処刑人と白銀の英雄は世界最強   作:改革結集の会

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今回も香織ファンの方には申し訳ない展開となっています。まぁこの物語のヒロインのアリナと香織は犬猿の仲なので…


1-9

ベヒモスの断末魔「グウァアアア!」が奈落の底で反響し、耳を劈く咆哮が空気を切り裂いた。

 

石橋がガラガラと崩れ落ち、瓦礫が奈落に吸い込まれる音が不気味に響き渡った。石片が跳ね合い、ゴロゴロと転がりながら粉塵を巻き上げ、視界が白く霞んでいた。その中を、ハジメ、アリナ、ジェイド、ルルリ、ロウが闇に飲み込まれるように消えていく。

 

崩落の衝撃で地面が揺れ、香織の足元がぐらつき、膝がガクガクと震えた。

 

「ハジメ君…!」と呟く声がかすれ、喉が締め付けられて息が詰まった。涙が頬を伝い、熱い滴が石畳に落ちて小さな染みを作った。

 

まるで時間がスローモーションのように緩やかになり、彼女はその光景をただ呆然と見つめるしかなかった。

 

 

香織の脳裏には、前夜の記憶が鮮明に蘇っていた。

 

オルクス大迷宮の外、ホルアドの宿の一室。月明かりが薄く射し込む中、香織は夢見が悪く不安に駆られ、衝動的にハジメの部屋を訪ねた。

 

薄手のネグリジェが肌に張り付き、冷たい廊下を歩く足音がコツコツと響く。扉をノックすると、ハジメが「あ、白崎さん!?」と驚いた顔で開けた。

 

部屋の中にはアリナがいて、と怪訝そうに香織を睨んでいた。

 

「香織?この時間に何!?」

 

「ううん。その、少し南雲くんと話したくて……」

 

香織はアリナの鋭い視線に背筋が冷えていた。

 

ハジメとアリナは香織の不安を聞いていたが、聞き終わった後のハジメの言葉は香織にショックを与えるのに十分であった。

 

「大丈夫、僕にはアリナがいるから。白崎さんはあまり気に病まないでほしいな。」

 

ハジメからしたら優しさのつもりで言ったのかもしれないが、香織にとってはこれは実質的な脈無し宣言であった。ショックのあまり取り乱してしまった香織がハイライトのない瞳でハジメを追及したが、ハジメから返ってきたのは香織に追い打ちをかけるうえでは十分だった。

 

「アリナは僕が幼い頃からの大切な人なんだ。僕がいじめられていたときでも身を挺して守ってくれて、力を人のために使える優しい人なんだ。だから白崎さん、アリナを侮辱するようなこと二度と言わないでほしいな。本当は白崎さんの気持ちも分かる。でも、アリナが僕には一番なんだってことを分かってほしい……」

 

香織はこの時確信せざるを得なかった。ハジメの第一はアリナであることを。そしてそれはアリナに洗脳されたが故の発言だと。香織は、「私、ハジメ君を守るよ」と心の中で勝手に誓った。それはハジメとの約束ではなく、香織の一方的な決意だった。

 

香織が部屋を出て廊下を歩くと、扉の隙間から漏れるアリナの嬌声が耳に飛び込んだ。

 

「ハジメ、もっと…」

「アリナ、大好きだよ…」

 

甘く絡み合う声に、香織は唇を噛み、嫉妬の炎が胸を焦がした。

 

「嘘…ハジメ君がアリナと…!私が守るって決めたのに…アリナなんかに渡さない!ハジメ君、待っててね。今アリナの洗脳から解放させるから…!」

 

 

今、その決意が現実を歪めた。奈落に消えたハジメを見つめ、香織はハジメを守れなかった自分を責めた。

 

だが、アリナを奈落に落としたのは彼女自身だった。ベヒモス戦の混乱の中、香織が放った「聖炎」の火球がアリナを狙い、爆発で吹き飛ばしたのだ。

 

「アリナがハジメ君を惑わしてる…私がハジメ君を救うんだ…!アリナがいなくなれば、ハジメ君は私の物に戻るよね。それにハジメ君が落ちたのはアリナに洗脳されてるからだし、アリナからハジメ君を解放しないと♪」

 

香織の顔には歪んだ笑みが浮かんでいたが、ハジメがいなくなっていたことにショックを覚えた。

 

遠くで聞こえた悲鳴が自分の声だと気づき、叫んだ。

 

