか私よりも数倍つおい奴だったと思っていたからだ。

 

 そもそも日常生活の範疇の中で使っているものが戦闘でも使えるとか考えるわけないだろ!!

 

 

 そんな気持ちがあったわけで、有志を政府が募っていたとしても私は参加するつもりはなかった。だって友達や家族の方が大事だし。

 自衛隊の給料が跳ね上げられたとはいえ、自身の身内が大事だ。

 

 そんな心持でいたわけだが…。

 

 

 

 自分の住む地域に怪物が現れた。

 

 

 

 それはあの日ーーー世間一般では『始まりの日』なんて呼ばれるーーーから世界中で現れ始めた生物。

 

 国連や、日本政府が正式名称としてそれら一般を定める総称を決めたらしいが、長ったらしいので一般の間ではこう呼ばれている。

 

 ーーー魔物、と。

 

 私たちの町に現れたのは偶然にも当時最強と認定されていたレッドドラゴン、と呼ばれる奴だった。

 今ではそいつは中の上ぐらいの強さではあるが、当時の強さとしてはトップクラスであった。

 

 銃をはじき、爆弾を物ともせず、狙撃銃による暗殺を試みようとも瞬時に察知し、ミサイルは口から出すブレスで相殺する。

 

 世界各国が追い払うことしかできずに手をこまねいていたところ、私たちの町にやってきたわけだ。

 

 その日は夏休みの一日だった。

 一用事終わった後外でボーっとしていた私の元へレッドドラゴンがやってきた。

 

 用事のせいで少しばかりいらついていた私は、そのままやけくそでぶん殴ってしまった。

 

 一般人ならできないことだった。

 まず、銃すらも効かない肉体を持つわけだから。

 

 しかし、私の生まれ持つ肉体は普通ではなかった。

 

 包丁も刺さらず、鉄骨などクッキーのように砕ける私の拳は竜の鱗など歯牙にもかけず竜の体を砕き割った。

 

 さて、()()()()私の前にレッドドラゴンがやってきたのだが、私はレッドドラゴンの死骸をそのままにしたまま家に帰った。

 

 …のだが。

 

 ()()()()私が竜を倒す姿をとっている人がいて、

 

 ()()()()その映像がインターネット上に流出し、

 

 それが合成画像だと思われてインターネットの中で埋もれようとしていたところ、()()()()自衛隊のお偉いさんの目に留まり、

 

 だとしても倒したであろう人が分からないかつ発信者とも連絡が取れないということであきらめかけていた時、()()()()()()()からの情報提供があり、私が見つかったらしい。

 

 …なんか誰かの作為を感じる気がするな?

 

 

 それはさておき。

 

 私は日本の新しく設立された特殊部隊へと配属された。

 その任務は魔物から一般市民を守ること。

 

 私は一応中学生だったわけだが、特殊な国営学校を設立することで国はどうにかしたらしい。

 法律どこ行った。

 

 

 私 は 中学生 から 国家の犬 へと 進化した!

 

 

 クソがぁ!!

 

 さてさて、今日もまたお仕事でございます。

 

 『ーーさん、聞こえてますか?』

 「あ、はい。聞こえています。少しぼんやりしていました」

 

 私は耳につけられたイヤホンから聞こえてくるオペレーターさんの声で思案の沼から戻ってきた。

 

 私の目の前にあった景色は、壮大な大森林だった。

 『始まりの日』以前では世界中探しても見かけることのなかった東京タワーすらも超えるほどの大樹木。そして空には私が昔倒したレッドドラゴンの亜種であるワイバーン、更には全長数十mをも超えるガルーダが雄大に飛行していた。私のスーパー超すごいスペシャル肉体による視力によって見れば、森の間には数mを超えるサイズのイノシシや毛深い大猿が闊歩していた。

 

 そして大空の向こう側には私たちがよく知る富士山がそびえたっていた。

 

 そう、ここは青木ヶ原樹海。

 

 『始まりの日』からここは魔物たちの寝床と化していた。

 日本政府が定めた危険度では最大となっている、まさに地獄である。

 

 そこに私が来ているわけであるが…、最悪なニュースと良いニュース、そして超最悪なニュースが現在ある。

 

 まず最悪なニュース。

 私今20連勤。

 

 労働基準法は行方不明になったようです。

 お偉いさんが言うにはあまりにも戦闘可能な人がいなくて、過重労働になっているんだとか。まぁお金もらえるし、私のチートすごいから20連勤しても全く疲れ感じてないけどさ!?

