ハナコとピエロ 作:浦々浦和
幻覚強めの作品を面白いと思っていただき、ありがとございます!!
「……」
物陰に隠れて
ピエロが言っていた貴婦人……ベアトリーチェが送り込んだのは間違いなくアズサさんなのでしょうね。
連日、深夜に起きては外へと向かい朝方まで帰ってこないなんて疑ってくれと言っている様なものですが、生憎と此処には私以外、人を疑うという事を知らない善人ばかりですから今日まで私以外にバレていないんでしょうね。
「内通を計るチャンスなのですが、あのピエロの事ですから私の事を全く伝えていない可能性があるんですよね……本来なら疑う必要がないんですけど」
相手はあの必要な事以外はペラペラと口が回る何処までが嘘で真実なのか分からない人ですから用心するに越した事はありません。
「?」
「っと」
やはり、相手は訓練を積んでいる様です。
ただピエロのところにいて実験動物として過ごしていた私のほぼ素人な尾行では、隠れる場所が減ってしまえばアズサさんに勘付かれやすくなる。
「となればこれしかありませんか」
制服のポケットから手の平サイズの拳銃を取り出し、一発しか装填出来ない銃弾を込める。
念のため、アズサさんが銃声を聞き取る事が不可能な場所まで歩いて行ったのを確認してから自身の頭部へと銃身を押し当てる。
「ッッ」
躊躇いなく引き金を引き、押し寄せる吐き気を堪える事、数分。
自分の存在感というものが希薄になったのを感じて物陰から堂々と姿を現せば予想通り、街灯に照らされても私の影は出来ていません。
「……ふぅ、ほんともう少し気持ち悪さがどうにか出来れば良いのですが」
ピエロが作った神秘隠匿弾……以前、彼らの会議に紛れ込んだ時に使用したものです。
原理はまぁ、なんとなくは把握してますが神秘に干渉するため科学から乖離したオカルトの産物に近い。
「……」
あぁ、やっぱり貴女が裏切り者だったんですね。
視線の先で明らかに普通の生徒ではない仮面の人と話をしているアズサさんを見て、私は特に落胆などもなく──ズキリ。
「?」
ほんの少しだけ、モモフレンズのグッズではしゃいでいた彼女を思い出して胸の奥が痛くなった……気がしました。
補習授業部はとても賑やかな場所で、所属している人達があのトリニティの生徒であるなんてとても信じられないくらいには。
“よし。今夜は折角だから皆で息抜きに行こうか!”
とは言え、突然何かを閃き合宿中にも関わらず抜け出して夜のトリニティに行く事になるとは思いませんでしたが。
発案者が本来であれば監督である先生の為、最初こそ校則違反だと抵抗していたコハルさんもいつの間にか言い包められ、その間にノリノリで制服に着替えているアズサさんと流れ易いヒフミさんが流れを止める訳もなく──
「なるほど……深夜の街はこんな感じなのか。思ったより活気がある」
「そうなんですよ。24時間営業のお店も多いですし」
「あれはスイーツショップ?24時間開いているところがあるのか……あ、喫茶店も開いている」
「ここからもう少し行くとモモフレンズのグッズショップもあるんですよ。その向かいには限定グッズを取り扱う隠れたお店もありまして……」
「ふふっ。流石はヒフミちゃん。詳しいですね」
──散歩の形になるのは必然でしたね。
こんな時間ですから人通りは少なく、僅かばかりの人は大人である先生を見て微笑ましそうな視線を向けてくるだけなので何か大きな問題が起こる事はないでしょう。
「あ、こんなところにスイーツ屋が」
懸念点であるアズサさんはこの中の誰よりも夜の街に瞳を輝かせていますし。
こうして見ればピエロが話していたベアトリーチェの手先には思えないんですが、あの仮面の方との会談を知っている以上この可愛らしい笑顔の裏側がどうなのかまでは分かりません。
「……あぁ……嫌ですね」
自分だって裏切り者の癖に同じ立場の人を警戒するなんて……どの面して笑っているんでしょうか私は。
「ハナコ?なに暗い顔してんの?」
「え?」
「あっ!もしかしてパフェ嫌いだったりする?」
「む。そうなのかハナコ」
……そんなキラキラした目で私を見ないで……
「いえ、大丈夫ですよ。甘い物は疲れた頭にも良いですしね」
“……”
心が軋む音を無視しいつも通りの笑みを張り付ければ、コハルさんもアズサさんも納得して下がってくれます。
ですが、そんな私達を横目で見ていた先生は心配する様な視線を私に向けてきているので、ピエロの真似して作った笑顔はどうやら見抜かれてしまっている様です。
「ふふっ。そんなに熱い視線でどうしたんですか?あまり熱いと私、脱いでしまいたくなりますよ?」
“……ハナコ”
「あら?もしかして先生はこの薄い布の下をご所望でしたか?人通りが少ないとは言え、この様な場所で曝け出せとは……お顔に似合わず鬼畜なんですねぇ」
“……えぇ!?そんなつもりはないよ!?ほら、皆もうお店に入ってるから私達も行こうか!!”
ありがとうございます先生、少ないやり取りでこちらの意図を汲んでくれて。
けど、まさか手を握られるとは思いませんでした。
“これくらいはね”
「ッッ」
誰にも聞こえない様に私にだけ聞こえる大きさで呟いた言葉の真意など、考えるまでもなく
ただそれだけで溢れそうになる涙にまた自己嫌悪が酷くなりそうでしたが、何故か限定パフェを三個も注文していた正義実現委員会のハスミさんと展示中だった『ゴールドマグロ』を狙ったゲヘナの方々の鎮圧に協力する事となりどうにかバレずに済みました。
「……楽しかったですね」
一日が終わり、皆さんが眠った頃、自然と口から溢れた言葉に自分自身で驚きそして納得しました──今日の出来事は色々と大変でしたが、昔の私が望んでいた友達との日々の様だったと。
「……ピエロ。私は期待をして良いんでしょうか……」
そんな迷いを嘲笑う様に脳内に響くピエロの笑い声に、一瞬だけ安心感を覚えてしまったが最後、疲労からくる微睡に沈んでいきました。