処刑人と白銀の英雄は世界最強   作:改革結集の会

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ハルツィナ樹海の奥深く、濃い霧が一行を包み込む中、ハジメたちは大樹を目指して進んでいた。ハウリア族の族長カムが先頭を切り、訓練の一環として他の族員たちが周囲に散らばって索敵を行う。霧が視界を閉ざし、木々の間を縫う風が葉を震わせる中、彼らの動きは鋭く、しかしその瞳には家族を守る優しさが宿っていた。訓練で鍛えられたハウリア族は、青あざやコブを顔に残しながらも、真剣な表情で任務を遂行していた。

 

「うぅ~、まだヒリヒリしますぅ〜!」

 

シアが小さな声で嘆き、お尻をさすりながらハジメを恨みがましく睨んだ。兎耳がしょんぼりと垂れ、彼女の不満が全身から溢れていた。先の熊人族との戦闘後、シアがハジメの頭を叩こうと飛びかかった瞬間、彼はすばやくドンナーを引き抜き、『教育的指導だ』と笑いながらゴム弾を放った。狙いがズレてシアのお尻に命中し、彼女は『うぎゃっ!』と飛び上がった

 

ハジメはシアの視線に苦笑いを浮かべ、温厚な口調で応じた。

 

「そんな目で見ないでくれよ、シア。君が僕の頭を本気で叩こうとしたからだろ?それに、仲間を盾にするなんて、ちょっとやりすぎじゃないか?」

 

少し離れた場所にいたハウリア族の男性が、うんうんと頷きながら苦笑する。シアは頬を膨らませ、反論した。

 

「うっ、それは…ユエさんの影響ですぅ!彼女の教育の賜物ですよ!」

 

ユエは無表情でシアを一瞥し、静かに呟いた。

 

「…シアは私が育てた」

 

ハジメはユエの自慢げな視線に苦笑し、スルースキルを駆使して視線を逸らした。ジェイドが笑いながら仲裁に入る。

 

「まぁまぁ、みんな落ち着いて。シアもユエも、仲良くやっていこうぜ。」

 

しかし、ユエはジェイドに鋭い視線を向け、火魔法を放った。ジェイドの腕が一瞬やけどした。アリナが呆れたように笑った。

 

「ジェイド、あんたってほんとシアに甘いわね。ユエの嫉妬に気をつけなさいよ。」

 

シアは凍ったジェイドを見て少し心配そうにしつつも、すぐに笑顔を取り戻し、彼の手を握った。

 

「ジェイドさん、大丈夫ですか?ユエさん、ひどいですよ~!」

 

ユエは無言で鼻を鳴らし、霧の奥を見つめた。ハジメは仲間たちの騒がしいやり取りに温かい笑みを浮かべ、アリナと肩を並べて歩きながら彼女の手をそっと握った。アリナは少し照れながらも、ハジメの温もりに微笑みを返す。

 

 

一行が和気あいあいと雑談しながら進むこと約十五分、霧が薄れ、ついに大樹の姿が現れた。ハジメがその姿を見上げ、驚きと疑問が入り混じった声を上げた。

 

「…なんだ、これ?」

 

アリナも隣で眉をひそめ、予想外の光景に首を傾げた。二人はフェアベルゲンで聞いた話から、青々とした巨大な樹を想像していた。しかし、目の前に広がる大樹は完全に枯れていた。幹は灰色に変色し、葉は一枚も残っていない。それでも、その大きさは圧倒的で、直径は五十メートルを超えるだろう。周辺の木々が青々と葉を広げる中、大樹だけが異様な存在感を放っていた。

 

カムがハジメとアリナの疑問に答えた。

 

「大樹はフェアベルゲン建国前から枯れているんだ。だが、朽ちることはない。枯れたまま、ずっと変わらずに立っている。周囲の霧とこの不思議な性質から、いつしか神聖視されるようになった。まぁ、観光名所みたいなもんだがな。」

 

ハジメはカムの説明を聞きながら、大樹の根元に歩み寄った。そこには、アルフレリックが話していた石板が建てられていた。石板には七角形とその頂点に七つの文様が刻まれている。ハジメは懐からオルクスの指輪を取り出し、文様を確認した。

 

「やっぱり…オルクスの扉と同じだ。」

 

「確かに同じ文様してるわね。」

 

指輪の文様と石板の一つの文様が一致している。ハジメは確信を持った。

 

「ここが大迷宮の入口だな。問題は、どうやって入るかだけど…」

 

彼は大樹の幹をペシペシと叩いてみたが、当然何の反応もない。カムたちに何か知っているか尋ねたが、彼らも首を振る。アルフレリックから聞いていた口伝にも、入口に関する情報はなかった。ハジメは少し考え込み、フェアベルゲンに貸しを取り立てるべきかと呟いた。

 

その時、アリナが石板の裏側をじっと見つめ、声を上げた。

 

「ハジメ、アンタこれ見て。」

 

