ハナコとピエロ 作:浦々浦和
『あはぁ!!アハハハハ!!これが神秘なのですねぇ!!狡いですよ!!ジェラシーがメラメラ燃え滾りますねぇ!!アハ。アハハハハ!!』
このテンションの上がり方からして、先程の注射器はやはり実験で使用した多量の神秘……しかも肉体に変異を起こす程であれば過剰とも言える量なんでしょうね。
「ちょ、ちょっとなんなのよアレ!?というか誰!?ハナコの知り合い!?」
「落ち着いてくださいコハルちゃん。闇雲に戦っても無意味ですから」
「なんでアレを見て落ち着いていられるのよ!?完全に化け物よ!!」
確かにコハルちゃんの言う通り、ピエロの顔はそのままに天井に届きそうな程大きく、右腕は獣の様な爪を持つ異形ですが。
こうなんでしょうね……私からすれば見慣れたピエロの顔というだけで特に焦りはないというか。
「コハルが私達の分も驚いてくれるから安心だな」
「あはは……」
「ふふっ。コハルちゃんは可愛いですね」
「〜〜!!もうなんなのよ皆して!!」
焦るコハルちゃんも、怒るコハルちゃんも可愛いって事です。
なんて我ながら、都合が良いというかなんというかあっさりと気を許しているのが単純ですね。
“ハナコ。後で色々と教えてくれるね?”
「……はい。今は私と一緒に彼を」
“うん。分かった信じるよ”
『信じる』そんなたった一言で胸の内が暖かい。
擽ったくて、慣れなくて、私なんかがこの暖かさを享受して良いのか今こうしている瞬間も考えてしまうけれど良いんですよね。
『ドカーン!!ボカーン!!コロコロリン!!さぁ、サーカスの開演です!!』
「「「「うわぁぁぁぁぁ!?!?」」」」
あ、火炎瓶が放り投げられてアリウスの方々が吹き飛んでいきましたね。
ミカさんが心配ですが……
“ミカ!!”
ふふっ、先生が間一髪のところで間に合いましたね。
しかしあのままではピエロが一番近くて、ヘイロー持たない先生では攻撃に耐えられません。
「アズサちゃんは敵の気を引いてください。ヒフミちゃんとコハルちゃんは先生とミカさんをお願いします」
「分かった」
「分かりました!!」
「ハナコ、あんたはどうするのよ!」
私ですか?もちろん、決まっていますよ。
「真正面から彼を相手します」
反論される事は分かっているので、静止を呼びかける皆さんの声を無視してピエロの目の前へと走り込む。
見上げる程に大きくなった彼の胸の辺りに向けて、銃弾を放ちますが元々私が使うコレは護身用程度に調整したもので今の彼にはきっと、大したダメージにはなりません。
「けど……」
『んふふっ!!良いですよぉ!!お相手致しましょう!!』
彼はきっと私を見てくれると信じていますから!!
「くぅ!!」
『あはは!!』
異形と化した右腕が私を掴み取ろうと迫るのを、ギリギリのところでスライディングする事で避け銃撃を続ける。
足を止めれば容赦なく握り潰される未来が見えますねコレは。
『人に期待を抱くのはナンセンスですよハナコさん。今、貴女が感じている心地良さが永遠に続くと誰が保証するのですか?んふふっ!!人はいずれ誰かを裏切るのですよ!!そう、そこに転がるお姫様の様に!!』
先程の火炎瓶!?あの異形となった指先で器用に持ちますね!!流石はピエロってところでしょうか。
「確かにそうかもしれない。けど、それは夢を持つからだと私は思う」
『ノゥ!!アチチチ!!火傷してしまうではありませんか!!』
「ミカは方法を間違えた。けれど、アリウスとトリニティが仲良く出来る世界というのはとても綺麗な想いだ。それを否定はさせない」
アズサちゃんの不屈の意志を体現する様にピエロの持つ火炎瓶を撃ち抜いた銃弾は、そのままピエロの右腕に着弾し苦悶の声を出させる。
本当に何処までも真っ直ぐな人ですねアズサちゃんは。
どんな環境でも自分を曲げることのないあの意志の強さが私に少しでもあれば、あの雨の日に一人で出歩く事はなかったんでしょうか。
『その様な夢物語が今の悲劇を招いたのですよぉ?所詮は善意と悪意、一枚のカードの裏表に過ぎません。パチンと捲ってみればほら、この通り!!世界は容易く移ろい変わるのです!!』
無数にばら撒かれるトランプがピエロを覆い隠し、彼の姿が一瞬にして消えたかと思えばアズサちゃんの目の前に現れ、異形と化した爪を振り下ろそうとする。
「なら、私は善意で溢れた世界を生きたいです!!そうあって欲しいと願い信じる事は悪くない筈です!!そうですよねペロロ様!!」
『おう!?it's cute Monster!!』
「ペロロ様はモンスターじゃありません!!可愛いのは同意しますけど……」
