処刑人と白銀の英雄は世界最強   作:改革結集の会

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第3章 残念ウサギと遭遇したので、トータスの亜人族差別に物申そうと思います
3-1


魔法陣の光が視界を満たした瞬間、ハジメは思わず目を閉じた。奈落の底で感じていた重く淀んだ空気とはまるで異なる、新鮮で清涼な風が頬を撫でる。その感覚に、彼の口元に自然と笑みが浮かんだ。

 

「やっと…か」

 

光が徐々に収まり、ハジメが目を開けると、そこに広がっていたのは期待していた地上の青空ではなく、薄暗い洞窟の風景だった。岩壁に囲まれた空間は、どこか湿った匂いを漂わせ、遠くで水滴が落ちる音が小さく響いている。ハジメは一瞬だけ肩を落とし、苦笑いを浮かべた。

 

「なんでやねん…って感じだね」

 

隣に立つアリナが、ハジメのコートの裾を軽く引っ張りながら、冷静な声で呟いた。

 

「秘密の通路なんだから、隠すのが普通よ。冒険RPGの王道でしょ?」

 

彼女の黒髪が風に揺れ、その瞳には少しのからかいと優しさが混じっている。ハジメは彼女の言葉に納得しつつ、気を取り直した。

 

「ああ、そうか。反逆者の住処への道だもんね。簡単に地上に繋がってるわけないか」

 

温和な性格のハジメは、失望をすぐに切り替え、仲間たちと共に前を向いた。背後には、「白銀の剣」パーティーのメンバーたちが並んでいる。ジェイド、ユエ、ルルリ、そしてロウ。彼らは奈落の底から共に這い上がってきた、信頼と絆で結ばれた仲間たちだ。

 

洞窟は暗闇に包まれていたが、ハジメたちが持つオルクスの指輪のおかげで、その視界は驚くほど鮮明だった。指輪から放たれる微かな光が岩壁を照らし、隠された封印やトラップを次々と解除していく。足音が石畳に反響し、時折聞こえる仲間の息遣いが、この静寂の中で唯一の安心感を与えていた。

 

やがて、遠くに微かな光が見え始めた。それは外からの光――地上への出口だ。ハジメの胸が期待で高鳴る。

 

「見えた!」

 

アリナが弾んだ声で叫び、ハジメと目を合わせた。彼女の笑顔は、まるで太陽のように眩しい。

 

「うん。あそこまで行こう」

 

ハジメは温和な笑顔で頷き、皆を促した。光が近づくにつれ、清涼な風が強くなり、大地の匂いが鼻腔をくすぐる。奈落の底では決して味わえなかったその感覚に、ハジメの心が軽くなった。ジェイドがユエの手を引き、アリナがハジメの腕に軽く触れ、ルルリとロウも笑顔で頷き合う。6人は一斉に光へ向かって駆け出し、遂にその先へ飛び込んだ。

 

 

地上に出た瞬間、ハジメたちは息を呑んだ。目の前に広がるのは、切り立った崖に囲まれた谷底だった。頭上には燦々と輝く太陽が青空に浮かび、風が大地の香りを運んでくる。崖の表面には赤茶色の岩肌が剥き出しになり、時折小さな石が転がり落ちてくる音が聞こえる。ここは【ライセン大峡谷】――大陸を南北に分断する巨大な傷跡であり、人々が「地獄」と呼ぶ場所だ。魔法がほぼ使えず、凶悪な魔物が跋扈するこの谷底は、地上とはいえ過酷な環境である。

 

それでも、ハジメにとっては奈落の底からの脱出を意味する場所だった。彼は深呼吸し、穏やかな声で呟いた。

 

「僕たち、戻って来たんだね…」

 

肺に満ちる新鮮な空気は、まるで命そのものを取り戻したかのようだった。アリナがハジメの手を握り、力強く頷いた。

 

「うん!やっとだよ、ハジメ!」

 

彼女の声には喜びが溢れ、その瞳には涙が光っている。ジェイドはユエをそっと抱き寄せ、彼女の金髪を優しく撫でた。ユエは無表情ながらも、ジェイドの腕の中で安心したように小さく息をつく。ルルリは目を輝かせて「やったぁ!太陽なのです!」と跳ね上がり、そのピンク髪が陽光に映えて一層鮮やかに見えた。ロウは静かに笑みを浮かべながら仲間たちを見守り、彼の赤髪が風に揺れている。

 

