児童恋愛   作:涼月秋名

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2時間目、算数

2時間目の算数の授業。

 

 

 

僕は時々、授業を受けながら隣の席、黒澤さんを盗み見ていた。

 

横から見る彼女の顔には強かさの中に儚げな印象が伺える。

 

その美しさのあまり正面から黒澤さんの顔を見れない僕にとって、彼女を視界に入れることができる授業の時間はささやかな楽しみだった。

 

黒板を見ている彼女も、教科書に目を落とす彼女も、作り物のような美しさである。

 

視線を下にずらすと、彼女のくびれまで伸びた長くきれいな黒髪が目に飛び込む。

 

彼女の髪は僕の姿を反射しているような艶やかさで、触れたいという衝動を駆り立てる。

 

 

 

僕は、黒澤さんのことが好きだ。

 

 

 

もちろん付き合えたら最高だけど、付き合えた後にどうすればいいのかもわからない。どうなればいいのかもわからない。

 

僕に彼女と付き合う資格があるのだろうかとも考えてしまう。

 

勉強ができるわけでもないし、足も遅い、おまけに話も面白くない。

 

彼女は学校中の男子に人気だし、僕の友達の彼方もきっと彼女のことが好きだ。

 

 

 

僕は彼女に告白することなく、この想いは自分の胸の中だけにとどめておこう。

 

彼女の姿を瞳に映し、そう決意した。

 

 

 

視線を彼女の顔に戻すと、目が合った。

 

 

 

いつもより長い間視線を送っていたせいで彼女にバレてしまったんだ。

 

慌てて視線をずらし、窓の外を見やるが、彼女からの視線はずっと感じたままだった。

 

 

 

「悠?どうしたの……?」

 

 

 

彼女が小さな声で僕に話しかけてきた。

 

彼女の囁き声は僕の脳を揺らし、思考を妨げた。

 

もう一度彼女に頭を向けて、何か言い訳を並べようと必死に考えるが何も出でこない。

 

明らかに挙動不審な僕を彼女はじっと見ていた。

 

 

 

これでは彼女からの評価を気にするどころじゃない。

 

嫌悪感を抱かれてもおかしくはない。とは思ったが、実際こんなことで嫌悪感を抱かれるのならすでに嫌われているだろうと妙な安心感を覚え、何とか落ち着いてきた。

 

ので、彼女に自分がいかに無害な人間かをわかってもらうような返事をして、評価を元に戻さなくてはならない。

 

ここは、窓の外もしくは床を見ていたと言って誤魔化そう。

 

 

 

彼女を目にしてまた、思考が止まった。

 

 

 

「あ…ぅ……べ、別に、何にもない、けど…」

 

 

 

そう口に出した自分を嫌悪した。

 

声量を抑えようとしたためか、自分で自分の声が聞こえているかも怪しいほど、恐ろしく小さな声で、考えた言い訳とは違うことを彼女に伝えてしまった。

 

こんなの、授業中に黒澤さんを盗み見ていたことを自白したようなものじゃないか。

 

 

 

「そっか」

 

 

 

黒澤さんは表情を変えず、そう返した。

 

それが僕には苦しく感じた。

 

好きの反対は無関心とは言うが、彼女が僕を何とも思っていないような反応がそれを語っているようで空虚な気持ちになった。

 

明らかに、嫌われるより、なぜだか苦しかったのだ。

 

 

 

その後、僕は授業が終わるまで隣を見ることができなかった。

 

逃げ場もなく、後悔がじくじくと僕を蝕んでいた。

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