処刑人と白銀の英雄は世界最強 作:改革結集の会
ジェイド達がユエと出会い、サソリモドキとの死闘を生き抜き、「白銀の剣」が再結成された日。
ハイリヒ王国の王宮の大広間では、緊迫した雰囲気が漂っていた。中央に立つのは、リリアーナ・S・B・ハイリヒ――王国の第一王女であり、若くしてその名を知らしめた才女だ。金色の髪をポニーテールに結んでおり、青い瞳には揺るぎない決意が宿っている。彼女の前には、父であるエリヒド国王、母ルルアリア王妃、そして貴族たちと聖教教会の使者イシュタルが並んでいた。
エリヒド国王は玉座に座り、深い皺の刻まれた顔で娘を見つめた。威厳ある声が広間に響く。
「リリアーナ、考え直せ。このような危険な場所に王女が出向くなど、前代未聞だ。貴女は王国の未来を担う存在だぞ。」
その言葉には厳しさがあったが、目を細めるその表情には、娘への深い愛情が隠されていた。
リリアーナは一歩前に進み、毅然とした態度で応えた。
「父上、私は王女である前に、彼らの仲間です。ジェイド、ハジメ、アリナ、ルルリ、ロウ――彼らは生きています。私にはそれが分かります。彼らを見捨てることは、私にはできません。」
彼女の声は澄んでいて、迷いがなかった。瞳に宿る炎は、どんな反対意見にも屈しない強さを示していた。
その言葉に、広間に集まった貴族たちの間でざわめきが広がった。ある者は眉をひそめ、ある者は隣の者に小声で不満を漏らした。
「王女が迷宮へ? 冗談ではない」「聖教教会が黙っていないぞ」と囁き合う声が、リリアーナの耳にも届いていた。
聖教教会の使者であるイシュタル教皇が、一歩前に出て咳払いをした。長い白髭と鋭い眼光が、彼の冷徹な印象を強調している。
「王女殿下、彼らは奈落に落ちたのです。我々の神託によれば、彼らの生存は絶望的。貴女の行動は無謀であり、王国の未来を危険に晒すものです。」
その声は氷のように冷たく、感情を一切感じさせなかった。教会の絶対的な権威を背景に、彼はリリアーナの決意を切り捨てようとした。
しかし、リリアーナは怯まなかった。彼女はイシュタルを真っ直ぐ見据え、静かに、だが力強く反論した。
「神託が全てではないことを、私は知っています。教会が彼らを切り捨てても、私は信じます。彼らが生きていることを。私には、彼らの声が聞こえる気がするんです。」
その言葉は、広間に静寂をもたらした。誰もが息を呑み、王女の信念の深さに圧倒された。
沈黙を破ったのは、ルルアリア王妃だった。彼女は優雅に立ち上がり、穏やかだが力強い声で夫に訴えた。
「エリヒド、リリアーナの意志を尊重しましょう。彼女はメルド団長のもとで訓練を積み、立派な戦士として成長しました。私たちの娘が仲間を救うために立ち上がる姿を、私は誇りに思います。」
王妃の言葉には、母としての愛情と、王族としての誇りが込められていた。彼女の金色の髪は娘と同じ色で、静かな微笑みがリリアーナに勇気を与えた。
その時、リリアーナの背後に控えていた二人の少女が前に進み出た。香織と雫――ハジメやアリナのクラスメイトであり、彼らと共にオルクス大迷宮での試練を経験した仲間だ。香織は長い黒髪を揺らし、感情を込めて言った。
「私も信じています。ハジメは生きている。彼を救うためなら、私も迷宮へ行きます。」
彼女の声は小さく震えていたが、その瞳には確信があった。ハジメ以外の仲間が死んだと信じる彼女にとって、これは譲れない決意だった。
雫は剣を腰に携えた姿で、静かに頷いた。
「リリアーナ様の言う通りです。私たちには仲間を救う責任があります。香織と一緒に、私も行きます。」
広間での議論は長時間に及んだ。貴族の一部は依然として反対を唱え、聖教教会のイシュタルは冷ややかな視線を崩さなかった。しかし、メルド団長が立ち上がり、リリアーナを支持する発言をしたことで流れが変わった。
「王女殿下は私の下で剣術と戦術を学び、今や戦う顔をした立派な戦士です。彼女を連れて行くなら、私が命に代えても守ります。」
その言葉に、騎士団長としての威厳と信頼が宿っていた。
最終的に、エリヒド国王は渋々ながら娘の意志を認めた。
「いいだろう。だが、リリアーナ、メルド団長と共に行動し、無茶はするな。必ず生きて戻れ。」
その声には、父としての切実な願いが込められていた。そしてエリヒド国王は付け加えた。
「リリアーナ、お前変わったな。」
こうして、リリアーナの参戦が決定した。彼女はメルド団長率いる騎士団、光輝たち勇者パーティー、そして永山重吾のパーティーと共に、オルクス大迷宮へと向かうことになった。出発の前夜、リリアーナは自室の窓辺に立ち、夜空を見上げた。
「ジェイド様、アリナ様、ハジメ様、ロウ様、ルルリ様、待っていてください。私は必ずみんなを助け出しますから。」