6人は互いを見つめ合い、喜びを分かち合った。ハジメは温和な性格ゆえ、争いや緊張を好まない。この瞬間だけは、心からの笑顔が溢れた。アリナが彼の肩に寄り添い、ユエが小さく「…ん」と頷く。地上への帰還は、彼らにとって新たな旅の始まりでもあった。

 

谷底に広がる風景を眺めながら、ハジメは静かに呟いた。

 

「ここからまた、平穏な日々を取り戻す旅が始まるんだね」

 

アリナがその言葉に頷き、力強く彼の手を握り返した。

 

 

喜びも束の間、谷底に響く低いうなり声が6人を現実に引き戻した。岩陰から現れたのは、鋭い爪と牙を持つ魔物の群れだ。ライセン大峡谷の魔物は魔法が使えない環境に適応し、純粋な身体能力で獲物を仕留める凶暴な存在である。その姿はまるで狼と熊が融合したような異形であり、赤い目が暗闇で不気味に光っている。

 

ハジメは眉をひそめ、ため息をついた。

 

「せっかくの地上なのに…争いごとは嫌いなんだけどなぁ」

 

彼の声には少しだけ疲れが混じっていたが、アリナがハジメの背中を軽く叩き、彼を励ました。

 

「でも、ここじゃ仕方ないよ。私たちを守るためにも、やるしかないよね?」

 

彼女の言葉に、ハジメは小さく頷いた。ジェイドが剣を抜き、毅然とした声で言った。

 

「ハジメ、後ろに下がっててくれ。俺が前に出る」

 

ユエがその隣に並び、静かに呟いた。「…援護する」

 

「私が回復に専念するのです!だから、無理してはいけないのです!」

 

ルルリがハジメに声をかけ、その小さな体からは意外なほど力強い意志が感じられた。ロウは後方から魔力を込めた杖を構え、落ち着いた声で言った。

 

「遠距離は任せてくれ」

 

ハジメはドンナー・シュラークを手に持ちつつ、温和な口調で皆に呼びかけた。

 

「うん、ありがとう。でも、僕も少しは手伝うよ。なるべく早く終わらせて、平穏に戻りたいからね」

 

戦いが始まった。ジェイドが素早い剣さばきで魔物を切り裂き、その銀髪が風を切るたびに陽光に輝いた。アリナが「巨神の破槌」を振り下ろし、地面を揺らすほどの威力で敵を粉砕する。ロウの遠距離魔法が魔物の群れを焼き払い、炎の尾が谷底に一瞬の熱風を巻き起こした。ルルリは負傷した仲間に即座に回復魔法を施し、その小さな手から放たれる光が仲間を癒していく。

 

ハジメは銃を手に、必要最小限の力で魔物を仕留めていく。一発一発が正確に急所を撃ち抜き、無駄な動きは一切なかった。争いを嫌う彼だが、仲間を守るためなら迷いはない。それでも、彼の心の中では「早く終わってほしい」という願いが渦巻いていた。

 

戦いは数分で終わり、魔物の死体が谷底に散らばった。血と土の匂いが風に混じる中、ハジメは首を振って呟いた。

 

「思ったより簡単だったね。奈落の魔物が強すぎたのかな」

「ハジメが強いだけだよ」

 

アリナが笑い、皆が頷いた。ジェイドが剣を鞘に収め、ユエが小さく微笑む。ルルリが「やったのです!」と跳ね、ロウが静かに杖を下ろした。この戦いは、彼らの絆がどれほど強固かを改めて証明するものだった。

 

 

戦いの余韻が残る中、遠くから慌ただしい足音と叫び声が聞こえてきた。ハジメが目を凝らすと、ウサミミを生やした少女が双頭のティラノサウルスに追われ、半泣きで逃げ惑っている姿が見えた。その長い兎耳が激しく揺れ、彼女の白い髪が汗で額に張り付いている。

 

「だずげでぐだざ~い!死んじゃうよぉ!」

 

少女の声が峡谷に響き渡り、その切実さがハジメの耳に突き刺さった。彼は首を傾げ、不思議そうに呟いた。

 

「あれ…兎人族?こんな場所で何してるんだろう」

 

ユエが冷静に答えた。

 

「…わからない。でも、助けを求めてる」

 

ハジメは少し考え込んだ。

 

「うーん、どうしよう。僕、争いごとは苦手だけど、見ず知らずの人でも助けたい気持ちはあるんだよね…」

 

温和な性格ゆえ、彼はすぐには動こうとしなかったが、心の中では助ける意志が芽生えていた。ただ、他のメンバーは面倒事に巻き込まれるのを避けたいのか、あまり乗り気ではない様子だ。ジェイドが肩をすくめ、ロウが小さくため息をつく。ルルリは「大変そうですね…」と呟き、アリナも「ハジメ、どうしたい?」と彼の意見を待った。