ヒフミちゃんの投げたディスクから現れた踊るペロロにピエロの意識が移り、爪はそちらを叩きつけましたね。
なんというかアレで目標がすり替わるのが彼らしいと言うべきか……ですが、ヒフミちゃんは何処までも純粋というのがよく分かります。
ハッピーエンドを願う彼女だからこそ、善意の世界を信じられるのでしょう。
『キラキラと輝く世界が全てではないのです。目を向ければ何処までも暗く黄昏た世界は広がっていますよぉ?その様な世界で生きる者達にとって、貴女の語る理想は甘い!!そう!!世界はワタクシの様な悪意に満ちているのです!!』
今度は分身ですか……本当に多芸な方ですね。
「な、ならその悪意を打ち払うのが私達、正義実現委員会なのよ!!」
コハルちゃんが放り投げた手榴弾が分身を一纏めに巻き込み、近くにいたアズサちゃんの火傷を癒す。
決して悪意に屈せず、自分が正しいと思える姿に憧れ届かんと努力する事が出来るコハルちゃんの言葉だから、胸に響くものがありますね。
『では尋ねましょうや!!貴女達の信じる夢が!!善意が!!正義が!!何故何故、他者にとっての悪ではないと信じる事が出来るのでしょうか?世界は多種多様!!それはもう万華鏡の様に無数に広がり続けるのですよ!!』
地面を砕きながら現れた鏡が私達を取り囲み、鏡合わせとなった世界で無数の私達とピエロが映り全てのピエロが違う動きを見せています。
火炎瓶を持っていたり、分身をしていたり、誰かを握りつぶそうとしていたりと。
“それを教える為に私は此処に立っているんだよピエロ。君の様に不信と諦観に囚われない様にね……皆、上だよ”
ミカさんを庇いながら指示を出す先生に従って上を見れば、あの大きさにも関わらず器用にバルーンで浮いている彼を見つけました。
私がどれだけ信じない様に与えられた熱を冷やそうとしても、忘れ去る事が出来なかった優しい暖かさを持つ先生がいなければ私はきっと、補習授業部の誰も信じようとはしなかったでしょう。
「……いえ、それどころか誰か一人でも欠けていれば私は諦めたままでしたね」
『んふふっ!!諦観は悪い事ではないですよぉ?そうしなければ君はその優しい心を護れなかったのですからねぇ!!』
「そうかもしれません。でも、きっと私は勇気を持つべきでした。自分が傷付いても、自分を曝け出す勇気が!!」
皆の一緒に放った銃弾はピエロを浮かせるバルーンを次々と破裂させ、彼の重さを支え切る事が出来ずにビタンッと鈍い音を立てて落下する。
ですが、それでもなお彼は笑みを携えたままゆっくりと立ち上がり私達を見下ろす。
『やはり戦いは痛いですねぇ……神秘を得ても銃弾はパチパチビシビシとズンズン重い物を内側に響かせてきますし、ワタクシはピエロなんですよぉ?元より戦いは不得手!!苦手なんですよねぇ!!』
「じゃあ降参してください。今なら許してあげますよ?」
『あははは!!ノゥ!!あり得ませんねぇ!!だってだって、こんなに楽しいんですから!!』
見慣れた笑顔を浮かべてその手に無数の火炎瓶を構えるピエロ。
ジャグリングをしている数がどんどん増えていくのを見る限り、銃弾で全てを叩き落とすのは難しそうですね。
『さぁ!!ホットで!!ゴウゴウな!!サーカスを始めましょう!!』
「くっ、どうする?ハナコ」
「ふふっ。安心してください。私が一肌脱ぎましょう」
“え?ハナコ、何をするつもり?”
彼のジャグリングが終わり、投擲される瞬間に制服に手をかけ、一気に脱ぎ捨てる。
水着姿になった私を見て皆さんが困惑する声──特にコハルちゃんの『エッチなのはダメ!!』ってのがよく聞こえてきますね──を聞きながら、なんとなくで用意していたホースを手に取り水を放つ。
「いっぱいかけちゃいます♡」
『おや?おやおやおや?おやおやおやおや!!!!わっぷ!?』
大量の水が投げられた火炎瓶を一纏めにする──のを通り越し、濁流の様に彼を外へと押し出しました。
押し流された事で火炎瓶は不発に終わりましたし、彼もビチョビチョになったので何処からともなく火炎瓶を取り出して投げつけるのももう無理でしょうね。
『……酷いですねぇ。あの日、傘を差し上げた恩義をこんな形で返されるなんて。うふふっ!!』
「あら、覚えていてくれたんですね♪」
『おっとぉ〜藪蛇でしたなぁ!!』
ケラケラと笑う彼を見つめながら微笑み返し、そっと落ちていたモノを拾い上げる。
ピエロの化粧で分かり辛いですが、顔色が悪くなっていますね。
「……ピエロさん」
神秘無効化弾を
-
撃つ
-
撃たない