その言葉は、風に乗り、遠くの迷宮へと届くかのようだった。
オルクス大迷宮攻略組に加わったリリアーナは初めて見るオルクス大迷宮の光景に息を呑んだが、背後に控える仲間たちの存在が彼女に勇気を与えた。メルド団長が先頭に立ち、その後ろに光輝、龍太郎、雫、香織、恵里、鈴からなる勇者パーティー、檜山大介率いる小悪党組、そして永山重吾のパーティーが続いた。
なぜ攻略組がここまで減ったのかといえば、ハジメ達の死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったからである。特に自分たちより強いジェイド、ルルリ、ロウが死んでしまったことによって尚更そう感じられたのだ。これによって「戦いの果ての死」というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。戦争の覚悟もなく戦争に参加したものだから自業自得であるが、彼らもある意味では光輝の被害者なのかもしれない。
当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。時が経てばまた実戦で戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。
それに待ったをかけたのが、彼らの担任である畑山愛子であった。
愛子は、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ重要性の高い天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、食糧問題は解決し、人族の数を増やせて戦争が有利になる可能性が限りなく高いからだ。
そんな愛子はハジメの死亡を知るとショックのあまり寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死に、全員を日本に連れ帰ることができなくなったという事実に、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。
だからこそ、戦えないという生徒をこれ以上無理やり意思を無視して戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。
愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。
しかし、教会側も納得したわけではない。教会側は特に攻略組を優遇し、次第に居残り組との間に溝ができていった。檜山が増長し、居残り組を馬鹿にし始めてからは尚更である。
そして現在、攻略組がいる階層は60階層であった。光輝は聖剣を手に握り締め、決意を新たにしていた。
「今回は俺たちが必ず勝つ。あの時の屈辱を晴らすんだ。そしてアリナを救うんだ!」
彼の声には力強さがあったが、心の中ではアリナ以外の仲間の死をほぼ確信しており、それを思い出したことによる心の不安定さをごまかすものであった。彼の心情を見透かしたのか、そうでもないのかは知らないが、隣に立つ龍太郎が肩を叩き、不敵に笑う。
「そうだな。俺は光輝に最後までついていくからな。」
彼は光輝と殉死してもいいとまで考えていた。もしそれがトータスの人々のためになるのなら。
香織は一行から少し離れ、崖下の闇を見つめていた。彼女の心はハジメだけに向けられていた。
「ハジメくん…、きっと生きているよね…?」
その声は小さく、しかし確信に満ちていた。彼女の手には杖が握られ、迷宮での戦いに備えていた。
リリアーナが香織に近づき、優しく肩に手を置いた。
「香織、私には分かります。ハジメも、ジェイドも、みんな生きています。私たちが彼らを救うんです。」
その純粋な言葉に、香織は苦笑を浮かべた。
「ありがとう、リリィ。でも、私にはハジメくんだけでいい。彼さえいれば…。」
二人の信念は異なる方向を向いていたが、互いを支える絆は確かにそこにあった。しかし、リリアーナは知らなかった。アリナを落とした犯人が香織であることに。
そして、一行は吊り橋が見える場所にたどり着いた。次の階層にいくためにはその吊り橋を歩かないといけない。奈落の闇が広がり、リリアーナの心に新たな決意が芽生えた。
古びた木材とロープでできた橋は、奈落の底へと続く闇を見下ろしていた。風が吹き抜け、橋が微かに揺れる音が不気味に響く。香織の足が一瞬止まり、彼女の顔に苦悶の表情が浮かんだ。この近くでハジメが落ちた記憶が、彼女の心を締め付けた。雫が心配そうに声をかける。
「香織、大丈夫?」
香織は無理に微笑んで首を振った。
「大丈夫。私は前に進むよ。ハジメくんが待ってるから。(アリナはいらないけど)」