「離して! ハジメ君の所に行かないと!」

 

雫が必死に羽交い締めにするが、香織は異常な力で暴れていた。

 

「ハジメ君が落ちちゃった…でも私が助ける!」

 

その眼には涙があふれていた。

 

 

光輝はアリナの転落に耐えきれず、錯乱して叫んでいた。

 

「アリナ…アリナ…!アリナが落ちたなんてありえない!」

 

目を血走らせて奈落を覗き込んだ。足元の瓦礫がガラリと動き、膝がガクガクと震えた。

 

「アリナ、俺が…俺が守れなかった…!」

 

光輝は自責の念に駆られ、呼吸が荒くなった。龍太郎がと背後から羽交い締めにして叫んだ。

 

「光輝、落ち着け!お前まで飛び込む気か!」

「離せ! アリナを助けるんだ!」

 

光輝は龍太郎の腕を振りほどこうとしており、彼の汗が額を伝い、瞳が涙で潤んだ。

 

その時、メルド団長がツカツカと近づき、光輝の首筋に手刀を落とした。

 

「これ以上混乱させるな!」

「うっ…」

「団長…!」

 

鋭い音と共に光輝の体がビクッと跳ね、意識を失った。

 

龍太郎がメルドを睨むが、メルドが低い声で告げた。

 

「もう一人も死なせるわけにはいかん。連れ帰るぞ」

 

香織も暴れ続け、雫が「香織、ダメよ! 香織!」と必死に抑えた。香織の細い腕がギシギシと軋み、雫の目には涙がにじんだ。

 

「香織がこんなになるなんて…私がもっと早く止めなきゃ」

 

メルドが香織の首筋にも手刀を落とし、香織が「ハジメ…君…」と呟いてぐったり倒れた。

 

雫は頭を下げメルドに礼を言った。

 

「すいません、ありがとうございます」

「礼はいらん。全力で離脱する。彼女を頼む」

「言われるまでもなく」

 

メルドの指示に雫は頷いて香織を背負って歩きながら呟いた。

 

「南雲君の言葉と死を無駄にしない…」

 

 

クラスメイト達は茫然自失で石橋の残骸を眺める中、メルドが声を張り上げた。

 

「全員、生き残ることだけ考えろ! 撤退だ!」

 

トラウムソルジャーの魔法陣から骨がガチャガチャと動きながら増え続けたが、メルドの機転によりこれ以上の被害は防げた。

 

光輝が気絶し、香織が意識を失った今、リーダー不在の生徒達はノロノロと動き出した。

 

階段を登る足音が重く響き、薄暗い通路が果てしなく続いた。魔法で強化した体でも疲労が溜まり、息が荒く、汗が首筋を伝った。

 

座り込む生徒を騎士団員が引き起こし、長い登攀が続いた。

 

 

二十階層に戻ると、メルドが魔法陣の扉に魔力を流し込んだ。石壁がクルリと回転し、魔法陣が光り、空間が歪んで全員が一瞬で移動した。

 

「帰れた…」と安堵の声が漏れ、生徒達がへたり込む。こうして一階の正面門に転移でたどり着いた。広場で大の字になる者もいるが、雫、鈴、恵里、龍太郎、ハジメを助けた女子生徒は暗い表情だ。

 

皆、死の恐怖に震え上がっていた。

 

「トラップと南雲達の死亡を報告せねば…。ジェイド達を失ったのは痛手だ…今後の魔人族戦や坊主たちの訓練は厳しいことになりそうだな…。」

 

メルドが憂鬱そうな顔で呟いた。

 

その時、香織が目を覚ました。

 

「うっ…」

「香織、大丈夫?」

「ハジメ君…!」

 

雫が支えると、香織が呻いた。

 

「ハジメ君を奈落に落とした奴がいるはず…許さない…」

 

香織は自分がアリナにしたことを棚に上げて暗い声でつぶやいた。

 

そして広場の片隅で、〇〇が檜山に近づく姿が香織の目に入った。

 

「あいつら…何?」

 

香織は目を凝らし、建物の陰に隠れて会話を盗み見た。

 

「ハジメ君は生きてる…私が救うんだ」

 

香織の決意が燃えた。

 

 

オルクス大迷宮の外、ホルアドの宿の近く、檜山大介は広場の端で膝を抱え、震える声で呟いた。

 

