処刑人と白銀の英雄は世界最強 作:改革結集の会
ライセン大峡谷の出口を目指し、ハジメたちはウサミミを生やした兎人族42人をぞろぞろと引き連れて進んでいた。
道中、数え切れないほどの魔物が、兎人族を絶好の獲物と見て襲いかかってきた。鋭い牙を剥き、唸り声を上げながら突進してくるその姿は、まさに死の使者のようだった。しかし、ただの一匹も兎人族に触れることはできなかった。魔物が接近するたび、乾いた破裂音が峡谷に響き渡り、閃光が闇を切り裂く。ハジメの愛銃ドンナーが放つ弾丸が、魔物の頭部を正確に撃ち抜き、ジェイドのシュラークやルルリのメツェライもまた、容赦なく敵を仕留めていく。血と肉片が飛び散り、ライセン大峡谷の凶悪な魔物たちが為す術もなく次々と絶命していく光景は、まるで一方的な処刑劇のようだった。
兎人族たちはその様子に最初は唖然としていた。自分たちを守るために立ち上がる者がいるなど、これまで想像したこともなかったのだ。しかし、やがてその驚きは畏敬の念へと変わり、ハジメ、アリナ、ジェイド、ルルリ、ロウ、ユエ――「白銀の剣」パーティーのメンバーたちへと向けられた。彼らの力強さと優しさが、兎人族の心に深く刻まれていく。
特に小さな子供たちは、つぶらな瞳をキラキラと輝かせ、ジェイドをまるで物語の中のヒーローのように見つめていた。銀髪が風に揺れるジェイドは、その純粋で無垢な眼差しに少し居心地が悪そうに肩をすくめた。戦場での冷静沈着な姿とは裏腹に、子供たちの熱い視線にどう応じていいか分からない様子が、彼の人間らしい一面を垣間見せていた。
「ふふふ、ジェイドさん。チビッコたちがあなたを見つめてますよ~。手でも振ってあげたらどうですか?」
彼女は実にわざとらしい「ウザい」表情を浮かべながら、「うりうり~」とジェイドにちょっかいをかけ、そのウサミミがぴょこぴょこと揺れる。シアの明るい性格と無邪気さが、緊迫した空気を一瞬和ませた。ジェイドは苦笑いを浮かべつつも、子供たちに軽く手を振った。すると、子供たちの顔が一気に明るくなり、「わぁ!」と小さな歓声が上がった。その純粋な喜びは、峡谷の冷たい風を少しだけ温かく感じさせるほどだった。
しかし、その和やかな空気をぶち壊すように、アリナとユエがご機嫌斜めなオーラを放ち始めた。アリナが腕を組んでジェイドを睨みつけると、鋭い声が飛んだ。
「ジェイド、アンタ調子乗って鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ。」
「ジェイド、私の男…、お前のような変態ウサギごときが手を出すな…」
「「あわわわわわわっ!?」」
次の瞬間、アリナとユエがハジメ特製のゴム弾を放ち、シアとジェイドの足元を連続で撃ち抜いた。二人は奇怪なタップダンスのような動きでワタワタと回避し、「あわわわわわわっ!?」と慌てふためく声が響いた。この道中何度も見られたお馴染みの光景に、シアの父カムとハジメは苦笑いを浮かべ、ルルリとロウは呆れた視線を送っていた。
「はっはっは、シアは随分とジェイド殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、責任感が強くてそれでいて戦力もあるジェイド殿なら安心か……」
すぐ傍で娘が銃撃されているにもかかわらず、カムは気にした様子もなく、目尻に涙をためて娘の成長を祝うような表情を浮かべていた。周りの兎人族も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシアに生暖かい眼差しを向けている。
「いや、あなた達。この状況見て出てくる感想がそれですか?」
ジェイドが困った顔で肩をすくめると、ユエが静かに呟いた。
「……ズレてる」
どうやら兎人族は少し常識がズレているというか、天然が入った種族らしい。それが兎人族全体なのか、ハウリア一族特有のものなのかは分からないが、ハジメは内心でそう思いながらも、温和な笑顔を浮かべていた。
一行はそんなやり取りを繰り返しながら、ついにライセン大峡谷の出口にたどり着いた。ハジメが「遠見」の能力で前方を確認すると、岸壁に沿って立派な石造りの階段が作られているのが見えた。苔むした石段は風雨に晒されながらも堅牢で、長い年月を経てきたことを示していた。階段を上りきった先には、樹海の緑が薄らと見え、出口から徒歩で半日ほどの距離にあるようだった。
シアが不安そうに尋ねた。
「帝国兵はまだいるでしょか?」
ハジメは穏やかに答えた。
「どうだろうね。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いけど……」
彼の声は落ち着いており、不安を煽らないよう配慮が感じられた。しかし、シアの表情は晴れなかった。