 一般人ならとっくのとうに死んでいるレベルである。

 

 次にいいニュース。

 なんとこれが終われば休みが取れます!

 一日、かつ午前中だけだけどね!

 

 はー、くそ。

 

 最後に超最悪なニュース。

 それはーーー

 

 『ーーさん、これから任務の詳細を伝えます。樹海の中に入れば電波が不安定になるためしっかり覚えていってください』

 「了解です」

 

 するとオペレーターさんから通信が入ってきた。

 しっかりと聞こえるように耳につけたイヤホンをしっかり押さえつけながら、集中して聞く。

 

 『今回の任務は樹海内部の魔物の掃討です。魔物が増えすぎると都市部へと進出してくる可能性があるのですが…、言うまでもなかったですね。目標としては危険度最高評価の魔物を10体、それ以下の魔物を200体以上討伐していただきます』

 「はい」

 『討伐した後の死骸に関しては後で後発隊が回収するため、そのままで大丈夫です』

 「はい、了解です」

 

 オペレーターさんが話す情報をしっかりと脳裏に焼き付ける。

 特に狙って討伐してほしい魔物の情報や、集合場所、そして予定終了時間を覚えながら準備を整える。

 

 大体今回の任務に必要な情報ができった後、少しストレッチしてから()へ向かおうとしたときオペレーターさんがぼそっと言いだした。

 

 『…最近大丈夫でしょうか』

 「はい?まぁ体調は完璧ですが…、いきなりどうしたのでしょうか?」

 

 後は挑むだけ、という時にオペレーターさんがいきなり言い出した。

 どうしたのだろうか、と思いながら耳を傾ける。

 

 『まず最初にあなたはまだ未成年です。この人手不足の中であなたが働かなくてはいけない現状には心苦しく思っています。それに我々大人の不甲斐なさもあります』 

 「…まぁ、はい」

 

 あぁなるほど、彼女にも思うところがあるのだろう。 

 緊急事態ゆえに児童労働が許されてはいるが、少し前は平穏な日々があったわけだ。

 戦時下ではあるまいし、一般人の精神ではふつう耐えられぬものであるのだろうか。私としては余り気にしてはいないのだが。

 

 「大丈夫ですよ、私は他よりも頑丈な肉体を持っていますし。何より友達や家族のためになるのならいい気分です」

 『ですが…』

 「ですがもへちまもありません。私がやりたいからやっている、それでいいではありませんか。そっちの方がそちらの都合がいいでしょう」

 『…ですが定期健診だけはしっかりと行ってください』 

 

 それとさっき言い忘れていたが、一番超最悪なニュースというのは『私はチートを持っている』ということだ。

 

 何がどう超最悪なのかって?

 

 竜の鱗にも勝る高度の皮膚を持ち、

 巨人と相撲を取っても勝てるほどの筋肉を有し、

 数百キロ先にいる怪鳥さえもしっかりと見ることが出来、

 鬼と三日三晩戦い続けても全く疲れず、

 精霊が持つ権能と互角どころか上回れるほどの異能を生まれ持ち、

 病にも怪我も呪いも全くかからなかった。

 

 私は最強だった。

 

 最強()()()

 

 『あなたという人材は変えの効かないものです。なにせーーー』

 

 特殊部隊に入ってから世界を知った。

 

 ほかの人たちはあまり強くなかった。

 皮膚は柔く、竜の爪に簡単に引き裂かれた。巨人どころか大猿にさえも押し負けた。感覚など比べ物にならず、無限の体力を持つとされる鬼と戦って自衛隊の一個小隊が壊滅し、精霊によって吹き飛ばされて、呪いによってバタバタと倒れた。