その言葉には、彼女の全ての希望が込められていた。リリアーナは初めて見る吊り橋に息を呑んだ。
「ここで彼らが落ちたのですね。でも、私は信じます。彼らはこの闇を乗り越えたのだと。」
彼女の声は力強かった。雫は香織とリリアーナの瞳や声のトーンから現実逃避や絶望は見て取れなかった。洞察力に優れ、人の機微に敏感な雫には、香織が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった。
(やっぱり、香織は強いわね)
ハジメ達の死はほぼ確定事項だ。その生存は絶望的と言うのも生温い。それでも、逃避でも否定でもなく、自らの納得のため前へ進もうとする香織とリリアーナに、雫は親友として誇らしい気持ちで一杯だった。
「香織、リリィ、困ったことがあったらいつでも相談するのよ。」
「えへへ、ありがと、雫ちゃん」
「ありがとうございます。雫さん。」
しかし、空気を読まないやつは一定数世の中にいるのである。
「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる!リリアーナも折角俺たちのパーティーに参加したのだからいつまでも仲間の死に囚われないで前に進もう!」
「ちょっと、光輝……」
「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、リリアーナ、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」
「はぁ~、何時もの暴走ね……香織⋯⋯リリィ……」
「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと、光輝くんも言いたいことは分かったから大丈夫だよ」
「ええ、光輝様の言いたいことはよくわかりましたので、ご心配なく。」
「そうか、わかってくれたか!」
光輝の暴走に雫は呆れ、香織とリリアーナは諦めていた。というのも、光輝はハジメが死んでいたと考えており、香織がハジメの死を思い出し嘆いているように映った。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと結論づけた。故に、思い込みというフィルターがかかり、微笑む香織の姿も無理しているようにしか見えなかったのである。リリアーナについても、皆の死がトラウマになっていてそれに苦しめられていると光輝は解釈している。自分もアリナの生存に囚われているくせにである。
もちろん香織がハジメのことを特別視していて、ハジメの彼女であるアリナのことを煙たく思い奈落に落としたことなど、光輝は露も知らない。ましてや、リリアーナがジェイドに想いを寄せていて、恋人になったことなど光輝には知る由もない。
だからこそ、光輝は無意識に他の女の子なら簡単に惚れてしまうような口説き文句を吐いてしまうのである。しかも本人は至って真面目に下心なく語っているのがたちが悪い。光輝の言動に慣れてしまっている雫と香織、ジェイドと恋人関係になっているリリアーナは普通にスルーしているが、他の女子生徒なら一発で恋に落ちているだろう。尚、アリナはそのような言動をされたら吐き気を催すわけであるが。
普通、イケメンで性格もよく文武両道とくれば、その幼馴染の女の子は惚れていそうなものだが、雫は小さい頃から実家の道場で大人の門下生と接していたこと、厳格な父親の影響、そして天性の洞察力で、光輝の欠点とも言うべき正義感の暴走に気がついていたことから、それに振り回される事も多く幼馴染としてしか接していなかった。もっとも、他の人よりは大切であることに変わりはないが。
香織は生来の恋愛鈍感スキルと雫から色々聞かされているので、光輝の言動にときめく事ができない。いい人だと思っているし、幼馴染として大切にも思っているが恋愛感情には結びつかなかった。そんなことよりも香織はハジメに夢中であり、アリナのことを邪魔に思っていて、〇〇と共闘しているのである。光輝については〇〇とくっつけばいいのにとまで思っている有様である。
「香織ちゃん、リリアーナさん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」
「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンとリリィの味方だからね!」
光輝と香織、リリアーナ、雫の会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは中村恵里と谷口鈴であった。二人共、高校に入ってからではあるが香織達の親友と言っていい程仲の良い関係で、光輝率いる勇者パーティーにも加わっている実力者だ。
