ハナコとピエロ   作:浦々浦和

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引き金を引く──いつか訪れる彼との青春の日々の為に

 引き金を引く。

 私が込める想いを笑う様に軽い音で発射されるのが、なんだかとても彼らしくてほんの少しだけ笑みを浮かべれば彼はゆっくりと目を開き、弾丸を防ごうと伸ばしていた右腕を下ろした。

 

「んぎっ!?」

 

 彼が私に使うと約束してくれた『神秘無効化弾』の正確な理屈は分かりませんが、この身を実験材料に辿り着いたのですから想像は出来ます。

 私達、生徒が有する神秘は生きている限り生成される血液と同じ様なものです。

 彼の実験の中に私のヘイローが放つ神秘と逆の波長をぶつけ合わせ、私の意識が何処かへと飛んでいく事がありましたがアレは一時的に私の神秘の流れが止まり、仮死状態になった様なものだと説明していました。

 ミカさんが痙攣を起こし、ヘイローが明滅を繰り返していたのを踏まえるとあの実験がこの弾丸の開発には使われているのでしょう。

 

「あはぁ……流石はハナコさんです。この短時間で銃弾の仕組みに当たりをつけましたねぇ?」

 

「……えぇ。ピエロさん。貴方の作ったこの弾丸は神秘を生存できる限界量だけ残し、あとは消失させる事で擬似的に無効化させるものですね?」

 

 彼は()()()()()()()様に振る舞う。

 あの場に居た他の大人達と違って、彼は生徒を実験動物の様な感覚で使用しながらもその一線だけは踏み越えない様にしていたんだと思います。

 

「今の貴方の身体は膨大な神秘を取り込んだ事で過剰に変質したもの。だから、この弾丸で原因である神秘を最低限に減少させれば命を助ける事ができると思ったんです」

 

 肉体が維持出来なくなったのか砂の様に崩れていくピエロ。

 大きな外装が崩れていき、内側から徐々に見慣れた大きさの彼が出てくるのを見て、ほっと息を溢す。

 

「んふふっ……甘いですねぇ甘ちゃんですよハナコさん。あまりの甘さに砂糖菓子を食べていないのに胸焼けがムカムカとしてきますよぉ。ワタクシは悪人です。生かしたところで次、何をするのか分かったものではありませんよぉ?」

 

 あぁ、それでも異形になっていた右腕は肉体に合わない神秘の代償として壊れてしまいましたか。

 器用に隠しているつもりなのでしょうけど、此処は外ですから風のせいで袖が動いてしまっていますよ。

 

「それでも、です。私はあの日、他の誰でもない。貴方が差し出した手に救われたのですから。助けていただいた恩を死で返すなんて出来るわけないじゃないですか」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はい。貴方が死を望んでいたとしても、私は貴方の死を望みません。だってもっと貴方と話がしたいです。ずっと暗い顔ばかりだった私の隣で、笑い続けていた貴方に私はまだ笑顔を見せられていません」

 

 声が震える。

 私よりもずっと全てを諦めていた彼が漸く口に出した願いを否定したくて、一方的に救われていたばかりだったと溢れそうになる涙を必死に堪えているから。

 それでも言葉を続けなければ、彼に逃げる隙を与えたらもう二度と会えなくなる気がしたから。

 

「貴方のお陰で私は全てに諦めを抱く前に立ち止まれました……貴方が居てくれたから私はトリニティに戻れました……貴方が!!あの日、私の雨の冷たさから守ってくれたから私は今、此処に立てています!!」

 

 曝け出すんだ、今此処で私が傷ついても構わないからずっとずっと抑えてきた心からの言葉を。

 

「それは偶然ですよ。えぇ、偶々の巡り合わせに過ぎません。そもそも、ワタクシと出逢わなくても貴女はご立派な先生に救われるのですから」

 

「そうかもしれません。でも、私が出会ったのは貴方なんです!!例えそれが偶然であったとしても、もっと良い出会いがあったとしても今此処にいる浦和ハナコは貴方と出会ったんです!!それを嘘だとは言わせません」

 

「……」

 

 彼の言う通り、彼と出会わずに先生と会っていたらもっと早い時期から補習授業部の皆と打ち解けていたかもしれませんし、胸の内で空虚を感じながら日々を過ごす必要もなかったかもしれません。

 

 でも、それがなんだって言うんですか?

