ハナコとピエロ   作:浦々浦和

9 / 13
信頼

「裏切りましたか白洲アズサ」

 

「あはぁ。洗脳教育は大失敗ですなぁ愛知らぬ貴婦人!!やはり愛を知らぬ方に思春期の子供も躾など無理があったのですよ!!残念!!無念!!順当な結果というやつですなぁ」

 

「煩いですよ道化師。そもそも貴方が送り込んだという生徒も動きを見せないではないですか。人を責める権利があるとでも?」

 

「えぇえぇ!!分かりますよ分かるとも!!確かにワタクシのオトモダチも、残当に彼方に与したようですが元より彼女には明確な命令を下していませんもの。んふふっ!!つまりつまりですよぉ?一丁前に偉そうに上から見下し、地道な努力もシクシクと報われなかった貴女の方が残念なんですよねぇ!!」

 

 ベアトリーチェの顔にクッキリと青筋が浮かび上がるが、彼女を煽るピエロはケラケラと笑うばかりで気にした素振りを見せない。

 彼の見張りとして待機しているアリウス生徒達は、場に立ち込める険悪な空気に胃痛を感じ始めていた。

 

「……状況が分かっているのですか?私の合図一つで貴方をどうする事も可能なんですよ」

 

「器の底がしれますねぇ愛知らぬ貴婦人よ。せめてワタクシの様に笑って見せてくださいよ!!御身はただでさえ、愛を知らないのですからねぇ!!」

 

 パチンっと開かれていた扇子が閉じると共に、彼を囲んで立っていたアリウス生徒が容赦なく引き金を引く。

 ベアトリーチェに当たらぬ様に計算された位置取りから放たれる無数の弾丸を前にしても、ピエロが浮かべる笑みは消え去る事はなくそのまま哀れなダンスを踊ることになる。

 

「……」

 

 一瞬にして出来上がったグロテスクな肉塊をベアトリーチェは興味なさげに見下し、無数の瞳を自身の玉座の後ろへと向けた。

 

「つまらない芸で機嫌を取ったつもりですか?」

 

「あはぁ。道化師の命を張ったマジックショーお楽しみいただけませんでしたか。悪趣味な貴婦人はお気に入り登録!!ハート!!いいね!!をポチッと高評価頂けると思ったのですがねぇ……んふっ!残念残念!!」

 

「その貼り付けた薄笑いを消してから言うことですね道化師」

 

「それは不可能!!無理無理プリンというやつですよ」

 

 何事もなかった様にケラケラ笑いながらベアトリーチェの隣に立つピエロ。

 困惑するアリウス生徒の前で、先程までのグロテスクな死体はノイズを走らせながら消えていき哀れな豚の死体だけが残った。

 

「ソレは差し入れますよぉ?ガリガリで今にもポッキリと折れてしまいそうなマドモアゼル達で仲良くお食べになると良いでしょう」

 

 再び、ノイズを走らせたピエロは瞬きの合間に、部屋の入り口の前に立っておりお辞儀をし部屋を出て行こうとしていた。

 

「どちらへ?」

 

「──決まっているでしょう?オトモダチに会いに行くのですよ」

 

 呼びかけられてもピエロは足を止めることなく、部屋を出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、簡単に言うと黒幕登場☆ってところかな。私が()()のトリニティの裏切り者」

 

 多くのアリウス生徒達を背後に引き連れ、トリニティの生徒会組織であるティーパーティ所属の聖園 ミカが優雅な微笑みを携えて現れる。

 アズサとハナコにより、ナギサを抑えたものの彼女と同じ権限を持つ彼女が現れた為、コハルを通し戦力の当てとしていた正義実現委員会は完全に行動出来なくなってしまった。

 

「……可能性の一つ程度には追っていましたが、一番当たって欲しくない現実ですね」

 

「へぇ?私が裏切り者だって読んでたの?……えっと……うん?誰?」

 

「まぁ、貴女が知らなくても当然ですね。浦和ハナコです」

 

 興味のない視線と冷え切った視線がぶつかり合う。

 しかし、すぐにミカの方から視線が外され先生へと向けられる。

 

「まっ良いや。ねぇ、ナギちゃんはどこかな?」

 

“ミカ……どうして?”

 

 ナギサの行方を探るミカと、彼女がクーデターを企てた理由を知りたい先生の間で言葉が交わされていくが、その間もハナコはミカを──いや、彼女の背後の一点をただ静かに見つめ続けていた。

 

「ゲヘナのあんな角が生えたやつらなんかと平和条約だなんて、冗談にも程があると思わない?考えるだけでゾッとしちゃうよ」

 

 トリニティとゲヘナの間で結ばれる『エデン条約』が彼女の凶行の始まりだと語る。

 言葉の節々に込められたゲヘナに対する憎悪に、ハナコを除く面々が目を見開き驚くが彼女だけは眉一つ動かさない。

 

「……なに?さっきからジッと見てるし、驚いた様子もない。まさかここまで全部読んでいたなんて言わないよね?」

 

 ただ、それがミカの気を引いた様だ。

 

「えぇ。まぁ、正直に言えば貴女の目的がなんであるかなんて私には興味ありませんし」

 

「あっそ」

 

「ただ……そうですね。そんな取り繕った憎悪で此処まで突き進めるなんて、ふふっ。可愛いところもあるんですねミカさん」

 