中村恵里はメガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人である。性格は温和で大人しく基本的に一歩引いて全体を見ているポジションであり、成績も優秀である。また、本が好きで、イメージに違わず図書委員をやっている女子である。
谷口鈴は、身長百四十二センチの小柄な女子である。もっとも、その小さな体には、何処に隠しているのかと思うほど無尽蔵の元気が詰まっており、常に楽しげでチョロリンと垂れたおさげと共にぴょんぴょんと跳ねている。その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在だ。
そんな二人も、ハジメが奈落に落ちた日の香織の取り乱し様に、その気持ちを悟り、香織の目的にも賛同してくれている。
「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」
高校で出来た親友二人に、嬉しげに微笑む香織。
「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、南雲君とジェイドさんめ!鈴のカオリンとリリィをこんなに悲しませて!生きてなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」
「す、鈴? 生きてなかったら、その、こ、殺せないと思うよ?それに南雲君はクローバーさんと付き合ってるし…」
「細かいことはいいの!そうだ、南雲君がカオリンを悲しませた罰として、死んでたら南雲君をエリリンの降霊術でカオリンに侍せちゃえばいいんだよ!あとクローバーさんを光輝君に侍らせちゃえば…!」
「す、ストップ!!す、鈴、デリカシーないよ!香織ちゃんは、南雲君は生きてるって信じてるんだから!それに、私、降霊術は……」
鈴が暴走し恵里が諌める。それがデフォだ。まぁこの会話をアリナが聞いたら処刑人モードになるが。
何時も通りの光景を見せる姦しい二人に、楽しげな表情を見せる香織と雫。ちなみに、光輝達は少し離れているので聞こえていない。肝心な話やセリフに限って聞こえなくなる難聴スキルは、当然の如く光輝にも備わっている。
「恵里ちゃん、私は気にしてないから平気だよ?」
「鈴もそれくらいにしなさい。恵里が困ってるわよ?」
香織と雫の苦笑い混じりの言葉に「むぅ~」と頬を膨らませる鈴。その姿はまるでハムスターである。恵里は、香織が鈴の言葉を本気で気にしていない様子にホッとしながら、降霊術という言葉に顔を青褪めさせる。
「エリリン、やっぱり降霊術苦手? せっかくの天職なのに……」
「……うん、ごめんね。ちゃんと使えれば、もっと役に立てるのに……」
「恵里。誰にだって得手不得手はあるわ。魔法の適性だって高いんだから気にすることないわよ?」
「そうだよ、恵里ちゃん。天職って言っても、その分野の才能があるというだけで好き嫌いとは別なんだから。恵里ちゃんの魔法は的確で正確だから皆助かってるよ?」
「うん、でもやっぱり頑張って克服する。もっと、皆の役に立ちたいから」
恵里が小さく拳を握って決意を表す。鈴はそんな様子に「その意気だよ、エリリン!」とぴょんぴょん飛び跳ね、香織と雫は友人の頑張りに頬を緩める。
恵里の天職は、〝降霊術師〟である。
降霊術は、超高難度の闇系魔法で、死者の残留思念に作用する魔法だ。聖教教会の司祭の中にも幾人かの使い手がおり、死者の残留思念を汲み取り遺族等に伝えるという何とも聖職者らしい使用方法がなされている。
もっとも、この魔法の真髄はそこではない。この魔法の本当の使い方は、遺体の残留思念を魔法で包み実体化の能力を与えて使役したり、遺体に憑依させて傀儡化するというものだ。つまり、生前の技能や実力を劣化してはいるが発揮できる死人、それを使役できるのである。また、生身の人間に憑依させることでその技術や能力をある程度トレースすることもできる。要するに戦死者を戦力として使い続けることができ、敵にとっては非常に厄介となる魔法である。
しかし、ある程度の受け答えは出来るものの、その見た目は青白い顔をした生気のない、まさに幽霊という感じであり、また死者を使役するということに倫理的な嫌悪感を覚えてしまうので、恵里はこの術の才能があってもまるで使えていなかった。
そんな女子四人の姿を、正確には香織を、後方から暗い瞳で見つめる者がいた。
檜山大介である。あの日、王都に戻ってしばらく経ち、生徒達にも落ち着きが戻ってきた頃、案の定、あの窮地を招いた檜山には厳しい批難が待っていた。
檜山は当然予想していたので、ただひたすら土下座で謝罪するに徹した。こういう時、反論することが下策以外のなにものでもないと知っていたからだ。特に、謝罪するタイミングと場所は重要だ。