 

「ピエロさん」

 

 人の形に戻った彼の元へと歩いて向かう。

 妨害しようとすれば出来るのに、彼はそれをせずにただまっすぐに私を見つめて近づく事を許してくれました。

 

「……ふふっ。びしょびしょに濡れてますね。ピエロのメイクは全く崩れてないですけど、どういう原理なんですかそれ?」

 

「本当ですヨ。ボカーンと吹き飛ばすつもりが、バシャっと消されてご覧の有り様……ンフフっ、我ながら滑稽!!烏骨鶏!!コケコッコー!!ですなぁ」

 

「まだ夜明けには早いですよ……ねぇ、ピエロさん。覚えていますか?」

 

「ん?何をですかな。主語が足りませんよハナコさん」

 

 きっと貴方は弱った私の心に漬け込むために放った言葉なのでしょうけど、私は悪い子なので利用させて貰います。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は忘れていませんよ?

 雨の日にも関わらず、片膝を着きながらまるでプロポーズをする様に手を伸ばしてくれた貴方を。

 

「……おやぁ。これは正しく身から出た錆!!ワタクシの迂闊な部分にブスリとえぇ!!剣を差し込まれた気分ですよぉ!!──して、マドモアゼル。ワタクシの様な道化師に何をお望みで?」

 

 残った左手で反対側の胸に手を当て、恭しく頭を下げるピエロ。

 そんな彼の最後の抵抗を微笑みながら、ちゃんと視界に手が映る様に差し伸ばす。

 

「私ともう一度、友達になってください。オトモダチじゃないですよ?友達です」

 

「……は、ははっ!!ピエロは人を化かす者ですよぉ。そんな者の言葉に真実も嘘も考えるだけ無駄なものです。それでも誓いを君は望むのですかぁ?」

 

「はい。それに真実か嘘かは私が考えますから。貴方がそういう人だってよく知っていますもの」

 

 放っておけば五月蝿い程によく喋る方ですから、その言葉に嘘もたくさん混ざっている事でしょう。

 でも、それで良いんです。

 貴方がそういう人だって分かって、信じた上で私はもう一度、友達という関係を始めたいんですから。

 

「……んふっ。宜しいでしょう!!ワタクシ、これでも精一杯の虚勢をググッと張ってる身でしてねぇ?今此処でハナコさんの機嫌を損ねて、バチっと撃たれてしまうとコロッとポックリ逝きかねないので、その甘さに便乗すると致しましょう!!」

 

 私の手を取りぶんぶんと振り回すピエロから伝わってくる確かな暖かさと鼓動に安心感を覚え、ほんの少しだけ堪えていた涙が溢れてしまいました。

 

「おっと。美しき涙を流すのにはまだ早いですよぉ?君のいえ、()()の勝負はこれからでしょう?」

 

「あっ」

 

「んふふっ!!」

 

 私の手を離し、微笑むピエロは後ろに控えていた皆さんを手招きしながら、スキップで道を譲る。

 そうでした……補習授業部の戦いはこの後が本番でしたね。

 

「……また会えますよね?」

 

「えぇ。ハナコさんが望むのなら」

 

「分かりました。すみません、行きましょう皆さん!!」

 

 補習授業部の皆と共に走ってこの場を後にする。

 時折、我慢できなくて振り返ればそこには私達が見えなくなるまでずっと手を振っているピエロの姿がありました。

 

 

 

 

 

 

「貴方は共に行かなくて良いんですか?」

 

“私に出来る事はもう全てしたからね。貴方と一緒だよピエロ”

 

 ハナコ達補習授業部の面々が走っていた後、残ったピエロと先生は彼女達を見送りながら肩を並べていた。

 

“ねぇ、一つ聞いていい?”

