処刑人と白銀の英雄は世界最強 作:改革結集の会
ライセン大峡谷を疾走する魔力駆動四輪車の車内は、金属と魔力が織りなす独特の走行音で満たされていた。埃っぽい風が窓の隙間から忍び込み、時折砂粒が顔に当たってチクりと刺さる。ジェイド、ハジメ、アリナ、ユエ、ルルリ、ロウの6人は、目の前に座る兎人族の少女、シア・ハウリアの話を固唾を呑んで聞いていた。彼女の青みがかった白髪が風に揺れ、長い兎耳が不安げにピクピクと動く。その蒼穹のような瞳には、深い悲しみと、それでもなお消えない決意が宿っていた。
シアの話を要約すれば、こうなる。
彼女の属するハウリア族は、【ハルツィナ樹海】の奥深くで数百人規模の集落を築き、静かに暮らしていた。兎人族は鋭い聴覚と隠密行動に秀でているが、他の亜人族——例えば獣人族の熊や虎のような強靭な肉体を持つ者たち——に比べると戦闘能力は著しく劣る。そのため、亜人族の中でも一段低い扱いを受けがちだった。しかし、彼らの性格は温厚で争いを好まず、集落全体を一つの大きな家族として大切にする絆の深さが特徴だ。兎人族の外見もまた特別で、エルフのような神秘的な美しさとは異なる、柔らかく愛らしい魅力に溢れている。その愛らしさゆえに、帝国に捕らえられれば愛玩用の奴隷として高値で取引される運命が待っていた。
そんなハウリア族に、ある日、異端とも呼べる子が生まれた。通常、兎人族は濃紺の髪を持つが、その子の髪は青みがかった白髪だった。それだけでなく、亜人族にはあり得ないはずの魔力を生まれながらに有し、直接魔力を操る能力と固有魔法を使いこなせた。彼女の名はシア。この異常な誕生に一族は戸惑いを隠せなかったが、家族への情が深いハウリア族は、シアを見捨てる選択を決してしなかった。彼女を我が子として、愛情深く受け入れたのだ。
だが、その決断は一族に重い代償を強いた。樹海の深部に位置する亜人族の国【フェアベルゲン】にシアの存在が知られれば、即座に処刑されることは火を見るより明らかだった。亜人族にとって魔物は不倶戴天の敵であり、国の厳格な規律では魔物を見つけ次第殲滅することが定められている。過去には魔物を逃がした者が追放された記録さえ残っている。さらに、被差別種族である亜人族は、魔法を武器に自分たちを迫害する人族や魔人族に強い敵意を抱いていた。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、暗黙の了解として即座に殺されるほどだ。シアの存在は、まさにその禁忌に触れるものだった。
だからこそ、ハウリア族はシアを隠し、16年間ひっそりと育ててきた。集落の奥に小さな小屋を建て、彼女が外に出ることを極力避け、家族全員で秘密を守り続けた。しかし、先日、その秘密が露呈してしまった。誰かが漏らしたのか、偶然フェアベルゲンの斥候に見つかったのか、真相は不明だが、一族はシアを連れて樹海を脱出するしかなかった。行き場のない彼らが目指したのは北の山脈地帯——未開の荒野ではあるが、山の幸で生き延びられる可能性に賭けたのだ。帝国や奴隷商に捕まり、奴隷として売り払われるよりはマシだと考えた。
だが、そのわずかな希望は帝国の手によって無残に打ち砕かれた。樹海を抜けた直後、運悪く帝国兵一個中隊と遭遇してしまったのだ。巡回中だったのか、訓練中だったのかは分からないが、圧倒的な戦力差に直面したハウリア族に選択肢はなかった。南へ逃げるしかなかったのだ。男たちは女子供を逃がすため、追っ手を足止めしようと立ち向かったが、平和を愛する兎人族と魔法を自在に操る帝国兵では勝負にならず、半数以上が捕らえられた。残った者たちは血を吐くような思いで逃げ続け、ついにライセン大峡谷にたどり着いた。