檜山の狙いは光輝の目の前での土下座である。光輝なら確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想していたのである。
その予想は功を奏し、光輝の許しの言葉で檜山に対する批難は収まった。香織も元来の優しさやアリナ潰しのために檜山を利用していることから、涙ながらに謝罪する檜山を特段責めるようなことはしなかった。檜山の計算通りである。むしろ、檜山にとって都合が良かったのは、光輝がハジメが勝手に落ちたと解釈したことである。それが檜山擁護論につながっているのだろう。
もっとも、雫は薄々檜山の魂胆に気がついており、幼馴染を利用したことに嫌悪感を抱いたようだが。
また、例の人物からの命令も黙々とこなした。とても恐ろしい命令だった。戦慄すべき命令だった。強烈な忌避感を感じたが、一線を越えてしまった檜山は、もう止まることができなかった。
しかし、クラスにごく自然と溶け込みながら裏では恐ろしい計画を練っているその人物に、檜山は畏怖と同時に歓喜の念も抱いていた。
(あいつは狂ってやがる。……だが、付いて行けば香織とアリナは俺の……)
言うことを聞けば香織とアリナが手に入る、その言葉に暗い喜びを感じ思わず口元に笑みが浮かぶ檜山。
「おい、大介? どうかしたのか?」
檜山のおかしな様子に、近藤や中野、斎藤が怪訝そうな表情をしている。この三人は今でも檜山とつるんでいる。元々、類は友を呼ぶと言うように似た者同士の四人。一時期はギクシャクしたものの、檜山の殊勝な態度に友情を取り戻していた。
もっとも、それが本当の意味での友情と言えるかは甚だ微妙ではあるが……
「い、いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」
「あ~、確かにな。あと五層で歴代最高だもんな~」
「俺等、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性なさすぎだろ」
「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」
檜山の誤魔化しに、特に何の疑問も抱かず同調する三人。戦い続ける自分達を特別と思って調子づいているのは小悪党が小悪党たる所以だろう。しかも、教会側からの後ろ盾もあるので、王宮では我が物顔で振る舞っているのだ。ましてや、最強戦力となるはずのジェイド達がいない今では尚更である。それゆえ、檜山以外の三人も、内心ジェイド達が奈落に行ってせいせいしてるところはある。
もっとも、勇者パーティーには及ばないので、彼らも光輝達の傍では実に大人しい。小物らしい行動原理である。アリナが心底軽蔑するだけのことはある。
一行は六十五層に到達した。そこは広大な広間であり、天井は遥か高く、壁には不規則な岩肌がむき出しになっていた。不完全なマップしか存在しないこの領域は、迷宮の中でも特に危険とされていた。メルド団長が低い声で警告を発する。
「気を引き締めろ。ここからは予測不能だ。何が起こってもおかしくない。」
その言葉が終わるや否や、広間の中央に赤黒い魔法陣が浮かび上がった。地面が振動し、空気が重くなった。光輝が叫ぶ。
「まさか…またアイツか!?」
その声に緊張が走り、全員が武器を構えた。
魔法陣からゆっくりと姿を現したのは、かつて彼らを恐怖に陥れたベヒモスだった。巨体は岩のように硬く、赤い目が一行を睨みつける。リリアーナにとって初めての対面である。彼女は目を丸くし、剣を構えた。
「これが…ベヒモス。なんて威圧感…。」
その存在感に圧倒されながらも、彼女は一歩も引かなかった。
ベヒモスの咆哮が広間に響き渡り、石の欠片が天井から落ちてきた。光輝が前に出て叫ぶ。そして龍太郎が拳を握り、援護に回る。
「今度は負けない!俺たちが勝つんだ!」
「リベンジの時間だぜ!」
リリアーナと香織は互いの目を見合わせた。リリアーナはジェイドたちを、香織はハジメを思い浮かべ、二人の心が一つになった。
「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く。」
地球組のステータスは史実通りです。まぁ本編読んでる人ならここで違和感を抱きますが、まぁ当の本人は隠しているので…。
セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?
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更新優先でお願いします。
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セリフと地の文分けるの優先で。