汝、暗君を愛せよ   作:本条謙太郞

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第1部「自由への道」 第1章 サンテネリ王国の無能王
無能な社長は死を選ぶ


 高校生の頃、世界史の授業あったね。

 テスト返却のあと、空いた時間に先生が世界史プチエピソードみたいなのを話してくれた。ぼくはあれが好きだった。

 

 ちょうど中国のあたりをやってるときだったかな。確か隋唐が範囲だったと思う。

 玄宗って皇帝が、最初は頑張って政治をやってたのに、途中から楊貴妃に入れあげて、どんどん国がおかしくなっていくやつ。

 

 あの時は「なんでそんな馬鹿なことをするんだろ」と思ったね。

 無能が王様になるとしょうもないな。もう少し頑張れよ。そう思った。

 

 でね、何とか大学生になったら、一般教養とかいう科目があるでしょ。あれで世界史を選択したんだ。そしたら今度はヨーロッパのわけ分からん謎君主がいっぱい出てくる。血の気は多いし時節は読めないし。もう無能。

 

 歴史ってさ、そういう「アレな王様全集」だよね。名君は稀で、だからこそ輝く。だって貴重だもん。

 暗君9に名君1。繰り返す。暗君9に名君1。

 

 でもさ、社会に出て、ちっちゃい広告代理店に数年勤めて、親父が死んで。実家の造園会社を継いで分かったね。

 

 造園会社ってようするに個人宅の庭の整備とか公園の整備とかするやつ。

 結構大きかったんだ。何個も営業所があって。

 

 ぼくも頑張った。資料を読んだり現場に出てみたり。

 でもまぁ、上手くいかなかった。

 結局あの規模になると社長ってやることないんだよね。部下がたくさんいて、全部やってくれる。

 しかも取締役クラスになるとみんなこれが優秀なんだ。地方の有名国立大学を出て、うちに入って30年。現場も経営も知り尽くしてる、みたいなのが何人も居る。

 そういうすごい人たちを前にして、新卒に毛が生えたようなぼくに何が出来るのか。

 

 答え。出来ない。

 

 自分が必要とされてないって辛いね。

 それでも頑張ったんだ。部下のおじさんたちは皆いい人で「若い三代目を盛り立てよう!」みたいに言ってくれる。

 

 そんなわけで10年くらいやった。

 30代半ば。そのころには諦めもついてた。

 新規開拓とか新事業とか、いわゆる「若い感性」を持った自分の仕事だと思って何度かやったけどね。ほら、ビジネス雑誌とかにある「創業○○年の老舗が復活した秘訣。若い社長の挑戦」みたいな。

 無理。ただ口座の金をガンガン減らしただけ。

 

 で、気がつけば出社することさえ少なくなった。

 部下のおじさんたちは「結婚しろ」とうるさい。

 

「こいつ、早く死んだ方が王朝のためになったじゃない?」

 そんなぼんくらな王様がいっぱい居たことを、十数年ぶりくらいに思い出した。

 

 そして今に至る。

 

 地面が見えてきた。

 落下中に意識を失うって、真っ赤な嘘じゃん。

 意識あるよ。

 

 最後まで。

 

 暗君万歳。

 

 

 

 

 

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