ハジメが近づくと、石板の裏には表の七つの文様に対応する小さな窪みが刻まれていた。彼はオルクスの指輪を、表のオルクス文様に対応する窪みに嵌めてみた。

 

瞬間、石板が淡く輝き始めた。光は霧を柔らかく照らし、周囲に集まっていたハウリア族も驚きの声を上げた。やがて光が収まり、石板に文字が浮かび上がる。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

ハジメとユエは文字を読み、頭を捻った。

 

「四つの証…これは他の迷宮の証ってことか?」

「…ん、たぶん。七大迷宮の半分くらい?」

 

シアが考え込む二人に、明るい声で提案した。

 

「紡がれた絆の道標って、亜人の案内人ってことじゃないですか? ハウリア族みたいな亜人が樹海を案内するなんて、めったにないことですよ!」

 

ハジメはシアの言葉に頷いた。

 

「確かに、それっぽいな。じゃあ、再生の力は…ユエ、君の自動再生か?」

 

ユエは自分の固有魔法を思い出し、試しに指を軽く切り、自動再生を発動しながら石板に触れてみた。しかし、何の変化もない。

 

「…むぅ、違うみたい。」

 

アリナが枯れた大樹を見上げ、呟いた。

 

「この枯れ木を再生する力が必要なんじゃない? 四つの証って、七大迷宮の半分を攻略した証拠で、再生の力は神代魔法に関係あるのかも。」

 

ロウはアリナの推測に納得しつつ、ため息をついた。

 

「ちくしょう、今すぐ攻略は無理ってことか。面倒だけど、他の迷宮から当たるしかないな。」

 

ユエも少し残念そうな表情を見せたが、すぐに気持ちを切り替えた。一行は大樹の前で次の計画を話し合う。シアはジェイドの側に寄り添い、彼の手を握りながら希望に満ちた笑顔を見せる。

 

「大丈夫ですよ、ジェイドさん! 私たちならどんな迷宮だって攻略できます!」

 

ジェイドはシアの笑顔に優しく微笑み、彼女の頭を撫でた。

 

「そうだな、シア。君がいるなら、どんな試練も乗り越えられそうだ。」

 

アリナがからかうように笑った。

 

「ジェイド、アンタったらほんとシアに甘いわね。」

 

ルルリがくすくす笑いながら付け加えた。

 

「シアさんが幸せそうで何よりなのです。でも、ジェイド、フラグ管理は慎重にですよ。ユエさんやリリアーナさんがいるのですから。」

 

 

そして、ジェイドはハウリア族に集合をかけた。霧が薄れ、大樹の枯れた姿がくっきりと見える中、彼は温厚な口調で語り始めた。

 

「みんな、聞いた通り、俺たちは先に他の大迷宮の攻略を目指す。大樹まで案内してくれて、約束は果たしてくれた。君たちなら、フェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分生きていける。ありがとう。ここでお別れだ。」

 

ジェイドの言葉に、カムをはじめとするハウリア族が静かに頷いた。シアは家族との別れが迫る中、胸が締め付けられる思いと同時に、彼らを守るために旅立つ決意を新たにしていた。ジェイドの隣でその手を握り、彼の温もりに未来への希望を見出した。彼女はジェイドの視線を受け、家族に話しかけるために一歩前に出た。

 

「お父さ…」

 

だが、その言葉を遮るように、カムがビシッと直立不動の姿勢で前に進み出た。

 

「ジェイド殿!お話を!」

 

シアは目を丸くし、慌ててカムに声をかけた。

 

「ちょっと、お父様! 今は私のターンですよ!」

 

しかし、カムはまるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向き、シアを完全に無視。ハジメは苦笑しながら応じた。

 

「え、な?」

 

カムは意を決したように、ハウリア族の総意を伝えた。

 

「ジェイド殿、我々もお供に付いていかせてください!」

 

シアは驚愕の声を上げた。

 

「えっ!? お父様たちもハジメさんに付いていくんですか!? 十日前は私を送り出す雰囲気だったのに!」

 

カムはシアを無視し続け、力強く続けた。

 

「我々はもはやただのハウリアではない!ジェイド殿の仲間だ!ぜひ、お供に!これは一族の総意だ!」

 

シアはツッコミを入れながら叫んだ。

 

「ちょっと、お父様!私、そんなの聞いてません!私の苦労は何だったんですか!?」

 

カムは一瞬目を細め、ぶっちゃけた。

 

「正直、シアが羨ましかった!」

「ぶっちゃけた!?ホント、この十日間で何があったんですか!?」

 

ジェイドはカムの熱意に苦笑しながら答えた。

 

「うーん、気持ちは嬉しいけど、却下だな。」

 

カムが身を乗り出して食い下がった。

 

「なぜですか!?」

「君たちはまだこの樹海で鍛えるべきだ。俺の旅は危険すぎるし、家族を守る力をもっと磨いてほしいんだ。」

 

カムたちはなおも食い下がり、「許可がなくても付いていく!」とまで言い始めた。ジェイドは困り果て、折衷案を提示した。

 