「もし、まだいたら……ハジメさん達は、どうするのですか?」
「? どうするって何よ?」
アリナが話に割り込んできたところ、シアは意を決したように続けた。
「相手は人間族です。ハジメさんやアリナさん達と同じ。敵対できますか?」
シアの質問にアリナは首を傾げた。
「ウサ耳、アンタ、未来が見えていたんじゃないの?」
「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんやアリナさんを……」
「だったら……何が疑問なのよ?」
「帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」
周りの兎人族も神妙な顔でアリナ達を見つめ、子供たちは不穏な空気を察して大人たちとアリナ達を交互に見ていた。しかし、アリナはシリアスな雰囲気をまるで気にせず、あっさりと言った。
「それがどうしたの?」
「えっ?」
「人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるのよ」
「そ、それは、だって同族じゃないですか……」
「アンタ達だって、同族に追い出されてるじゃん」
「それは、まぁ、そうなんですが……」
「大体、根本が間違っている」
「根本?」
アリナはシアにに説明した。
「いい? 私は、アンタ達が樹海探索に便利だから雇ったのよ。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけよ。断じて、アンタ達に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃないわよ。樹海案内の仕事が終わるまでは「白銀の剣」のために守るわよ。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ないわ。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことよ。だって私達だってクラスメイトという人間族の屑どもやクソ教会に裏切られたからオルクス大迷宮の奈落の底から抜け出したわけじゃん。」
「こればかりはアリナさんの言う通りだな。俺達は俺達の正義のために戦う。それだけだ。」
シアは苦笑いしながら納得した。
「な、なるほど……」
カムが快活に笑った。
「はっはっは、分かりやすくて良いですな。樹海の案内はお任せくだされ」
アリナとジェイドのギブ&テイクな姿勢に、兎人族たちは安心したようだった。
一行が階段を上りきると、崖の上には30人の帝国兵がたむろしていた。カーキ色の軍服に身を包み、剣や槍、盾を携えている。彼らはハジメたちを見るなり驚いたが、すぐに喜色を浮かべ、兎人族を品定めするように見渡した。
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイてるな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
帝国兵たちは兎人族を完全に獲物としか見ていない様子で、下卑た笑みを浮かべていた。兎人族たちはその視線に怯え、震えていた。
小隊長がアリナに気づき、怪訝な顔で尋ねた。
「あぁ? ありゃ誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」
ジェイドは毅然とした態度で答えた。
「ああ、俺達は人間だ。」
「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? もしかして奴隷商か? そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
「断る」
「今、何て言った?」
「断ると言った。こいつらは今は俺達のものだ。お前らには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメするよ」
「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「十全に理解している。お前達に頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」
小隊長は怒りを露わにし、ユエとアリナとルルリに気づくと下卑た笑みを浮かべた。
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
その言葉に、ジェイドとハジメ、ロウは眉をピクリと動かし、ユエとアリナ、ルルリは嫌悪感を露わにした。怒りのあまりアリナが巨神の破槌を出現させ握りしめた。