「は?」

 

 ミカの余裕ある態度が一転、強い怒りを滲ませるものへと変わり銃口がハナコへと向けられる。

 反射的に彼女を庇おうと動いた先生をハナコは手で制止し、()()()()()()()を浮かべるとミカを嘲笑する様に口元を隠す。

 

「──ご自身の手を汚す覚悟があるのならどうぞ。ミカさん」

 

「ッッ!!このっ!!」

 

 引き金が引かれる──その刹那、全てを小馬鹿にする声が響き渡る。

 

「んふふっ!!裏切り者を語るのならお背中がガラ空きですよぉ?」

 

「ッッ!?!?」

 

「はぁい。バァンっと」

 

 運動会のリレーで使われる様な音が鳴り響くと、膨大な神秘を持ちただの銃弾一発程度では傷すら負わない筈のミカが、その場に力無く崩れ落ちる。

 

「はっ……はっ……」

 

 浅い呼吸を繰り返すミカの顔色は悪く、本来であれば頭のテッペンが輝く星の様なヘイローもチカチカと明滅を繰り返していた。

 

「マドモアゼルの協力を得て開発した『神秘無効弾』のお味はいかがですか綺羅星のお姫様?うふふっ!キラキラと輝いていた貴女もこうなっては道端の小石と変わりませんねぇ!!」

 

 弾む足取りでミカを追い越し、状況の変化に理解が追いついていない面々へ向けて頭を下げるピエロ。

 

「お初にお目にかかります。キヴォトスの救世主にして、ワタクシが忍ばせしユダの諦観を見事に打ち破った敬愛すべき先生よ。ワタクシはゲマトリアの道化師、どうかどうかピエロと呼んでくださると幸いです」

 

“……ゲマトリア”

 

 その言葉にアビドスで出会った黒服を思い出し、顔を顰める先生。

 先生にとってゲマトリアとは愛すべき生徒を騙し、道具として利用する悪い大人を指す言葉であるのだから当然の反応と言えるだろう。

 

「あはぁ。随分と怖い声で呼ぶのですねぇ!!ワタクシはか弱い存在ですので、御身の怒りを前にしてはブルブルガクガク震えるしかないスライムでしかないのですよ。んふふっ!!此処は『ぷるぷる、ぼく悪いスライムじゃないよう』と言うべきですかねぇ!!」

 

 仰々しい態度が一転、ふざけ始めるピエロ。

 彼はそのまま上を見上げると何処かへ語り掛ける様に口を開く。

 

「ご安心を。愛されるお姫様は時間が経てば元の神秘を取り戻しますとも。所詮は有限、未完成の一品ですからねぇ!!」

 

「……酷いですねピエロ。ソレは私に使ってくれる筈のものじゃなかったんですか?」

 

 全く悲しそうな表情は浮かべずに、言葉を発するハナコの声でピエロはゆっくりと正面を向き直り彼女を見る。

 

「おや、おやおや?随分とお綺麗な表情をしていますねぇマドモアゼル。ですがですが、そのご指摘はビシッと決めるにはワタクシを裏切った今、些か不格好!!ダサい!!のではぁ?」

 

「ふふっ。確かにそうかもしれませんね」

 

 ふふっと笑みを浮かべ合う二人は側から見ればとても仲が良さそうに見えるのだが、互いだけが分かっている──()()()()()()()()()()

 だからこそ、本心を告げるためにハナコは微笑みを消し、出会ったばかりの冷たい表情を浮かべた。

 

「……貴方は私を利用していた。えぇ、分かっていた……分かりきっていた事です」

 

「はぁい。流石はマドモアゼル、ワタクシの胸の内などズババッ!と容易く暴いてしまうんですねぇ」

 

「ですが、それでも貴方が居てくれたから私は私を手放さずに済みました。それだけはお礼を言わさせていただきますね。出来れば身体でお支払いしたかったのですが」

 

 諦観を植え付けたのがピエロであったとしても、あの日、雨に打たれてトリニティを人知れず一人で去ろうとしていた自分を引き留めて、仮初の暖かさを教えてくれたのは他ならぬピエロだったのだ。

 

「ピエロにお礼とは!!酔狂!!驚嘆!!……本当に甘い方だぁ。ワタクシの振る舞いは全てワタクシの為のもの!!そこに一欠片とてマドモアゼルを想ってなどありませんよぉ?それでもこの道化師にお礼を?」

 

「はい。お世話になりました」

 

 本人にそのつもりがなかったのだとしても、彼の行いで自分の心がギリギリのところで踏み止まったのだからお礼はしなくてはならない。

 そんな輝かしい善性を前にピエロは微かに目を細めて、一瞬だけ先生を羨ましそうに見ると作り物の笑顔を浮かべ直す。

 

「……なるほどなるほど。これが先生、貴方様のお力という訳ですカ。であればあるのならば!!もうワタクシを止めるしかありませんねぇ!!浦和ハナコさん!!」

 

 懐から取り出したキラキラと輝く液体が封入されている注射器をピエロは自身へ、躊躇いもなく刺す。

 

「はい。未来へと進むために、貴方という過去を私は乗り越えます。ピエロさん!!」

 

 巨大なピエロの怪物となった彼とハナコの戦いの火蓋が切って落とされた!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。