終わりを語るはまだ先ならば、しばし過去を振り返ろう。
無数の世界の更に奥、目付きの悪い少年の始まりがここにある。
某豪邸の一室に一人の少年が寝転んでいる。その少年は目付きが悪く、メガネを掛けている。
???:「オレの名前は寺田孝二(てらだこうじ)。この『ルナティックドーン』の世界では「クウジ」。今回はオレがこの世界に来るキッカケとも言える小説版『機動戦士ガンダム 戦場の絆』の話をする」
クウジ:「『戦場の絆』は機動戦士ガンダムを基にしたオンラインによるドームスクリーン型の4、もしくは8人のプレイヤーが一(いち)チームとなり同数の敵チームと通信回線を通して戦うゲーム。制限時間内に戦力ゲージを0にするか、制限時間に250秒を過ぎた時に戦力ゲージがより多く残っているか、いずれかを満たした場合勝利。第一セットと第弐セットの間に機体の編成を変えることはできるが、敵味方ともにメンバーは同じ。オレは本来なら変わらない日常を送るはずだった。それなのにオカマの兄貴と来たら!」
クウジが働いている場所はオカルト雑誌の「月刊オルフェウス」の編集部であった。
「月刊オルフェウス」はそれほど売れているわけではないが、オカルト雑誌としては、古株の中堅どころ。
しかし、同業他社より原稿料はむしろよく、ページあたり千円札が一枚、二枚色がつく程度のことだが、これが特集などになるとバカにならない。それでクウジは羽村という人と出会い、「月刊オルフェウス」の春の特別号のコラムを書く打ち合わせをしに来たのだ。
「寺田編集長、確認しておきますが、取材現場は危険だからギャラが高いんじゃないでしょうね」
「それは絶対ないから安心して」
編集長は意味あり気な笑みを浮かべて答えた。
編集長寺田孝史はオネェ言葉で喋るが、決してオカマではなく、むしろキャバクラを愛してやまない男として知られている。
「話を続けるけど、バイトの子が、ゲームの中に幽霊が出る話を仕入れてきたのよ」
「それってちと古いんじゃないですか?」
羽村はかつて自他共に認めるゲーマーだった。ファミコン草創記からゲームにかじりつき、格闘ゲームの全盛期はアーケードゲームと同棲していたほどだ。今は、お金がない関係上あまりしていないが、趣味の関係上、昔とった株柄と職業柄、ゲームの情報は耳に入れる程度は残っている。編集長はそれを知っているので、話をわざわざふって来たのだ。
「ええと、もっと具体的なやつ。『戦場の絆』って知ってるぅ? あのほらガンダムの」
「ああ……」
羽村はそのタイトルには聞き覚えがあった。巡回しているブログのいくつかで話題になっていた、複数人で対戦するガンダムの体感ゲームだ。
「それをプレイしていると、女の子の声がするらしいのよ。もちろんそんな子なんていやしないのにね。で、見たことがないステージに行けるんだって。けど、そこで負けるとデータが飛んじゃうんですって」
「……寺田さん、ちょっとありきたりじゃありませんか?」
「そうかしら」
「8ワールドの先にある9ワールドとか、謎めいたヒロインとか、ガキの時分から耳にタコができるほど聞いた噂ですよ。失礼ですが、おたくの雑誌に取り上げる価値があるとは思えませんね」
羽村は少しあくびをした。
「違う世界になら行った事が……うぐっ!」
少年がいいかけようとすると寺田編集長が少年の口を押さえる。
「どうした?」
「何でもない。さっきに話だがそりゃあ兄さんに頼まれてその程度しか調べていなかったからな」
今まで黙って聞いていた目つきの悪い眼鏡の少年が口を開いた。
「編集長、さっきから気になっていましたが、この少年は?」
「ああ、私の弟の寺田孝二(こうじ)よ。私が言ったバイトの子は彼のことで、高校生行っていないのでただ働きよ」
編集長とクウジを見比べて、顔立ち以外は似てない兄弟だと頭の中で率直な感想を述べつつ、羽村は聞いていた。
「話を戻すけど、私はそうは思わないわ」
話に興味があったわけではないが、編集長のいやに自信たっぷりの笑みにつられて思わず身を乗り出す羽村と呆れた表情で二人を見つめるクウジ。
「羽村ちゃん、いったでしょ、ガキの時分って。今はもう流行らないのよ。こういうの、ネットでまとめサイトが立ち上がって検証されてそれでおしまい。けど、ゲーム名が名指しされてあやふやな噂だけ広まっているからには、何かあるんじゃないかと思うのが人情よ」
「期待じゃないですか? 新しいゲームにそうあってほしい、そういう伝説があってほしいと」
「そこよ」
きらりと編集長の目が光ったのに感じ、羽村は乗せられたことに気づいた。
「興味があるでしょ? 最先端のゲームシーンに若者は何を求めているのか。いい記事書けると思わない?」