 

しかし、少女――シア――がハジメたちを見つけ、必死に駆け寄ってくる姿に、彼の心は大きく揺れた。ハジメはシアの震える瞳を見ながら、奈落の底でアリナと交わした約束を思い出した。

 

「どんな困難も一緒に乗り越えよう」と。

 

あの時の自分たちと重なる彼女の姿に、心が揺らいだ。

 

彼女は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ジェイドの足元に転がり込んできた。土埃にまみれたその姿は、まるで命からがら逃げてきたことを物語っている。

 

「おねがいじますぅ~!助けてくださいぃ~!」

 

彼女の声は震え、瞳には恐怖と希望が混じっていた。ハジメは困った顔でアリナを見た。

 

「どう思う?」

 

アリナは肩をすくめて笑った。

 

「仕方ないんじゃない?放っておけないでしょ」

 

「俺たちならすぐ片付けられるさ」

 

ジェイドが剣を握り直し、ようやく少しやる気を見せた。ハジメはため息をつきつつ、シアを見下ろした。

 

「わかったよ。助けるけど、なるべく穏便に済ませたいからね」

 

このとき、シアの兎耳がピクピクと動き、彼女の恐怖や喜びを代弁しているようだった。ハジメが助けると言うと、耳が一気に立ち上がり、安堵を表現した。

 

そして、彼がドンナーを構えると、双頭ティラノが咆哮を上げて突進してきた。その巨体が地面を震わせ、鋭い牙が陽光に光る。しかし、ハジメの一撃がその眉間を正確に貫き、動きが止まった。すかさずアリナが「巨神の破槌」を振り下ろし、巨体は地面に叩きつけられてあっけなく倒れ込んだ。

 

シアは目を丸くして呟いた。

 

「す、すごい…一撃で…」

 

彼女の声には驚きと安堵が混じり、ハジメたちを見上げる瞳が輝き始めた。

 

 

戦いが終わり、シアはハジメたちに深々と頭を下げた。彼女の兎耳が少し震え、汗と涙で濡れた顔がようやく落ち着きを取り戻しつつあった。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアのシアです。本当に助かりました!」

 

ハジメは温和な笑顔で応えた。

 

「うん、よかったよ。でも、どうしてこんな危険な場所に?」

 

シアは涙を拭きつつ、声を震わせて説明した。

 

「私たちは色々あって樹海から逃げてきたのですが…、私の仲間たちが…魔物に襲われて、離れ離れになっちゃって…お願いです、助けてください!」

 

その言葉に、ハジメは少し悩んだ。争いを嫌う彼にとって、見知らぬ他人のために戦うのは気が進まない。特に、平穏な生活を望む恋人のアリナがそばにいる今、余計な危険に身を投じるのは避けたかった。それでも、シアの必死な瞳と震える声に、彼の心は無下にできない気持ちで揺れ動く。

 

「うーん…どうしよう。僕、争いは苦手だし…」

 

ハジメがそう呟くと、アリナが優しく彼の肩に手を置いた。

 

「ハジメが嫌なら、無理しなくてもいいよ。でも、シアちゃんが困ってるのは事実だし…ね?」

 

彼女の言葉はハジメを責めるものではなく、あくまで彼の気持ちを尊重するものだった。それが逆に、ハジメの決断を難しくさせた。

 

その時、ジェイドがシアに声をかけた。

 

「シアさん、俺たち『白銀の剣』がシアさんの仲間を助けるから、とりあえず魔物がいるところまで案内してくれないかな?」

 

ジェイドの姿は堂々としており、まるで英雄のような頼もしさが漂っていた。しかし、それに水を差す者がいた。アリナだった。

 

「ジェイド、何勝手に安請け合いしてんのよ。私は平穏無事な生活を望んでるの。だから戦うからにはただでやるわけにはいかないわ。シアさん、私たちが助けてもいいけどその代わり樹海の道案内をしてくれないかしら?樹海は霧が多いらしくて現地の人の案内があったらそれに越したことはないから。」

「私たちを助けてくれるならお安い御用ですぅ。」

 

アリナの提案をシアは受け、一行はシアの仲間たちがいるところまで行くことになった。




そろそろストックが切れそうなので、更新されなくなったらストックが消えたと思ってください。
感想と評価をよろしくお願いします。

セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?

  • 更新優先でお願いします。
  • セリフと地の文分けるの優先で。
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