処刑人と白銀の英雄は世界最強   作:改革結集の会

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アリナ達はいよいよトータスに行きます。
そして星10をつけてくれた方には感謝を申し上げます。エタらずに頑張って完結させるぞ…!(なお中の人は就活中の大学院生)


1-2

両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

だが、ハジメの視界には見慣れない三人の姿も映った。台座の端に立ち、状況を冷静に観察する彼らは、明らかにクラスメイトとは異なる雰囲気を持っていた。

一人は背が高く、銀髪を短く整えた青年。鋭い瞳と堂々とした立ち姿が印象的で、手には盾を思わせる装備が握られている。もう一人は赤紙の目つきの鋭い青年で、鋭い視線で周囲を警戒している。最後の女性は小柄で、桃色の髪をショートボブにした穏やかな表情の少女だった。彼女の手には杖のようなものが握られていた。

ハジメは彼らに目を留めた瞬間、隣に立つアリナが小さく呟くのを聞いた。

「ジェイド……ロウ、ルルリ?」

アリナの声に驚き、ハジメが彼女を見ると、彼女の碧眼が三人の姿に釘付けになっていた。

ハジメはチラリと背後を振り返った。そこには、やはり呆然としてへたり込む香織の姿があった。怪我はないようで、ハジメはホッと胸を撫で下ろす。そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。

そう、この広間にいるのはハジメ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

その時、台座の端にいた銀髪の青年が一歩進み出て、アリナに視線を向けた。

「アリナさん、久しぶりだね。こんな形で再会するとは思わなかったよ」

彼の声に、アリナが息を呑む。続いて、小柄な桃色の髪の少女が柔らかく微笑みながら言った。

「アリナさん、お元気そうで安心したのです。こんな場所で会うなんて驚きなのです」

最後に、赤髪の男性が軽く首をかしげ、アリナに呼びかけた。

「アリナ、元気だったか? まさかお前とまた会えるなんてな」

アリナは三人の言葉に目を瞬かせ、ハジメに小声で説明した。

「ハジメ、この人たち、私の前世の仲間だよ。ジェイド、ルルリ、ロウ……『白銀の剣』のメンバー」

ハジメは驚きつつも、アリナの言葉に頷き、三人をじっと見つめた。

現在、ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。

おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメとアリナは最後方で並んで座り、ジェイド、ロウ、ルルリは彼らの近くに位置していた。

ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。

教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……

ハジメも傍に来て飲み物を給仕してくれたメイドさんを思わず凝視……しそうになって、アリナの冷たい視線を感じて咄嗟に正面に視線を固定した。

チラリとアリナを見ると、彼女は微笑みながらも目が笑っていない。ハジメは小さく首を振って謝意を示した。

全員に飲み物が行き渡るのを確認すると、イシュタルが話し始めた。

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。

要約するとこうだ。

この世界はトータスと呼ばれ、人間族、魔人族、亜人族の三つの種族が存在する。人間族と魔人族は長年戦争を続けており、最近、魔人族が魔物を大規模に使役し始めたことで人間族が滅亡の危機にある。エヒト神がハジメ達を召喚し、魔人族を打倒して人間族を救う「救世主」として期待しているという。

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 アリナはイシュタルの恍惚とした顔を見て、前世のギルドの同僚が残業を押し付けてきた時や冒険者の自慢話を聞かされた時の嫌悪感を思い出した。「神の意志とか言ってるけど、こいつ、ただの自己満足だろ」と心の中で吐き捨てる。

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 ハジメとアリナが、〝神の意思〟を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 愛子先生だ。

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 〝愛ちゃん〟と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 愛子先生が叫ぶ。

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 パニックになる生徒達。

 ハジメとアリナも平気ではなかった。しかし、オタクであるが故にこういう展開の創作物は何度も読んでいる。それ故、予想していた幾つかのパターンの内、最悪のパターンではなかったので他の生徒達よりは平静を保てていた。

 誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

 だが、ハジメは、なんとなくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。

 未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。しかし、アリナが鋭い声で割り込んだ。

「待って。天之河、アンタら、戦争の本質を理解してないよね?」

彼女の声に、光輝が驚いて振り返る。アリナは立ち上がり、ハジメの手を握りながら冷たく続けた。

「戦争ってのは血と死の山だよ。しかも「人」を殺さないといけないの。人と人による殺し合いがない世界でぬくぬくと生きてきたアンタらにそれができるとは到底思えないんだけど。だからこそ、私とハジメはそんなものに巻き込まれる気はない。アンタらが正義感で突っ走るのは勝手だけど、私達を強制するのは許さない」

「アリナ、君はそんなこと言うやつじゃないだろ!トータスの人たちが危機に直面しているのに、君は何も思わないのか!」

「別に。むしろ、ハジメとの楽しい平穏な日常を壊されそうになって気分が悪いんですけど。本当に戦争が人を殺すことであることを理解してるの?このご都合主義満載のペラペラ男。」

アリナと光輝の喧嘩に会場がざわつき、イシュタルが反応した。

「少女よ。これはエヒト様の御意志だ。貴女に拒否する権利はない。我々の存亡がかかっているのだぞ」

イシュタルの声に威圧感が込められ、アリナの目が危険な光を帯びた。彼女が一歩前に進み出ようとした瞬間、ジェイドが静かに立ち上がり、仲裁に入った。

「イシュタルさん、少し待ってください。アリナさんの言うことも理解できる。僕達が召喚されたのは事実ですけど、無条件で戦争に駆り出されるのは納得できないです。条件を提示させてください」

ジェイドの落ち着いた声に、イシュタルが眉を上げる。ジェイドは続けた。

「一つ、戦争への参加は任意であること。二、僕達の衣食住を保障すること。三、この世界の歴史をきちんと教育すること。四、人を殺すことは何かをしっかりと教えること。この四つを約束してもらえれば、協力は検討します。それでどうですか?」

ルルリがジェイドの横に立ち、穏やかに補足した。

「アリナさん達が不安に思うのも当然なのです。このままじゃ納得できないのです」

ロウも軽く頷き、アリナに視線を向けた。

「アリナ、お前がそう思うなら俺も反対だ。戦争なんて面倒なだけだろ」

イシュタルは一瞬黙り込み、ジェイドの提案を吟味するように目を細めた。アリナはジェイドに軽く頷き、ハジメの手を握り直して席に戻った。光輝は戸惑いながらも、「ジェイドの言う通りだ」と呟き、場が再び静かになった。

イシュタルは深く息を吐き、渋々ながら頷いた。

「良かろう。エヒト様の御意志を果たすためだ。その条件、受け入れよう」

こうして、アリナの反対とジェイドの交渉により、戦争参加は強制ではなくなり、一触即発の空気は何とか収まった。だが、アリナは光輝の正義感とイシュタルの態度に、深い不信感を募らせていた。ジェイドもジェイドでやはりアリナは前世と変わらないんだなと実感した。




イシュタルくんの運命やいかに。あと果たして4つの条件は本当に守られるのか。感想と評価お願いします!私の執筆の力になりますので!

セリフと地の文分けると時間がかかるのですが、次話更新が数週間程度遅くなってでも分けるべきですか?

  • 更新優先でお願いします。
  • セリフと地の文分けるの優先で。
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