処刑人と白銀の英雄は世界最強 作:改革結集の会
「えへへ、うへへへ、くふふふ~」
同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。まさに残念ウサギにふさわしい姿であった。
「……キモイ」
見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。
「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって!嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ジェイドさんと一緒に旅できるんですよ?見ました?ジェイドさんの凛々しくて責任感のある表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」
シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってユエは声をうんざりしながら呟いた。
「……ウザウサギ」
「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」
「……」
「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」
必死にユエに名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に苦笑いを浮かべるジェイド。旅の仲間となってもユエによるシアの扱いの雑さは変わらないようなので、見かねたジェイドはユエに声をかけた。
「まぁまぁ、ユエ。シアのことちゃんと名前で呼んであげたら?」
しかし、ユエはジェイドに向かって氷魔法を飛ばした。凍ったジェイドの顔を見たアリナとルルリとロウは呆れていた。
「ジェイド、アンタこそ、ユエへの扱い雑になってんじゃないの?嫉妬には気をつけなさいよ。」
「全く、ジェイドったら女たらしすぎて、フラグ管理が上手くできていないのです。」
「ジェイド、凍ったのは自業自得だ。お前の場合は。」
「まぁまぁみんなジェイドさんに辛辣なこと言わないで。」
ハジメはそんな仲間たちの姿を見て苦笑していた。
そんな風に騒いでいると、霧をかき分けて数人のハウリア族が、アリナ達に課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。
シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。
カムがハジメに声をかけた。
「ハジメ殿、あなたたちが俺たちに力をくれたことに感謝してる。訓練のおかげでどんな魔物が来ても対応できるようになった。だが、俺たちは殺しを楽しむような道は歩みたくない。家族を守り、樹海で生き抜く強さがあれば十分だ。」
ハジメは笑顔で答えた。
「いえいえ。こちらこそ僕たちの訓練が活きたのならよかったよ。強さには責任が伴うからこそ、その力は慎重に行使しなくてはならないからね。」
ハジメは、力をつけていく中でふと力に溺れたかつての仲間たちの姿が浮かんだからこそ、ハウリア族の美徳である優しい心を壊さず強くなれるかに注力して訓練したところはあり、それはアリナも同じであった。
「アンタ達、これで私達がいなくても暮らしていけるわね。本当に、あいつらみたいに力に溺れなくてよかったわ。」
アリナはカムの決意を安堵しながら聞いていた。
そして、ジェイドはカムに告げた。
「カムさん、娘のシアさんを俺に下さい!」
「はっはっはっ、ジェイド殿なら安心して娘を任せられるわい。シア、ジェイド殿にたっぷり可愛がってもらうんだぞ!」
ハウリア族はジェイド達の旅のシアの同行を歓迎している様子であった。なにせ、シアのジェイドへの好意は明らかだったからである。お花が好きであったハウリア族の11歳の少年パルも、シアの恋路を応援していた。
「シアお姉ちゃん、ジェイドさんと一緒なら幸せになれるよ。俺たちも応援してるからな!」
ジェイドはシアの笑顔を見つめながら、彼女を守るためならどんな危険も厭わないと心に誓った。こうしてハウリア族と共に大樹に向かって歩いていると、待ち伏せしていた熊人族が襲い掛かってきた。
襲い掛かってきた熊人族のリーダーはレギン・バントンであった。彼は熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。
もっとも、それは、レギンに限ったことではなくバントン族全体に言えることで、特に若者衆の間でジンは絶大な人気を誇っていた。その理由としては、ジンの豪放磊落な性格と深い愛国心、そして亜人族の中でも最高クラスの実力を持っていることが大きいだろう。
