「芳澤、いるかー?」
ここは芳澤家があるマンションの1階。フロントで部屋番号を押して『呼』ボタンを押すと、「はいはーい」と可愛らしい声が聞こえてきた。
「芳澤、時里だけど。上がっていい?」
「上がっ、えっ、先輩!?!?急すぎませんか!?」
「いい?」
「だ、ダメです!!絶対ダメ!!」
「今って親いる?大事な話がしたいんだけど」
「うぇ!?え、えと、えぇ・・・・・・」
通話越しでもすみれが照れてることは分かったが、これから話す内容が内容だけに余計心苦しくなってしまう。
「別に散らかってても良いよ。というか、散らかってる方が興奮するし」
・・・・・・もう!と怒った芳澤はしばらく黙ると、「・・・・・・下で待っていてください」と言ってガチャンと通話を切ってしまった。
それから10分下で待っていると、やたらオシャレした芳澤がエレベーターで下りて来た。
ゆるふわ系?とでも言うのだろうか。
モコモコした長袖とピンクのフワリとしたスカート、どの衣服も薄い生地をしていて全体的に柔らかい感じのコーデだった。
「せ、先輩!急に来たらダメですよ!」
もぉ~っと怒った風に言うが少しだけ嬉しそうなのも見えて凄く可愛かったが、こういうのも見納めかと思うと酷く悲しかった。
「行こっか」
俺は芳澤の腕を掴むと、そのままエレベーターに乗った。
「ちょっ、先輩?どうしちゃったんですか?」
「コッチの話。ちょっと静かにしてて」
俺は芳澤家の部屋まで行くと、芳澤に鍵を開けてもらって家に上がった。
「すみれは玄関で待ってて」
俺はそれだけ言うと勝手知ったる芳澤家を突き進み、『芳澤かすみ』の足跡が残るであろう押し入れの奥にあるアルバムを引っ張り出した。
「せ、先輩!?そこにはアルバムしか・・・」
すみれを無視してアルバムを開くと、そこにはすみれと瓜二つの少女がすみれと一緒に写っていた。
「え、何ですか?それ、私が2人いるような・・・こ、怖い写真もあったものですねぇ・・・」
俺はすみれの腕を掴んでその場に座らせると、俺のよく知る『芳澤かすみ』をすみれにぶつけた。
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
「どういう、ことですか?」
「お前は『芳澤すみれ』だ。かすみじゃない」
「意味が分からないです!!誰ですか、そのすみれって人、・・・・・・・・は」
「すみれも気づいているハズだ。本当は姉がいたって」
「っ・・・・」
「だろ・・・・?」
「あ、いや、、そんな・・・・・・」
立ち上がったすみれは、唐突に台所へ行くと包丁を取り出した。
「おま、バカ野郎!!!」
覆い被さって包丁を叩き落とし、抵抗するすみれをなんとか押さえつける。端から見れば完全に性暴力の現場だが、状況が状況だけにちょっと気にしてられなかった。
「『すみれ』は『かすみ』じゃない!!!それだけだ!お前が死ななきゃいけないことなんて絶対に無い!!」
「ちが、違うんです!!!私が悪いんです!!」
涙でグシャグシャになったすみれの表情は、本当に見てられないものだった。
「すみれは悪くない!すみれの演技が完璧すぎたんだ!本当に悪いのは俺達を洗脳した奴だ!!!」
「そんな都合の良い人なんていませんよ!!!」
「いいや!!!絶対にいる!!!」
「私が!!!私が先輩を奪いたかっただけです!!私が奪いたかったから、悲しむ先輩に漬け込んだんです!!」
「違う!!!」
「違わないです!!!」
すみれは右腕で顔を覆うと、「もう、放っておいてください」と言った。
「もう、嫌なんです。
姉にコンプレックスを抱えるのも、姉とイチャイチャしているアナタを見るのも、もう全部、全部、嫌なんです・・・」
「俺は『すみれ』のことも好きだぞ」
「・・・・・・」
「別に『かすみ』が死んだからじゃない。
俺はもう1年もお前の彼氏やってんだ。
お前が頑張り屋なのも、意外に気が小さいのも、根が陰キャなのも全部知ってる。
確かに洗脳はあったけど、でも、この1年俺が好きだったのは『かすみ』じゃなくて、『すみれ』。お前なんだ」
「・・・・・・」
すみれの表情は腕で隠れて見えなかったが、かなり俺の言葉に耳を傾けているのは伝わってきた。
「すみれ・・・・・・・・・好きだぞ。略奪されるぐらいにはな」
別に『かすみ』のことがどうでもよくなったとかではなかったが、『嘘でも良いから』俺はこの瞬間に愛を囁くべきだと思った。だから・・・・・・。
「・・・・・・すみれ。すみれ。すみれ」
「ただいまー!!!いやー今日も大変だったわーーーー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
ここで芳澤ママの投入。
涙でグチャグチャになった顔で、台所で包丁を握ったまま押し倒されている『すみれ』と、覆い被さって腕を押さえつけている俺。そして事件現場を眺める芳澤ママ。
俺は無事、社会的な死を迎えたのだった。