「南雲が悪いんだ…雑魚のくせに香織とアリナに…俺の方がふさわしい」

 

ハジメを奈落に突き落とした火球は檜山の意思で放ったものだ。戦闘の混乱の中、香織やアリナがハジメを見つめる瞳を見た。

 

「チー牛陰キャオタクの南雲なんかに香織やアリナを渡すかよ…香織もアリナも俺のもんだ…!アイツが調子に乗ったからだ…天罰だ」

 

檜山は醜い自己弁護をし、暗い笑みがこぼれる。

 

「香織とアリナ、俺のもんにすればいい…南雲なんかいらねぇ…死んでしまえばいい」

 

檜山の心の中にどす黒い欲望が渦巻いた。

 

 

しかし、檜山は恐怖にさいなまれることとなる。

 

「へぇ、やっぱり檜山君だったんだ」

「ッ!? 誰だ!」

「人殺しさん、今どんな気持ち? 恋敵を殺すのって楽しい?」

 

声をかけられた檜山は振り返ったところ、クスクスと笑う○○がいた。

 

檜山は震えた声で言った。

 

「お前、なんで…」

「私が皆にバラしたらどうなるかな? 特に香織が聞いたら…君、終わりだよね」

 

○○は嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

檜山は叫んだ。

 

「証拠もねぇだろ!」

「私の言葉なら信じるよ。君の信用はもう地に落ちてるし。そもそも君がトラップに引っかからなければヘビモスにやられなかったしね。それに私の目的は光輝くんを手に入れること。香織とアリナと雫を排除すればいいだけ」

 

○○の瞳が暗く光った。

 

檜山が声を荒げた。

 

「どうしろってんだ!」

「従えばいいよ。バラされたくなければね。白崎香織とアリナ・クローバーほしくない?」

 

○○は檜山を脅した。檜山は拳を握り潰しつぶやいた。

 

「ちくしょう…、香織とアリナが手に入るなら…従う。」

「アハハハ、よかった! 仲良くやろうね、人殺しさん!」

 

〇〇は笑いながら去った。

 

香織は檜山への憎しみが湧いた。

 

「でも、アリナを落としたのは私…アリナを落としたのは正しい選択だった…、ハジメくんを落とした檜山は許さないけど」

 

香織は後悔なく笑った。

 

宿に戻った香織は〇〇を呼び止め、二人きりになれる部屋に行った。

 

「〇〇ちゃん、話があるの。檜山くんがハジメ君を殺したんだね。私、聞いてたよ」

 

香織は○○に詰め寄った。〇〇は平然と返した。

 

「ふぅん、バレちゃったか。でも、私がそそのかしたわけじゃないよ。檜山の意思だ」

「なら、檜山を利用してアリナ・クローバーを潰そう。私がアリナを落としたんだ。アリナがハジメ君を惑わしてたから、当然の選択だったよ」

「へぇ、香織って意外と大胆だね」

 

胸を張ってアリナを殺したことを○○に言った香織に思わず○○は笑ってしまった。

 

そして香織は○○に提案した。

 

「檜山とアリナをくっつけるように仕向けよう。それで檜山を潰して、アリナを破滅させて光輝くんとハジメくんから遠ざける。ハジメ君は生きてるから、私が助ける。まぁ、死んでても、なんかで保存して私のに出来ないかな?あと、私はハジメ君一筋だから。光輝君なんか正直興味ない。」

「面白いね。私の光輝くんを邪魔するアリナがいなくなるなら賛成だよ。正直、大迷宮でも光輝くんはアリナのことばかりで本当にあいつが一番の邪魔者だったんだよ。」

 

○○は香織に手を差し出した。香織が握り返し、「ハジメ君のためにアリナを落としたのは正しかった」と確信した。

 

それが破滅への第一歩になるとはこの時は誰も知らない。

 

 

宿で生徒達は疲れ果てて眠っていた。香織は「ハジメ君、絶対生きてる…私が救う…!アリナなんかには渡さない…!!」と呟き、檜山は「香織とアリナ…俺のもんだ」と暗い笑みを浮かべ、雫は「香織どうしたのかしら…」と憂いた。龍太郎は「光輝、しっかりしてくれ」と呟いた。




アリナさんがこれを聞いたら何を思うのか。
感想、評価の程をよろしくお願いします。

セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?

  • 更新優先でお願いします。
  • セリフと地の文分けるの優先で。
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