 

 でも一人ぐらいは私と同じぐらい強いやつがいるだろうと思っていた。

 だけど違った。

 

 だけど私よりは弱いけど、それなりに強い人がいるだろうと思っていた。

 でも違った。

 

 私は最強だった。

 

 

 『あなたは世界唯一、単独で最高難度の魔物を討伐できる人間なのですから』

 

 

 何にもかえの効かぬものとなってしまった。 

 

 最高難度の魔物は一個中隊と引き換えでやっと撃ち取れるかどうかという存在だった。

 しかし、私がいるおかげで日本は一気に死者数が減った。

 

 政府上層部は味を占めたわけだ。

 『このままでいけば日本は安泰だ』と。

 

 まぁ事実であるし、納得はしているのだが。

 

 「了解しました。たまには行くつもりですから安心してください」

 『そうですか…』

 

 どこか納得しない声色を出しながらも、オペレーターさんは返事する。

 

 そろそろ時間だ。

 

 「それでは任務を始めさせていただきます」

 『はい、ご武運を』

 

 

 

 私は宙から下の樹海へと舞い降りる。

 私が空から落ちる途中なか、軌道線上に今回の討伐対象であるガルーダが通った。そいつは私のことが視界に入ると煩わしい虫を払うかのように、金色の嘴から空弾を吐き出した。

 それはバスケットボールほどの大きさではあったが、その空弾からはごうごうと周囲の空気を巻き込みながら私の方へと向かってくる。

 

 ガルーダはもう仕留めたといわんばかりに私からは視線を外し、雄大な翼をはばたかせていく。

 

 そして私は、慣れた手つきで自身の体を宙に留めた。

 まるで重力の影響から外れた現象に、ガルーダの放った空弾は落ちる軌道上を正確に狙った故か、そのまま上空へと消え去っていく。

 

 私はまた樹海へと落ちていくのと同時に、自身の腰に差していた刀を抜き取る。

 

 そしてその刀を振りかぶり、空中で身を捩じりながら空を切り裂く。

 それは本来であればただ空を裂くだけではあったが、刀からは斬撃が放たれる。

 

 斬撃の先には飛び去っていたガルーダがいた。

 

 ガルーダは後ろからくる殺気に寸前気づく。

 翼を必死に動かし良けてみてもそこには、二つ目の斬撃がすでに目の前に迫っていた。

 

 ガルーダの右翼の根元から尾翼の左側間で真っ二つに切り裂かれる。

 自衛隊や国連によって最高危険度と指定されている大怪鳥は、たった二つの斬撃で仕留められることとなった。

 

 ガルーダが真っ二つされた間から大量の赤い血と臓物があふれ出す。空を飛ぶ力を無くしたその死骸は、広大な樹海の中へと落ちていく。

 

 ズズンッ、という音と共にガルーダの死骸が地に落ちる。

 そして私はトッ、っと軽やかな音が鳴るような着地をして樹海へと降り立った。

 

 「ふぅ、さてと…」

 

 ガルーダの死骸の上に立ち、肩を回しながら樹海の中の周囲を見渡す。

 そこには多種多様な怪物たちがいた。

 

 恐らくガルーダの死骸を漁るため、やってきたのだろう。

 しかし彼らは動けないでいた。なぜなら怖いからだ。

 

 

 目の前のニンゲンが。

 

 

 本来であれば彼ら魔物にとってニンゲンとは食らうための、ただの食料であった。今彼女の周りを取り囲んでいる中には、うかつに樹海へと入ってきた武装済みのニンゲンたちを軽く殺した奴もいる。

 しかし、そんな彼らでも全く動くことが出来なかった。

 小さな躯体でありながらも、竜をも超えるほどの威圧を持っているソレはゆったりな動作をしながらも、油断の一つを見せずに刀を構える。

 

 「駆除目標はエルダートレントとジャイアント、それとガルーダ…、あぁガルーダはさっき切ったや」

 

 恐ろしき狩人が牙をむく。

 

 横に刀を振った瞬間、魔物たちは何をしたのだろうか、と一瞬思う。

 しかし、しばししてから気づいた。

 