峡谷に逃げ込むことは苦肉の策だった。ここは魔法が使えない特殊な地形であり、帝国兵も迂闊には追ってこないだろうと期待したのだ。ほとぼりが冷めるのを待つ間、魔物に襲われるか、帝国兵が去るか——その賭けに生き残りをかけた。しかし、予想に反し、帝国兵は撤退せず、峡谷の出入り口である階段状の崖に陣を張り、兎人族が魔物に襲われて出てくるのをじっと待った。そして、運命はさらに過酷な試練を突きつけた。魔物が襲来し、投降すら許されない状況で、ハウリア族は峡谷の奥へと追い詰められた。シアはその混乱の中で家族とはぐれ、偶然ジェイドたちと出会ったのだ。
シアの話が終わり、車内は一時、重苦しい静寂に包まれた。車の走行音だけが単調に響き、誰もが言葉を失っていた。6人はそれぞれの胸に湧き上がる感情を整理し、言葉にしようと試みていた。
アリナは窓の外に目をやり、深いため息をついた。彼女の翡翠色の瞳には、怒りと嫌悪が渦巻いていた。
「亜人族が魔法を持ってはいけないなんて…トータスのしきたりは本当に気持ち悪いわ。エヒカスの教えって、一体何なの?魔法の有無だけで種族を縛って、種族間の対立や異端者の差別を煽るなんて、許せるわけがない。」
彼女は拳を握り締め、声に抑えきれない感情が滲んだ。前世で魔法の世界ヘルカシア大陸の受付嬢だったとはいえ、地球で育ったアリナにとって、魔法の有無を含めて人間は自由であるべきもので、種族による差別は受け入れがたいものだった。亜人族が魔法を持ってはいけないというルール、そして魔法を持たないからと差別する聖教教会の教えは、彼女の価値観に真っ向から反し、虫唾が走るほどの嫌悪感を呼び起こしていた。
ハジメはハンドルを握る手に力を込めながら、静かに呟いた。瞳には、彼の困惑と疑念が浮かんでいた。
「エヒトが人族と魔人族、亜人族の対立を煽ってるなんて、恐ろしいね…。光輝たちクラスメイトは、それを何の疑問もなく信じてるのかな。彼らの正義感って、一体どこから来てるんだろう…。まぁ、僕を妬みやオタクって理由でいじめてたような奴らの倫理なんて、期待するだけ無駄か。」
彼の声には諦観が混じりつつも、静かな怒りが滲んでいた。かつてのクラスメイトである光輝たちの、イシュタルへの盲信的な態度と、自分を差別する理不尽さに、ハジメは深い不信感を抱いていた。温和な性格の彼だが、心の奥では理不尽な現実に対する静かな反発が燃えていた。
ルルリは小さく震え、膝を抱えたまま呟いた。ピンク色の髪が不安げに揺れ、瞳には深い恐怖が宿っていた。
「帝国が兎人族を奴隷にしようとするなんて…恐ろしいのです。もし私たちが捕まったら、男は処刑されて、女は奴隷にされるのでしょうか?考えるだけで震えが止まらないのです…」
彼女の声はか細く、ヒーラーとしての役割を果たす一方で、自分が守られるべき存在であることを自覚していた。帝国の非情な現実を前に、彼女の心は恐怖に支配されつつあった。
ロウは拳を握り潰すように締め、怒りを抑えきれずに声を荒げた。赤髪が怒りで逆立つかのように見え、遠距離魔法使いとしての冷静さが一瞬崩れていた。
「トータスの亜人族差別と、亜人族が魔法を持つ者への迫害…本当に胸糞悪いな。シアの話を聞いてると、種族の違いだけで差別して、差別されてる側も魔法を持ってるってだけで迫害するなんて、どう考えても許せねぇぜ。」
彼の正義感は強く、不条理な状況を前にすると我慢ができない性格だった。ハウリア族の苦境は、ロウの心に燃える怒りの火をさらに大きくしていた。
ジェイドは皆の反応を静かに見つめながら、深く息を吸い、力強く宣言した。銀髪が風に揺れ、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「俺たちはシアと兎人族を守る。どんな困難があっても、彼らを見捨てるわけにはいかない。シア、ハウリア族を救うために俺たちにできることをするよ。」
パーティーのリーダーとして、ジェイドは仲間だけでなく、困っている者たちを守る覚悟を固めていた。彼の言葉には迷いがなく、車内の空気を一変させるほどの力強さがあった。