「つまり敵ってことでいいわよね?」
「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」
「この女性をモノとしか思ってないクソ兵士共、アンタらのせいで兎人族が苦しんでるのよ!ぶっ潰す!!」
アリナが放った「巨神の破槌」の一撃が小隊長の頭部を砕き、血と脳髄が飛び散った。それに合わせて、ハジメとジェイドとルルリは連続で発砲し、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。帝国兵たちはパニックに陥りながらも武器を構えたが、アリナは巨神の破槌を振り回し、後衛を一掃した。ハジメ達によって前衛も次々と撃ち抜かれ、最後の一人がへたり込んだ。
アリナは巨神の破槌を持ちながら、冷めた目で兵士を見下ろした。
「他の兎人族がどうなったか教えてもらうわよ。ほら、早く言いなさい、雑魚兵隊さん?」
兵士は震えながら答えた。
「多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」
「なら、絞られた兎人族と同じ目に合わせてあげるわ」
アリナは無表情で槌をぶん回し、兵士を絶命させた。兎人族たちはその光景に引いていたが、ユエが静かに言った。
「一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」
シアとカムが謝罪したが、アリナは気にしてない様子で手を振った。
戦闘が終わり、血と硝煙が漂う中、「白銀の剣」パーティーのメンバーであるアリナ、ロウ、ジェイド、ルルリが口を開いた。アリナが憤慨した声で言った。
「帝国兵のこの態度……兎人族を奴隷扱いして、差別するなんて許せない!」
ロウが頷いた。
「ああ、まるで物みたいに扱いやがって。こんな連中が人間族を名乗ってるのが腹立たしい」
ジェイドは冷静だが怒りを抑えた口調で言った。
「元いた世界で魔神と戦った時も、こんな理不尽な連中はいた。だが、こいつらはそれ以上に腐ってる」
ルルリも同意した。
「人族との戦争になっても、私には抵抗なんてないのです!こんな奴らがのさばってるなら、なおさらなのです!」
ハジメは彼らの言葉を聞きながら、クラスメイトの悪意によって奈落に突き落とされた過去を思い出した。アリナも同じ経験を持ち、二人は静かに人族との戦争に抵抗がないことを確認し合った。一方、ジェイド、ロウ、ルルリは魔神との戦いの経験から、戦うことに躊躇がなかった。
ハジメは無傷の馬車や馬を利用し、魔力駆動二輪を連結させて樹海へと進んだ。ユエが風の魔法で帝国兵の死体を谷底に吹き飛ばし、後には血だまりだけが残った。
車内では、シアがジェイドに惹かれていることを自覚していたが、ユエがジェイドの恋人であり側室としての立場から冷たい視線を向けていた。シアは少し気まずそうにしていたが、ジェイドは兎人族を守る決意を新たにしていた。
ジェイドは穏やかな口調で言った。
「俺達は樹海を目指します。あなた達はそこで案内を終えたら自由ですよ。それまでしっかり守りますから、安心してください」
カムが感謝の意を込めて頭を下げた。
「ジェイド殿、本当にありがとうございます」
こうして、ハジメたちは新たな旅を続け、樹海へと向かった。
その頃のヘルシャー帝国
「陛下!ライセン大渓谷で兎人族を捕らえようとした部隊が全滅しました!」
「何!?兎人族は戦闘能力が低いはずだが…」
「それが‥、なんと人族6人組が出てきてまして、槌をぶん回している少女や遠距離攻撃する少年や青年がいまして…」
「ほう、これは面白い。是非聞かせてもらおうか」
こうしてライセン大渓谷での戦闘の話を聞いたガハルド皇帝はこう呟いた。
「もしかして、あの6人組がオルクス大迷宮の奈落に落ちた奴らなのか…?だとすればうちに取り込めばかなり有利になるはずだ…。聖教教会や魔人族にも有利に立ち向かえるかもな、ハッハッハッ。特に槌使いの女はオレの側室にふさわしいだろう、いや正室待遇でもいいくらいだ。」
ガハルドは次の狙いをアリナたちに定めていたが、アリナ達の強さが規格外であり、むしろ彼の自信満々な態度が崩れることをまだ知らない。
感想、評価の程をお願いします。
セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?
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更新優先でお願いします。
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セリフと地の文分けるの優先で。