 自身の腹のあたりに違和感があることを。

 

 ある一体の巨体をもつ魔物が腹部をみようとふと下を見れば、そのまま上半身は前方へと倒れ、下半身と分かれ断たれた。

 ある小柄の魔物がふと後方が気になり振り返れば、後方にある全ての木々が切られていた。

 

 僅か数秒。

 

 それが周囲にいた魔物たちが殲滅された時間である。

 

 

 「さーて、掃除を始めよう。なぁに、心配しないでくれ」

 

 

そして刀をもった一人の狩人は、はっきりとした声でつぶやいた。

 

 「痛みもなくすぐ終わる」

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 「はい、終わりましたよオペレーターさん」 

 『お疲れ様です』

 

 私が樹海へと降り立った数十分後。

 

 私は空中を歩いていた。

 端から見れば、何かガラスがあるのかもしれないと思うのかもしれないがよく見てみればわかるだろう。その足元には何もなかった。何かの方法で歩いているのだろう、とは推測はできるであろうが現代社会のもつ科学技術では到底わからぬ技術であることは明白な事実であった。

 

 そしてその空を歩く狩人ーーーつまり私であるがーーーの背後には広大な蒼穹とともに、眼下には森があった。否、()()()()()()()があった。

 

 先ほどまでは緑溢れる大樹海であり、富士の高山を背後に備える日本有数の樹海であったそこは、ずいぶん様変わりしていた。

 

 樹海のいたるところで粉塵が上がっていた。

 樹海の中心にそびえたっていた一本の大木は、おどろおどろしくも荘厳な樹皮など一触に、なにか鋭い武器に断ち切られたかのような断面で地に折れていた。

 雄大な天空を羽ばたいていた竜や怪鳥の姿は、もう既にどこにも見当たらない。

 あるのは木々の間に落ちている無数の怪物たちの亡骸のみであった。

 

 何かしらの専門家でなくても、その場で虐殺劇が起きたことは明白であっただろう。

 …そのうえでこの惨劇がたった一人の手によって引き起こされたと知ればより驚くだろう。

 

 何せその者の見てくれはまだ成人すらしていないあどけない姿をしているからだ。

 そんな惨劇を引き起こした狩人は、樹海を抜けたことで再度電波がつながったイヤホンを介して、オペレーターと会話する。

 

 「次の任務場所の座標はどこでしょうか」

 『お次の場所は南アルプス山脈です。危険度としては最高難易度ですが…、休憩は取りますか?』

 「いや、大丈夫です。特に疲れておりませんので」

 

 この体は素晴らしい。

 何せ現在5徹目、かつ20連勤に突入してはいるが眠気、疲れも、ましてや汗の一つすらかいていない。

 社畜の鏡だね!ハハッ。

 

 『そう、ですか…。わかりました。それでは引き続きよろしくお願いいたします』

 

 オペレーターさんからそういわれ、返事しようと思っていたらイヤホンの向こう側で何か動きがあったようであり、少しバタバタしていた。

 いやな予感がしながらもどうしたのだろうかと考えていると、オペレーターさんが焦った声を出しながらも、どこか申し訳なさそうな声色を出しながらこう切り出した。

 

 『すみません、小笠原諸島より南に20kmほどの辺りに巨鯨が出現したようです。魔物から読み取れる反応から先日海上自衛隊特務隊が取り逃がした固体かと思われます。現在急速に本土へと侵攻しています。

 南アルプス山脈の件に関しては後日にしてこちらの対処に向かってください』

 

 えっ。

 

 つまり、つまりだ。

 

 自衛隊がしくじった→私に火消し役が回ってくる→私のほかの任務が後回しされる*1→休みが消える。

 

 うーん、糞。

 

 とはいえ私しかできる人はいないわけでありまして。

 

 

 「わかりました。詳しい座標をおねがいします」

 『ッ!…ありがとうございます。それでは―――』

 

 さあ、私の休みのために、さぁ行くぞ!