「じゃあ、こうしよう。義父様達はここでさらに鍛錬を続けて、次に樹海に来た時に使える力を見せてくれ。そうしたら、仲間として考えるよ。」

 

カムは真剣な表情で確認した。

 

「その言葉に偽りはありませんな?」

「ないない。約束だ。」

 

カムは満足げに頷き、冗談めかして付け加えた。

 

「もし嘘だったら、人間の町の真ん中でアリナ、ジェイド、ハジメ殿の名前を叫びながら、新興宗教の教祖みたいに祭り上げますぞ?」

「…アンタたち、ほんとタチ悪いわね。」

 

アリナとハジメはハウリア族の冗談に思わず苦笑していた。

 

ユエもハジメの腕をぽんぽんと叩き、慰めるように微笑んだ。シアは地面にのの字を書きながら呟いた。

 

「ぐすっ、誰も私を見てくれない…旅立ちの日なのに…」

 

ジェイドがシアの頭を撫で、優しく声をかけた。

 

「シア、君はちゃんと見られてるよ。家族も僕も、君を誇りに思う。」

 

シアはジェイドの言葉に目を潤ませ、笑顔を取り戻した。

 

 

樹海の境界で、ハウリア族はハジメ一行を見送った。カムやパルたちが手を振り、シアは家族に別れを告げた。彼女の胸には、家族との絆とジェイドへの想いが響き合っていた。

 

ハジメ、ユエ、シア、アリナ、ジェイド、ルルリ、ロウの一行は、魔力駆動二輪に乗り込み、平原を疾走した。ハジメが運転し、アリナが隣に座り、ユエがハジメの背に寄り添う。シアはジェイドの隣で、兎耳を風に揺らしながら質問した。

 

「ハジメさん、目的地ってどこなんですか? 聞いてないですけど!」

 

ハジメは温かく笑い、答えた。

 

「ごめんね、シア。次はライセン大峡谷だよ。」

 

シアは目を丸くした。

 

「ライセン大峡谷!?あの地獄みたいな場所ですか!?」

 

ユエが得意げに口を挟んだ。

 

「…私は知ってた。」

 

シアはむっとしながら抗議した。

 

「むぅ、ユエさんずるい! 私だって仲間なんだから、ちゃんと教えてくださいよ! コミュニケーション大事ですよ!」

 

アリナが笑いながらフォローした。

 

「まぁまぁ、シア。ハジメもちゃんと説明するわよ。ね、ハジメ?」

 

ハジメはアリナの笑顔に頷き、意図を説明した。

 

「ライセンにも七大迷宮があるって噂があるんだ。シュネー雪原は魔人国の領土で面倒だし、グリューエン大火山を目指すなら、途中でライセンを通るのが効率的でしょ?迷宮が見つかればラッキーだし、ダメでも西大陸に進める。」

 

シアは頬を引きつらせた。

 

「つ、ついででライセン大峡谷を!? あそこ、一族が全滅しかけた場所ですよ…」

 

ハジメはシアの動揺を感じ、励ますように言った。

 

「シア、君の力を自覚しなよ。今の君なら、谷底の魔物なんて怖くない。ライセンの魔力分解の影響も、身体強化に特化した君には関係ない。むしろ、君の独壇場だろ?」

 

ユエが少し不満そうに呟いた。

 

「…師として情けない。」

 

シアは目を泳がせ、話題を逸らした。

 

「そ、そうですか! じゃ、今日は野営ですか? それとも町に?」

 

代わりにアリナが答えた。

 

「町がいいわね。食料や調味料を補充したいし、素材を換金して資金も用意したいわ。地図だと、この先に町があるはずよ。」

 

シアは安堵の表情を見せた。

 

「よかったぁ~!アリナさんやハジメさんが魔物の肉をバリボリ食べるんじゃないかと心配してました!ユエさんはジェイドさんの血で満足するかもしれないけど、私はまともなご飯が食べたいです!」

 

ハジメは呆れた顔で反論した。

 

「誰が好き好んで魔物の肉を食べるのよ?シア、私を何だと思ってるのよ?」

「え、プレデターって名前の新種の魔物?」

「…よし、町に着くまで首輪つけて引きずってやるわ。」

「え、待って!その首輪どこから出したんですか!?やめてぇ~、ユエさん、助けて!」

「…自業自得。バカウサギ。」

 

ジェイドが笑いながら仲裁に入った。

 

「アリナさん、シアも反省してるから、首輪は勘弁してやってくれ。」

 

ルルリも笑いながらアリナの肩を叩いた。

 

「ほんと、シアさんってアリナさんをからかう天才なのです。彼女は「白銀の剣」のムードメーカーなのです。」

「ああ、そうだな。シアのおかげで「白銀の剣」もにぎやかになったんじゃないかな?」

 

一行は騒がしくも温かい雰囲気で平原を進んだ。




感想、評価のほどよろしくお願いします。

セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?

  • 更新優先でお願いします。
  • セリフと地の文分けるの優先で。
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