シアは皆の反応に感謝の笑みを浮かべつつ、少し照れながら自身の秘密を打ち明けた。
「私の魔法は『未来視』なんです。未来の一瞬を見ることができる能力で…でも、使いすぎると頭が痛くなるから、控えめに使ってるんです。」
彼女の声は控えめだったが、その瞳には隠してきた力へのささやかな誇りが宿っていた。これまで一族にもあまり明かさなかった能力を、ジェイドたちには正直に話すことにしたのだ。車内に驚きの空気が広がり、ジェイドが感心したように頷いた。
「それはすごい力だな、シア。でも、無理はしないでくれ。俺たちにはお前が必要なんだから。」
その言葉に、シアの頬がわずかに赤らんだ。彼女はジェイドに一歩近づき、柔らかな笑顔を浮かべて媚びるように言った。
「ジェイドさん、素敵ですね。強くて優しくて…私、惹かれちゃいますぅ。」
ジェイドは少し戸惑いながらも、温和に答えた。
「ありがとう、シア。でも、俺にはユエがいるから…その気持ちは嬉しいけどさ。」
その瞬間、隣に座るユエがシアに鋭い視線を向けた。金髪が風に揺れ、その瞳には静かな嫉妬が宿っていた。
「…ジェイドは私のもの。それに、ジェイドにはリリアーナという正妻がいる。」
ユエの声は小さく、抑えたトーンだったが、その言葉には強い意志が込められていた。シアは一瞬たじろいだが、すぐに笑顔を取り戻し、ジェイドに軽く肩を寄せた。
「わかってますぅ。でも、側室の一人でもいいんですぅ。私、ジェイドさんのそばにいたいんですぅ。」
ジェイドは困った顔でユエを見たが、ユエは無表情のまま、瞳に複雑な感情を湛えていた。車内には微妙な緊張感が漂い、ロウが苦笑しながら呟いた。
「ジェイド、ほんとお前モテすぎだろ。」
「何人もの女性をたぶらかしたら気が済むのですか。」
「ジェイド、アンタはモテるってことを自覚しなさい。いつまでも曖昧な態度とってんじゃないわよ。腹を括りなさい。」
アリナとルルリも思わず苦笑した。確かに、シアの容姿はユエやアリナ、ルルリ、リリアーナに引けを取らない美しさだった。青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹のような澄んだ瞳。眉やまつ毛まで白く、透けるような白い肌と相まって、黙っていればミステリアスな雰囲気を漂わせる美少女だ。手足はスラリと長く、ウサ耳やウサ尻尾がふりふりと揺れる姿は愛らしく、見ているだけで心が和むほど。ケモナーなら卒倒しかねない魅力に溢れている。
何より、シアの豊満な胸元は目を引いた。クラスでも一二を争う巨乳を持つアリナを上回るほどのボリュームで、ボロボロの布切れのような服に収まりきれず、動くたびに揺れて自己主張を繰り返していた。そんな美少女に誘惑されれば、ジェイドの心も揺らぐはずだが、彼には正妻リリアーナと側室のユエがいるため、シアのアプローチには曖昧な態度で応じるしかなかった。一方、ハジメにはその誘惑は通用しない。ハジメはアリナ一筋であり、もしシアが手を出そうものなら、アリナの厳しい“お仕置き”が待っているからだ。
そんなやりとりをしているうちに、車は最後の大岩を迂回した。その先に広がった光景に、全員の息が止まった。今まさに数十人の兎人族が飛行型の魔物六匹に囲まれ、絶体絶命の危機に瀕していたのだ。悲鳴と咆哮が響き合い、砂塵が舞う中で、彼らは魔物に怯えていた。
ジェイドが即座に立ち上がり、剣を手に叫んだ。
「行くぞ、みんな!ハウリア族を救うんだ!」
セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?
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更新優先でお願いします。
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セリフと地の文分けるの優先で。