 

 

 

 ちなみにその白鯨とやらは刀で適当に切ったら死んだ。

 

 …もう一人ぐらい私ぐらい強い人おらへん?外国でもいいから。

 あ、そうですか。はい。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 私は元々自衛隊が受け持つ任務のオペレーターとして仕事をしていた。

 

 実際大変な仕事ではあったのだが、国を守る一員としての矜持と理念の元、同僚たちと楽しく仕事を続けていた。

 そんな日常にファンタジーが舞い降りた。

 

 

 

 『始まりの日』

 

 

 

 『始まりの日』で『宝島』に各国の調査隊が向かってから世界は一変した。

 世界各地で魔物が生まれ出てきた。

 

 昔からある古城の中で。

 

 人踏み入れぬ密林の中で。

 

 未知溢れる深海の底から。 

 

 突如大都市のど真ん中に開いた大穴から。

 

 いたるところに湧きだした。

 まるで台所のGのように倒しても倒しても無限に湧いてくる。世界各国は対策を行ってきた。爆撃やミサイル、はたまた核ミサイルで。

 当初は効能があった。

 

 しかし、それらを物ともしない魔物たちが加速的に増え始めた。

 そいつらは銃をはじき、ミサイルを物ともせず、核爆弾から生還した。もうすでにいくつかの国家は滅亡し、中には()()()()国もあると風のうわさで聞いた。

 

 社会全体のみならず、政府上層部も余裕がなくなりかけていた時、一つの情報が新たに設立された対策機関へとやってきた。

 

 ―――竜を拳で倒せる人間がいる

 

 当初は信じるものなど誰もいなかった。

 しかし、それに信じるしか道はないほど日本は追い詰められていた。

 

 そして日本は、否、人類は賭けに勝った。

 

 そのものは恐ろしいまでに強かった。

 拳一つで竜を殴り殺し、鬼と相撲ができ、精霊と渡り合えるほどの異能を持っていた。

 『始まりの日』から異能を持っている者や力が急上昇した者が現れ始めたことはすでに報告が入っていた。

 

 だが、それらとは格が一桁ばかり違っていた。

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()強さを持っていたのだ。

 

 

 『これでこの窮地から抜け出せるかもしれない、否、抜け出せなくともましにはなるだろう』

 

 

 そう政府上層部と対策機関の官僚たちは判断したようである。

 政府はこの世紀末とも呼べるであろう現状を乗り越えるべく、『英雄』を作り出すため動き出した。

 

 そして、私にオペレーターとしての任務が命じられたわけだ。

 

 命じられた時はうれしかった。

 

 なにせ、ヒーローの相棒といえるであろうオペレーターという存在になれるのだ!

 あぁなんて心躍るのだろう!

 

 そういったものが大好きだった私は、この任務にかかわれることに光栄な気持ちを持っていた。

 

 …今後に向けての任務のため、顔合わせの際私は自分の目と脳味噌が正常なのか疑った。

 顔合わせのため、会議室の中のソファーに座っていたのはまだあどけない少女であった。

 

 

 「こんにちは、これから一緒に働くことになった錦百合 蓮です」

 

 

 その子はとてもではないが、竜を倒せる者と言われても納得できなかった。

 否、納得したくなかった。

 

 なにせ私の妹と同じ年齢らしいのだから。

 

 その時はこの場を崩すべきではないと判断し、感じた情動が流してしまった。

 その後、何度か慣らしとして任務を行った。

 

 予想通り、彼女は素晴らしい活躍をした。

 自衛隊の精鋭たちが何人もかかってやっと討伐できた魔物をたった一人で軽々と討伐した。

 

 ヒーローを見ている気分でとても高揚した。

 そしてそれは愚かなことだと思い知った。

 

 ある日、任務が終わった後私は長官に呼び出された。

 

 「…大丈夫かね?」

 「はい、錦百合さんの体調に関しては問題ありません」

 

 しっかり、はきはきと自身の上官である彼に向かって話す。

 しかし、長官が聞きたいことは私の予想していたものとは異なっていた。

 

 「君自身の体調のことだ。最近顔色が悪いじゃないか。何かあったのか?」

 「ーッ!」

 