「思わなくもないですが、だからといって名指しでそんな記事を書くわけにもいかないでしょう」
羽村の意見に編集長は考え込む風を見せたが、
「そうねえ、なら仕方がないわ。羽村ちゃん、孝二の取材の指導をしてあげて。孝二が羽村ちゃんの取材から学ぶもよし。その授業料の前倒しとしてギャラを高くしたのよ」
と、思いついたかのごとくいった。
「子守なんてお断りします」と、羽村は即答するが編集長は意地悪な笑みを浮かべて、羽村に誓約書を突きつける。
「それはムリね。この書類にはちゃんと指導もしますと書いてあるし、そこにあなたはサインした。ま、あなたがいい加減な性格だと知っているからできたことだけど……」
編集長の発言に力なく笑うことで答える孝二と羽村だった。
「孝二、オレはジオンでお前は連邦でプレイして噂が本当かどうか探ろうぜ」
ゲームセンターに入る前に羽村は言った。
「わかりました。オレは孝二だからコウジで」
「バカッ! 本名をそのまま入力するな!」
「どういう名前がいいんだ?」
殴られた頭を頭を抑えながら孝二が質問した。
「ここまで世間知らずとは…。オレが入力してやる。お前の名前はクウジ」
「ざっけんなー!」
ゲームセンター内で孝二の抗議に近い悲鳴が木霊するのだった。
クウジ:「オレは羽村さんと共にゲームをしている内に仲間と出会った。連邦側では格闘の達人津村ハジメ、スピード戦に特化した戦法が得意な須崎兼好(すざきけんこう)、二人ほどじゃないが実力がある剣立光一(けんたてこういち)、ジオン側はオレの面倒を見ている羽村譲、津村の姉御的な存在の高田早苗、戦車乗りの城島斎(いつき)と彼の幼馴染飯田茜(あかね)つまり連邦とジオン双方が戦わなければならない事をヴィヴィアンから教えられる」
クウジ、いや8人のプレイヤー全員の中央モニターに美しい亜麻色の髪をした女性のグラフィックが映った。
「私はヴィヴィアン。皆様を招集したシステムです」
「お招き有難う、ヴィヴィアン。話、聞かせてもらえるかな」
「“戦場の絆”は対戦サポートシステムとしてAI“スプリーム”が組み込まれています」
「このゲームにそんなサブシステムが実装されてるなんて聞いたことがないぞ」
予期せぬ返答に羽村は驚いた。
「はい。開発の早い段階で放棄され、プレスリリースは勿論、仕様書からもその存在が抹消されているシステムですから、それは当然です。開発スタッフのごく一部しか、スプリームについて知っている者はおりません」
「悪質ソフトとお喋りとは生まれて初めてだ」
「おい、クウジ!」
思わず喋ったクウジを羽村は叱った。
「スプリームはあらゆるプレイヤーに対し最良の勝負を提供してゲームを楽しませるためのシステムです。ですが、ハード的にも負担の大きいシステム故に開発の早い段階で実装を見送られました。スプリームは膨大なプログラムの底に残ったメインシステムだけが生き延び、全国数の箇体のシナプスに連結して、巨大なシステムを構築したのです」
「メーカーの預かり知らぬところで…か」
これには須崎も唖然とする。
「どうしたら終わるんだ?」
「お前は黙れ!」
性懲りも無く本音を遠慮なく言う孝二もといクウジに対して羽村は怒鳴った。
「何がしたいんだ?」
「最強を目指すためです」
「なる程。人間に勝つ事が最強の証。とは言え、プレイヤーを消す行為は許せないな」
津村朔(つむらはじめ)は毒づいた。
「話を整理すると金ピカ連中がスプリームか。だったらスプリームはシステムの介入をやめるのかよ。な~んだ、だったら事件は解決。驚かさないでよ」
剣立(けんたて)の言葉にクウジは「良かった」と、同調する。
「いいえ。あれらはスプリーム軍団を模して作り出したダミーデータです。スプリーム軍団は未だに敗北を知りません」
「な、何だってー!?」
「その都度反応するのは止めろ!」
一々反応するクウジに羽村は毒づいた。
「話の流れからしてあんたはそいつらを俺達に倒してほしいようだが、何故だい? オペレーターの方でバグを除去すれば済むことだろ?」
「スプリーム軍団はこのゲームだけでなくあらゆるゲームに偽装されています。除去しようとするならばあらゆる機械を停止しなければなりません。しかもあと一ヶ月以内に倒されなかったらスプリーム軍団は達成する意味がなくなったと判断して自壊します」
「ま、機械がない国はいいが、それ以外だと大変だぞ。どうすんだよ」
クウジは上ずった声で言った。これは話が大きすぎるので無理もないと沈黙する形で羽村は認めた。
「私も存在としてはウィルスですが、お客様がこのまま被害にあうのを見過ごすわけにもいかないから助けを求めているのです」
「スプリーム軍団を倒したらお前も消えるんじゃないのか?」