だからこそ、その知らせを聞いたとき熊人族はタチの悪い冗談だと思った。自分達の心酔する長老が、一人の人間に為すすべもなく再起不能にされたなど有り得ないと。しかし、現実は容赦なく事実を突きつける。医療施設で力なく横たわるジンの姿が何より雄弁に真実を示していた。
レギンは、変わり果てたジンの姿に呆然とし、次いで煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた。腹の底から湧き上がるそれを堪える事もなく、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。そして、全てを知ったレギンは、長老衆の忠告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。
長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族を駆り立てることはできなかったが、バントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達が集まり、憎き人間を討とうと息巻いた。その数は五十人以上。仇の人間の目的が大樹であることを知ったレギン達は、もっとも効果的な報復として大樹へと至る寸前で襲撃する事にした。目的を眼前に果てるがいい! と。
相手は所詮、人間と兎人族のみ。例えジンを倒したのだとしても、どうせ不意を打つなど卑怯な手段を使ったに違いないと勝手に解釈した。樹海の深い霧の中なら感覚の狂う人間や、まして脆弱な兎人族など恐るるに足らずと。レギンは優秀な男だ。普段であるならば、そのようなご都合解釈はしなかっただろう。深い怒りが目を曇らせていたとしか言い様がない。
「出てこい、人間ども! ハウリア族の兎どももだ! ジンの仇をこの手で討つ!」
霧の向こうから、レギン・バントンが姿を現した。筋骨隆々の巨体を震わせ、怒りに燃える瞳が闇を貫く。彼が振り上げた戦斧が空気を切り裂き、五十人を超える部下が放つ殺気が霧を押し退けるほどだった。レギンはジン・バントン、熊人族の誇る長老がハジメに倒されたことを知り、復讐の炎を胸に抱いていた。五十人を超える部下と共に、彼はハジメ一行を待ち伏せしていたのだ。
ハウリア族の族長カムが前に進み出た。訓練で鍛えられた彼らの動きは鋭く、しかしその瞳には殺意ではなく、家族を守る決意が宿っていた。
「俺たちは争うつもりはない。だが、家族を守るためなら戦うぞ!」
戦闘が始まった。熊人族の力強い攻撃がハウリア族を襲い、木々が折れる音と雄叫びが霧の中に響き渡る。熊人族の一人が巨木を軽々と持ち上げ、ハウリア族の陣形に投げつけたが、カムが素早く仲間を指揮し、横に飛び散ることで難を逃れた。シアはジェイドの側で身構え、兎耳をピンと立てて戦況を見極める。彼女の心には、家族の安全とジェイドへの想いが交錯していた。
レギンは特にアリナを標的とし、巨大な戦斧を振り上げた。
「貴様がジンを倒した女だな! 命で償え!」
アリナは冷静に微笑み、腰に携えた「巨神の破槌」を手に取った。その武器はハジメの精密錬成によるもので、タウル鉱石の光沢が霧の中で鈍く輝いていた。
「悪いけど、簡単にやられる気はないわよ!魔法が使えないことで差別されているのに、魔法が使える亜人族を差別するとかちゃんちゃらおかしい話ね!」
彼女は一気に踏み込み、破槌を振り下ろした。衝撃波が霧を切り裂き、地面にクレーターを刻む。レギンは咄嗟に戦斧で受け止めるが、圧倒的な力に膝をつく。部下たちもアリナの力を前に戦意を喪失し、混乱に陥った。霧の中、彼女の姿はまるで戦神のようだった。
戦闘が収束に向かう中、ジェイドとカムが前に進み出た。カムはハウリア族の長として、家族を守る決意を胸に言葉を紡いだ。
「レギン、ここで退けば、これ以上は攻撃しない。部下の命を救うためにも、撤退するんだ。」
「俺たちも戦いたくて戦ってるわけじゃない。家族を守るためだ。無駄な血を流すのはやめよう。」
レギンは倒れた部下たちを見渡し、怒りと屈辱に震えた。だが、彼らの命を優先する責任感が、復讐心を抑えた。膝をついたまま、彼は低く呻くように答えた。
「…分かった。退く。だが、この屈辱は忘れんぞ。」
アリナが冷ややかに条件を提示した。彼女の声には、交渉の余地のない硬さが込められていた。
「アンタ達、長老たちに伝えておきなさい。フェアベルゲンに貸し一つよ。これで終わりよ。次やったらタダじゃ済まさないわよ。」
レギンたちは意気消沈しながら霧の奥へと姿を消し、戦いは終結を迎えた。木々の間を流れる風が、戦場の熱を冷ますようにそよぐ。ハウリア族の者たちは肩で息をしながらも、誰も致命傷を負わず、家族を守り抜いたことに安堵の表情を浮かべた。
感想、評価のほどよろしくお願いします。
セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?
-
更新優先でお願いします。
-
セリフと地の文分けるの優先で。