 聞かれたくなかった。

 しかし、自身の顔色の取り繕い方が悪いのだろう。または長官がそれだけ優秀だったのか。それは定かではないにせよ、彼女はしゃべり始めた。

 

 「…今日、任務の終わりの際に、少し雑談をしていたんです」

 「…」

 

 脈絡のないような話をし始めたにもかかわらず、長官はそのまま促すような視線を向けてきたため、私もそのまま話し始めた。

 

 「錦百合さんにも妹がいるそうなので、私にも妹がいるので兄弟に関する話をしていたんです。話の途中で私は『私の妹は来年高校生になる』といったんです。そしたら彼女、なんといったと思います?」

 

 

  『高校かぁ…、私も中学校行きたかったなぁ』

 

 

 「彼女はまだ中学生なんです!報告書で彼女の故郷のことも知りましたし、現在の国内における魔物の被害状況の多さも知っています!

 しかし、彼女はまだ子供なんです!」

 

 上官の前で声を荒げるわけにはいかないと知っていながらも、次第に感情に任せて声が大きくなっていく。

 

 「本来なら学校で友達と一緒に楽しく、にこやかに、普通な毎日を送っている子だったはずなんです!それは私たち大人がやるべきだった仕事のはずです」

 

 ひとまず息を吸いながら、次の言葉を紡ぐ。

 

 「ですが!国内における魔物の討伐に関しては全体の5割を彼女が担っているんです!危険度が最高難易度に指定されている魔物に限れば全体の9割を!彼女が討伐しています。この日本という国は彼女によりかかっているんです!

 まだ子供である彼女に!」

 

 ハァハァ、と荒げた声を落ち着かせようと息を整えながらも長官を見据える。

 

 「何か私たち自衛隊にできないのか、そう思いましたが無駄でした。武器も、戦略も、異能も…どれもこれも竜や巨人といった魔物には効きません。

 最近の自衛隊特務部隊の任務内訳をご存じでしょう?

 

 …彼女の倒した魔物の死体の回収、私たちでも対応できる魔物の討伐、定期的な警戒と調査。どれも彼女一人で担うことが出来てしまうんです。同僚の中にはもう既に彼女へ嫉妬や羨望の目で見るならまだしも、彼女を怪物の目で見るものが出てきています」

 

 声を整えながら、長官に私は問うた。ないだろうと思いながらも。

 

 「…私たちに何かできることはないのですか?」

 

 長官は少し、うつむきながらため息をついていった。

 

 「現在科学班が新型の武器を開発中らしい。しかし、だ」

 

 長官は下を向いていた顔を前に向け、私のことを見据えながら苦々しく唇を噛みながら、

 

 「我々実行隊にできることは現時点にない。我々日本は一人の少女に頼ることしかできていないのが現状だ」

 

 といった。

 予想できていた回答だった。だって、何かできていることがあるのだとしたらもう既に動いているのだから。

 

 「本当にすまない、君には迷惑をかける」

 「いえ…大丈夫です」

 

 本当に迷惑をかけられているのはあの少女だ。 

 私たちがそんなことを言う資格も、思う資格もない。

 

 もう既に私の夢だった正義の味方は消え去った。

 

 私の理想であったヒーローを傍で支える味方になりたいという気持ちは崩れ去った。

 

 ここにいるのはもう既に、子供を利用し、荷物を背負わせる汚い大人しかいなかった。

 

 さりとて私は公務員。

 

 仕事は怠けることはできない。

 

 今日も仕事を始めましょう。

 

 この腐りきった、あどけない少女が英雄にならざるを得ない世界で。

 

 

 「錦百合さん、これより任務の情報を伝えます」

 

  

*1
私が受け持つ任務は全て『私しかできない』と判断されたうえの任務です、はい。





















 超をもこえる命を殺し、

 幾億人もの命を背負い、
 
 幾千人の遺族から、

 百をも超える暴言吐かれ、

 十もの国を見捨てて戦う、

 そんなあなたは大英雄。

 たった一人で戦う大英雄。

 頑張ってくださいませ。
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