 

「構いませんよぉ。ワタクシは敗北者!!勝者である先生に逆らうなんてとてもとても……」

 

“君ならハナコに諦観を忘れさせる事が出来たんじゃない?”

 

 とぼけるピエロの言葉を遮って、先生はハナコの様子を見て疑問だった事を尋ねた。

 ピエロという名の通り、ずっと巫山戯ている彼だが抱え込みやすい生徒には敢えて、巫山戯て振る舞う重要性をよく知っているが故に出てきた言葉なのだろう。

 

「んふふっ!!それは勘違い!!筋違い!!向けるべきではない信頼ですよぉ先生。ワタクシはピエロ、常に笑われる存在なのですから!!一時の快楽、夢に浸る相手としては良いでしょう。ですがですが!!決して、寄り掛かり甘えて良い存在ではないのです。勿論、全てを諦め目覚めぬ終わりなきサーカスを望むのであれば話は別ですけど、ねぇ?」

 

 それはなんて悲しい在り方なんだろうと先生は思った。

 隣に立つ彼は確かにハナコへ諦観を仕込んだ悪い大人ではあるのだが、ハナコ以上に自分という存在を諦めている。

 

“……そっか。じゃあ、これだけは覚えておいてピエロ”

 

「んむぅ?」

 

“また次、悪い事をしたら私は怒るからね。ハナコと一緒に”

 

 思うところはあるけど、彼を変える事が出来るのは自分ではないと先生は注意をするだけに留める。

 全てを諦めているが故に、他人に笑われる事を良しとする大人を変える事が出来るのはきっと、彼女だけだろうからと。

 

“じゃあ、私も行くね。テストが終わった皆を沢山、褒めてあげたいから”

 

 そう言い残し、先生もまた補習授業部の皆が居る場所へと向かって歩いて行く。

 そのあまりにも無防備な背中をジッとピエロは見つめ──一際、強い風が吹いた頃にはもうそこには誰も居なくなっていた。

 

 

 

 

 

「ピエロさん。今度はカラオケなんてどうですか?」

 

「ワタクシの美声をご所望ですかぁ?んふふっ!!ここは一つ、ペロロ讃美歌でも歌いましょうか!!」

 

「え!?歌えるんですか!!そう言えばハナコちゃんが鞄に着けてるピエロペロロ様、ピエロさんがプレゼントしたものだと言っていましたし歌えても不思議じゃありませんか」

 

「ヒフミさんに比べればまだまだですがねぇ?どうです?アズサさんも歌いますか?」

 

「む。良いのか?それなら私も一緒に歌おう。安心してくれ。ヒフミからCDを借りて予習はバッチリだ」

 

「ふふっ。私も混ざりたいです♡ピエロさんを取り合う様に三人でじっくりと……」

 

「ハナコ言い方!!というか、この不審者、何当たり前の様に混ざってるのよ!?」

 

「おや?ワタクシは友達に誘われたので。まさか、コハルさんは嫌と……シクシク、ピエロショック!!」

 

「ちょ!?泣かないでよ!!良いわよ!!居ても!!」

 

「では!!コハルさんもご一緒にペロロ讃美歌を」

 

「私、その歌知らない!!」

 

「ふふっ」

 

 トリニティで右腕のないピエロが複数の生徒と楽しげに会話を繰り広げている姿が目撃される様になるのは、そう遠くないお話。




これで完結の形になりますが、ピエロの設定を投稿した後に撃たなかった場合の話を投稿します。
一応、扱いはIFルートという感じで。

神秘無効化弾を

  • 撃つ
  • 撃たない
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