「『戦場の絆』が自壊しても同じこと。それなら、せめて私はスプリームが切り離したユーザーサポートシステムとしての役割を果たしたい。皆様の力を私にいただきたいのです」
クウジ:「全員オレの拒否権を認めず参加する事を決定しやがった。その前にヴィヴィアンが選んだ連邦とジオンの混成チームと戦い、勝ったからいいけど」
「これでスプリーム軍団とやれるのか?」
「ええ。本日の午前5時、同じアクセスポイントから。おそらくこれが最後の試合になりましょう」
「せっかちな野郎だな、まったく」
羽村は苦笑した。
「それから挑戦権を得たことで対戦チームの一人をあなた達のチームに参戦可能となります。千野丈(せんのじょう)。ガンダムを使った選手です」
「だからあの試合であんたが選んだチーム同士を戦わせたのか。8対8ではなく、9対9。しかも最適なチームを編成するために」
津村朔の言葉にヴィヴィアンは首を縦に振った。
「よろしくな、君たち」
「よろしく」
「機体を提供できないのは残念ですが、共に戦う者を一人を出して9人揃えることが私からのせめてものお考えいただければ幸いです」
「ありがとう、ヴィヴィアン。それに、皆、やるからには必ず勝つわよ!」
早苗の声に一同は唱和した。
クウジ:「オレはガンキャノン、津村はジム・ライトアーマー、須崎はジム・キャノン、剣立は陸戦型ガンダム、千野つまり『戦場の絆』の主人公はガンダム、早苗はグフ・カスタム、羽村はドム、茜はザクキャノン、斎はザクタンクの編成でスプリーム軍団に挑んだ。だが、敵は絶望的な強さだった。ジオン軍が瞬殺されたからだ」
「た、確かにこりゃ、勝てない、な」
ぜいぜいと荒い息をつきながら、羽村は絶望の溜息を漏らした。
「連邦側が自分達の命令を忠実に実行して拠点を守り抜いただけでもよくやったと考えるべきだな」
彼らの頼みの綱であり司令塔である斎でさえもそう呟いた。
「だけど連邦いや5機やられたら終わりだ。ここから逃げることも出来ないし、子守も楽じゃない」
大人である羽村が泣きたくなるほどスプリーム軍団の実力は絶大だった。
「なら拠点破壊をしつつそいつらを倒せばいい!」
「は、朔!? 気でも狂ったの?」
早苗の目が点になった。
「戦力ゲージが残っていればいいんだろ。こっちの損害を4機に抑えつつ拠点破壊をすればいいってこった!」
「な、何をムチャ言ってるの!? 相手は全て強敵スプリームよ!」
「だから何だと言うんだ。敵全機がスプリームだからと言って恐れるな! 俺達連邦軍は一機ずつ撃破してんだぞ! 大の大人がその程度に気づかないでどうする!」
「その通りだな。スプリーム1機は最強だが、それイコール最強の軍団ではない」
司令塔の斎の目が光る。
「互いのサポートはしないということか?」
「あり得るな」
金色のガンダムと金色のドムの連携で撃破するクウジ達を見た羽村は笑みを浮かべた。しかし、その直後、ケンタテの陸戦型ガンダムが撃破された。
「み、皆…。後は…頼んだぞ……」
ケンタテの陸戦型ガンダムが撃破された事にショックを受けたのかジオン軍のモビルスーツの目が怒りや悲しみで一瞬ピンク色に光ったように見えた。
「俺達が不甲斐なかったばかりに…ケンタテが!」
クウジのガンキャノンが金色のグフカスタムを撃破したが、金色のギャンに撃破された。そこを早苗のグフカスタムが斬り裂いた!
ザクタンクを撃破しようとする金色のドムと金色のガンキャノンを撃破した津村のジム・ライトアーマーが、ザクタンクを守るために金色のジム・ストライカーと金色のドム・トローペンに倒される。しかし、茜のザク・キャノンと千野のガンダムが速攻でその2機を仕留める!
敵拠点近くで回避に徹していた須崎のジムキャノンが金色のガンダムと金色のグフカスタムの攻撃を受けると同時に斎のザクキャノンの留めの一撃が火を吹く!
「勝利はすぐ目の前だ!」
敵拠点破壊によって敵の戦力ゲージが0になり自軍のゲージが2割残っていたのを見て須崎は倒される前に自軍の勝利を確信した。
「終わった…か…」
荒い息をしながら、千野は言った。
「勝利の代償が…大きかったわ…それ覚悟でやらなかったら勝てなかったけど…」
早苗の言葉に一同は沈んだ。
「この試合に勝った事で…敗れたプレイヤーはあなた達のチームを除いてこの世界に戻れるようになりました。あなた達と共に戦ったプレイヤーたちは少しかかりますが」
「会えるのか…」
「運が良ければいずれは…としか申し上げられないので…」
ヴィヴィアンの申し訳無さそうな言葉に千野は舌打ちした。
クウジ:「これによって俺は『ルナティックドーン 前途への道標』の世界のバイラーダスに飛ばされてしまった。これが俺の冒険の始まりであった」
クウジは溜息をつくと、ゴロンと横になる。